東方迷子伝   作:GA王

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十分咲き:魔理沙さん、胸がパチパチするところ申し訳ありませんけど、やっぱり光る雲を突き抜けて自然に癒されて変態なんです_※挿絵有

僕 「——クぅうううぇえええッ?!」

 

 大変です。大変な上に謎なんです。訳が分からないんです!

 花見会場が、博麗神社が、幻想郷中がパニックです、コンフュです、メダパニです!!

 これはおさらいを…、緊急脳内サミットを要求します!

 

フラ「優希やっぱり面白い!」

 

 えっとえっと、そうだ。まずはあゆみさんが発見された狛犬少女が誰なのかってところです。

 彼女のお名前は『高麗野(こまの)あうん』さん。数年前に幻想郷で起きた異変、場所によって季節が変わる『四季異変』から家事全般と見張り、留守番、おつかいといった雑務役を条件に、博麗神社(ここ)居候(いそうろう)しているそうです。

 だから僕のことも知っていました。しかも僕が初めてここに訪れた時、僕達の様子を狛犬のお姿で見ていたそうです。他にもバイト終わりに心臓破りの階段をヒーヒー言いながら上るキモイ姿とか、霊夢さんと魔理沙さんに「遅い!」って理不尽な文句を言われている情けない姿とか、その他色々記憶から消し去りたい姿を…。

 

聖 「何故彼が……」

 

 そんな僕ですから「シャキッとせい!」とか思われていたのかと思いきや「ウトウトしながら『ガンバレ』って応援してたんですよ」ですって。優しい方です。

 そしてウトウトなんです。それが本日までお会いできずにいた理由です。

 あうんさんは生活リズムを大切にする方らしく、しかもかなりの早寝早起きなんだとか。僕がここを経由していた頃は到着前に狛犬の姿に戻って眠られていたそうな…。だから僕の足音とか(しか)られている声で起きてしまうこともあったそうで「迷惑してたんですよ」ですって。僕、めっちゃ謝りました。

 

パチュ「驚いたわ」

 

 それでも一週間たった頃には慣れたらしく、半寝半起のスキルまで身につけていたそうです。「優希さんの無事を確認してから熟睡してたんですよ」って嬉しいこと言ってくれました。だからか僕が残業した日には心配でなかなか寝付けなかったみたいで「迷惑してたんですよ」ってハッキリ言われました。僕、めちゃくちゃ謝りました。

 けどそれも今となっては無くなりました。卒業しましたから、フランさんの護衛付きでアリスさんの家まで直帰してますから。また静かな夜を送れるようになって、さぞ快適な夜を過ごせているのかと思いきや「喜ばしいようで結構寂しいんですよねぇ。ずっと見守っていた側としては」って狛犬性分(しょうぶん)が出ちゃってました。僕、めちゃくちゃくちゃくちゃお礼を言いました。

 

アリ「そんな…、こんな事って……」

 

 花見をすごく楽しみにしていたそうで、昨夜は興奮のあまりなかなか眠れなかったみたいです。そのせいで暴力的アラーム(ギャーテー)が鳴り響くまで寝過ごしてしまっていたのだとか。つまり僕が夢の世界へ旅立つのと入れ違いにご帰還されたみたいです。

 で、その矢先に殺人的催眠術(ミスチーシャウト)で二度目の旅立ちを強いられてしまったそうです。

 その後、リグルが引き金となった地獄的タイマー(ギャーッ!)で目が覚め、寝ぼけ(まなこ)でいたところを「かわい〜〜〜〜」で「もんげええええええ」と。

 

魔理「冗談キツイze★」

 

 ちなみに話し方ですが普通です。なまりも方言もありません。狛犬としては一度はやってみたかったそうです。あこがれだったそうです。

 今はアユゴロウさんに拉致(らち)られそうになっていたところを「あうんには手伝ってもらうことがあるから返して」と霊夢さんに奪還(だっかん)されてました。霊夢さん、何か大切な物を紛失されたみたいです。どんな物か見当もつきませんが、それっぽい物を見かけたら届けてあげようと思います。

 

僕 「ってここ関係ない!!」

 

 すみません、本題はその後でした。海斗君が西行寺幽々子さんとの話しを終えて、帰って来たところからです。

 海斗君が魔理沙さんに頭を深く下げてお願いしたんです。「マジ弟子にして下さい」って。そしたら魔理沙さん、OKともNGとも言わずに例のマジックアイテムを海斗君に差し出したんです。それで————

 

 

海斗「かーめー○ーめー…、○あああああッ!」

 

 

♫〜♪〜♩〜

 

 

僕 「(いい曲だなぁ)」

海斗「うむ、出ない」

魔理「ったり前だろ、そう簡単にやられたら魔理沙ちゃんのアイデンティティがなくなっちゃうze☆。例外は()()()だでいいってぇの」

僕 「マスタースパーク(あれ)って魔理沙さん以外に出来る方がいるんですか?」

海斗「そんな優希に教えてしんぜよう。実は()()には元ネタがあってな、風見幽香(かざみゆうか)っていう大妖怪の——」

魔理「ハ、ハァ〜? 何ノコトダカサッパリダze★」

僕 「えー…、十八番(おはこ)だって言われてましたよね? それがパクリって……」

魔理「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。ほんのちょっっっぴしリスペクトしたかもしれないけどよ、魔理沙ちゃんなりに色々改良してんだze★? だから全然別物、似て非なるものだze☆」

僕 「(言い訳が苦しいです、アイデンティティとはいったい……)」

魔理「そもそも魔理沙ちゃんが言ってんのは幽香じゃないしな」

海斗「となると幻月(げんげつ)魅魔(みま)様——」

魔理「うへぇ、思い出さすなze★」

海斗「じゃあ同じ魔法使い族性でパチュリー、聖、フラン、アリスあたりかな?」

僕 「(アリスさんのマスパ……ぜひ! むしろ喜んで!!)」

魔理「ぶっぶー、正解は魔理沙ちゃんの一番弟子だze☆」

海斗「なんですと!?」

僕 「魔理沙さんにお弟子さんがいたんですか?!」

魔理「優希にも話したことなかったか? 弱虫で、方向音痴(おんち)で、頭が残念で。簡単に(だま)されるほどお人好(ひとよ)しで、世間しらずで、気がつくと迷子になるポンコツのこと」

僕 「初耳ですよ。ポンコツって……何でそんな方を弟子に?」

魔理「馬鹿みたいに真っ直ぐで、弱くても自分でなんとかしようと努力するやつだったからな。なんか放っておけなかったんだze☆ なにより素質があったからな」

僕 「素質といいますと?」

魔理「マスパを一目見ただけで完コピしやがったんだze☆」

僕 「え゛えええッ!? それ天才じゃないですか!」

海斗「はて、そんなキャラいたっけな? またしてもフライングの予感が……ん? でも待てよ。それはつまり俺の兄弟子(あにでし)さんということに?!」

魔理「それを言うなら姉……おい、ちゃっかり認定されようとすんなze★」

海斗「そこをどうかどうか」

魔理「ダメだ。『マスパれないヤツは弟子にしない』これは絶対だze☆」

海斗「せめてワンチャンを」

魔理「あるわけないだろ、どうせ次は○動拳とかやるんだろ?」

海斗「ちぇー、じゃあ次優希の番な」

僕 「ぼぼぼきゅぅううう? ぼきゅは別に——」

魔理「あ゛? 優希は魔理沙ちゃんの弟子なんかは願い下げってか?」

僕 「(来るもの(こば)んで去るもの追うって…。どうせ『なりたいです』って言っても断って……ああなるほど、断りたかったんですね。さすがかまって……おっとこの先はいけない)」

魔理「って言ったところで所詮(しょせん)優希だしなー、結果が見えてんなー、ムリだろーなー」

僕 「ですよねー…。ぼきゅなんて…、ぼきゅなんかじゃ……」

海斗「違う違う、その反応違うって」

魔理「ったく、負けん気ゼロかよ」

僕 「へい?」

魔理「いいから試しにやってみろよ。合格ラインは海斗の時と一緒、小さくても弱くても少しでも出せりゃあOKだze☆」

僕 「あ、はい。たしか八卦炉(コレ)を前に出して——」

海斗「ほう、意外や意外に。なかなか(さま)になってるぜ優希」

魔理「意外じゃないze☆ 何度もアイツの目の前で披露(ひろう)してるからな、ここまでは出来て当然だze☆」

僕 「それで…、えっと…、あれ?」

魔理「大声を出す時と一緒だze☆。八卦炉から息を吸い込む感じで魔力をチャージするんだze☆」

海斗「師匠ずるいですぜ、優希の時だけ指導付きなんて」

魔理「魔理沙ちゃんはヤル気のあるヤツには(こた)える主義なんだze☆。海斗は初めからヤル気なかっただろ?」

僕 「あのー…、その後はどうすれば?」

魔理「ちったー考えろよ、息()ったんだze★? したら次やる事決まってるze☆」

僕 「((さけ)べってことでいいんですかね? いいんですよね?)」

海斗「流れ的にちょっとでも出ると面白いんだけどなー」

僕 「(八卦炉から大きく息を吸い込んで——)」

魔理「まあ現実はそう甘くないze☆。妖怪でも魔法使いでもない、ましてや能力もない並の人間なんかじゃー…………ze★!?」

僕 「(一気に叫ぶ!)」

魔理「おい待て優希!」

僕 「マ、マスタースパー——」

 

 

————それで出ちゃったんです。出来ちゃったんです。

 

 

ビーーーーーーーーーーーーム

 

 

 アリスさん宅/魔理沙さん宅間の木々を瞬時(しゅんじ)にガッツリ消滅させた特大波動砲が! 

 

文 「スクープですスクープです、今年はネタが豊作です!」

はた「『普通の魔法使い、普通の人間に大切なモノを盗まれる』。うん、見出しはコレで決まりね」

 

 しかも有ろう事か放たれた先が……

 

早苗「ひえ〜、どうしましょうどうしましょう」

諏訪「何の(うら)みがあるっていうんだい!」

 

 妖怪の山の(いただき)、早苗さん達が住まわれている守矢神社だったんです!

 

にと「ふぃー、よかった。ラボは無事そうで」

椛 「あー…、やっぱり山で騒ぎになってる」

 

 僕、(あせ)りました。冷や汗ダラダラでした。例えるなら自転車で走ってる最中に、横から突然子供が飛び出して来た時の心境です。だから神様に何度も祈りました。「止まってください、外れてください、どうかお願いします」って。

 でも意に反して極太光線は殺る(ヤル)気満々で神様の(やしろ)にまっしぐらだったんです。

 僕、顔面蒼白(がんめんそうはく)だったと思います。出来立てのカキ氷の様にそびえ立つ妖怪の山が、プリンに変わり果てる姿が脳裏にチラチラと浮かび始めていましたから。きっと魔理沙さんも海斗君もその他の皆さんも、少なからず一時はそんな光景が(よぎ)ったと思います。

 

お空「あれならヤタちんと(うつほ)にもできるよ」

お燐「はいはい、分かったから張り合わなくていいニャ」

 

 そこに飛び込んで来たんです。風を受ける綿毛(わたげ)に身を任せ、宙を(ただよ)う一粒のタンポポの種子が光の矢の先に。

 けど違ったんです、綿毛の様に見えたあれは……

 

霊夢「チッ、放っておけばいいものを…。余計なマネを」

 

 あれは白い(かさ)だったんです。種の様に映っていたのは人の形をした影だったんです! そうなんです、その人影こそが……

 

神奈「間一髪だったねぇ、幽香()のおかげで助かったよ」

 

 風見幽香さんだったんです。幽香さんは僕が「アレ人だ!」と悟った時には既に閉じられた傘の先端(せんたん)(せま)る光線に向けられていました。僕、直後予感しました。察してしまいました。その後の展開を。

 

妹紅「お前は手元に集中してろ」

レテ「何度やっても氷()けになっちゃうわね」

輝夜「あんたさっき楽勝だとか言ってたじゃない」

てゐ「保冷剤(それ)ないと店の死活問題ウサ」

リリィ 「はーるでーすよー」

チル「うるさいなー、これでも頑張ってるよ」

影狼「今日はもう終わりにしてあげた方が……」

鈴仙「そうだ、宿題にすればいいのよ」

 

 押し合う光線、火花散らす力と力、手に(あせ)(にぎ)(つば)()り合い。さながら『セ○ゲーム』のクライマックスシーン、犠牲(ぎせい)になったお父さんの力を借りて決着の時!

 

レミ「咲夜、耳を」

咲夜「……はい、かしこまりました。(ただ)ちに」

美玲「咲夜さん、どちらへ行かれたんで?」

 

 なんて妄想(もうそう)した僕が()ずかしいです、おこがましいです、地面に頭を(こす)り付けて「調子に乗ってごめんなさい」って謝罪したいです。

 だってお父さんの力を借りるとか、お父さんのライバルの不意打ちだとか、それ以前の問題だったんですから。だってだって魔理沙さんがリスペクトした(パクった)方ですよ? 言ってしまえば元祖(がんそ)であり本家(ほんけ)ですよ? 『大』の妖怪様ですよ?

 そのお力たるや……

 

 

ビ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ム

 

 

 大人に子供、(りゅう)(へび)、ダムの放流に閉め(ぞこ)ないの蛇口(じゃぐち)圧倒(あっとう)的なパワーで衝突(しょうとつ)時からグングンズイズイ押し返されてました。

 おかげで守矢神社は物理的破滅の危機を(まぬが)れました。僕もホッと一安心していました。けど、そんな中で(いだ)き始めてもいたんです。新たな疑惑を、問題を、ピンチを。「このままだと逆にヤバない?」って。

 

雷鼓「ひゅ〜、なかなかハードロックだったねぇ」

リリ「演奏…、続けていいんだよね?」

メル「まだ序盤(じょばん)だったし頭からやり直す?」

ルナ「じゃあ気を取り直して。『魔女ちゃんze☆』さんからのリクエストで『恋色マスタースパーク』」

 

 けど僕は元気です。かすり傷一つありません。こうして爆死することなく五体満足でいられてます。もちろん神社も他の方々もみんな無事です。どうしてか、なんでか、なぜだか。それが謎なんです、ミステリーなんです、不思議(ふしぎ)なんです。

 僕、何もしておりません。ただブッチギリのお力に(あらが)えずにいましたから。ただ目前にまで(せま)った転生の時に「もうオワタ」してましたから。

 ただ一つだけ、たった一つだけ可能性というか、「じゃないか?」という心当たりがあるんです。

 

聖 「あなた達これはどういうこと?」

パチュ「今のは(まが)うことなく魔力よ?」

魔理「そんなん魔理沙ちゃんに聞かれても困るze★」

アリ「優希さんが……魔法使い?」

フラ「ウフフ楽シミダナ〜。優希トノ弾幕ゴッコ♪」

 

 聞こえたんです。女の子の声が。確かにこう叫んでいたんです。

 

先生「…フフフ、驚きですねぇ。武術だけでなく魔法もですか」

あゆ「いいな〜いいな〜。私も魔法使えたらな〜」

海斗「期待はしてたけどよ、これは流石に嫉妬(しっと)するぜ」

 

 『葉符:リーフスパーク』って。

 

パル「あら~♡ 濃厚なジェラシーの香り~」

ヤマ「もうやめときなさいって」

 

 その後はあっという間でした。(つな)がっていた二本の極太レーザーはアッパーカットで吹き飛ばされたかの様に、夕日の色に染まる雲を(つらぬ)いて天高く消えていったんです。

 

ナズ「おー、これは見事に」

星 「たーまやー」

響子「\かーぎやー/」

一輪「花見に花火とは洒落(しゃれ)が効いてるね」

 

 (はる)か遠くで「ドーン」という余韻(よいん)を残して。

 

幽々「分かりやすい伏線(ふくせん)ね」

紫 「嫌なこと言わないでもらえる?」

 

 そして今です。大変なんです。

 

??「……ぃぃぃぁぁぁあああアアア」

 

 空から女の子が降ってきたんです。

 

 

ビッッッタァアアアアン゛ッ!!

 

 

 不時着(ふじちゃく)ぅううう!!? 

 

 

??「きぃんもてぃいいいいいいいい!!」

 

 

 誰ですかこのエクスタシー決まっちゃってる人…。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 例年以上に騒々(そうぞう)しい花も恥じらう乙女達の(うたげ)の場。そこから長く険しい階段を下り、妖怪の山を目指すこと半刻(はんとき)少々。若い葉を生やした木々が不規則に並ぶ林に、鋭利(えいり)眼光(がんこう)を放つ乙女がいた。

 

??「霧雨魔理沙、今回の件は貸しにしておくわ。近い内にキッチリ返してもらうから首を洗って待ってなさい」

 

 そしてもう一人——

 

??「ふふ、お元気そうですね」

 

 乙女と呼ぶには幼く、幼女と呼ぶには悩ましい。『女の子』の呼び方がしっくり当てはまる女の子が。離れた宴の場を映すその眼差しは春の陽気の様に温かく、流れる空気の様に()みきっていた。

 

??「いいの? 顔出さなくて」

 

 瞳を閉じては(よみが)る数々の思い出。それは例え(わず)かであっても、彼女にとっては幸せな時間。それは友人達と共に歩んだ一声では語りつくせない波瀾万丈(はらんばんじょう)な物語。

 

??「お姉ちゃんが待ってますから。さあ行きましょう」

 

【挿絵表示】

 

 

 ここは幻想郷、全てを受け入れる楽園。先を急ぐ彼女に素敵な物語を。

 

??「ちょっと、前に出るのはいいけど」

??「なんですか?」

??「そっちは今来た方角よ」

??「へ?」

 

 




高麗野あうん、これまでストーリー上では登場していませんでしたが、挿絵にはしっかり狛犬姿でいてます。見守ってくれていたんですね。

そして、いつかやってみてみたいと思っていたコラボ。
東方の二次創作物ではかなり有名ですね。
MMDでもモデルがあるくらいです。
ストーリーがよくて感動しました。
ネタバレになるので多くは語れませんが、
『東方迷子伝』においてはIFストーリーです。
そんな未来があってもいいですよね。


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