東方迷子伝   作:GA王

34 / 229
主が小学生の頃の家庭科の授業は
材料を各グループで分担して用意していました。
今は違うのかな?

だから当日誰かが休みとなると、
えらい事になっていました。


6時間目 家庭科  ※挿絵回

??「今日もよろしくお願いします」

  「『よろしくお願いしまーす』なのかー」

??「さて、まずは家庭科からですね。いつものように特別講師を呼んでいますので、みなさん元気に挨拶(あいさつ)しましょう。それではお願いします」

 

 ここ寺子屋では算数や国語等といった机に向かう授業の他に、実習がメインとなる家庭科の授業も行なっています。恥ずかしい話ですが、家庭科は私の苦手とする分野でして、このように特別講師をお呼びしている次第です。

 そしてその講師となる方はその道のエキスパートであり、右に出る方はいないでしょう。紅魔館(こうまかん)のスーパーメイド長、十六夜(いざよい)咲夜(さくや)さんです。

 

【挿絵表示】

 

 

 

咲夜「本日もよろしくお願いします」

  「『よろしくお願いしまーす』なのかー」

??「いつもお忙しい中ありがとうございます」

咲夜「お嬢様からも『得意分野でしょ? やってあげなさい』と言われておりますので、気になさらないで結構です」

??「…ふふふ、話の早い方で助かります」

咲夜「それでは前回話した通り調理実習を行いますので、みなさん準備をしてください」

 

 

--生徒調理中--

 

 

【チルノ班】

チル「ねー、大ちゃん。人参ってどれくらいに切るの?」

大妖「一口サイズかな」

チル「でも一口ってみんな大きさ違うからなぁ……。そうだルーミア、『あーん』ってしてみて」

ルー「あーん!」

チル「おー、こんなもんか。それなら半分の半分でいいか」

大妖「ちょっとそれ大き過ぎるかなー……」

 

【挿絵表示】

 

 

 私は具が大きい方が好みですね。さてこちらはどうでしょう?

 

【リグル班】

リグ「ミスチー、タマネギ切るの代わって。目が痛い……」

ミス「リグルそれやり過ぎ~♪ そんなに切らなくていいよ〜♪」

ヒマ「じゃがいもはどれくらいまで洗うの?」

ミス「土が落ちればいいよ〜♪ あとは皮を()けばいいから。ヒマリちゃんできる?」

ヒマ「うん、頑張る!」

ミス「終わったら私に頂戴。芽のところは私が取るから〜♪」

 

【挿絵表示】

 

 

 ふむ、こういう時は普段から料理をされている生徒達が頼もしく見えますね。

 屋台を経営しているミスティアさん、毎日チルノさんの食事を作っている大妖精さん。今日はいつも以上に大活躍です。

 

咲夜「お肉を(いた)めて火が通ったら、一度取り出して下さいね。後から入れた方が硬くならないで食べられますよ」

 

 そうなんですか。これはこれは勉強になります。

 今生徒達が作っているのはカレーライス、給食の中では一番人気のメニューです。本日はこれを授業で作ってもらい、給食の時間に食べる予定になっています。

 

咲夜「お水はさっき書いた分量通りに入れて下さいね。水加減が変わると大変ですから」

 

【チルノ班】

大妖「チルノちゃんできる?」

チル「このコップ何杯分?」

大妖「それにはメモリがあるから――」

ルー「お米洗い終わったのだー」

 

【挿絵表示】

 

 

【リグル班】

リグ「ミスチー、水入れたよ。あとは火をつければいい?」

ミス「あ、うん。ヒマリちゃん妹紅さん呼んで来てくれる〜?」

ヒマ「うん、わかった」

 

 具材も切り終わり、これから()る工程の班が多いみたいですね。火は付けるのが大変ですから、こういう時にいてくれて重宝するのが――

 

??「あのなー、私の力はこういう事に使うんじゃ……」

 

 常勤職員の妹紅さんです。

 

咲夜「これは直ぐに火が付いて便利ですね。さらにガス代までも……、紅魔館にも欲しいですね」

妹紅「いや、真顔で言われても……」

咲夜「いかがでしょう?」

 

【挿絵表示】

 

妹紅「『いかがでしょう?』じゃねぇよ! シリアスな顔して人の事を燃料としてスカウトすんな!」

リグ「あちちち、妹紅火ぃ強すぎ!」

妹紅「あーンモォッ!」

 

 

--具材調理中--

 

 

咲夜「では具材が煮えたと思いますので、各グループに渡したルーを入れてもらいます」

チル「大ちゃん、入れるだけならアタイやる!」

咲夜「ここで豆知識です。ルーは細かくした方が溶けるのが早く、かき混ぜる回数が少なくて済むので、じゃがいも等の具材が(くず)(にく)くなります。今回は粉々に(くだ)いてから入れましょう」

 

 なるほどそうなんですか。今度個人的に料理教室を開いて頂きたいですね。っと、おやおや? 何やら穏やかな雰囲気ではありませんね。

 

【チルノ班】

チル「おりゃッ! このッ! 魔◯沙めッ!」

大妖「チルノちゃん?」

ルー「何かあったのかー?」

チル「日頃の恨み」

大妖「気持ちは分からなくはないけど、料理にぶつけないで欲しいかなぁ……」

ルー「闇のスパイス、気が効くじゃない♡」

 

【挿絵表示】

 

  『出たEx!』

咲夜「こらこら、料理は愛情です。愛情、真心に勝るスパイスはありません」

 

 今のは名言ですね。ちゃんとメモを取らないと――あ、そんな目で見ないで下さい。

 

【挿絵表示】

 

 

【リグル班】

リグ「ミスチーどう?」

ミス「……うん、私は平気。ヒマリちゃんはどう?」

ヒマ「……んー、私はちょっと辛いかな?」

リグ「辛いって言われてもなぁ、どうすればいいのさ? 水で薄めるの?」

咲夜「それなら蜂蜜(はちみつ)を少し入れてみますか?」

リグ「げぇ、蜂蜜ぅ? そんなの入れて不味(まず)くならないの?」

咲夜「蜂蜜は色々な料理に使われています。そうよね、ミスティア?」

ミス「そうだよ〜、屋台のタレにも入ってるよ〜♪」

リグ「ふーん。入れるのはいいけど、どれくらい?」

咲夜「まずは小皿に少量のカレーと蜂蜜を入れて味の確認をします。これを何度か行い、ベストだと思ったところで、カレーの分量・比重にあった蜂蜜をを鍋に入れて……」

リグ「ちょちょちょっとごめんストップ! 話がいきなり算数っぽくなった」

咲夜「そうね、計算はこういう場面でも使うから、しっかりと勉強しておくことをお勧めするわ」

 

 今のはいい具体例ですね。算数が苦手な子を説得するのに使わせて頂きましょう。忘れないうちにメモを――あ、視線が冷たい……。

 

【挿絵表示】

 

 

妹紅「おーい、飯がいい感じだぞー。取りに来ーい」

 

 おっとご飯が()けたみたいですね。もうそろそろでお昼の時間ですし、丁度いいですね。授業のペース配分お見事です。

 

  『いただきまーす!』

 

【チルノ班】

大妖「美味しい!」

チル「最強のアタイが作ったカレーだもん!」

ルー「うまうまなのだー」ゴクゴク

 

【挿絵表示】

 

 

【リグル班】

リグ「ヒマリどうだった?」

ヒマ「すごく美味しかったよ」

ミス「リグル良かったね~♪」

 

【挿絵表示】

 

 

 みんなで作った昼食、それはそれは格別でしょう。チームワーク、これも一つのスパイスなのでしょうね。おっと今のは我ながらいい言葉ですね、覚えているうちにメモを――えっ、もうごちそうさま?

 

 

--生徒昼休中--

 

 

??「この度もありがとうございました」

咲夜「お嬢様のご指示ですのでお気になさらないで結構です。それではまた次回に……ん? あなた達……」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

--別の日--

 

 

??「今日もよろしくお願いします」

  「『よろしくお願いしまーす』なのかー」

??「さて今回の家庭科ですが、特別講師の方を2名お呼びしています」

??「本日もよろしくお願いします」

 

 丁寧な挨拶、(りん)とした(たたず)まい、女子生徒が(あこが)れる女性ランキング不動の第一位。いつもお世話になっているスーパーメイド長、十六夜咲夜さん。そして――

 

??「ぉね……がぃしま……す」

 

 小さな声、(あふ)れ出す緊張感、それでも男性生徒が恋人にしたいランキング絶対的上位層の内の一人。裁縫(さいほう)なら右に出る方はいないでしょう。人形使いのアリス・マーガトロイドさんです。

 

【挿絵表示】

 

 

??「今回は2つの組に分かれて授業を受けてもらいます。名前を呼ばれた方は咲夜さんの授業になります」

 

【アリス組】

アリ「ぇーっと、今日は……用意した布……の、線……沿()って手で()って……」

大妖「あ、はい。分かりました! この布に書いてある線に沿って縫えばいいんですね?」

アリ「……」コクッ

大妖「分からないところは聞きに行けば良いですか?」

アリ「……」コクッ

ヒマ「大ちゃん優しすぎ……」

ミス「流石〜♪」

 

【挿絵表示】

 

 

 うーん、ちょっと心配ですが、時間の経過と共に慣れてくれることを期待しましょう。それにあちらは大妖精さんのような気配りができる方が多いですし、今みたいにフォローをしてくれるでしょう。さてさて、あちらはどうでしょう?

 

【咲夜組】

咲夜「今日はクッキーを作ってもらいます。必要な材料は用意してありますし、型も色々あるので好きな形にして、出来上がったクッキーを日頃からお世話になっているご家族やご友人にプレゼントしてあげて下さい」

 

  「『はーい』なのだー」

 

 あの日の昼休み、咲夜さんの前に現れたのはチルノさん、リグルさん、ルーミアさんでした。いつも仲良くしてくれている友達に「サプライズでお礼がしたい」と相談をしに来たのです。生徒の自発的な7行動、断る理由なんてありません。咲夜さんも同じ気持ちだったと思います。

 咲夜さんは(しばら)く考えた後、二組に分かれて授業を行うことを思い付きました。つまり、家庭科の先生が二人となるわけです。その点についても咲夜さんは「任せて欲しい」と言っていましたが……。あの様子では進んで来て頂いている感じではありませんね。何か訳ありでしょうか?

 

 

--生徒授業中--

 

 

 さて、咲夜さんの方は出来上がったみたいですし、アリスさんの方はどうでしょうか。

 

  『すごーい!』

 

 ()き上がる歓声と拍手。取り囲む生徒の中心には布をハサミで華麗に素早く裁断し、さらに糸と針で超スピードで縫い合わせ、瞬く間に人形を作り上げるアリスさんの姿が。もはや曲芸です。

 

【挿絵表示】

 

 

アリ「うん、こんな感じかな」

 

 緊張の糸も解れたみたいでなによりです。

 お、またまたタイミングバッチリ。手作りのクッキーが入った包と感謝の言葉を送り送られ、教室が笑顔ほのぼのとした空気に包まれる中、例の三人は……。

 

チル「大ちゃん、ミスチー、ヒマリ!」

リグ「これ私達が作ったクッキー。三人にあげる」

ルー「なのだー」

ミス「わぁ~♪ クッキーだ」

ヒマ「みんなありがとう」

大妖「それじゃあ、私達は――」

 

 大妖精さんからヒマリさんへ、ヒマリさんからミスティアさんへと送られるアイコンタクトのバトン。そしてそのバトンが大妖精さんへ帰ってきたところで――

 

チル「ん?」

 

 大妖精さんはチルノさんへ、

 

リグ「へ?」

 

 ミスティアさんはリグルさんへ、

 

ルー「なのか?」

 

 ヒマリさんはルーミアさんへ丁寧に畳まれた布を手渡すと、小さく「せーの」とタイミングを合わせ、

 

  『開けてみて』

 

 と。布を受け取った不思議そうな表情を浮かべる三人が布を開くとそこには……

 

チル「おおっ!」

リグ「すごっ!」

ルー「花なのかだー」

 

 感謝の言葉が大きな花の刺繍(ししゅう)と共に綺麗に咲いていました。

 

咲夜「流石ね、頼んで良かったわ」

アリ「今回だけだから、もうこういうのは止めて」

咲夜「あら? でも楽しそうにしてたじゃない」

アリ「べっ、別にそんなこと……。あ、それよりもこの間あなたのところの――」

咲夜「その節は大変ご迷惑をお掛けしました」

アリ「何事もなかったから良かったものの、ちゃんと監視していて欲しいわ」

咲夜「深く反省しております」

アリ「……まあでも、約束はちゃんと守ってくれているみたいだし、おかげで無事にカエッテ……ゴニョゴニョ」

咲夜「ふふ、あなたにも大切な人が出来たみたいね」

アリ「ふぇっ!? そそそそそれよりも今回引き受けたんだから、約束は守りなさいよね?!」

咲夜「別にいいけど、本当にアレでいいの? 子供の玩具(おもちゃ)でしょ?」

アリ「いいの! アレがいいの! それと絶対に誰にも言わないでよ!」

 

【挿絵表示】

 

 

 楽しそうに咲夜さんと話しをしているアリスさんの腰には、丸々とした猫の人形が。きっとお気に入りなのでしょう。お世辞にも可愛いらしいとは思えませんけどね……。

 

 ここは幻想郷唯一の寺子屋。

 家庭科の授業は超一流です。




Q.アリスさんと咲夜さんの間での約束は何でしょう?












ヒント:Ep.2「プレゼント」

次回:「7時間目 図工」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。