アリスさんは僕の今世紀最大のわがままを笑顔で聞き入れてくれました。
妖夢「上段の構え」
それからアリスさんと並んで歩き始めて間もなく、
妖夢「上下
そんな魔理沙さんの後を追うようにして戻ってみると、顔が少し赤くなったレミリアさんがエレガントに
妖夢「一つ、二つ、三つ——」
でもみんながみんな心配してくれていたわけではなくて、パチュリーさんは無言で読書をされていましたし、美鈴さんにいたってはグーグーと…。「毎日の門番でお疲れなのかな?」と思ったんですけど、話を聞いてみるとそれがデフォルトなんだとか。起きている時間よりも眠っている時間の方が長いらしいです。しかもそれをいい事に、ここぞと
妖夢「ヤメッ!」
それが誰かまでは教えてくれませんでしたけど、目星は付いてます。片付けに行った時のこととか、初めて美鈴さんと会ったときのこととか、何よりレミリアさんと咲夜さんの冷たい視線が全てを物語っていました。
妖夢「早素振り、始めッ」
その
リリ「ふんっ」
メル「ふーんっ」
ルナ「ふーんだっ」
ただいま姉妹ケンカ中なんですもん。互いに背中向けて意地の張り合いをしてるんですもん。第三者が立ち入るスキがないんですもん。
話によると演奏の最中にハプニングがあったそうで、リリカさんが指を
そういった経緯もありまして、いまだにギスギスした感じなんだとか。
妖夢「
そんな重い空気を
妖夢「以上、礼ッ!」
あ、終わっちゃった。海斗君が上手いのかは分からなかったけど、これだけはハッキリしてます。妖夢さんハンパねぇです。ただの素振りのはずなのに
海斗「では最後に皆様、ご
妖夢「?」
そして今現在の僕のご報告させて頂きます。はい、失敗しました。
海斗「妖怪が
妖夢「!」
ステージは左、アリスさんが右なもんで、海斗君達を見ながらではアリスさんを
海斗「
で、さっきから海斗君なにを
『斬れぬものなど〜?』
今度は魔理沙さんと霊夢さんまでですか?! そいつはマズイですって、ターゲットがこっちに……っていったそばからー!
プリ『斬れぬものなど〜?』
おまけにプリズムリバーご姉妹さんまで!?
『斬れぬものなど〜?』
ついにはみなさんもですか!? なんなのこの
妖夢「……ぁ」
ヤバイってヤバイってヤバイって。妖夢さんがワナワナしてまする、目が血走ってまする。振りかざした刀より
妖夢「あんまり無い!」
なんか……静かです。
よく分からなかったけど……静かです。
でも一つ分かることがあります……静かです。
妖夢さんが決め
海斗「どーもあざしたー」
妖夢「カ・イ・ト・サ・ン?」
海斗「おう?」
妖夢「初めからこれが
だから今は逃げてー、すっごい逃げてー、全速力でめっちゃ逃げてー。
妖夢「今日という今日は許しません!!」
海斗「ヤッバ、逃げるが勝ちだぜ!」
さあ始まりました海斗選手と妖夢選手の鬼ごっこ。レースは最初からクライマックスです。舞台を飛び出してスタートダッシュを決める海斗選手、そのまま速度を落とすことなく神社の裏へと続く第一コーナーを
にと「やっといなくなった」
妹紅「やっちまえ、ざまーみろだ!」
ナズ「ふっ、いい気味」
輝夜「派手に血肉をばらまいて
星 「あなたのことは忘れません、
おっとここで妖夢選手が
妖夢「『
クラッシュぅううう!?
でもきっと海斗君の事だからコレも打ち合わせ通りなんだろうけどね。妖夢さん、
そして海斗君はやっぱりすごいです。尊敬しちゃいます。だって本日一番の笑い声が上がっているんですから。あのプリズムリバーご姉妹さん達なんて、あんなにツンケンしていたのに、顔すら合わせていなかったのに、すっかり笑顔を交わしているんですから。僕にはとてもとても…。
そんな海斗君のことがかなりお気に召したのでしょうか? 先程から「あひゃひゃひゃ」と爆笑されている方がいるようで…、すぐそこに気配を感じるわけで…、ただそれが誰だか分からなくて…。でもなんとなーく気が付いてしまっているわけでして…、なるべーく気付いていないようにしているわけでして…、どうか声がかからないようにと祈っているわけでして……
??「よー、目が覚めたって聞いてねぇ。アンタに話があんよ」
来ちゃったー、来られちゃったー、
僕 「ささささっきはすすす——」
萃香「
むぐぅ…、
萃香「
僕 「ばびぃッ、ずびばぜん」
萃香「ったくビビリやがって。私があんたに何をしたっていうのさ。それに謝って欲しくて来たんじゃないってぇの」
いや、あの、現在進行形でその
萃香「お礼!」
僕 「ふぇ?」
僕にですか? 人違いでは? だって僕、萃香さんからお礼を言われるようなことしてませんよ? えっ、霊夢さんから聞いた?
萃香「ケーキ、ありがとう」
まただ。
萃香「言いたかったことはそんだけ、じゃあね」
ろくに知りもしないくせに、ろくに話もしたことないくせに、種族とか見た目とか
僕 「失礼しましたッ」
僕はつくづくダメダメな人間です。反省したはずなのに同じ
僕 「それと――」
しかも二つも。分かってますよ魔理沙さん、そのしかめっ面の意味、グラスを
僕 「どうもありがとうございました!」
僕は萃香さんに
僕が伝えたかったありがとうの意味、頭の後ろで腕を組んで去って行く萃香さんに、ちゃんと届いてくれたみたいです。だって手を
僕 「待ってください!」
それじゃあダメなんです。それだけじゃあダメなんです。それだけじゃあ僕は何も変わらないと思うんです!
僕 「お
これは僕なりのケジメなんです、
萃香「ふ〜ん、だったらぁ〜」
背筋に走る電流、額から
萃香「お願いし・よ・う・か・な〜?」
イヤな予感しかしないって。
僕 「か、可能な範囲であれば……」
萃香「なーに、あそこでなんか面白いものやってみせてくれればいいよ。さっきのアイツらみたいに」
僕 「そそそそれは……」
萃香「今言ったよね、なんでもするって言ったよね?」
僕 「いや、あの、なんでもとは……」
萃香「
えー…、こういう時だけそこを強調するってなんかズルくありません? やっぱり鬼です。なんて言っても「鬼だよ」って
大丈夫。だって萃香さん、さっき助けてくれたじゃあないですか。だから本当はとてもいい人なんです、きっと。『泣いた赤鬼』っていう昔話だってあるんだから鬼は情に熱い方々なんです、きっと。だから事情を話せば分かってくれるはずなんです、きっと。
僕 「えっと、えっと、僕人前に出るのだけはどうしても抵抗があってですね、というのも——」
萃香「いいから行ってこい!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
彼のもくろみは失敗に終わった。胸ぐらを
アリ「ゆ、優希さん?!」
萃香「ちょいと
これはそれまでの間に起きた彼女達の小さなドラマである。
アリ「じゃまって——」
萃香「あんたってさ~」
彼女は彼女が苦手だった。自身と思考が、性格が、内なる全てが正反対の彼女が。それ
萃香「目、青かったんだ」
アリ「えっ、あっ、うん……」
萃香「おまけにまあまあのべっぴんさんときたもんだ」
アリ「そんなことは……」
萃香「まっ、私ほどじゃあないけどねぇ」
アリ「うん……」
萃香「まーたそうやって顔隠すぅ、だーから今まで気付けなかったんだってぇの」
アリ「だって、だって…、あなたのこと…、よく知らないから……」
萃香「はあ〜? だから顔合わせてくんないの? 私をずっと
アリ「ひ、ひひ人見知りで……」
萃香「けど今呼んでくれたよねぇ、名前でさー」
アリ「それは、あの、えっと……」
彼女は彼女に初めて胸の内を明かしていた。
萃香「だあああああッ! もうムリ、もう限ッ界、ホンッッットなに?! うじうじゴニョゴニョおどおどしちゃってさ、言いたいことがあるならハッキリ言いな!」
アリ「もうほっといてよ!」
だが忘れてはいけない。どれだけ拒絶しようが、境界線を引こうが、強固な
萃香「ぷふっ、『ほっといてよ』って、くくく」
鬼である。他人の都合などおかまいなし、気の
アリ「な、なにがおかしいの!」
萃香「いやぁ、怒ってもかわいらしいな〜ってね」
ウソを言わず
アリ「なななななにを——」
萃香「けど私の方が数段かわいい」ドヤァ
彼女は彼女に初めて笑ってみせた。イタズラを
アリ「あっそ」
内なる全てが真逆、加えて言葉のキャッチボールが成功したのが今回初。しかしクスリとこぼれたタイミングは
萃香「さっきはわるかったよ、影口なんて言ってさ」
アリ「それはもうあまり気にしては——」
萃香「それにからかってすまなかったね、悪気はないんだ。なんかツイね」
アリ「うん……」
萃香「で、話してみて分かったよ。やっぱりアンタ苦手」
アリ「あっそ!」
なぜなら彼女達は女の子同士なのだから。
萃香「けどキライじゃない」
アリ「あっ、うん…。私もそこまでじゃない……かも」
萃香「ってことでこれからもよろしく〜。えっとー…」
かくして
萃香「誰だっけ?」
アリ「アリス・マーガトロイド!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔理「マズイことになったze★」
あらゆる方角から飛ばされる視線が全身に
??「戻ってみれば……これどういう状況?」
??「彼はたしかー…海斗ちゃんのお友達?」
指差されて
さと「こいし
霊夢「自分でまいた種なんだから自分でどうにかしなさいよー」
霊夢さんが言われた通りなのは百も千も万も承知なんです。けど手足の
アリ「なにするのはなして!」
萃香「まあまあ落ち着きたまえよアリス。せっかく漢を見せようとしてくれてるんだからさ〜」
アリ「でも私……」
これ以上はもうム…。視界が…、また意識が…。助けて…、誰か助けて…、助けて下さ——
アリ「見てられない!」
ぃいいいいいッ!?
あ、危なかったー…。気付けたから良かったけど、少しでも遅れていたらコレ、顔面にめり込んで鼻からドバーって
??「おっ、反応は
美鈴さん!
美鈴「久しぶりに組手をしましょうか」