東方迷子伝   作:GA王

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挿絵、モデルをダウンロードしてから完成まで約一時間。ワンドロと言えばワンドロ。


十一分咲き:アリスさん、ご自爆されたところ申し訳ありませんけど、僕は二度自爆しまして親友が推理を始めたんです。_※挿絵有

??「きぃいいもーてぃぃいいいいッ!!!」

 

【挿絵表示】

 

 

 空から真っ逆さまに落ちて来たのに生きてるぅッ!? しかも幽香さんの超極太ビーム当たってますよね? ドーンって音がした後すぐに降って来られましたよね?! なのに無傷って…、普通助かりませんよ、グシャってモザイクかかりますよ! どんだけ頑丈(がんじょう)なんですか、ロボットですか、超合金ですか?! そいで気持ちいいって……大変失礼ですが変な人です、ヘンタイです、ドMさんです。

 

海斗「お手を。天界きっての美少女、比那名居(ひなない)天子(てんし)さん」

天子「あら、ご親切にどうも。紳士(しんし)ね、高く評価するわ。それに顔も……うん、まずまずね。隣に置いても恥ずかしくない」

 

 さすが海斗君、よかったね海斗君、名誉挽回(めいよばんかい)できたね海斗君、イケメンだもんね海斗君。そっかー、比那名居天子さんっていうのかー、天界の人なのかー……天界?

 

海斗「俺の嫁にならない?」

天子「当然却下(きゃっか)

 

 それって、いわゆる神様とか仏様が住われるという神聖な世界、天国のこと? ということは海斗君のプロポーズ(いつもの)を断った方が…、つまりこちらの天子さんが天使さんってこと?!

 

海斗「なっ、差し支えなければご理由を」

 

 そんな…、夢にまで見た天使さんが…、世の男性なら一度は恋こがれる天使さんが……

 

天子「まず性癖(せいへき)が合わない。せめてあそこは手を差し伸べるフリして引っ込めるくらいしてもらわないと。それで私がバランスを崩したところをすかさず()みつけて、『なに期待してんだこのメス豚め』って(さげす)んだ目で(ののし)って……や〜ん考えただけでゾクゾクするぅ〜♡」

 

 あァァァんまりだァァアァ…。

 

??「お断りよ。なんで私が」

??「私も立場上そういうのはちょっと……」

??「じゃあフランが——」

??「よしアリス行ってこい」

アリ「え、えええ!? ちょ、ままま魔理沙?!」

 

 これでハッキリしました。本物の天使さんはこの世にたった一人だけだって。優しくて綺麗で笑顔が素敵で猫耳が……ってアリスさんいつからそちらに!? ぼぼぼぼきゅ大丈夫でした? 今度はダダ()れしてませんでしたか?!

 

アリ「あ、あの……ですね。その、えっと……」

 

 マズイです、漏れてたっぽいです。だって僕のこと見てくれてませんし、うつむいてますし、(こぶし)(にぎ)ってワナワナされてますし。

 

アリ「し…、し」

 

 きっと「もういい加減にして下さい!」とか「鳥肌が立つ程キモチワルイです!」とか「キショイ!」とか(さけ)ばれてそれで……

 

アリ「しししししし」

 

 謝らないと、今すぐ謝らないと、またやらかした事を今すぐちゃんと謝ら——

 

アリ「失礼します!」

 

 ないとぉおおおおおわあああああああああ!

 

ヤマ「久々に甘酸(あまず)っぱいのキター!」

パル「むっ、嫉妬(しっと)が生まれる予感」

ここ「二人とも顔真っ赤。ニヤニヤ」

萃香「アリスも見せつけてくれんじゃないの」

 

 「ぎゅー」って、アリスさんが「ぎゅー」って。アリスさんが飛び込んで来て「ぎゅー」って!

 あ…、あかん。アリスさんの香りがダイレクトにぃ…。ガンバレ僕の理性、ガンバレぼきゅのりせぃい、ギャンブァルェ…ぼーきゅーのりせぇええ……手ぐぁあああ、手ぇぐぁあああひとりでにぃ…——

 

??「さわったら()つ!」

 

 おかえり理性、早かったね理性、帰って来てくれたんだね理性。僕、冷静です。頭も心も(よど)みなく()みきってます。だから身動き一つ、まばたき一つ、呼吸一つ致しません。ですからパチュリーさん、僕のコメカミに突きつけられているチャージ済みの八卦炉(はっけろ)を収めて下さい。

 

パチュ「撃つ!」

 

 はい、承知しております。大事な事ですもんね。それとマスパ、パチュリーさんもやろうと思えば出来たんですね。つくづくアイデンティティとはいったい…。あと向こうのパルスィさんがヤマメさん達に取り押さえられてるんですけど……なんで?

 

アリ「すみません、すぐ済みますから。本当にすみません」

 

 それはそれとしてですよ? あ、その前にやっぱり息は吸わせて下さい。チャレンジしましたけど限界です、無理です、もたないです、死んじゃいます。

 フローラルなシャンプーの香りを取り込まないように角度を調整してぇ…。首がぁ、首つっちゃいそうぅ……ふぅ。うっ、少し肺に入った。

 

僕 「あああのここここれはどどどういう——」

 

 でもやっぱり置かれたこの状況を正しく解析出来そうにありません。(こころ)みる度に0.00001%も起こるはずの無い可能性に有頂天(うちょうてん)になって、そんな僕を否定する僕がいて、それでも(あわ)い期待に舞い上がって、それをまた冷たくバカにして。

 そろそろ振幅(しんぷく)の激しい感情が奇声となって表に出かねないので、どなたか解説をお願いします。

 

聖 「魔法は元来より魔法使いや魔界人といった魔に属する者でないと(あつか)えない術とされています。しかしあなたは『マスタースパーク』を放たれました。魔法とは(えん)もゆかりも無いはずの、ましてや非科学的な存在に否定的な外の世界から来たあなたがです」

パチュ「考えられる可能性は三つ。まず一つ目、八卦炉の暴発。長いこと使ってるから大いにあり得る。次に二つ目、魔法ではないマスパ。魔理沙の一番弟子の時と同じように、あなたが霊力や妖力といった別の力を放った可能性。ありえなくもない。最後に三つ目、あなたが魔法使いってことよ。ハッキリ言ってありえない。考えるだけでもバカらしい。なのに……」

魔理「それで『一応確かめてみようze☆』って事になったんだze☆。魔法使いなら『ジェム』っつー魔力の源が身体の中にあるはずだからな。その調べ方というのがご覧の通りだze☆」

 

 ですよねー、ですよねー、で・す・よ・ねー。大丈夫です、そんな気もしていましたから。ただちょっと、深く反省しているだけですから。身の程知らずだったな、って。ホント、何考えてたんだろ…。

 

フラ「ねー、まだかかるの?」

アリ「いた」

フラ「ホント?!」

アリ「……かも?」

魔理「ze★?」

アリ「さっきそれっぽいのがいたと思ったんだけど…。う〜…気配を消されて上手く探せない」

聖 「照れ屋さんなのかしら?」

パチュ「引込思案(ひっこみじあん)

魔理「ジェムまでチキン野郎かよ……」

 

 僕のジェムめぇ…。アリスさんが困ってるでしょ、しっかりしなさい! と言いたいところですけど、僕ですから…。照れ屋で引込事案でチキン野郎な僕ですから…。もうそのまんまですよ、生き写しですよ、所詮(しょせん)そんなものですよ……ぐすん。

 

アリ「もしかして……いなくなった?」

魔理「……もうさすがだよな」

僕 「なんかすみません……」

魔理「これ以上続けたころで成果は期待出来ないだろうな」

僕 「じ、じゃあ僕って」

魔理「『隠れ魔法使い』ってところじゃないか?」

聖 「そうねー…、ジェムもあったみたいだし」

僕 「僕が魔法使い……」

パチュ「調子に乗らないで。私は認めないから」

僕 「はい…、肝に銘じます」

魔理「ったく、そうカッカすんなze★。おいアリスもういいze☆」

アリ「う、うん」

 

 あ…、終わっちゃった。

 

アリ「ごめんなさいビックリさせて。ご迷惑でしたよね?」

僕 「いいいいえ、おどろきましたけど(迷惑だなんて)

 

 言えません。口が()ても言えません。本当のところどうだったかなんて……キモイですから。

 

アリ「魔理沙が後ろから押して来てそれで……」

魔理「パチュリーと聖がイヤだって言うからよ」

フラ「だからフランが——」

魔理「というわけze☆」

 

 承知いたしました。魔理沙さん、助けて頂きありがとうございます。でもそこに「魔理沙さん(ご自身)が」という選択肢は最初から無かったみたいですね。一つ屋根の下で一緒にご飯を食べている仲なのに、半年以上アリスさんのお世話になっている仲なのに、()れたくもない汚物(あつか)いなんですね……ぐすん。

 

魔理「それでもアリスは満更(まんざら)でもなかったみたいだけどな」

アリ「はあああッ?! アンタいい加減に——」

僕 「そうですよ、そんなはずがないじゃないですか。誰もいなかったから渋々(しぶしぶ)であって…。それなのに揶揄(からか)うだなんて——」

 

 きっと渋々ですらなかったはずです。嫌々(いやいや)、断腸の思い、苦渋(くじゅう)の決断だったんです。反論の余地も、(あらが)(すき)も、拒否する権利さえも魔理沙さんに(うば)われて、強制的に服従(ふくじゅう)するしかなかったんです。そんなのアリスさんが可哀想(かわいそう)じゃないですか。それなのに……

 

魔理「だってよぉ、きっひひひひひ」

僕 「な・に・か?」

 

 思い出してお腹抱えて笑い始めるとか…。僕だって…、僕だってですねぇ、僕だって怒るんですよ? 返答次第ではアリスさんのために怒っちゃうんですよ!?

 はい? デコを胸に当てるだけでよかった?

 

魔理「抱きつく必要はなかったんだze☆」

 

 はうわあああああッ、地雷だったー! ()まなければよかったあああッ。いや、逆に良かったの? とにかく熱い、熱いです、顔が激熱いです。脳汁がグツグツ沸騰(ふっとう)して空焚(からだ)きになりそうです……って、アリスさんがバグられたー! 思考回路がショートされて煙が上がっておられまする。小さくうずくまって「はわわ」になっておられまする。魔理沙さんしれっと爆弾仕掛けないで下さいよ!

 ラッキーだったな? なんで今同意を求めるんですか?! サムズアップでドヤりながら追加爆弾を投下しないで下さいよ! 

 ええそうすよ、心臓バクバクで破裂寸前で理性崩壊で語彙力(ごいりょく)消失で幸福超絶頂でグフグフでウハウハでラッキーでしたよ。否定しませんよ! だってアリスさんですよ? 『酒丸で聞きました。お嫁さんにしたい女性ランキング』の不動のトップ5、『(かみ)(ファイブ)』に君臨(くんりん)されているアリスさんですよ? そのアリスさんに「ぎゅー」されたんですよ? そんなの僕じゃなくても、男性だったら誰だって——

 

??「ご感想は?」

 

 嬉しいに決まってますよ!

 ……は? えっ、なに今の誘導尋問(ゆうどうじんもん)…。タイミング良すぎてまた口から(こぼ)れ落ちた可能性高いんですけど…。とは言っても、(のど)に残された余韻(よいん)から推測するに、ボソッと(つぶや)いたくらいでしょうし「もしかしたら聞かれた?」だなんて()らぬ心配なんですよ。というか今の誰です? フフフフランさん!?

 

??「へー、ソーナンダー。ヨカッタネー」

 

 聞かれてるうううッ。フランさんの瞳が暗く沈んでいくうううッ。マズイマズイマズイどうにかして誤魔化さないと、話題を変えて話を()らさないと。何でもいい、何でもいいから何かネタになりそうな物を急いで……ん? フランさんそれ…、腰から下げてるのって…………!?

 

僕 「フランさんがなんで?!」

フラ「えっ、えっ、えっ?! えええっと——が」

僕 「あの方が?!」

フラ「で、でも全然似て…?!」

僕 「海斗君これ…、これ、これこれこれ!」

 

 見ていたんです、間違いありません。

 確かにこれです、鮮明に覚えてます。

 だってその日——

 って、なんで海斗君メラメラしてるの? なんでみんなの視線が冷たいの? なんでフランさんが(あわ)ててるの? 顔赤いし、泣きそうだし、スカートを押さえて……!?

 

聖 「およしなさい、破廉恥(はれんち)ですよ」

魔理「ったく、お前はってヤツは……」

アリ「優希さん一旦落ち着きましょ。ね?」

海斗「嫁にセクハラしてんじゃネーッが、GJ♡」

パチュ「スケベ、変態、痴漢。男ってホント最低」

フラ「ゆーきなんてぇ…、ゆーきなんてぇ……」

僕 「ごごごごめ――」

フラ「ゆーきのバカあああああーーッ!!」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 無我夢中(むがむちゅう)前後不覚(ぜんごふかく)猪突猛進(ちょとつもうしん)

 

優希「海斗君これ…、これ、これこれこれ!」

 

 オタクの意識は親友に全集中。見せたい、見せるべき、見せねばならない。怒涛(どとう)のように()き上がる使命感がオタクの背中を……(いな)、前から引っ張っていた。

 

フラ「待って待って待ってえええッ!」

 

 例え進行を(こば)む摩擦力が生じようが、例え背後から少女の甲高(かんだか)い悲鳴が上がろうが、例えその少女が()がされるフリルスカートに(あらが)っていようとも聞こえぬ、察せぬ、(とどま)らぬ。故に、

 

優希「申し訳ございませえええんッ!!」

 

 地に額を打ちつけて超土下座、パターンの(とぼ)しいセリフで超謝罪、冷たくのしかかる圧力に涙を浮かべて超反省、当然の末路だ。(よわい)500そこそこの幼女に(みだ)らな行為を働くなど許されるものではない。だがそれでも幼女達は知っている。

 

優希「ごべ…んだ…ざぁぃいい。ばざど…ぢが…ゔんべずぅうう」

 

 嗚咽(おえつ)混じりで解読難解の謝罪文を述べるこの彼が、ぐしゃぐしゃの泣きっ面で許しをこうこのオタクが、『きゅっとしてドカーン』の恐怖にガクブルして額を擦りおろし延命を懇願(こんがん)するこのヘタレキモ男が——

 

魔理「もういいッ次!」

 

 そして、オタクは説明した。自分が何故取り乱したのか、何故親友を呼び寄せたのか、何故幼女のスカートを引っ張り始めたのか、その訳を。

 

フラ「けどアイツ——」

 

 彼女がそれを(ゆず)り受けたのは第二演目の開始直前、オタクがA○フィールド全開にビシッとスタンバっていた最中のこと。妹の駄々(だだ)にリミットを超えたカリスマが実力行使に打って出ようとしたまさにその時だった。

 

 ——これ、キミだよね?

 

 (ひか)えめな金属音と共に発せられた一言は、姉妹の気を引きつけるばかりか、周囲の者達の視線をも釘付けに。人気劇の幕が上がる中、その場の視線は春風に揺れる小さく平たい妹様に向けられていた。

 

 ——キミのでしょ?

 

 (くさり)()るされた自分を差し出され(しば)し思考停止、我に返って手に取ってはマジマジと見つめ、また思考停止。アクセサリーの(たぐい)であると(うかが)わせるそれは、彼女が初めて()れる材質だった。固く、冷たく、それでいて軽い。当然彼女に覚えのある代物などではない。しかし……

 

 ——名前書いてあるし。

 

 『フランドール・スカーレット』と(せま)い空間に(きざ)まれた文字は(まぎ)れもなく自分の名前。それでも彼女は首を横に振り、手の中の自身に思いを零していた。

 

 ——子供っぽい。私(本物)の方が色気あるもん

 

 声ではなく鼻からため息として。ともあれ「持ち主が見つかるまで預かる」と側にいる魔女ちゃんが放ちそうな台詞(せりふ)を吐き、返事を待たずに身につけていた。あたかも初めから自分の物であったかの様に堂々と。

 預けた者も「勝手にすれば」と彼女のジャイアニズムを(とが)めることもなく、このまま終止符が……とはいかなかった。

 

 ——これをどうした?!

 

 「待った!」をかけて割って入り、入手経路を問い詰める白黒魔法使いとその仲間達。その中にはカリスマお姉様の姿も。鬼気(きき)(せま)る表情の彼女達に彼は簡潔に答え、再び恋人と二人だけのラブラブな(さかずき)を交わし始めるのだった。

 

フラ「『(ひろ)った』って言ってたよ?」

 

 それが数刻前の出来事、こうも早く持ち主が現れようとは誰が予測出来ただろう。しかもまさか、よもや、よりにもよってお調子者だとは。ましてやその事を未だ涙が止まらぬヘタレキモ男が知っていようとは。

 彼は忘れられなかった。鈍器(どんき)(なぐ)られたような頭痛をアラームに目を開けてみれば、ありえない世界に迷いこんでいた時のことを。

 彼は覚えていた。爪先(つまさき)から押し寄せる披露(ひろう)感と心地のよい振動に(いざな)われ、親友と共に眠りについた時のことを。

 彼は見ていた。あられもない格好で並べられた商品に初心(うぶ)な男心を刺激される中、親友が熟練された(たたず)まいと経路で¥1000以上もするイイ方のキーホルダーを購入していた時のことを。 

 

海斗「何処でですぜ?」

魔理「さあな、そこまでは言わなかったze☆」

 

 お調子者は探していた。買い物へ行く度に、出かける度に、ふらっと人里へ(おもむ)く度に。幻想入りを果たしたと思われる場所、人など滅多に訪れない殺風景な長い長い長〜い階段を通る度に。しかしどの時も結果は同じ、「キーホルダーは幻想郷入りしていない」お調子者がそう結論付けるのも(うなず)ける。

 だがこの瞬間、その結論は(くつがえ)された。

 

海斗「……いや、おかしい」

 

 真っ先に過ぎる可能性は何者かに盗まれていたということ。だがこれでは不自然な点が残る。なぜなら彼のカバンは無事だったのだから。物取り目的ならばカバンごと消えているはずである。お調子者はこの不自然な点を説明できず、口にする前に候補から除外した。

 ともなれば、キーホルダーだけ別地で幻想入りを果たしていたと考えるのが(すじ)。そう思い至ったお調子者の目に、沈みに沈んだ友人の姿が()まった。

 

海斗「そういや優希って——」

 

 『幻想入りは何処で』

 この問いにタワシ頭は当時の事をかい(つま)んで説明した。元気を取り戻しながら、血の気を取り戻しながら、鼻の下を伸ばして口元を(ゆる)ませながら。だがそれはタワシ頭が目覚めた後の出来事。

 

優希「その前はアリスさんから聞いたんだけど」

 

 『魔法の森の中で倒れていた』

 友人が答えるなり今度は瞳に人形使いを閉じこめるお調子者。突然の力強い眼差しに、彼女は(おび)えながらも一度だけ深く(うなず)いた。裏は取れた。

 

海斗「俺は冥界、白玉楼の辺りだ。なあ俺達って」

 

 『電車で隣同士に座っていたはず』

 確かめ合う当時の記憶、だが明白になるのは不可解な事実だけ。同じ時間を共にし、同じ空間を共有し、ましてや触れ合う距離にいたはずの二人が、行き着いた先がかけ離れた地にいたのだから。

 顎下(あごした)に拳を当て、(うな)り声を上げながらこの難問に(いど)むお調子者。あれやこれやと脳内サミットを繰り広げる中、さらなる疑問が浮上した。

 

海斗「なんで俺達だけ? 他の乗客はどうしたんだ?」

 

 静かな湖畔(こはん)に一石の石が落とされた。

 

??「電車……?」

 

 広がる波紋は音もなく不気味に押し寄せる。

 

??「乗客……」

 

 清らかな水を送り続ける水路へと。

 

??「私……」

 

 (まし)て駆け上る、変えて(めぐ)る、濁流(だくりゅう)へと変貌(へんぼう)()(よみがえ)る。逆流を許した水路は今、崩壊する。

 

??「私は、私は!」

 

 人々を押し退()けひた走る彼女に余裕など無い。

 数多(あまた)の視線を集める彼女に平穏など存在しない。

 肩を震わせ平伏(へいふく)する彼女に日常など許されない。

 

??「私はあなた様のおかげで!」

 

 直後、時が凍りついた。全員がその光景に我が目を疑っていた。逆行する激流を(さえぎ)り、崩壊した水路を修復し、湖畔に静けさをもたらす異常な光景に。涙を浮かべて(うった)えていた彼女の額には——

 

??「4人目、みーっけた」

 

 だが時は待ったなしに動き出す。

 

??「なぜ彼女達を幻想郷へ導いたのですか?!」

 

 宣戦布告によって。


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