迷いの竹林の中にある永遠亭。
今は朝食が終わった頃、
永遠亭の縁側には今日も3人の乙女が、
ズズー…。
『はぁ~。お茶が美味し~』
鈴仙「あゆみちゃんお店できて良かったね」
いつもより幸せそうにお茶を啜るあゆみに、鈴仙は笑顔で祝福し、
輝夜「メニューはもう決まってるの?」
あゆ「うん、暫くはドーナツとかかな~」
鈴仙「ドーナツって、昨日作ってた穴の開いたやつ
でしょ?あれ美味しかったよ」
輝夜「イナバ、夢中で食べてたわね」
あゆ「そう言われると凄く作り甲斐があるよ~」
鈴仙「じゃあ、また作ってね」
昨日食べたお気に入りのおやつをまた作ってもらう事を約束した。しかし、ある事に気付いた。
鈴仙「あ、でも買いに行けばいいのか」
輝夜「そうかお店を出すんだから、
もう気にしないでいいのよね。
じゃあ、売れ残ったら喜んで食べて上げる」
あゆ「あはは…。売れ残られると困るんだけど~」
輝夜の申し出に「違った方法で協力して欲しい」と思いながら、苦笑いで答えるスイーツ店の店長だった。
鈴仙「それはそうと、てゐは何処かしら?」
輝夜「そう言えば、見てないわね」
いつも縁側で一緒にお茶を飲むチビ兎がいない事を不思議に思う2人に、
あゆ「窯にいるよ~。手伝いをしてくれてるの~」
店長が答えた。と、そこに噂の兎が。
てゐ「あゆみ、時間だウサ。見に来て欲しいウサ」
あゆ「うん、今行く~」
焼き上がりの時間の様だ。
てゐ「どうウサ?」
あゆ「うん、両方ともいい感じ~」
香ばしい匂いをさせ、焼き上がったのはふっくらと膨れたシュー。それを見たおまけ達は、
鈴仙「わ〜、美味しそう」
輝夜「早く食べたい!」
歓声をあげ、食べる気満々。
てゐ「2人共つまみ食い目当てウサ」
あゆ「でもシュークリームはこれで終わりじゃない
んだよ~。これにカスタードクリームを入れ
るんだよ~」
『クリーム!?』
クリームという言葉に目を輝かせ、過敏に反応するおまけ達。
てゐ「鈴仙も姫様も少し落ち着くウサ」
焼き上がったシューに切れ込みを入れ、カスタードクリームを絞り入れたら、シュークリームの出来上がり。作り終えたシュークリームをつまみ食い目的で付いて来たおまけ達に手渡して、試食会がスタート。
『おっいし~』
あゆ「ふふ。良かった~」
2人のリアクションに笑顔で喜ぶ店長。
輝夜「これ絶対人里で大変な騒ぎになるわよ」
目を見開き驚きの表情でコメントする輝夜に対し、
鈴仙「し・あ・わ・せ~♡」
頬に手を当て、満面の笑みで余韻を楽しむ鈴仙。
てゐ「さっそくたくさん用意するウサ」
2人のリアクションから「これはいける!」と確信を得て、準備に取り掛かろうとするチビ兎だったが、
あゆ「ん~っと、そ~したいんだけど~」
店長は何か訳ありといった様子。
あゆ「初日だし~。どれくらいのお客さんが来るか
分からないし~、えっとそれよりも〜、まだ
小さな冷蔵庫が一つあるだけだから~、後は
保存できる量が~…」
長い…。それに耐えられなくなった者が一人。
イラッ!
輝夜「まどろっこしいわね!
要点だけまとめて言いなさいよー!」
あゆ「ごめんごめん、ごめんって~」
『拳の万力』を開店祝いにプレゼントするのだった。
鈴仙「え?その場で作るの?」
鈴仙の問いにジンジンする頭を抑えながら、
あゆ「うん、シューは常温でも大丈夫だから~、
クリームだけ冷蔵庫にいれて~、
注文が来たら作るの~」
涙目で答える店長。
輝夜「いっぱいお客さん来たらどうするのよ?」
鈴仙「なんならてゐを貸そうか?」
てゐ「私は全然構わないウサ」
万が一の事を考え、心配する3人だったが、
あゆ「たぶん大丈夫だよ~。それに一人でどこまで
やれるか試したいの~」
挑戦したいと言う店長。そこへ、
妹紅「おーい、あゆみー。行くぞー!」
迎えが来た。店長は出来上がったシューとカスタードクリームを持ち、
あゆ「いってきま〜す」
元気に挨拶をして仕事へとむかった。
『いってらっしゃーい』
小さな店長の初出勤を見送る3人。その姿を見て、
輝夜「あゆみ、すごいわね。
私……、このままでいいのかな?」
永遠亭の悩みの種が口を開いた。そして、その言葉を2人は聴き逃さなかった。
『おお!これは!?』
輝夜「ううん、あゆみだって頑張ってるんだから。
私だって!」
このままではいけないと悟った姫に、
鈴仙「お師匠様、ついに姫が…」
てゐ「長かったウサ。
ここまで本当に長かったウサ」
涙を浮かべながら喜ぶ側近達。そして、意を決した姫が、
輝夜「鈴仙!てゐ!」
『はい、姫様!』
動いた。
輝夜「弾幕ゴッゴ付き合いなさい!」
『えーーー、そっちーーーー!?』
だが、やはり輝夜だった。
一方その頃、永遠亭を出発した2人は、
妹紅「今日からだな。楽しみか?」
あゆ「うん、でもちょっと不安かな~」
妹紅「ふふふ、あゆみも不安になる事あるんだな」
あゆ「む~、それ失礼だと思うよ~」
妹紅「ふふふ、そうだな」
楽しく話しながら人里へと歩を進めていた。すると突然、あゆみが何かに気付いた。
あゆ「あれ?前にいるの…。影狼ちゃん!」
影狼の姿を確認するや否や、弾丸の様に走り出したあゆみを妹紅は止め
妹紅「あ、まずい…。間に合わなかった…」
る事が出来なかった。
影狼「え?きゃっ!」
差し迫る足音に気付いた影狼。後ろを振り返ると、目の色を変えたあゆみが飛び掛かって来ていた。あまりに突然の出来事に避ける事も出来ず、
あゆ「よ~し、よしよしよしよし~」
とある動物研究家の様な掛け声で、愛でられるのだった。
影狼「くぅ~~~ん」
あゆ「わしゃわしゃわしゃ~」
誰にも邪魔される事無く、心置きなく触れ合いを楽しむアユゴロウだったが、背後に迫る殺気を感じ、
あゆ「はっ!」
我に返った。そして振り向くとそこには…
妹紅「ほーぉ、察知する様になったか…」
2つの拳を構え、炎を身に纏った鬼が立っていた。
あゆ「あはは…」
--少女反省中--
影狼「取り乱しました…」
妹紅「いや、こっちが悪かった」
あゆ「ごめんなさ~い」
それぞれが自分の不甲斐なかったところを謝罪し、気持ちを入れ替え、
影狼「それで今からどちらへ?」
妹紅「人里だよ」
あゆ「私のお店今日からオープンなの~」
影狼「そうなの!?じゃあ後で友達連れて行くね」
妹紅「博霊神社の方の派手な色の店だ。
行けば一発で分かると思うぞ」
影狼「わかった。それじゃあ後でね」
影狼に来店の約束を取り付けたやり手の店長だった。
--少女移動中--
妹紅「それじゃあ、私はこれから寺子屋行くから」
あゆ「うん、また後でね」
妹紅を見送った後、開店の準備をしていく小さな店長。そしてついに、
あゆ「開店で~す」
キラキラの笑顔と共にあゆみのスイーツ店が今オープンした。
が、誰も居なかった。
分かってはいた事だったが、少し寂しそうな表情を浮かべる小さな店長。せめてもと思い、扉を開けておく事にした。
--3時間経過--
結局まだ来店者はおらず、約束をした狼娘の事を首を流して待っていると…。
【来客1&2人目】
影狼「こんにちわー。来たよー」
??「…どうも」
狼娘が約束通り友人を連れてやって来た。
あゆ「あ、影狼ちゃん。あと…」
狼娘の友人は赤いショートヘアに青系のリボンをした少女だった。少女はマントを身に着け、口元が隠れている。
影狼「彼女が話してた友達の赤蛮奇。
蛮奇、あゆみさんよ」
あゆ「あゆみで~す。よろしくで~す」
蛮奇「…赤蛮奇です、どうぞよろしく」
蛮奇が自己紹介と共にお辞儀をすると…
スポンッ!
心地よい音共に、
ガンッ、
頭が
ゴロゴロゴロ…。
床を転がり、
あゆ「…」
影狼「あ、また取れた」
あゆ「きゃーーーーーーーーーーっ!!」
甲高い悲鳴が店内に響いた。
恐怖体験をしたあゆみは、
あゆ「怖かったよ~」
大量の涙を流しながら大声で泣いていた。
蛮奇「…すまない」
影狼「ご、ごめん。先に言っておけばよかったね。
蛮奇はろくろ首で、頭が取れるの」
あゆみにも馴染みのある妖怪の名前を聞いて、
あゆ「ろくろ首~?昔話に出てくる~?」
涙を手で拭いながら尋ねた。
蛮奇「…そう、それ私の一族」
あゆ「簡単に取れちゃうんだね~」
蛮奇「…取り外し自由。痛みもない」
スポンッ!
少し自慢気に首を引き抜きながら話すろくろ首。更に、
蛮奇「…取ってもこの通り話せる」
取った首を手に持ちながら喋り出した。
あゆ「…」
影狼「あゆみさん?」
あゆ「きゃーーーーーーーーーーっ!!」
また絶叫するあゆみに、
蛮奇「…すまない」
首を元に戻して萎れながら謝罪をするろくろ首。
影狼「大人しくていい子だから。ね?」
あゆ「う、うん…」
影狼「そ、そうだ。それで蛮奇も甘い物が大好きだ
から、この間もらったやつか新作があったら
欲しいな」
場を雰囲気を変えようと、あゆみに本来の目的であるスイーツを注文する狼娘。
あゆ「なら~。シュークリームがお勧めで~す。
これシューって言うんだけど~、
この中にカスタードクリームを入れるの~」
影狼「しゅー?カスター…なんだっけ?」
聞き慣れない単語に困惑していると、
あゆ「試食様に作ってあるから、これどうぞ~」
店長はカットしたシュークリームを差し出した。
影狼「わー、ありがとう」
蛮奇「…どうも」
2人同時に一口で食べると、驚いた表情をしつつ、
影狼「私これ買う!」
蛮奇「…私も!」
興奮しながら一個ずつ買って行った。
あゆ「ありがと~。また来てね〜」
蛮奇と影狼を店の外で手を振りながら見送り、「もう蛮奇には驚かない」誓うあゆみだった。そのあゆみに忍び寄ってくる者が…。
??「ばぁーーーーっ!!」
あゆ「…」
??「あれ?またダメだったかな?」
あゆ「きゃーーーーーーーーーーっ!!」
??「は~~~♡快・感♡」
【来客3人目】
脅かせてきたのは、舌を出した大きな一つ目の傘を手に持った少女だった。先程のろくろ首の事もあり、あゆみの心はボロボロだった。
あゆ「も~!なんなの今日~…」
??「ごめんねぇ」
謝罪する傘の少女だったが、その顔はニヤつき、「いい獲物を見つけた」と喜んでいた。暫くして、気を持ち直したあゆみは、改めて脅かして来た少女を眺めた。水色のショートボブ。瞳の色は左右で異なるオッドアイ。
あゆ「か、か、か…かわい~~~~!」
どうやらツボに入ったらしい。
??「ひぇっ!?驚かされるのはイヤーッ!」
--少女愛で中--
小傘「私は小傘だよ。ここお店だったんだ」
あゆ「そ~だよ~。今日オープンしたの~」
愛でてる最中にお互いに「誰?」という話になり、軽く自己紹介を。
小傘「何屋?」
あゆ「スイーツ屋さ~ん。
今はドーナツとシュークリームがあるよ~」
小傘「ふーん、どれも聞いたことないや」
あゆ「じゃ~少し食べてみる~?
こっちがドーナツで、
こっちがシュークリームだよ~」
初めて聞く名前の食べ物だと言う小傘に、試食用のドーナツとシュークリームを笑顔で差し出すあゆみ。
小傘「じゃあドーナツから…」
小傘は眉を顰めながらドーナツのカケラを手に取り、まじまじと観察した後、ヒョイッと口へと放り込んだ。
あゆ「どう?」
小傘「わっ、ビックリしちゃった!これすごい!
食べ物でビックリさせられるんだぁ」
初めての経験に目を皿にして関心する小傘に、
あゆ「ん~?」
他の人とは違うリアクションだと違和感を感じる店長。
小傘「じゃあこっちも…」
更に試食用のシュークリームに手を伸ばす小傘。こちらも手にし、再びまじまじと観察した後、パクッと一口で頬張ると、
小傘「おーっ!これにもビックリ!」
『味』や『食感』よりも、『驚き』に対する感想だけを残した。その様子を見ている方は、
あゆ「ん~??」
どこか腑に落ちないといったご様子。そして、試食を終えた小傘は飛び掛かる勢いで、
小傘「これ!10個ずつ頂戴!」
注文をした。しかも大量に。
あゆ「10個ずつ~!?」
小傘「これがあれば私…、
幸せライフが約束されるよ!
これでみんなをビックリさせてやる!」
あゆ「あ、うん」
注文の品を用意している最中、買ってくれる喜びの一方で、小傘の購入までの経緯にどうも納得できない店長だった。
あゆ「ありがと~ございました~」
小傘を見送り、また店内で次の客を待つものの、その後客が来ることは無く、オープン初日はこれにて
【CLOSE】
妹紅「あゆみ、迎えに来た…ぞ?
おい、どうした!?」
迎えに来た妹紅だったが、あゆみは直立して硬直していた。妹紅が心配していると、ゆっくりとか細い声で話し始めた。
あゆ「お客さん、来てくれた…」
妹紅「え?」
妹紅が聞き返した途端、急に大きな声で、今度は早口で話し始めた。
あゆ「お客さんが来てくれたの!それでシュークリ
ームがドーナツで10個以上!お客さんが、
お客さんが~!」
妹紅「分かった、分かった。
分かったから落ち着けって!」
次回:【Menu⑤:フルーツタルト】
永遠亭メンバーと深い関わりのある方々と言えば…。