アップルパイは熱くても冷めてても美味しい。
ただ食べ終わると生地のカスの
散らかり様が酷いんですよね…。
迷いの竹林の中にある永遠亭。
今は朝食が終わった頃、
永遠亭の縁側には今日は5人の乙女が、
ズズー…。
『はぁ~。お茶が美味し~』
永琳「あゆみちゃん昨日はありがとう。
助かったわ」
昨日月からの客人達に出したスイーツは、多くの者を喜ばせ、ある者の正気を失わせ、またある者のこれまでを逆転させた。それはスイーツを作ったあゆみにとってこの上ない名誉なこと。
あゆ「いいえ〜、皆喜んでくれて良かったで〜す」
永琳の言葉に笑顔で答えるあゆみ。彼女にとって昨日は最高な日になった様だ。しかしその一方で、
輝夜「もう暫く来ないで欲しいわ」
気疲れした者もいれば、
てゐ「私はもう一人は嫌ウサ」
体力的に疲れきり、昨日は最悪だったと思う者も。皆が昨日の余韻に浸っているところに、
鈴仙「そうそう、あゆみちゃんお店どうするの?」
思い出したかの様にスイーツ店の心配をする鈴仙。昨日のてゐが言っていた事から、今日も同様の事が起きると容易に予想できた。彼女はその事を気遣っていたのだが、
あゆ「う〜ん、もう少しストックを増やして〜」
輝夜「いやいや、そうじゃなくてさ…」
店長としては商品が売り切れる事を心配している様だ。
てゐ「私も本格的に手伝うウサ」
鈴仙「そうだよ、そうしなよ!」
昨日の地獄を体験した者からの申し出を受け入れる様に促す鈴仙だったが、
あゆ「う〜ん、取り敢えず今日行ってみてから
考えるよ〜」
いまいちピンと来てない様子の店長。
そしてこの日、店長とてゐが店に行ってみると、てゐが言ってた様に開店前にも関わらず、店の前には長い列が。そして、多めに用意していたドーナツとシュークリームは昼過ぎには完売してしまい、後から来た客に悪い事をしたと思う店長だった。
--翌日、永遠亭縁側にて--
輝夜「で、どうだったの?」
あゆ「昨日行ってみて分かったよ~。
やっぱりお店でも作れる様にならないとダメ
かも〜」
昨日の教訓から店での追加生産が必要だと感じ、俯きながら答える店長。売り切れ後に来た客の残念そうな顔をもう見たくないと思っていたが、
輝夜「でもお店に窯は無いんでしょ?」
てゐ「作るにしてもスペースが無いウサ」
簡単に解決出来る訳でもなさそうだ。そこに、
永琳「ならもう内側の工事しちゃったら?」
笑顔でしれっととんでもない事を言い出すスポンサー。
鈴仙「でもお師匠様、資金が…」
当然の心配である。
店のオープン時に一度工事しており、それ程時間が経過していない。更に今度は外観を少し変えるのとは違い、内側の構造も変える事になり、前回よりも大変な工事になる事が想定された。しかし、そんな心配をする鈴仙をよそにスポンサーは、
永琳「それなら多分問題無いわよ。
前回の工事の時に頼んだ鬼達から工事の資金
はいらないって言われてるの」
『えーーーっ!?』
また笑顔でとんでもない事を言い出した。
輝夜「何よそれ…、鬼は慈善事業でも始めたの?」
てゐ「ありえないウサ。どういうつもりウサ」
鈴仙「お師匠様、何か理由があるんですか?」
引き攣った顔でスポンサーに視線を集める一同。これもまた当然の反応。一日で終わってしまった工事ではあったものの、工事をした方からすれば仕事の依頼である。それを無償でとなると…。
皆が不思議に思っている中、天才薬師は瞳を閉じ、思い出す様にゆっくりと話し始めた。
永琳「ふふ、それはね。どうやら私は鬼達に
大きな貸しを作ってしまったらしいの」
輝夜「鬼に恩を作るなんて、何をしたのよ?」
てゐ「お師匠様はやっぱり只者じゃないウサ」
鈴仙「いったいどんな事を?」
彼女が語った意外な事実に驚きつつも、更に詳細を求め、身を乗り出すあゆみ達。そんな彼女達に彼女は片目を瞑り、
永琳「それはヒ・ミ・ツ♡」
人差し指で可愛らしくリズムをとった。いや、爆弾を投下した。
『…』
被弾した者達は慌てて円陣を組み、
輝夜「歳を考えろってのよ」ヒソヒソ
てゐ「今のは強烈ウサ…」ヒソヒソ
鈴仙「見たくなかった…」ヒソヒソ
あゆ「面白かったね〜」ヒソヒソ
緊急会議が開かれた。するとそこへ、
妹紅「あゆみーー!!」
大きな籠を背負い門から猛スピードであゆみ達の方へやって来…
ズザーーッ!!(ブレーキ音)
妹紅「あゆみ!頼まれてた果物採って来たんだ!
林檎が美味そうだったから沢山採ったんだ!
これで一昨日のスイーツ作れるか!?
あの甘酸っぱくてシットリしたやつ!
なぁ、あゆみムリなのか?
何か材料が足りないのか?
足りなければ買ってくるから、
また作ってくれよ。なあ!なあっ!!」
あゆみに掴みかかり、目の色を変えて早口でまくしたてる妹紅。
輝夜「ちょちょちょっと!
あんた少し落ち着きなさいよ!」
鈴仙「妹紅がこんなに必死なの初めて見るかも」
てゐ「フルーツタルトがよっぽど気に入った…
と言うより中毒レベルウサ」
永琳「でも気持ちは少し分かるわ。
それであゆみちゃん、作れそう?」
完全にキマっている中毒者のために、もう一度フルーツタルトを作れないかあゆみに問いかける永琳だったが、
あゆ「えー…っと、ごめ〜ん!」
あゆみは顔の前で両手を合わせ、妹紅に謝った。
その言葉を聞いた妹紅の顔はどんどん暗くなっていき、
妹紅「そんな………、もう……食べれないの?」
てゐ「絶望に満ちた顔をしているウサ…」
鈴仙「なんかちょっと気の毒かも」
正にこの世の終わりといった表情を浮かべた。
輝夜「あっははは、その顔!最っ高よ!」
そんな妹紅を指して腹の底から大笑いをする無神経な姫。
永琳「姫様!空気を読んで下さい!」
あゆ「あのね…、怒らないでね〜?」
妹紅「うん…」
永琳が輝夜に注意する中、あゆみは宥める様に語りかけ、妹紅は次の言葉を固唾を飲んで耳を傾けた。
あゆ「何を喋ってたか分からなかったから〜、
もう一回ゆっくり話して欲しいな〜…」
イラッ!
妹紅「ちゃんと聞いてろよ!!」
あゆ「イタイイタイ〜!嘘つき〜!」
--少女聴取中--
あゆ「うん、大丈夫だよ〜」
妹紅「やっっったー!また食べれるんだぁー!」
あゆみの言葉に両手でガッツポーズを取り、大喜びをする妹紅。その目には心なしか薄っすらと涙が。
鈴仙「本当に嬉しそうね」
てゐ「一度地に落とされた分、反動が大きいウサ」
皆が安堵する中、
輝夜「ちぇっ、つまんないのー」
事の結末が不服そうなモラルのない姫。そんな彼女の態度に呆れた薬師は鋭い目つきで、
永琳「姫様、これから『道徳』というものを
みっちりと教えて差し上げます」
説教モードへと切り替わった。
輝夜「や、やだなぁ永琳。冗談よ、冗〜談」
永琳の面倒な提案を逃れようと苦笑いを浮かべ、何とかその場を凌ごうとする輝夜。一方、沢山の果物を受け取ったあゆみは、妹紅が持って来た籠の中身を見て別の事を考えていた。
あゆ「林檎の量が凄い多いから〜、
アップルパイにしたいな〜。
今から作るからそれ食べてみて〜。
あとチビウサギちゃん手伝って〜」
てゐ「任せるウサ」
--少女調理中--
てゐ「できたウサ」
てゐがトレイに乗せて持ってきたのは生地に包まれた四角いアップルパイ。湯気が立ち、甘酸っぱい香りを漂わせ、食べ頃を周囲にアピールしている。
輝夜「いい香り。でも私の知ってるアップルパイ
とは少し違うわね」
あゆ「熱いうちがおススメで〜す」
皆にアップルパイが行き渡ったところで、いざ!
『いただきまーす』
サクサク…。
一口咥えた途端、食欲を唆る音色か響いた。そして熱々の果汁が口いっぱいに広がり…。
輝夜「おっいしー!」
永琳「うん、流石ね」
妹紅「コレもアリだな」
鈴仙「…」
皆がアップルパイに満足しているところに、
てゐ「ふっふっふ…」
腕を組み不敵な笑みを浮かべるイタズラ兎。
輝夜「何よ、急に笑い出して」
何事かと不審に思う輝夜。だが更に、
あゆ「ふっふっふ〜」
あゆみまでが腕組みをして、不気味に笑い始めた。
明らかに様子のおかしい2人に、
永琳「何?どうしたの2人共」
妹紅「ついに壊れたか?」
正気を疑う永琳と妹紅。そんな2人にあゆみはパッと笑顔を作り、種明かしをした。
あゆ「実はそれ、私は作ってませ〜ん」
てゐ「全部私が作ったウサ」
妹紅「いやいやいやいや…」
輝夜「ウソだー」
永琳「まさかー」
鈴仙「!」
あゆみとイタズラ兎の言った事が信じられず、疑いの眼差しを向ける一同。だがイタズラ兎は続けて
てゐ「私だってやればできるウサ」
と、腕を組んだまま反り返り、疑う一同を上から見下ろした。実は本当にあゆみはてゐに作り方を教えていただけだった。日頃からあゆみの手伝いをしているてゐは、いつの間にかスイーツ作りの手際を習得していたのだ。
ガタンッ!
突然椅子の倒れる音が部屋中に響いた。
ズンズンズンズン…
てゐ「な、何ウサ?」
大きな足音でてゐに近づいたのは…。
鈴仙「…今の本当なの?」
鈴仙だった。両手に拳を作り、肩を怒らせている。俯いており、前髪で隠れて顔色を窺う事が出来ない。彼女はポソリと呟き、更に続けて
鈴仙「まだおかわりあるの?
どれくらい作ったの?
りんごは足りるの?
他の材料は?
いる物あったら言って!」
どんどん口調を強くし、てゐを威嚇する様に問いかけた。
『へ?』
一斉に素っ頓狂な声を出しつつも、この光景に見覚えがある一同。
永琳「これは…」
輝夜「単細胞の時と同じね」
妹紅「あ?今私をバカにしたか?」
皆が「今度は鈴仙か」と思っている最中その本人は、
鈴仙「お願い!もっと頂戴!
アレないと私生きていけない!」
てゐの腕を掴み、跪いて涙目で懇願していた。
てゐ「でも残りは今日お店の日替わりメニューに…
」
この状況に慌てながらも、鈴仙の神経を逆撫でしない様に説得を試みるてゐだったが、
鈴仙「じゃあ今ここで全部買う!」
完全にキマっている鈴仙には意味を成さなかった。
永琳「ちょっと落ち着きなさい!」
--少女反省中--
永琳「まったく…。妹紅といい、依姫といい、
今度は鈴仙って…」
ため息をつきながら頭を抱えるお師匠様。
てゐ「怖かったウサ…」
鈴仙「ごめんなさい!」
鈴仙が自分の失態に深々と頭を下げ詫びているところに、
輝夜「変な物入れてないわよね?」
妙な疑いを掛けられるてゐ。しかもこれで2度目。彼女の日頃の行いを考えると至極当然ではあるが、
てゐ「失礼ウサ!そんな事してないウサ!」
本人は怒りながらキッパリとそれを否定した。
妹紅「美味すぎるのも考え物だな」
永琳「あゆみちゃん達は悪くないわ。あなた達が
気をしっかりと持てばいいだけでしょ?」
ごもっともな意見に、
『はい…』
再び反省する妹紅と鈴仙。
そこに今まで黙っていたあゆみが、
あゆ「永琳さ〜ん、お店の改装のこと…」
忘れられては困ると永琳に話しを切り出した。
永琳「ああ、そうね。妹紅、また萃香達にお願い
してくれないかしら?あゆみちゃんがお店を
改装したいんですって」
妹紅「あ?もう?改装って何するの?」
あゆ「ん〜と、窯かオーブンが欲しいの〜。
できれば室内に〜」
妹紅「あー、なる程ねぇ。金はどうするんだ?」
永琳「ふふ、あるけど多分必要ないと思うわよ。
取り敢えず言ってみて」
妹紅「よく分からないけど、じゃあ行ってくるよ」
永琳の言葉に若干の違和感を感じつつも、頑張る友達の為に動き出す妹紅。
あゆ「それじゃあ私達も行こうか」
てゐ「用意は出来てるウサ。
あとは荷車に乗せるだけウサ」
あゆ「ありがとう。仕事早いね〜」
笑顔で店へと向かうあゆみとてゐ。
鈴仙「私も薬の売り上げと補充行ってきます。
あゆみちゃん、一緒に行こう!」
その後を追う様にいつもの仕事へと向かう鈴仙。
そして、
ポツン。
1人だけ取り残された輝夜。
輝夜「えっと…」
永琳「残っちゃいましたね。
ところで姫様のご予定は?
あ、聞くだけ野暮でしたね」
そんな彼女にわざと神経を逆撫でする様に話を切り出す保護者。
輝夜「ぐっ…」
何も言い返せず、膝の上で拳を握り歯をくいしばる引き篭もりに、追い討ちを掛ける。
永琳「あゆみちゃんのお店、
てゐだけで大丈夫かしら?
猫の手も借りたい程忙しいと思うなー」
遠回しではあるが、分かりやすい。そして遂に。
輝夜「私…、行ってくる!」
永琳「はい、お気を付けて」
永琳達にとってこれまではあまりにも長かった。永遠の様に続いてきた時間の中、面倒くさがり屋で屋敷から出ようとしない輝夜が、今自分から進んで友達を助けに行ったのだ。その事実に永琳は心から安堵し、人知れず涙が溢れた。
永琳「あゆみちゃん、ありがとう」
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ついに動き始めた輝夜。何事もなく…か?