東方迷子伝   作:GA王

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主はクレープ好きです。
とは言ってもいつも食べるのは、
おかずクレープです。うまい!
主の中では「クレープ=飯」
という位置づけなのですが、
甘い物好きの友人が隣で
ガッツリスイーツ系のクレープを
食べている時は素直に
「それ、おくれ」
といった気持ちになります。
で、「欲しければ自分で買え」と
説教されます。




Menu②:クレープ        ※挿絵有

迷いの竹林の中にある永遠亭。

 

今は昼を少し過ぎた頃、

永遠亭の縁側には今日も3人の乙女が、

 

ズズー…。

 

  『はぁ~。お茶が美味し~』

てゐ「昨日のおやつは最高だったウサ」

輝夜「あゆみまた作ってよ」

 

昨日のおやつを忘れられない輝夜とてゐ。

それもその筈、あの様なスイーツは幻想郷に住む彼女達にとってはとても久しぶり。いや、初体験と言っても差し違えない程。

 

あゆ「いいけど~、

   パンケーキって結構カロリー高いんだよ~。

   食べ過ぎると太るよ~」

てゐ「私は見回りとかするから平気ウサ」

あゆ「カグちゃ~ん、運動してる~?」

輝夜「う、うるさいわね!

   私はいくら食べても太らないの!」

てゐ「でもそんなんじゃ、

   妹紅にやられるのも時間の問題ウサ」

輝夜「なによ!

   兎の分際で言ってくれるじゃないの」

てゐ「紅魔館の魔法使いといい勝負ウサ。

   いや、あっちは本を読んでいる分マシウサ」

 

楽しく一緒にパンケーキの話をしていた筈の2人。

しかし、何気なく放った自分の言葉が引き金になり、睨み合いとなってしまった事にあゆみは、

 

あゆ「ど~しよ~」

 

戸惑い、慌てふためいていた。

するとそこへ…。

 

鈴仙「てゐと姫様?何を睨み合って…」

 

この上ない助け舟が。

 

あゆ「冷麺ちゃん助けて~」

鈴仙「だからー…」

 

 

--少女説明中--

 

 

輝夜「イナバ酷いと思わない!?」

てゐ「ふんウサ!」

鈴仙「でも、お師匠様も姫様の事を

   気にしておられます。

   少し運動なりをされた方が…」

 

輝夜の事を皆が気にかけている事を伝えてみるものの、

 

輝夜「そんなの柄じゃないわ。

   それに妹紅が来れば必然と運動になるわよ」

 

当の本人はそんなのは御構い無し。

顔を突き合わせれば喧嘩になる妹紅が来れば、自然に弾幕ゴッコが始まり、それが運動になると開き直る始末である。

 

妹紅「私がどうかしたのか?」

 

丁度、話題の彼女がやって来た。

 

輝夜「げっ、妹紅。何よ勝負しにきたの?」

 

さっき自分が言った事をこの場の皆に示そうと、敢えて喧嘩口調で妹紅に突っかかる輝夜。

 

妹紅「お生憎、お前になんかもう興味はない。

   引きこもりニートの相手をしている程、

   私も暇じゃないんでね」

 

しかしその喧嘩相手は華麗にスルー。

後に引けない輝夜は、更に妹紅を挑発する。

 

輝夜「なによ、逃げる気?」

 

『逃げる』この言葉が妹紅にとって、どれ程嫌いな物で、逆鱗に触れる物であるか輝夜は長年の付き合いから知っていた。

 

妹紅「そう思ってもらっても結構。

   今のお前から何を言われても何も感じない。

   あゆみ、ちょっと来い」

 

だがそのNGワードにも反応する事無く、挙げ句の果てには『眼中にない』と思われている事を伝えられる始末。

 

あゆ「あ、うん…」

輝夜「…」

 

あまりにも予期していなかった結末に、輝夜は肩を落とし、無言で俯いた。

 

てゐ「今のはクリティカルだウサ」

鈴仙「ちょっと気の毒…かな?」

輝夜「負けない…、絶対見返してやる!」

 

だがそこまで言われら黙ってはいられない姫様。『逃げる』と言う言葉がNGワードなのは彼女も同じだった。

 

輝夜「てゐ、イナバ!

   弾幕ゴッコの相手をしなさい!」

  『えー…』

 

 

 

 

 

妹紅「連れてきたぞ」

あゆ「永琳さん何かご用ですか~?」

 

妹紅に連れられ、あゆみがやって来たのは永琳の仕事部屋。

 

永琳「あゆみちゃん。

   昨日人里で黄色に光る家を見たそうね?」

あゆ「はい、見ました~」

永琳「てゐの罠は赤色に見えたって?」

あゆ「はい、今も見えますよ~」

 

永琳からの質問はあゆみが見たと言う不思議な『色』について。永琳は他にもいくつか質問をした後少し考え、口を開いた。

 

永琳「あゆみちゃん、あなたのそれはおそらく、

   物が放つオーラの様な物を色で識別できる

   能力だと思うわ。危険な物なら赤色、

   自分にプラスになる物なら黄色みたいにね」

あゆ「じゃ~昨日の家って~」

妹紅「今朝、人里に行ったから聞いて来たんだよ。

   あそこ最近空き家になったらしいんだ。

   作りは頑丈で問題ないって。

   入居者募集中でなんだって」

永琳「きっとそこはあゆみちゃんにとって

   プラスになる場所なのよ。

   だから黄色く光っていたんだと思うわ。

   もし黄色が別の意味だったら、

   あゆみちゃんが惹きつけられることはないと

   思うの」

妹紅「なるほどねー。でもそれが本当かどうか、

   確かめた方がいいんじゃないか?

   あと色の意味も色々あるだろうし」

あゆ「ぷぷぷ~。色が色々だって~」

 

イラッ!

 

妹紅「おちょくってんのかー!」

あゆ「わ~!ごめんなさ~い!」

 

永琳の見解を聞き終え、仲良くじゃれ合う妹紅とあゆみ。

 

 

ドドーン!!!

 

 

そこへ突如大きな爆発音が。

 

妹紅「な、なんだ?」

永琳「弾幕の音ね。誰か外で…」

??「『神宝:ブリリアントドラゴンバレッタ』!」

 

聴こえて来たのは問題姫のスペルカードを高らかに宣言する声。

 

永琳「姫様!?」

妹紅「あの引き篭もり…」

 

その頃外では………。

 

てゐ「こんなの一方的ウサ!

   ただの憂さ晴らしウサ!」

鈴仙「姫様もう止めてください!」

 

弾幕ゴッコとは名ばかりのハンティングが行われていた。

 

永琳「何?どうしたの?」

 

慌てて外へ出て来た永琳達。

 

鈴仙「お師匠様。姫様が急に弾幕ゴッコをしよう

   って張り切り出して…」

てゐ「わわわわわ!」

 

迫る弾幕を辛うじて躱す小兎。

 

ドーン!

 

躱した弾は地面に接触し、大きな音と共にその場を抉る。

 

鈴仙「てゐが餌食に…」

妹紅「張り切り方を間違ってるだろ…」

永琳「はー…」

 

鈴仙から伝えられた事の経緯に呆れる2人。

そんな2人の目の前で、

 

輝夜「『神宝:ブディストダイアモンド』!」

 

更に追い討ちのスペルカードを宣言するハンター。

 

てゐ「誰か助けてウサ!」

 

差し迫る恐怖に涙を流しながら助けを求める小兎。そこへ救いの声が。

 

あゆ「えっと~、チビウサギちゃん半歩後ろ~」

てゐ「え?ここ?」

 

疑問に思いながらも、あゆみの指示通り半歩分下がり、その場で直立。

 

ドドドドドドドーン!

 

弾は全て小兎に触れる事無く、左右をすり抜けて行った。

 

『え?』

 

輝夜「上手く躱せたわね。なら、これならどう?

   『神宝:サラマンダーシールド』」

 

信じられない状況に驚く観客一同。

そしてそこへ駄目押しのスペルカードを宣言するハンター。

 

てゐ「次はどこウサ!?」

 

さっきのがマグレでない事を期待し、あゆみに救いを求めるが、そこはやはりあゆみだった。

 

あゆ「えっと~、え~っと、右に~…」

てゐ「遅いウサー!!」

 

ドドドドドドドーン!ピチュ―ン!

 

輝夜「ふー、いい汗かいた」

 

久しぶりの運動に清々しい笑顔で額の汗を袖で拭うハンター輝夜。狩に満足した様だ。指示したあゆみに手応えを感じた永琳は

 

永琳「あゆみちゃん、見えたの!?」

 

少し興奮気味に問いかけた。

 

あゆ「はい、ほとんど赤色だったけど~、

   何か所かは緑色でした~。

   さっき永琳さんが赤は危険だって言ってた

   から緑は安全なのかな~って」

妹紅「黄色はあったか?」

あゆ「黄色はなかったよ~」

永琳「確定ね」

 

あゆみの答えから赤、緑、黄色の意味がこの時確かな物となった。永琳が自分の仮説が正しかった事に満足している中、あゆみの背後に忍び寄る影が。

 

てゐ「あーゆーみー…。

   分かってるなら早く教えるウサ!」

あゆ「あはは~、ごめんね~」

 

弾幕ゴッコはルール上、発動したスペルカードを全弾回避すれば、スキルブレイクとなり、更にそれを続けると勝ちとなる。つまり、あゆみが開花させた能力は弾幕ゴッコにおいてこの上無く有利となるのだ。その事実に気付いた者達は、

 

鈴仙「弾幕ゴッコで安全な場所が分かるって…」

妹紅「これはとんでもない奴が出てきたな」

 

素直に恐れている者もいれば、

 

輝夜「まあでも、あゆみだし。鈍そうだし」

 

と、宝の持ち腐れだと思う者も。

そう思う輝夜に永琳は、

 

永琳「じゃあ一度やってみたらどうですか?」

 

そして2回目のハンティングが決まった。

 

輝夜「いい?私がカードを3枚使うから、

   それを全部避けたらあゆみの勝ちね。

   威力は抑えるから。ボールが軽くあたる

   くらいの強さだと思って」

あゆ「は~い」

 

あゆみと輝夜がルールの確認をする一方で、ギャラリーは……

 

妹紅「ニートに一つ」

てゐ「姫様に一つウサ」

永琳「私はあゆみちゃんに二つ」

鈴仙「なんで賭けになるかな…」

 

輝夜とあゆみの間でルールの確認が終わり、ついにハンティングが開始された。

 

輝夜「じゃあまずは様子見で。

   『難題:燕の子安貝-永命線-』!」

 

ハンターが宣言したスペルカードは数ある中でも上級の物。容赦無いハンターの行動に

 

  『いきなり!?』

 

呆れ驚くギャラリー。

一方であゆみは、輝夜が放った弾幕が迫って来る中、

 

あゆ「綺麗〜」

 

見惚れていた。

が、ふと我に返り急いで緑色の場所を探し出し、

 

トテトテ… 

 

全速力で移動し、初弾を回避した。だが弾幕は次から次へと襲いかかる。次の緑色の場所を探し、移動を試みるあゆみだったが、

 

ダダダダダダダーン!

 

多数の弾が被弾する事に。

結局あゆみが避けれたのはたった一回だけ。

呆気ない結果に

 

永琳「色が見えなくなったのかしら?」

 

不思議に思うギャラリーに

 

あゆ「赤と緑だらけで目が~」

 

頭をクラクラさせながら答えるあゆみ。

 

てゐ「まだ不安定みたいウサ」

鈴仙「私も目を使う能力だから気持ちわかるなぁ。

   結構疲れるんだよねぇ」

永琳「でも練習すればそのうち慣れてくるでしょ」

 

皆があゆみの能力について語っている所へ

 

??「あのー、御免下さい…」

 

来客が。

ゆっくりと近づいて来たのは長い黒髪に犬の耳をした少女だった。その少女を見たあゆみは……

 

あゆ「か、か、か…かわい~~~~!」

 

瞬時に回復し、

 

  『まずい』

 

またまた飛び付いた。

 

??「わっ!なんですか!?

   ちょちょっと離れてください!」

あゆ「い~子い~子。よしよ~し。

   耳の裏とかどうかな~?よしよ~し」

妹紅「あゆみ言っとくけどな、そいつ狼だぞ?

   そんなことして怒らせて噛みつかれても

   知らないぞ」

輝夜「狼はプライド高いわよ」

てゐ「あゆみ、狩られるウサ」

 

動物の犬をあやすように接するあゆみに、注意を促す皆だったが…

 

??「ふぁ~~…。くぅ~ん」

 

少女は笑顔で甘えた声を出し、あゆみに擦り寄った。

 

あゆ「わしゃわしゃわしゃわしゃ~」

??「くぅ~~ん、くぅ~ん」

あゆ「もっとして欲しいの~?お前は可愛いな~」

 

【挿絵表示】

 

鈴仙「はいはい、あゆみちゃん、そこまでね。

   この子は今泉影狼(いまいずみかげろう)って言う狼女でね、

   この近くに住んでるの。って聞いてる?」

 

あゆみにじゃれ合いを終える様に優しく声をかける鈴仙だったが、あゆみにとって犬は最も好きな動物。我を忘れ、話を聞いていなかった。

 

イラッ!

 

鈴仙「あゆみちゃん人の話を聞こうかー!」

あゆ「わー、ごめんごめんごめんごめ~ん!」

輝夜「ついにイナバまで…」

妹紅「当然の反応だろ?」

てゐ「自業自得ウサ」

永琳「ふふ、あゆみちゃん本当に可愛いわね」

 

落ち着いたところで……

 

影狼「取り乱しました…」

鈴仙「いえ、御気になさらずに」

永琳「可愛らしかったわよ」

妹紅「意外な一面だったけどな」

てゐ「これは使えるウサ」

永琳「それで?どのような用件だったかしら?」

影狼「いえ、こちらの近くを通りかかった時に、

   ピカピカと光っていたので、何事かと…」

鈴仙「それは失礼しました」

輝夜「私のせいね。反省」

妹紅「この引き篭もりが全面的に悪いんだ」

てゐ「私は被害者ウサ」

永琳「ごめんなさいね。心配させてしまって」

 

影狼に迷惑をかけた事に謝罪する永遠亭一同。

そこへ

 

あゆ「みんな~おやつだよ~」

 

本日のおやつを作り終えたあゆみが皆を迎えに来た。あゆみの後ろに付いて行き、食卓へ案内されると、影狼を含む一同の目に映ったのは、皿に盛り付けされたあんこや生クリーム、カット済みの沢山の果物と野菜。そして見慣れない丸みを帯びた薄い生地。

 

あゆ「今日は自分で作ってもらいま~す」

影狼「これがおやつなんですか?」

鈴仙「へー、面白ーい」

輝夜「えー、昨日のふわふわの

   パンケーキがよかったなー」

妹紅「生地ペラペラじゃん」

てゐ「なんでニンジンとサラダ菜まであるウサ」

永琳「不思議ね。こんな物初めて見たわ」

 

あゆみが作り方を教え、各々が好きな具材でクレープを作っていく。皆が作り終わったところで、いざ!

 

  『いただきまーす』

 

それぞれが自分のタイミングで一口ずつ頬張り、

 

  『おいひぃ!』

 

一斉に歓声を上げた。

 

影狼「みなさんこんなに美味しい物を

   いつも食べてるんですか!?」

鈴仙「昨日からなんです。

   あー、苺とクリーム美味しー」

輝夜「あんことクリーム試してみたけど合うー」

妹紅「生地が薄いのに意外と味あるな」

てゐ「ニンジンとサラダ菜うまいウサ!

   もう明日からお昼ご飯これがいいウサ!」

永琳「うん、本当に美味しい!これは決まりね。

   あゆみちゃん、さっき話した家の事だけど、

   あそこでスイーツのお店を出してみたら?

   こんなに美味しい物を私達だけっていうのは

   もったいないわ」

 

永琳からの突然の提案。

 

影狼「私もこれ友達たちに食べて欲しい!

   人里に友達いるからお店出して!」

鈴仙「私、お師匠様の手伝いで人里に行くから、

   何かあれば言ってね」

輝夜「残り物は任せて!」

妹紅「都合がつけば送り迎えはしてあげるよ」

てゐ「私も作るの手伝うウサ」

永琳「どうかしら?」

 

一同はあゆみに店を出す様に促し、しかも協力は惜しまないとまで言ってくれている。

 

 

が、

 

 

あゆ「あの~…、家って何のことでしたっけ~?」

 

ズルッ…×6

 

やはりあゆみだった。

 

 

 




次回:「Menu③:ドーナツ」
お店を『工事』する話です。

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