なぜって一つのケーキに大量の果物。
このお得感!
ただそんな理由です。
迷いの竹林の中にある永遠亭。
今は朝食が終わった頃、
永遠亭の縁側に今日は4人の乙女が、
ズズー…。
『はぁ~。お茶が美味し~』
鈴仙「あゆみちゃんがお店を始めてから
明日で一週間かぁ。どう、お店は順調?」
あゆ「うん、順調だよ~」
輝夜「あゆみが嬉しそうで良かったわ」
あゆみのオープンした翌日から、影狼と蛮奇の他に新規の客が少しずつ増えていき、売り上げは右肩上がりで好調。もちろん謎の客、小傘も稀に来ては、売り上げに貢献している様だ。
てゐ「私もあゆみの手伝いをし始めて、
少しスイーツの作り方を覚えたウサ」
鈴仙「てゐが作るの?」
輝夜「それ大丈夫なの?
変な薬を盛ってないでしょうね?」
悪戯好きの兎の一言に驚きと疑いの目で見る2人。そんな2人の警察官に、
てゐ「失礼ウサ!ちゃんと作ってるウサ!」
そんな事はしていないと、顔を赤くして断言する容疑者。そこに、
あゆ「チビウサギちゃんが作ると凄いんだよ~。
ここがポカポカするの~」
と胸を押さえ、幸せそうに2人に伝える悪戯兎の弁護人。しかし、その弁護が仇となる事に。
鈴仙「てゐあなた…」
輝夜「能力使ってるわね…」
悪戯兎の『人を幸せにする程度の能力』に疑惑が掛かり、
てゐ「あははは…。
でも間違った使い方はしてないウサ」
本人はあっさりとそれを認めた。
あゆ「ん~?」
しかし、何の事だか理解できない弁護人。すると、鈴仙は悪戯兎の服を掴んで引き寄せ、弁護人を背に3人で円陣を組んだ。
鈴仙「いい?もう能力は禁止よ」ヒソヒソ
輝夜「もしあゆみに知られたら悲しむわよ」ヒソヒソ
今後は能力を使わない様にと、注意をする警察官達だったが、
てゐ「でも食べた人を幸せにしたいって…」ヒソヒソ
自分は悪いことはしていないと語る容疑者。いや、もはや犯人。だが、その言い分が通る筈もなく、
『それでも!』
2人の警察官に強く念を押されるのであった。
あゆ「なになに~?」
『なんでもなーい』
あゆ「ん~??」
結局、何が何だか分からないままの被害者だった。そこに、
永琳「あら、あなた達ここにいたの。丁度いいわ、
午後に豊姫達が来るみたいなの。
急いで片づけと準備をしてくれる?」
突然現れ、涼しい顔で爆弾を投下した天才薬師。
鈴仙「お師匠様、それホントですか?」
てゐ「あいつらが来るウサ…」
輝夜「あー、面倒くさー」
被弾した者達は次々と怪訝そうな表情をする中、
あゆ「ん~???」
不発だった者は更に混乱するだけだった。
そんな生存者に、
永琳「あゆみちゃん、何かおもてなし用の
スイーツを作ってくれないかしら?」
スイーツを注文する天才薬師。
あゆ「私、お店が~…」
でもあゆみとしては、始めたばかりの店を突然休みにはしたくなかった。すると天才薬師はその胸の内を悟った様に、
永琳「それならてゐに行かせるわ。お願いね」
代役を立て、チビ兎に依頼をするのだった。普通に考えれば、あまりにも突然の依頼で、文句を言うところではあるが、
てゐ「よし!一抜けウサ!」
チビ兎は喜んで快く引き受けた。
『ずるーい』
その特例措置を受けたチビ兎を羨ましそうに見つめる輝夜と鈴仙。
あゆ「あの~、何人くらい来ますか~?」
永琳「たぶん5、6人くらいかしら。できそう?」
あゆ「ん~…」
あゆみが何を作ろうか悩んでいるところに、
妹紅「おーい!今日もおすそ分けに来たぞー」
おすそ分け娘が大きな声でやって来た。
輝夜「げ、妹紅」
永琳「あら、妹紅いらっしゃい。いつも悪いわね」
妹紅「里で果物をやたらと貰ったんだ」
てゐ「凄い量ウサ」
おすそ分け娘が背負っていた籠の中には、溢れそうな程の旬の果物が入っており、それを見たあゆみは、
あゆ「林檎、梨、葡萄…。うん、いいかも~。
私、久しぶりにケーキ作る~」
いつもより少しだけ真剣な顔で決心した。
--少女調理中--
あゆ「できたよ~」
パティシエが持って来たのは…。
輝夜「何これ何これ!フルーツがいっぱーい」
鈴仙「あゆみちゃん、これ何ていうケーキ?」
あゆ「フルーツタルトだよ~」
それを見た者達は視線が釘付けになり、
永琳「本当に美味しそうね。
てゐには悪い事しちゃったわね」
特例措置を出した者を気遣うのだった。
あゆ「まだ作るから、チビウサギちゃんの分は余る
と思いますよ~」
妹紅「なぁなぁ、一個くれよ。客が来るんだろ?
なら私もう行かなきゃいけないし。
な?いいだろ?」
目を輝かせながら催促する妹紅に、
永琳「そうね。妹紅が持ってきてくれたフルーツ
ですもんね。いいわよ、持っていきなさい」
笑顔で『持って行きなさい』と返す天才薬師だったが、
妹紅「サンキュー、じゃあいただきまーす」
鈴仙「ここで食べるんだ…」
一切れ手に取り、口へと運ぶ妹紅。
妹紅「ん~~~~~ッ!!」
一口食べた瞬間目を瞑り、全身を震わせながら、
妹紅「ふぁ~~~♡私、コレ、好き♡」
両手で落ちそうになる頬を押さえ、幸せを噛み締めた。その表情を見た者達は、
輝夜「パンケーキの時より酷い顔してるわよ」
鈴仙「よっぽど美味しかったんだ…」
永琳「これは期待大ね」
と、目の前のフルーツタルトの攻撃力を思い知らせられるのだった。
ガシッ!
そんな中、妹紅が急にあゆみの肩に掴みかかり、
妹紅「あゆみ!果物を持って来たら、
また作ってくれるか!?」
目を見開き興奮しながら、
あゆ「うんうんうんうん」ガックンガックン
妹紅「約束だぞ!」
パティシエの体を揺らし、
あゆ「うんうんうんうん」ガックンガックン
妹紅「絶対の絶対の絶対だぞ!」
約束を取り付け、更に念を押した。
あゆ「うんうんうんうん」ガックンガックン
揺らされる度に前後に行ったり来たりするパティシエの頭。その光景に見るに見かねた者達は、
鈴仙「妹紅、その辺で止めてあげて…」
輝夜「あんた、あゆみの首が取れるわよ」
パティシエを気遣い、止めに入った。
妹紅「あ、ごめん」
そこで我に返った妹紅。目の前には、
あゆ「ふしゅ~~~…」
目を回したパティシエが。
--少女回復中--
妹紅「実はな、明日寺子屋の遠足に同行する事に
なってて、もしかしたら秋姉妹の所に
寄るんじゃないかって思ってるんだ」
あゆ「秋姉妹?」
鈴仙「紅葉と豊作の神様よ」
永琳「農園もやっていて、
美味しい果物が沢山できるのよ」
あゆ「じゃあもし行ったら沢山採って来てね〜。
スイーツいっぱい作れるから〜」
妹紅「よし、任せろ!」
あゆみに大量のお土産を約束し、永遠亭を立ち去る妹紅だった。
--少女支度中--
あゆ「うん、これで全部完成~」
鈴仙「すごい種類あるわね」
輝夜「タルトが1、2、3、4…」
永琳「あゆみちゃん、流石ね。頼んで良かったわ」
あゆ「ありがとうございま~す。
材料がいっぱいあったので、
張り切っちゃいました~」
キッチンのテーブルに並べられた、選り取り見取りのフルーツタルトに目を輝かせる乙女達。その場にいる誰もがどれから食べようか悩んでいるところに、
ガラッ。
客①「ごめんくださーい。
師匠ー!ご在宅でしょうかー?」
客②「お邪魔しまぁす」
永琳「丁度来たみたいね」
噂の客が来た様だ。
永琳「いらっしゃい」
客①「突然の訪問、誠に申し訳ありません」
客②「八意様、遊びにに来ちゃいましたぁ」
客③「鈴仙先輩お久しぶりです!」
客④「私たちも…」
客⑤「来ちゃいましたー」
客⑥「…」
訪ねて来たのは、6人の少女だった。その内3人にはてゐや鈴仙の様に頭に兎の耳があり、彼女達を見たあゆみは、
あゆ「か、か、か…かわい~~~~!」
3匹に襲いかかった。
『ひえっ!?』
あまりにも予想外の展開に怯える様に驚く3匹に対し、
『あー、やっぱり…』
予想通りの展開だと思う永遠亭組だった。
そして飛びかかったあゆみは、ブレザーを着た水色のショートヘアの兎の耳に、笑顔で頬擦りしながら、
あゆ「たれ耳だ~。私たれ耳大好き~♡」
愛でていた。その様子に来客者は、
客①「師匠、あの子は?」
永琳「早々にごめんなさいなさいね。
最近ここに住み始めたあゆみちゃんよ」
あゆみの事を不審に思う者もいれば、
客②「小さくて、ふわふわした子なんですねぇ」
と笑顔で見守る者も。
しかし、温かい視線はだんだんと熱い視線へと変わり、やがて体がウズウズし始め…
客②「か、か、か…かわいぃぃぃぃ!」
我慢の限界といった勢いで、あゆみに抱き付いた。
あゆ「ふぇっ!?」
捕獲されたあゆみは突然の出来事に硬直し、
客②「やだぁ、この子ほっぺぷにぷにしてるぅ。
肌若ぁい♡」
抵抗出来ないまま頬を指で突かれた上、頬擦りされるのだった。その光景に永遠亭組は、
輝夜「あゆみの同タイプがこんな身近に…」
鈴仙「そう言えば豊姫様も可愛い物好きでしたね」
永琳「でもこれであゆみちゃんも抱き着かれる側の
気持ちが分かってくれるでしょ」
来客者の奇行に驚くものの、あゆみにとって良い薬になるだろうと期待した。
が、
あゆ「はぁ~~~~もっとして~~」
当の本人は顔をうっとりとさせ、満更でもないといったご様子。寧ろ喜んでさえいた。
客③「先輩!あの子なんなんですか!?」
あゆみから解放されたブレザー姿の垂れ耳兎は、鈴仙に涙目で泣き付く様に駆け寄っていた。
客④「まあまあ、気にしない気にしない」
客⑤「ニシシシ、レイセンかーわい〜」
あゆみの仕業で場が滅茶苦茶になってしまったが、一度仕切り直して、
永琳「ちゃんと紹介するわね。
こちら、あゆみちゃん」
あゆ「あゆみで~す」
挨拶と自己紹介を。
永琳「それであゆみちゃん。
この人達は私の弟子みたいな人達で、
月から来てくれたの」
あゆ「へ~、月ですか~」
常人であれば驚く信じられない筈の事実にも関わらず、平然と受け入れるあゆみ。彼女は幻想郷で生活する様になり、少しの事では動揺しなくなった様だ。
永琳「白の帽子の子が
刀を持っている子が
豊姫の妹ね。
あと翼があるのが
豊姫「綿月豊姫でぇす」
依姫「豊姫の妹の依姫と申します」
サグ「…」ペコッ
永琳が次々と客を紹介していく。
永琳「それでさっき抱き着いた兎達が、
ブロンドの髪の子が
それで誰かと一緒の恰好をしているのが、
ややこしいかもしれないけど、レイセン」
清蘭「清蘭っす。よろしくっす!」
鈴瑚「ニシッ、鈴瑚でーす」
レイ「鈴仙先輩の後輩のレイセンです」
皆が挨拶を終えた後、
あゆ「よろしくね~。清蘭ちゃん、鈴瑚ちゃん、
レイセンちゃん」
あゆみから「よろしく」と挨拶。しかし、この事を不服と思う者が。
鈴仙「あゆみちゃん?
私も『れいせん』なんだけど…」
あゆ「ん〜?冷麺ちゃんじゃないの〜?」
鈴仙「違うって!」
レイ「…」
黙ってその状況を眺めるもう1人の『れいせん』。だが心では「勝った!」と、ガッツポーズを取っていた。
永琳「それじゃあみんな上がってちょうだい」
そして、永琳が客を中へ招き入れ様とした時…。
あゆ「えー!?みんな月から来たんですか!?」
前言撤回、あゆみは驚いていた。
『今!?』
広間に案内される月からの来客御一行。皆が腰を掛けたところで、訪問の目的を問いかける永琳、
永琳「それで?今日は何をしに来たのかしら?」
何気無い質問の筈であるのだが、御一行の様子がどこか変。
豊姫「えぇっと…依姫、何だったけ?」
依姫「えーっとアレですよ。ね?レイセン?」
レイ「えっと、あ、そうそう。アレよね、鈴瑚?」
鈴瑚「え、えー!?ああ…だよね?清蘭?」
清蘭「んー、ザクメ様よろしくっす!」
次々にバトンタッチを繰り返し、最後にバトンを託されたサグメが本来の目的を告げた。
サグ「……暇で」
『おいっ!』
永琳「途中からそうじゃないかと思ったわよ。
まあ折角来たんだし、お茶でもして行きなさ
い。あゆみちゃん、アレお願いね」
特に用も無く来た客達を永遠亭の薬師は呆れながらも、もてなす事に。
あゆ「は~い。冷麺ちゃん手伝ってくれる?」
鈴仙「うん。でも、私は『れいせん』だからね?」
輝夜「待ってあゆみ、私も行く!」
鈴仙だけに声を掛けた筈のあゆみだったが、何故か付いて行くと言い出した輝夜。
依姫「輝夜姫様もお変わりなさそうですね」
豊姫「でも以前程の怠け者ではなさそうよぉ」
2人の月の姫は久しぶりに会う輝夜の後姿を見つめ、昔の輝夜と照らし合わせ、微笑みながら思い出に浸っていた。一方輝夜は、
あゆ「何で来てくれたの~?」
輝夜「あそこ気まずいのよ」
2人の月の姫が苦手の様だ。
次回:【Menu⑥:フルーツタルト(果物)】
続きになります。