東方迷子伝   作:GA王

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リニューアルしました 2018/07/30




ユーネェ_※挿絵有

 実家を出発し、貰った小遣いでダイキの服と茶碗や箸といった日用品を買うため商店街へ。ここは肉屋、服屋、雑貨屋、食事処といった店が軒を連ね、この時間帯は多くの客で賑わいを見せる。ダイキの手を引き、服屋へと歩を進めていると、前から懐かしい声が聞こえてきた。

 

??「お~い、勇儀~! 久しぶり~!」

 

 薄茶色の長い髪に赤い大きなリボン。小柄な体型に似合わない長い二本の角。私の幼い時からの良き友人、伊吹(いぶき)萃香(すいか)が笑顔で大きく手を振りながら近付いてきた。

 

【挿絵表示】

 

 

勇儀「萃香! 本当に久しぶりだ。いたなら会いに来ておくれよ」

萃香「いやいやぁ~。私も今来たところなんだよ。おやおやおや~? そこのちっこいのが町で噂になっている坊やかな~?」

 

 彼女はダイキの事を見つけると、ニヤニヤしながら歩み寄っていった。

 

勇儀「ダイキってんだ。ダイキ、萃香だ」

萃香「ふーん……、ちっこいクセに一人で来たんだって?」

 

 尚もにやついた表情でダイキに顔を近付けて尋ねる親友。彼女なりに親しみを込めて接しているのだろう。そんな彼女にダイキは眉をピクリと動かし、声を大きくして怒り出した。

 

ダイ「うっさいチビ! ちっこいちっこい言うな!」

萃香「ハァ~ッ!? 誰がチビだってぇ!?」

ダイ「他のみんなよりも全然チビだ!」

萃香「ナ・ン・ダ・トォッ?」

勇儀「ククククッ……」

 

 鬼に予想外の反撃に出る小さな人間の小僧。その言葉は的確に彼女に突き刺さり、2人の火花は激しさを増していった。そんな2人を横目に、私は「ダイキも言うじゃないか」と思いながら、笑いを堪えるのに必死になっていた。

 

萃香「おい勇儀! 何なんだこのガキ! 凄いムカつくぞ!!」

 

 ダイキを指差して「どうにかしろ」と怒りながら訴えてくる親友。人間の小僧相手にムキになる彼女に、思わず堪えていた笑いが吹き出そうになる。

 

勇儀「ま、まぁ萃香の言い方が気に入らなかったんだろ?」

 

 耐えろ耐えろ。笑っちゃいけない。

 

ダイ「ユーネェ、()()()友達なの?」

勇儀「ん? あぁ、一番の友達だよ」

 

 コイツって…、もうダメだ。腹が痛いぃぃ……。

 

萃香「誰がコイツだぁ!? クソガキ!」

ダイ「ユーネェの友達なのに、()()()()()()()!」

 

 

ブッッッチーーーン!

 

 

萃香「コロス……コロスコロスコロスコロスッ!」

 

 ダイキの止めの一撃。ついに私は堪えきれなくなり、彼女に見られないように腹を抱えて笑った。しかし彼女にこれは禁句中の禁句。強烈な怒気を放ちながら両手に拳を作り、ダイキに殴り掛かった。私は慌てて彼女を取り押さえ、ダイキから放した。

 

萃香「離せ! コイツは言ってはならない事を!」

勇儀「分かった分かった、でも落ちつけ!」

萃香「うるさいっ! 勇儀に私のこの気持ちは分からないだろ!?」

勇儀「うっ……。でもダイキはまだ5つだぞ? お前さん今いくつだよ!? ダイキも萃香は私の友達なんだ。酷い事を言うと私も悲しいよ」

 

 「とりあえず落ち着け」と2人に告げると、彼女から怒気が消えていき、ダイキは俯いてしまった。2人が大人しくなったところでもう一言。

 

勇儀「喧嘩両成敗。お互いに謝りな!」

ダイ「ごめんなさい」

萃香「ふんっ! ……悪かったな」

 

 お互いに謝罪をし、場から完全に熱が引いたところで、先程から抱えていた疑問を彼女に尋ねた。

 

勇儀「萃香、人里で何か変わった事無かったか? 誰かの子供が突然居なくなったとか」

 

 彼女は『密と疎を操る程度の能力』という力を持ち、自分の体の大きさや数を自在に操る事ができ、その能力を使って地上の様子や噂話等の情報を集めて帰ってくる。

 もしその様な話があれば、それはダイキの事である可能性が高い。

 

萃香「特に何も……。そんな話も聞かなかったよ」

 

 しかし、そう簡単に事が運ぶはずもなかった。

 

勇儀「なあ、萃香。お前さんの能力を見込んで、頼みがあるんだ。ダイキ……この子の親を探してはくれないかい?」

萃香「えー……。あんな事言われた後だよ?」

勇儀「さっきお互い謝ったろ? な? 頼むよ」

萃香「うーん、何か気が進まないなぁ……ん?」

 

 親友と話しながらふと視線を向けると、ダイキが彼女の直ぐ傍まで近づいていた。2人の距離はあと数歩。「まさか!?」と思ったのも束の間、

 

 

ギュー……

 

 

 ダイキが親友に抱きついた。彼女とダイキには大きな身長差はない。ダイキの頭に彼女の顎がのるくらいだ。(はた)から見れば、子供同士が抱き合っている微笑ましい光景なのだが、彼女はこの外見でも……。と思っていると、ダイキが弱々しい声で話し始めた。

 

ダイ「さっきはごめんなさい。ママを探すの……手伝って……」

 

 ダイキの表情は隠れて見えないが、必死なのは伝わって来た。だが、その涙ながらの訴えも空しく、

 

萃香「やめて! 離して!!」

 

 彼女はダイキを振り解き、再び距離を取った。あんな事があった後、さすがに効かなかったようだ。ダイキの必殺も空振りだったので、改めて親友の説得方法について悩んでいると、

 

??「あ、あのね……」

 

 透き通った高い少女の様な声が。聞き慣れない声の方へ視線を向けると、親友が口に手を当て、顔をリンゴの様に赤くしていた。

 

萃香「そ、その……、私に…出来ることなら……」

 

 更に小さな体を「キュッ」とさらに小さくし、潤んだ大きな瞳でダイキを見つめる彼女の姿に私は絶句した。

 ダイキ、お前さんは大変な物を盗んでしまったみたいだぞ。

 

 

 

 

 

萃香「私、頑張るから! 絶対にダイキの親見つけてあげるから!」

 

 そう意気込んで、彼女はまた地上へと旅立ってしまった。去り側に、

 

萃香「ダイキ……またね♡」

 

 と頬を染めながら可愛らしくダイキに手を小さく振っていた。親友の変貌ぶりに私は呆気に取られ、そしてその引き金となった張本人は…、

 

ダイ「ハフハフ、モグモグ……」

 

 腹が空いたと言い出し、買ってやった肉まんを頬張っている。

 

ダイ「ごちそうさま」

勇儀「食べるの早いな。じゃあとっとと次行くか」

ダイ「どこ? 蕎麦屋?」

勇儀「そんなにあそこの蕎麦が気に入ったかい? 残念だけど、次行く所は診療所だよ」

ダイ「シンリョージョ?」

勇儀「医者がいる所だよ。ダイキの体に変な所が無いか診てもらうんだよ」

 

 

--小僧移動中--

 

 

 着いたのは町の中心部少し離れた所にあるこの町唯一の診療所。鬼も妖怪も体が丈夫に出来ているため、疫病を除いて風邪や怪我になることがほぼない。それ故、ここを訪れる者の殆どが怪我や病気をしやすい子供や老人達だけだ。かく言う私も幼いときに世話になった。

 

 

ガラッ、チリンチリン。

 

 

 戸を開けると鈴の音が鳴り響いた。中はしんと静まり返っている。

 

勇儀「おーい、誰かいないかー?」

??「ほいほい、ちょっと待っとれ」

 

 中から杖をつきながら年老いた鬼が出てきた。彼がこの診療所の、この町唯一の医者だ。医者本人がコレだからいつも不安になる。

 

医者「やーっこらせ。なんだ、勇儀か。変な物でも食ったか?」

勇儀「なんだよそれ……、今日は私じゃなくて、この子の事を診て欲しいんだ」

 

 そう言うと爺さんは眼鏡を掛け直し、目を細めながらダイキの事を見つめ始めた。

 

医者「んー? おい勇儀、この小僧人間か?」

勇儀「そうだよ。色々と事情があるんだ。連れてきたのは母……棟梁様の命令だよ」

医者「そーかい。どれどれ」

 

 この爺さんもちょっとした能力をもっている。見た者の細かいところまで診察してしまうという能力だ。「診る程度の能力」といったところだろうか。

 

医者「大きな怪我や病気をした痕跡はないな。それにある程度の病気の抗体を持っておる」

勇儀「能力か?」

医者「いや、そういう物ではないな。人工的に処置を施した痕跡がある。気になる所は他に無いな。至って健康体だ。血液型は勇儀と一緒だな」

勇儀「へー、そうなのかい」

医者「それにしても勇儀も成長したな」

勇儀「そうかい? 全然変わってないと思うけど」

医者「いや、昔より大きく成長しておるよ。特に胸囲なんかは……」

勇儀「どこを見てるんだい!? エロジジィ!」

医者「カッカッカ、元気があって結構、結構」

 

 

--小僧移動中--

 

 

 ダイキの診察を終え町に戻ると、仕事を終えた仲間がチラホラ見える。もうそんな時間か……。

 

勇儀「ダイキ、早く帰って飯にしよう。鍋でもいいか?」

ダイ「いいけど、シイタケある?」

勇儀「イヤ、私嫌いなんだアレ。あと春菊も」

ダイ「シイタケもシュンギクもイヤッ!」

勇儀「あはは、そうかじゃあ私と好みが同じだな」

 

 家に帰り、急いで夕飯の支度に取りかかる。鍋は具材を適度な大きさに切って、突っ込めば良いだけだから本当に楽だ。そして誰が作っても大体失敗する事は無い。久々の台所での作業に戸惑いながらも、なんとかそれらしい物ができあがった。

 

  『いただきます!』

ダイ「ハフっ、モグモグ。美味しい♪」

勇儀「そいつは良かった。ハフっ」

 

 私の作った下手な鍋を笑顔で食べるダイキを何気なく見ていると、箸を持つ手が私と同じ事に気付いた。左利きは苦労するからと、幼い頃棟梁様(母さん)に散々注意されていた記憶が今でもある。それも今となって無駄に終わっているけど……。

 

 

--小僧食事中--

 

 

  『ごちそうさまでした』

 

 大人の鬼2人分は用意しておいた鍋の具は案の定、綺麗に無くなった。私は腹がそこまで減っていなかったので、一人前も食べていないと思う。つまり、おそらくダイキは私よりも多く食べている。この小さな体で。そのダイキはと言うと、

 

ダイ「はー……、お腹いっぱい」

 

 丘の様に膨れた腹を撫でながら至福の一時を過ごしていた。

 ダイキは上機嫌。話すなら今しかない。そして私はその場で姿勢を正し、ダイキに真剣な表情で語り掛けた。

 

勇儀「なぁ、ダイキ。大事な話があるんだ……」

 

 私はこれからダイキと一緒に生活していく上で、避けては通れない問題について、ゆっくりと落ち着かせる様に話し始めた。

 

 

--女鬼説得中--

 

 

ダイ「イヤだ!」

勇儀「頼むから聞いておくれよ」

 

 どうしたのかと言うと、明日私は仕事に行かねばならないなのだ。今日はたまたま休日だったのでずっと一緒にいれたが、明日はそうは行かない。その事を話し、留守番をお願いしたところ「絶対に着いて行く!」と言って聞かないのだ。

 私の仕事は建築業。現場はいつもピリピリとしており、安全の面からも部外者は立ち入り禁止だ。同族の子供でも邪魔だからと追い払うのに、人間の子供なんて論外だろう。

 

勇儀「なぁ頼むから。そうだ好きな物買ってやる」

ダイ「いらない! 一人は絶対にイヤだ!」

勇儀「危ないんだ。それに怖い鬼だって沢山いるんだぞ?」

ダイ「ユーネェが守るって約束した!」

 

 痛いところを突かれた。言ってしまった手前、今更取り消す事なんて出来ない。そんな事をしたら鬼の名折れだ。

 

勇儀「わかった、わかった。着いて来るだけだぞ? それと他の連中がダメだと言ったら、素直に諦めるんだぞ?」

ダイ「うん、わかった」

勇儀「約束だぞ? あ、そうだダイキにも三か条を教えてやる」

ダイ「なにそれ?」

勇儀「私の後に続けて同じ様に言えばいいよ。一つ、鬼はウソをつかない!」

ダイ「鬼じゃないよ?」

勇儀「そんなの分かってるよ。でもここで生活するんだ。鉄の掟には従ってもらうよ。ほれ、一つ、鬼はウソをつかない!」

ダイ「一つ、鬼はウソをつかない!」

勇儀「一つ、鬼は騙さない!」

ダイ「一つ、鬼は騙さない!」

勇儀「一つ、鬼は仲間を見捨てない、裏切らない!」

ダイ「一つ、鬼は仲間を見つけない、裏切らない?」

勇儀「違う、違う。見捨てないだ。一つ、鬼は仲間を見捨てない、裏切らない!」

ダイ「一つ、鬼は仲間を見捨てない、裏切らない!

勇儀「いいかい? それがこの町の掟だよ。破ったらこの町から出て行く事になるよ?」

ダイ「はい!」

勇儀「約束守りなよ?」

ダイ「はい!」

 

 私の教えにダイキは力強い眼差しで大きく返事をした。鬼の三か条、私も昔親方様(父さん)にこうやって覚えさせられたっけ…。

 食事の後片付けを二人でした後、風呂に入り、寝る支度していると、ダイキの布団を買い忘れている事に気が付いた。

 

勇儀「悪いダイキ、布団を買い忘れてた。また私と同じ布団でもいいか?」

ダイ「……うん」

 

 私の問い掛けにダイキは顔を少し赤くし、視線を落として小さく返事をした。照れ臭そうにしているが、そこがまた愛らしい。

 一緒に布団に入り、ダイキの顔を見ながら今日の事を聞いてみる。

 

勇儀「私の父さんと母さん怖かったか?」

ダイ「じぃじは怖かったけど、凄く優しかった。ばぁばは優しそうだったけど、少し怖かった」

勇儀「あははは、そうかそうか。でも2人ともこの町じゃ凄く偉いんだぞ?」

ダイ「へー、そうなんだ……。ユーネェは?」

勇儀「私? 私もまぁ、ちょっとね。そういう事なら萃香も偉いんだぞ?」

ダイ「へっ!?」

 

 友人の名前を出した途端、ダイキは顔を真っ赤にして布団の中に隠れてしまった。

 

勇儀「ん? どうした? まさか今更になって抱きついたのが恥ずかしくなったか?」

ダイ「うー……」

 

 どうやら図星だった様だ。

 

勇儀「あははは、何だよ。自分からやっておいて。()()見ているこっちがハラハラするからもう止めような」

ダイ「ユーネェが教えてくれたクセに……」

勇儀「そ、そうなんだけど……。でも誰彼構わず抱きつくのは良くないな」

ダイ「うん、わかった。あ、あのさ……。萃香ちゃん……ってユーネェと同じ年なの?」

勇儀「ん? うーん、どうだったかな? まぁ、あんまり変わんなかったと思うぞ」

ダイ「ユーネェっていくつ?」

勇儀「こら、女に年なんか聞くもんじゃないよ」

ダイ「なんで?」

勇儀「いい男はそんなの気にしないってことさ」

ダイ「ふーん。萃香ちゃんもいい男の方が良いのかな?」

勇儀「アイツの好みは分からないけど、多分そうなんじゃないか?」

 

ん? 萃香()()()? ん? ん? ん?

 

ダイ「そっかー……」

 

 天井を遠い目で見つめてボソッと呟くダイキ。そんなダイキに違和感を覚え、恐る恐る聞いてみる。

 

勇儀「ダイキ、萃香のことが気になるのか?」

 

 

ボンッ!カーッ……

 

 

 これまた図星だった様だ。

 

勇儀「おいおい……、ウソ……だろ?」

 

 衝撃の事実に私は呆気に取られた。萃香もダイキの事が気に入っているみたいだったし……。お前ら年の差いくつだよ……。

 

ダイ「なんか、友達になって欲しいな……って」

勇儀「あっははは、なら大丈夫だよ。萃香とダイキはもう友達だよ」

ダイ「よかったぁ。嫌われたって思った」

勇儀「ふふ、それは絶対にないから安心しな。じゃあ、おやすみ」

ダイ「おやすみ、()()()()

 

 ダイキの何気ない一言。かなり前から聞いていたような気もするが、今になってやっとその違和感に気付いた。

 

勇儀「ちょ、ちょっと待て。今なんて?」

ダイ「ん? おやすみ?」

勇儀「違う、その後」

ダイ「ユーネェ?」

勇儀「ゆーねー? 私?」

ダイ「……」コクッ。

勇儀「私がゆーねー?」

ダイ「……」コクッ。

勇儀「何でゆーねー?」

ダイ「勇儀お姉ちゃんだからユーネェ」

 

 

ぞわぞわぞわぞわ……。

 

 

 全身を電気が駆け巡り、得体の知れない力が私の内側から込み上げて来る。く~~~……ッ。もう我慢できない!

 

 

ギューーーッ!

 

 

 私は本能の(おとむ)くままダイキを抱きしめた。昨日寝た時と同じ体勢で、ただ昨日よりも力強く。

 

ダイ「!? ユーネェちょっと!」

勇儀「こいつこいつこいつこいつぅ!」

ダイ「はなじでぇ。苦しいぃ」

勇儀「離して? だが断る!」

 

萃香……、私も純粋無垢なこの人間の小僧に夢中になっちまいそうだ。

 

??「パルパルパルパル……」メラメラメラメラ……




子供の純粋さは最強の武器だと思います。

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