この回はEp3のネタバレ要素を含みます。
まだEp3をここまで読んでいない方は、
【1時間目 国語】から読んで頂くことを
お勧めします。
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主は歴史の授業が大の苦手でした。
日本史まではギリギリでしたが、
世界史は完全アウトでした。
外国人の名前って何であんなに
覚え難いんですかね…。
??「今日もよろしくお願いします」
「『よろしくお願いしまーす』なのかー」
私は
いつも通りに点呼を取り、いつも通りの掛け声と共に、いつも通りの授業を行う。授業の内容もいつもの通り、幻想郷の歴史についてだ。私が一番得意とするところであり、生徒達に一番伝えたい事でもある。
歴史から学ぶ事は多い。良い事、悪い事共に大切な事。良い事は手本にし、悪い事は同じ過ちを犯さないように学んで欲しい。
でも私の想いとは裏腹に生徒達はいつも退屈そう。こんな時は……。
慧音「今日は外で勉強しようか?」
『やったー!』
リグ「でもまた命蓮寺じゃないよね?」
大妖「そうなんですか?」
チル「えー、アタイ違う所がいいなぁ」
ミス「私も〜」
ルー「なのだー」
慧音「じゃ、じゃあ次回は違う所にするから、今回は……。ね?」
けどこれもいつも通り。
この『いつも通り』が私の悩み。他に何をすればいい? 歴史の授業だけではダメなのか? 生徒達は何を望んでいる?
??「あら慧音先生、それに生徒さん達まで」
出迎えてくれた
慧音「突然ですみません。また見学させて頂いても良いですか?」
聖 「ええ、どうぞ」
表情には出さないけど、少なからず私が彼女達の立場ならとっくに思っているだろう。「また来たのか」と。
慧音「みんな挨拶しましょうね」
「『よろしくお願いしまーす』なのかー」
境内に配置されている仏の話をしながら歩いて行く聖さんの後ろをついて行く。この光景も何度目だろう。聖さんには感謝しているけど生徒達はウンザリといった表情を浮かべている。そして見学が終わった後には、また『いつも通り』の感想文を書くことになっている。
このままではいけない。でもどうすればいいのか、何をすべきなのか……。教師なのに、教える立場なのに解答が分からない。誰でもいい——
慧音「教えて……」
??「聖さんこちらは?」
叶った。そしてそれが彼との出会い。
慧音「人里の寺子屋で
彼 「そうでしたか。どうも初めまして、私は最近こちらでお世話になっている者です。どうぞよろしくお願いします」
「『よろしくお願いしまーす』のだー」
細くて落ち着いた雰囲気、それでいて初対面なのに安心と親しみを感じさせる話し方は、冷たくなった私の心を徐々に溶かしていってくれた。
彼 「皆さん元気で礼儀正しいですね、きっと先生の教え方がお上手なのでしょう」
慧音「いえ、そんな事は……」
彼 「こちらに何度も足を運ばれるということは、皆さん仏様が好きなんですか?」
『うーん』
彼 「あはは、いまいちと言ったところですか。それは何故です?」
生徒「なんかカッコ良くない」
彼 「他には?」
リグ「怖い」
生徒「眠そう」
聖 「住職として貴重な意見、でいいのかしら?」
慧音「すみません……」
彼 「…ふふふ。ではカッコ良くて、優しそうで、目がシャキッとした仏様を作ってしまいましょう。ノートと筆記用具は持っているみたいですし、そちらに好きな様に仏様を描いてみて下さい。あ、上白沢先生それで宜しいでしょうか?」
慧音「はい、あと私の事はどうぞ下の名前で呼んでください。そちらの方が呼ばれ慣れているので」
--生徒絵描中--
彼 「どうでしょう?」
チル「アタイの見て、氷の仏を描いた!」
彼 「良いですね、これは珍しい」
生徒「私は優しい顔の仏様を描きました」
彼 「ふむ、優しさが
リグ「私のはどうよ、虫の仏だ!」
彼 「お上手ですね。成る程そう来ましたか。これはこれでアリですね」
リグ「
彼 「いえ、そう言う事では……」
とんとん拍子に展開される生徒と彼とのやり取りに私は言葉を失った。それと同時に懐かしさも覚えていた。いつからか無くなってしまっていた沸き上がる生徒達の笑い声に。
??「ではここで本題です」
さらに彼は仏像がなぜ半目でいるのか、本質、生い立ちを丁寧に説明してくれた。もう聖さんから何度も聞かされていたはずなのに、まるで初めて聞く事のようにして生徒達は真剣な表情で聞き入っていた。それは私も。
そして気付かされた。私に足りない物を。教えて欲しい、この人からもっと教わりたい。心がそう望んだ瞬間私は——
慧音「あの、お願いが——」
あの日から五年。
彼は私に数々のことを教えてくれた。本を読むために必要な漢字を学ぶ国語、生物と命の大切さを教える理科、数字を使って計算を行う算数。歴史以外にも生徒達に教えるべき事はあると。そしてそれらを教えられるのは私達以外にもいるはずだと。
人里を頻繁に訪れる知り合いを
そして私は『いつも通り』に歴史を教えていく。けど生徒達は私の変わらない授業をまるで別人のように、これまで以上に興味を示してくれるようになった。その事に気付いた時は衝撃を受けながらも、あふれる喜びに思わず涙が零れ落ちそうになったもの。
ミス「妹紅さんいらっしゃ〜い」
妹紅「よっ! あれ、慧音どうした? なんか目が――」
慧音「ううん、何でもないよ」
ミス「妹紅さん、お酒どうします〜?」
妹紅「常温で二合頼む」
ミス「は〜い♪」
妹紅「そういえばミスティアついにやったな」
ミス「私もビックリしました〜♪ けどアレは一日一回ですね、今も
慧音「ふふ、それでも綺麗な声だよ」
妹紅「ホント、その声
ミス「えへへ〜♪ ありがとうございま~す♪」
生徒でもあるミスティアの店で妹紅と並んでお酒を交わす、これも私の歴史では『いつも通り』のこと。けど、今日はきっと新しい歴史が刻まれる。
??「おや、お二人共もうお
彼が来てくれたから。
ミス「先生いらっしゃしませ、来てくれたんですね~♪」
先生「ええ、せっかくご招待して頂きましたから。そう言えばミスティアさん、今日の体育の授業おめでとうございます」
妹紅「今その話をしてたんだよ、でもアレは一日に一回しか出来ないとさ」
先生「…ふふふ、それはそうでしょうね。あんなにパワーがあるのですから。チルノさんとルーミアさんは気を失っちゃいましたからね」
慧音「あ、あああああの!」
先生「はい、何でしょうか?」
慧音「命蓮寺の見学でお会いしてから――」
先生「あー、随分と経ちましたね。えっと確か――」
慧音「五年くらいです。今までずっとありがとうございます。今日、国語で漢字のまとめのテストをしました。チルノもリグルもルーミアもみんな70点以上で……これも全部あなたの――」
先生「いいえ、私はみんなにキッカケを与えただけに過ぎません。ここまで成長できたのは生徒自身の努力があったからこそです。そしてその生徒達をたった一人で教えていた慧音先生、あなたは凄いと思います」
また私を……あの時もそうだった。ずっと誰にも言えなくて、誰にも相談できなくて、破裂寸前だった私を快く受け止めてくれたあの日も。全てを吐き出した後彼は…
先生「協力しましょう。でもこれまでずっとお一人で授業をされていただなんて、私にはとてもとても」
間違いだらけだった私の歴史を否定せず、さらには
あの日から今日まで感謝を
慧音「本当に本当に、ありがとうございました。あなたに出会えていなかったら私は……」
先生「それは
違う、そんな事ない。あなたがいてくれたから私は……!!?
先生「慧音先生なら遅かれ早かれ、何らかの答えを見つけていましたよ」
お願い。
妹紅「慧音?」
今は、今だけはやめて。
ミス「今日は満月ですね〜、月が綺麗です〜♪」
先生「ええ、来る時につい見入ってしまいましたよ」
彼の前でだけは……
妹紅「満月!? おい、あんた直ぐにココから離れろ!」
先生「それは何故……って慧音先生どうかされました? どこか具合でも——」
お願いだから出てこないで!
妹紅「早くここから離れてやってくれ、頼むから見ないでやってくれ!」
先生「ですが……」
慧音「イヤーーーッ! 見ないでー!!」
先生「そのお姿はいったい——」
この姿を彼にだけは見せたくなかった。
慧音「醜いですよね……。私、人間ではないんです。半人半獣なんです。満月になると力が抑えられなくなってこの姿に……」
妹紅「慧音……」
もう私は彼と——
先生「いいえ、お綺麗ですよ」
え?
先生「ちょっとビックリしましたが、とても幻想的で神秘的です」
そんなもったいない言葉を言われたら私……
先生「もっと近くで見せて頂いてもいいですか?」
だからこの気持ちをあなたに伝えます。
慧音「はい、もっと近くで私を見てください」
ミス「妹紅さん私も見たい〜♪」
妹紅「バーカ、部外者は立ち入り禁止だ。慧音………、良かったな」
--1時間後--
妹紅「全く……随分と長いことイチャイチャしてくれてよぉ、そっちが熱々の間におでんが冷え冷えになっちまったよ」
慧音「妹紅!」
先生「ももも妹紅さん!? イチャイチャってそんな事は——」
妹紅「あ? おい慧音違うらしいぞ」
慧音「えっ……」
先生「いや、私は素直な気持ちで接していたのであって、決して
妹紅「そんなんだったらこの場で焼き殺すぞ?」
ミス「あはは…。そうだ気分を変えましょう。私からいつもお世話になっている先生達に歌のプレゼントをしま〜す」
大きな月の光に包まれて、夜風に流れる生徒の美しい歌声と共に酔いしれる。こんなに満ち
先生「さすがミスティアさん、素敵なBGMですね」
妹紅「ミスティア、ありがとな」
ミス「えへへ〜♪」
妹紅「そう言えばあんた教師の経験あるのか? あまりにもやり方が上手過ぎる」
慧音「私も気になっていました。幻想郷には寺子屋はあそこしかないのに、いったいどちらで?」
ミス「確かに教師の経験はあります。ですが、それはたった一年だけです」
『一年だけ!?』
先生「ええ、ですからまだまだ新米なんです。そして教壇に立っていたのはこの世界ではありません。別の世界にいた時の話です」
慧音「えっ!?」
妹紅「なっ、あんたも外来人だったのか!?」
ミス「ふぇ〜」
先生「あれ、ご存知ありませんでした?」
妹紅「いや全く、馴染み過ぎててすっかりこっちの人間だって思ってたよ」
慧音「こちらに来てから長いんですか?」
先生「そうですねぇ、こっちの世界に来たのは慧音先生にお会いする少し前くらいですね」
慧音「外の世界でも今の寺子屋の様な授業を?」
先生「ええ、あちらの世界では各教科に専門の教師がいるのが通常でしたので。私も
妹紅「なるほどねー、じゃあこれまでのは外の世界の受け売りだったわけか」
先生「ええ、そうなりますね。でもそれが私がいた世界の歴史の果てです。良い所は手本にする。そうですよね慧音先生?」
慧音「はい!」
先生「ところで妹紅さん、私が先程外来人だとお話しした時に『あんたも』と言われていましたが?」
妹紅「ああ、
先生「おや? まだ他にもいましたか。私は先日人里で外来人の青年にお会いしましたよ」
妹紅「本当か!? 最近多いな」
多い? 確かに一言で語ればそうかもしれないけど、こんな短期間にまとまって外来人がやって来るなんて、長い幻想郷の歴史においても初めてのこと。明らかに異常だ。
スキマ妖怪、霊夢いったい何を……妙な胸騒ぎがする。
慧音先生は主の1番とは言いませんが、
好きなキャラクターです。
あんな綺麗な先生が担任だったら…
主の学校の出席率は100%だったでしょう。
次回:「11時間目 花見へ」
次回でEp.3は完結です。