東方迷子伝   作:GA王

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八分咲き:アリスさん、現実に戻ってしまったところ申し訳ありませんけど、僕は伝えたいことがあるんです。

 静かに時を過ごす冷たい光景、今となっては(なつ)かしささえ覚えてしまうこの光景、ここは……電車? 僕がいつも乗っていた電車の中だよね?

 なんで? だって僕はさっきまで幻想郷にいて、博麗神社にいて、花見をしていて……

 ん? 隣の席で腕を組んで寝息を立てているのは……やっぱり海斗君だ。この風景……知ってる、覚えてる。これじゃあまるで僕が幻想郷に行った日じゃあないですか。電気とアニメの街に行った帰りじゃあないですか。なんで?

 ん? 正面の席でウトウトしている女子高生、何処かで見たことがあるような、ないような、あったような。もしかして……あゆみさん? そうだよ、あゆみさんだよ。じゃあ僕達元の世界に戻って来たってこと?

 んなわけないですよね。夢だったんですよね。全部僕の妄想(もうそう)だったんですよね。魔法使いとか妖怪とか鬼とかそんな非科学的な存在がいるはずないですもん。ゲームの世界が実在するはずがないですもん。あんな夢を見るなんて海斗君の影響受けすぎですね。すっかり毒されてますね。

 でもそうなると明日も明後日(あさって)明々後日(しあさって)も、引き続き学校に行かないとなんですね……イヤだな。きっとまたあの三人に何か言われるんだろうな。誰も助けてくれないんだろうな。みんなして困る僕を見て、ガクブルする僕を指差して笑うんだろうな…。

 外、暗くなってる。最寄りの駅までまだあるし、また夢でもみていようかな。今度は綺麗(きれい)な天使さんが出てきてくれたらいいな。それでくすぐり合ってアハハのイヒヒのウフフのエヘヘのオホホのホ——

 って、体が軽い。なんで? 僕、浮いてる。なんで? それに周りの景色がひしゃげて崩れていく。なんで? このままだと僕……おおお落ちるぅうううう。

 

 

ビクゥッ!

 

 

 って、あれ? 落ちたと思ったのに……全然痛くない。というか柔らかい、特に頭の下が。まるでビーズクッションに頭を置いた時みたいに、そっと包み込まれているようで。おまけにいい香りです。心が安らぐ花の香りがします。なんだか分からないけど、きっとコレが僕を受け止めてくれたんですね。

 え、誰? 誰ですか? 今僕を呼んだのは誰なんですか?

 

僕 「あぁ……」

 

 精霊さんでする……いや、天使さんでする……青い瞳で金髪の綺麗な天使さんがおられまする。よかった、希望通りの夢が見れそうで。このまま、どうかこのまま——

 

僕 「って、アリスさん?!」

 

 待て待て待て、なんでなんでなんで? なんでまた見覚えのあるアリスさんが夢に出て来ちゃってるんですか? いや、(うれ)しいですよ? 嬉しいは嬉しいんですけども——

 

??「具合はどう?」

 

 白髪のこの方は…。記憶違いでなければ永琳さんですよね? おまけに……

 

??「やっとお目覚めか、もうとっくにみんな起きてるze☆」

 

 この独特な語尾にイタズラな口調、お姿は確認出来ませんけどTHE・魔法使い的な服装の魔理沙さんですよね? ということはやっぱり夢の続きということですか?!

 

永琳「ちょっと()せてね」

 

 胸に当てられる聴診器(ちょうしんき)の先端が冷たいです。前髪に吹きかかる吐息(といき)がくすぐったいです。永琳さんの指先から(かお)る消毒液が刺激的(しげきてき)です。そうなんです、五感が現在進行形で活動しているんです。つまり、つまりですよ? これはつまり……

 

魔理「念のため言っとくけどな、こっちが現実なんだze☆」

 

 ですよねー、あっちが夢でこっちが夢じゃなかったってことですよねー。夢じゃなくて夢じゃなかったってことですよねー。

 

永琳「問題なさそうね。頭痛や目眩(めまい)の自覚症状はある?」

僕 「ぃぃぇ、なななないです」

 

 それよりさっきからずっっっと気になってるんですけど、今僕どうなってます? 仰向(あおむ)けで寝かせられているのは分かります、天井が見えていますから。でも……でもですよ?

 

アリ「気分がすぐれなかったら言って下さいね」

 

 アアアリスさんのおおおお顔がここここんなに、こんなに近くにあられるのは何故なんですか?! しかも逆さまで、(のぞ)()むような感じで。これじゃあまるで……もしかして頭の下の柔らかい感覚って……まままさか、こここれって、ひひひひざマク——

 

僕 「ギャーッイタいイタいイタい!」

 

 なんか髪の毛を雑草の(ごと)くむしられてるんですけど! ハゲるんですけど!! なんでなんで?! 

 

アリ「こら蓬莱(ほうらい)よしなさい!」

 

 馴染(なじ)みのある名前に、恐る恐る首を頭上のアリスさんへ向けてみると、そこにはフリル付きスカートに(おお)われたお(ひざ)……の前に蓬莱があくどい笑顔でいらっしゃいました。「何を期待してんだ? させねーよ」って声にせずとも伝わって来ます。はは…、ですよねー。

 

蓬莱「ホラホラホラーッ!」

僕 「分かったってば、ごめんってば、すぐどくってば」

 

 またむしり取りに来たから飛び起きてみればやっぱりでした。そこには大の字で横になっている蓬莱が。でもその小さな体の中央からつま先にかけてベコリと(しず)んでいて、なんとも痛々(いたいた)しい姿なんです。これ、あそこに僕の頭があったって事ですよね? 僕が蓬莱を(つぶ)しちゃったってことですよね?!

 

僕 「ごめんね、重かったよね、(こわ)れてない?」

アリ「くすくす、平気ですよ。空気を入れたら元通りになりますから。蓬莱、優希さんがここに運ばれた時に率先(そっせん)してマクラになってくれたんですよ。ね?」

僕 「そうだったんですか、蓬莱ありがとう」

蓬莱「ホライッ!」

アリ「もー…、今のは気にしないで下さいね。『気まぐれだ』とか言ってましたけど、本当はそうではなくて——」

 

 アリスさん、みなまで言わなくてもノープロブレムです。人差し指をビシッと()き付けるあの仕草(しぐさ)、おまけに(ほほ)を赤くして逃げ去る素振(そぶ)り。それはもう絵に描いたような「勘違(かんちが)いしないでよねッ!」ですから。

 

僕 「あ、はい。大丈夫です」

 

 あと蓬莱が口が悪くても根は思いやりのある子だってこと、充分知ってますから。蓬莱だけじゃなくて上海(しゃんはい)もいい子だって……いい子? なんだろこの奇妙な記憶の突っかかり。思い出せそうでいて、思い出せなさそうで、思い出しちゃいけないような。例えるなら『絶対に()れるな!』って書かれた危険物を見つけてしまったような……

 

魔理「おい優希、もういいから続き早くだze☆」

 

 何がでしょうか? 続きとは何のことでしょうか? キラッキラッにお目々を光らせて、白い歯を(のぞ)かせて、その笑顔の裏で何を(たくら)んでいるのでしょうか? 

 分かりません、この熱い眼差(まなざ)しに(こた)えられそうにありません。ジト目でガン見されてるてゐさん、どうか教えてく——

 

てゐ「まさか覚えてないウサ? ネコミミがどーとか、存在があーだとか大声で()かしてたウサ」

 

 だああああさいッッッあく、最悪です、コンチクショーです。バカバカバカバカバカあああッ! 魔理沙さんにてゐさん、何てことをしてくれやがったんですか! 忘れていたのに、このまま流れに(まか)せていれば無かった事に出来たのに、せっかく記憶の奥底へ沈める事ができたのに。なんでわざわざサルベージされるんですか! 

 

てゐ「おまけにキュリンキュリン? 気持ち悪いウサ」

 

 ぬおおおぉ……もうガッツリ思い出してますってば、これ以上傷口を広げないで下さいってば。オワタ…、もうオワタ…、こんな事になるなら目を覚ますんじゃなかった。そのまま朝まで寝ていれば……ううん、もういっそのこと永遠(とわ)の眠りに()けていれば……

 

魔理「んでな、アリスがなんかあるんだってよ」

 

 マズイ、それ絶対マズイやつです。アリスさん怒ってるんです。()ずかしい思いをさせてしまったことに苦情を言いたいに違いないんです。

 

アリ「わたしはなにも……」

魔理「前々から言ってるけどなー、思ってることは口にしないと伝わらないんだze★? 特に優希みたいなヤツにはな」

 

 だとしたらこうしてはいられません。ちゃんと正座して、反省の姿勢を見せて、それで深く深ーーーっく頭を下げて心からの謝罪を——

 

僕 「ふぇい?!」

 

 き、きた。謝らなきゃいけないって分かっているのに、いざその時が来ると全身が(ちぢ)こまって声に出せない。(こわ)くて、申し訳なくて全身が(ふる)えてくる。それが他でもないアリスさんだから、お世話になってるアリスさんだから余計に。

 ホント僕、なにやってるんだろ。ダメダメだ。人に迷惑をかけることしかできないんですから。アリスさんごめんなさい。ホントにごめんなさい。毎度毎度、いつもいつも本当に——

 

僕 「へ?」

 

 気のせいでしょうか? 空耳でしょうか? 幻聴(げんちょう)でしょうか? 今アリスさん…。

 って、なんで僕が感謝されてるんですか? ということはですよ? やっぱりさっきのは聞き間違いとかじゃなくて「うれしかった」って言われたんですか?!

 何がでぃすか? キュリンキュリンがでぃすか? ネコミミがでぃすか? それとも——

 上海と蓬莱のこと? あっ、はい。そのように言ったと思います。

 

僕 「いえいえそんなそんな、僕は事実を話しただけで……」

 

 ですよねー。ぐらいですもんねー。僕が感謝されるようなことをしたのって。考えるまでもないですよねー…。けど助かりました。他については話題に出していませんし、もしかしたら特に気にされてはいない——

 

僕 「え゛ッ?!」

 

 で・す・よ・ね。そんなはずがありませんよね。歯切れが悪い言い方でしたけど「アレはどういうこと?」ってことですよね? どうしよう…。ウソを()いて否定すれば、アリスさんを悲しませてしまうに決まってます。けど、本当のことを言えば……言ってしまったらきっと……きっとなくなる。

 

僕 「そ、それは……」

 

 「おはよう」を言うことも、「いってきます」を言うことも、「ただいま」を言うこともなくなる。やる気を出させてくれる「いってらっしゃい」だって、疲れを吹き飛ばしてくれる「おかえりなさい」だって、明日を楽しみにさせてくれる「おやすみなさい」だってなくなる。

 

僕 「つ、つまり……」

 

 アリスさんがいて、蓬莱と上海がいて、魔理沙さんがいて。僕のつまらない話を聞いてくれて、笑い話に変えてくれて、それでみんなが笑顔になって。そんな楽しくて温かくて心安らぐ場所が、ありのままでいいって思わせてくれる場所が、僕がいてもいいって思わせてくれた場所がなくなる。なくなっちゃうんだ。本当のことを伝えただけで、その一瞬で何もかも消えてなくなるんだ。

 

僕 「ィャ……」

 

 イヤだ、イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ。そんなの絶対にイヤだ。だったら伝わらなくていい、これ以上の幸せなんて望まない、僕は今のままが——

 

アリ「違うんですよね?」

 

 そうなんです。そんなつもりじゃなかったんです。僕は萃香さんと大鬼さんを注意しようとしただけであって——

 

アリ「そんなつもりでは無かったんですよね? 注意しようとしただけなんですよね? 平気ですよ、全部分かってますから」

 

 僕は

 

アリ「だからアレは違うんですよね? 本心ではないんですよね? だって私……」

 

 最低だ。

 

アリ「違うから。そんなんじゃないから……」

 

 自分のことしか考えられない最低のクズだ。

 

アリ「(まぶ)しくなんて、(かがや)いてなんて……」

 

 守るって言った。守ってみせるって(ちか)った。何を? 誰を?

 

アリ「かわいくなんて……」

 

 僕をじゃないでしょ? 僕が守りたかったのは……

 

アリ「萃香が言った通り私は……」

 

 スカートを握りしめる拳に視線を落とす——

 

僕 「アリスさん!」

 

 彼女の笑顔だったんじゃないの? なにやってんの?

 

僕 「そんことないです。アリスさんはカワイイですッ。笑った時なんて特に! すごく! 本当に! それに……だって、だって!」

 

 胃酸、グルグルです。血流、エゲツないです。心臓、爆発寸前です。ちゃんと言いたいのに、ちゃんと伝えたいのに、アリスさんに自信を持って欲しいのに、僕ときたらダメダメでヘタレで豆腐メンタルなもんで、

 

僕 「ぼぼぼきゅぼぼぼごふはぼくは!」

 

 結果案の定こんなんですから…。だから叫び続けます。彼女に届くまで。何度も何度もぶつかって——

 

??「ピーンポーンパーンポーン」

僕 「って、へ?」

 

 この音というか声って……

 

??「えー、会場の皆様にお知らせでーす」

 

 海斗君だよね? この聞き慣れた軽い口調、絶対にそうだよね? まさにのタイミングで何? おかげでなんか色々と(くず)れてくれたよ!

 

??「これより魂魄妖夢(こんぱくようむ)と海斗氏によるショーを開催(かいさい)致します。どうぞステージにご注目くださーい」

 

 そんでまた何やろうとしてんの!? 霊夢さんとの時もそうだったけど、今日どんだけ仕込んで来てるの? 

 

海斗「業務連絡ぅ、業務連絡ぅ〜。みょーん、打ち合わせすっからステージ裏に来て欲しいぜ」

 

 あ、コレは思い付きだったぽい。あと海斗君、妖夢さんにその呼び方は……ほら怒られた。でもさ、なんかさ、崩してくれたおかげでさ——

 

僕 「アリスさん」

 

 ベストコンディションで言えそうだよ。

 

僕 「僕はさっきの人形劇に感動しました。あんなに素晴らしいものを見たことないです。夢でも復習できるように目と心にしっかりと書き記しました。アリスさんがくれた魔法の時間を生涯(しょうがい)忘れません、忘れられません、忘れることができません」

 

 海斗君、言えたよ。()まることなく全部言い切れたよ。ありがとう。

 それはそれとして、周囲からドッと上がった深いため息は何? というかいつの間にこんなに集まってたの?! もしかしてずっと見られてました?!

 

アリ「よかったー…」

僕 「よかった?」

アリ「え? えっと、実はさっきの人形劇で失敗を……人形の配置が1cmズレちゃって……」

 

 アリスさん、それ失敗って言いません。誤差です。

 

アリ「いつもはこんなことないのに…。優希さんに見せる初めての人形劇だったから落ち込んでいたんです。(はげ)ましてくれてありがとうございます」

僕 「励ましなんかではないですよ。心からそう思ったんですよ。すごいって感動が止まらなかったんですよ」

アリ「そんなそんな、それは言い過ぎですって」

僕 「いえいえ、ホントにホントに」

アリ「優希さんは優しいですね」

僕 「いや、あの、そんなことは……」

アリ「その優しさが心地良くて、安心できて、つい甘えてしまいます」

僕 「あ、はい。ありがとうございます」

アリ「少し謙虚(けんきょ)すぎる気もしますけどね」

僕 「ゔっ……」

 

 この日が終わる頃、何かが変わってる。そんな気がします。それで……

 

僕 「じゃあ一つわがままを聞いてくれますか?」

 

 この日が終わって朝を迎えた頃、僕はまた新たな一歩を()み出すんだと思います。だって——

 

僕 「アリスさんの隣で海斗君のショーを見たいです」

 

 だって……

 

てゐ「何これウサ」

魔理「いいんだよコレで。あの二人にしてはよくやった方だze☆」

てゐ「キモ男のこと、ずいぶんと知ったような口ぶりウサね」

魔理「まあな、同じ(かま)の飯食ってる仲だからな」

てゐ「ふーん、だったら面倒なことにならなければいいウサけどね」

魔理「ze★?」

てゐ「まっ、それでも私には関係のない話ウサ」

魔理「あ、おい」

てゐ「また面白いものがあったら呼ぶウサ」

魔理「なんだよ、てゐのヤツ」

 

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