東方迷子伝   作:GA王

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ショートケーキの上に乗せられた苺。
主は最後に食べる派です。
そして酸っぱいのにあたるとたまに思います。
「先に食べれば良かった」と。


Menu⑪:ショートケーキ(苺)

《前回までのあらすじ》

ついに自分の能力をコントロールする方法を見出したあゆみ。スイーツ店では改装工事を終え、新装開店の日を迎えた。更にあゆみが特注した『保冷剤』、『冷蔵機能付きショーケース』を手に入れ、店は今大きな変化を遂げようとしていた。

 

 

 

 

 新装開店した店は良好の滑り出し。あゆみ達が用意していた分のスイーツはあっと言う間に残り半分となっていた。そして増設したテラス席にも早速利用客が現れ、あゆみが思い描いていた店まであと一歩となっていた。

 

 

--昼休み--

 

 

そしていよいよ、

 

あゆ「ショーケースもある!窯もある!いよいよ

   念願のケーキ屋さんをスタートしま〜す」

 

その最後の大きな一歩を踏み出す時が来た。

 

てゐ「窯はいつでもいけるウサ」

 

腕を組み店長の指示を待ち受ける店長補佐。

 

輝夜「いよいよね。何から作る?」

 

拳をポキポキと鳴らし、更にターボを掛ける看板娘。

 

あゆ「やっぱり最初は…」

  『ショートケーキ!』

 

皆の意見が見事に一致した。

 

あゆ「私、先に生地を作り始めてるから〜、

   チビウサギちゃん材料を買って来て〜」

てゐ「了解ウサ。行ってくるウサ!」

 

店長からの指示に敬礼で答え、籠を手に張り切って買い物へと向かう店長補佐。そして自分への指示は無いと悟ってしまった看板娘は…。

 

輝夜「じゃあ私はいつも通りに休憩してるわ」

あゆ「手伝って欲しいかな〜」

 

そんな彼女に苦笑いをしながら、やんわりと「暇なら手伝え」と伝える店長だった。

 あゆみと輝夜がケーキの下拵えをしていると、

 

カラン!バタン!

 

突然店の扉を力強く閉じる音が店内に響いた。店の札は今【CLOSE】になっている筈だった。不思議に思ったあゆみが店頭に出てみると、

 

あゆ「あれ〜?モコちゃん?」

 

妹紅がいた。しかしいつもとは様子が違い、額から汗を流し、膝に手を当て、肩で息をしていた。

 

妹紅「はぁ…はぁ…。頼む、隠れさせてくれ!」

輝夜「げっ、妹紅。何で来…」

妹紅「うるさい、静かにしろ」

 

輝夜が言い切る前に小さな声で「喋るな」と命令する妹紅。頭にきた輝夜だったが、妹紅の切羽詰まった顔を見て、大人しくしてあげることにした。彼女達が店内で息を潜めていると、

 

??「モコたーん♡何処行ったのー?」

 

外から妹紅を呼ぶ男の声が。しかもあのプライドの高そうな妹紅を、馴れ馴れしく「モコたん」と呼んでいる。

 

あゆ「モコ『たん』?ふふふ〜」

輝夜「ぷぷぷ、モコたんだって。

   何?追われてるの?」

 

妹紅の変な呼ばれ方が可笑しく、口を押さえて笑うあゆみと輝夜。

 

妹紅「突然迫って来て…、…って言われた」

輝夜「は?」

妹紅「だから!いきなりさっきみたいに

   呼ばれて追いかけ回されたんだよ!」

 

顔を赤くし、恥ずかしさに堪えながら、事の経緯を説明する被害者。普段はキツイ口調の妹紅だが、それでも立派なレディー。異性から追いかけ回されるのは恥ずかしい上、怖かったのだ。

 

輝夜「あなたを?物好きがいたのね」

 

被害者にも関わらず、酷い言われ様である。そんな中、あゆみはと言うと、

 

あゆ「変な人がいて怖いね〜。

   チビウサギちゃん大丈夫かな〜?」

 

先程買い物に向かわせたてゐの事を心配していた。

 

 

--数分後--

 

 

カラン…、カラン…。

 

 どこか寂しいそうな鐘の音が店内に鳴り響いた。店の扉を開けて入って来たのは、買い物を終えたてゐだった。頭の耳は萎れ、顔は俯き加減で、暗い表情を浮かべている。

 

てゐ「…」

輝夜「てゐ?どうしたの?」

てゐ「私って個性ないピョン?」

  『ピョン?』

 

突然変わったてゐの語尾に驚くあゆみ達。いつもと明らかに違うてゐの様子に、輝夜は詳細を尋ねた。

 

輝夜「何それ?どうしたのよ?」

てゐ「さっき変な男に声をかけられて、

  『語尾がウサってあまり意外性がない』って、

  『鈴瑚と清蘭もいるし』って言われたピョン」

妹紅「お前も被害者か…」

てゐ「取り敢えず語尾を変えるピョン」

 

妹紅を追いかけ、てゐに精神的痛恨の一撃を与えた謎の男。あゆみは内からフツフツと湧き上がる気持ちを、いつかその男にぶつけ、「2人が納得するまで謝って貰おう」と誓うのだった。

 

 

--昼休み後--

 

 

 暫く店内で避難していた妹紅は、先程の謎の男がいない事を恐る恐る確認すると、足早に帰って行った。そして昼休みは終わり、午後の営業が始まった。

 

輝夜「ありがとうございましたぁ」

あゆ「お客さんの数も大分落ち着いて来たね〜」

てゐ「一時の大混雑は何だったピョン」

輝夜「物珍しさからでしょ?

   流行り廃りなんてそんな物よ」

 

てゐが体験した大混雑。その頃と比べると来客は途絶える事はないものの、比較的落ち着いており、1人でも対応出来る具合だった。そして、この機を逃すまいとあゆみはケーキ作りを決意した。

 

あゆ「じゃあ、後はカグちゃんお願いできる〜?

   チビウサギちゃん手伝って〜」

  『はーい』

 

 輝夜1人に客の対応を任せ、てゐと共にさっき用意しておいた生地を、新しく作った窯で焼いく。普段から使い慣れている永遠亭の物とは加減が違うためか、2人が緊張して見守る中、最初のスポンジが焼きあがった様だ。

 

てゐ「どうピョン?ちょっと早い?」

あゆ「ん〜難しいね。

   手前に置いて少し様子見かな〜」

 

スポンジを窯の手前に引き寄せ、具合を確認していると、あゆみが何かに気付いた。

 

あゆ「あれ〜?」

 

彼女の目に映ったのは、窯の中で黄色く光り輝くポイント。それも一箇所だけでなく、数箇所でそれぞれがある程度距離を保ち、「そこに置け」とでも言うように強く輝いていた。

 隣にいる店長の異変に気付いたてゐは、

 

てゐ「何か見えたピョン?」

 

能力を発動したと察した。

 

あゆ「チビウサギちゃ〜ん、

   真ん中の所にそのスポンジを置いてみて〜」

 

黄色く輝くポイントを指して指示を出すあゆみに、

 

てゐ「え?ここ?かなり温度高いけど。

   大丈夫ピョン?」

 

少し心配になりながらも、言われた通りに動くのだった。

 あゆみの指示で置かれたスポンジ。あゆみの目には黄色い光が徐々に変色する様子が映っていた。そして、光の色が赤へと変わろうとした瞬間、

 

あゆ「今!出して!」

 

急いでてゐに指示を出した。

 

てゐ「えっ、もう!?あちっ、どうピョン?」

 

窯から取り出したスポンジを再び確認するあゆみ。

 

あゆ「うん、今度は大丈夫。コレは第1号だから

   仕上げたらみんなで食べよ」

 

記念すべき最初のスポンジが焼きあがった。

 

てゐ「やったピョン!

   それにしても、あゆみの能力便利ピョン。

   窯はあゆみが担当して欲しいピョン」

あゆ「うん、分かった〜。

   じゃあ生クリームと苺をお願いね〜。

   後で私もそっちやるから〜」

 

あゆみの能力が意外な方向で役立つ事になった。

 その後、あゆみは窯の中の黄色く光るポイントへ生地を置いていき、焼き加減を見守っていた。

 光の上に置かれた生地達。光はその下からライトアップし、生地達はまるでステージの上の役者の様。自分だけが見ることができる舞台に、あゆみは鼻歌を歌いながら堪能していた。

 そして暫くあゆみが見守っていると、舞台の照明に変化が出始めた。黄色だった舞台照明が徐々に緑色へと変わっていったのだ。その色は見覚えのある色。あゆみをピンチから救ってくれた色。

 試しに1つ取り出して焼き加減を確認すると、第1号よりも良い感じに、ベストの焼き上がりだった。その事にあゆみは「赤色は少しやり過ぎだった」と反省した。

 全ての生地を焼き終え、てゐと協力して仕上げの作業を進めていく店長。

 

てゐ「大きいままのは何個残すピョン?」

あゆ「2個くらいにしとく〜。

   あとは切り分けて飾り付けしよ〜」

 

 時刻はちょうど昼と夕刻の間頃。店内は賑わっており、店頭では輝夜が一人でせかせかと客の対応をしていた。そこへ、切り分けられたケーキを持った店長がやって来た。

 

あゆ「ショートケーキが出来ました〜。

   どうぞお買い求め下さ〜い」

 

あゆみが大きな声で客にアピールしながら、入荷したばかりのショーケースへ並べていくと、

 

  『おー!』

 

客達から歓声が歓声が上がり、ついにあゆみの夢だった『ケーキ屋』がスタートした。

 

輝夜「やったわね!」

てゐ「つかみはバッチリモグ」

  『モグ?』

 

てゐの語尾がまた変わった。しかし、てゐ自身もシックリ来ていないと悟り、これはお蔵入りとなった。

 ケーキ屋としてスタートを切ったあゆみの店。しかし、ショートケーキの売れ行きは、予想以上に伸びていなかった。客達は食べた事のないケーキよりも、里で評判で安定感のあるドーナツとシュークリームを求めて来ていたのだ。そんな状況にあゆみは気落ちし、浮かない表情をしていた。彼女の希望はケーキ屋。しかし肝心なケーキが売れなければ、意味をなさない。

 やはり難しかったのか、とあゆみが考え事をしながらテラス席を片付けていると、

 

小傘「ばぁーーっ!!」

あゆ「…」

小傘「ワクワク」

あゆ「きゃーーーーーっ!」

小傘「コレ、コレ♡ん〜〜快・感♡」

輝夜「なになに!?何事よ」

 

突然のあゆみの悲鳴に慌てて出て来た輝夜。続いててゐが出て来たが…。

 

てゐ「あ、また来たダニ」

  『ダニ!?』

 

またまたてゐの語尾が変わった。

 

てゐ「おお、コレはいい感じダニ」

 

しかも今度は本人も納得といったご様子。しかし彼女が言うと、彼女だからこその問題が…。あゆみもその事を察していたが、今は棚に上げておく事にした。

 

小傘「また補充しに来ちゃった」

輝夜「彼女がスパイラルの元凶ね」

 

彼女がてゐの言っていた店を大繁盛させた立役者だと初めて認識した輝夜。彼女はまた今日も営業活動に勤しもうと、商品を購入しに来ている様だが。

 

てゐ「でもドーナツもシュークリームも

   残り僅かウサ」

小傘「えー、そうなのぉ!?」

 

商品が残り少ないと知り、ガックリとうなだれた。しかしそんな彼女の目に飛び込んできたのは、白くて苺が乗った丸い物体だった。

 

小傘「ん?アレは何?」

あゆ「ショートケーキだよ〜。味見する〜?

   そこで座って待ってて〜」

 

小傘にテラス席で待つ様に言い、ショーケースから小分けにしたショートケーキを一つ取り出し、小傘の下へ持って行くあゆみ。小傘は店の新商品をあゆみから受け取ると、それをまじまじと眺め、

 

小傘「へー、中に苺があるんだ」

 

一言だけ見た目の感想を残し、いざ!

 

小傘「いただきまぁす!」

 

大きな口でショートケーキにかぶり付いた。当然口の周りは生クリームだらけ。更に鼻の頭にまでクリームを乗せ、その姿は子供そのもの。そんな愛らしい姿を見て、また飛び付きたくなるあゆみだったが、

 

小傘「何コレーーーーー!?」

 

小傘の突然の大きな声に驚き、踏み止まった。そしてその小傘は、

 

小傘「ドーナツとシュークリームよりも美味しい!

   私こんなに美味しい物初めて食べたよ!

   ビックリだよ!コレ小さく切っていっぱい

   頂戴!」

 

初めて商品の「味」について感想を残した。しかも注文する気満々。小傘の注文に応え様とするあゆみだが、

 

あゆ「いっぱいって…どれくらい〜?」

小傘「あの大きいやつ!あの量で小さくして!」

あゆ「いいけど〜、明日までだよ〜。

   食べれるの〜?」

 

細身で小柄な彼女が1人で食べれるのか心配になった。だが、その彼女の答えはやはりと言うべきか、

 

小傘「ん?配るの」

 

自分で食べる様ではなかった。

 小傘が注文したのはホールのショートケーキ。

だが、それは綺麗に飾り付けがしてあり、細かく切って配るのには勿体無かった。どうしたらいいかとあゆみが考え始めたとき、彼女の脳裏を横切る物が。

 

あゆ「チビウサギちゃん!

   最初に作ったケーキどーした〜?」

 

店内に戻ったてゐに大きめの声で第1号のケーキの行方を尋ねた。

 

てゐ「クリームを塗って中の冷蔵庫にあるダニ」

あゆ「それ、小傘ちゃんにあげてい〜?」

てゐ「いいけど…。え?小傘あれ配るダニか?」

 

 てゐの言葉を聞くや否や、慌てて中に戻って行く店長。大急ぎで第1号のケーキを一口大に切り分け、大きめの皿の上へと乗せていく。そして皿がいっぱいになったところで、それを持って小傘の下へ。

 

あゆ「小傘ちゃん!お金はいらないから、

   コレ全部配って来て〜」

 

小傘へ営業の協力を依頼する店長。

 

小傘「うわぁ、すごーい!大量だぁ!」

 

皿に並べられた大量のケーキに目を輝かせる営業担当は、

 

あゆ「まだ少しあるから、

   足りなくなったらまた来て〜」

小傘「任せてぇ」

 

張り切って営業活動へと出かけて行った。

 すれ違う人達に、手当たり次第にケーキを配っていく営業担当。客はケーキを口にする度に驚きの表情を浮かべ、営業担当は満足といった様子で喜んでいた。

 そんな彼女を店内から見ていた3人は。

 

てゐ「どうなっても知らないダニよ」

あゆ「だって〜…」

輝夜「今のうちに休憩してくるわ」

 

これから起こるであろう事態を薄々察していた。

 

 

 




謎の男、迷惑極まりない。
誰でしょうね。

次回:【Menu⑫:ショートケーキ(メッセージプレート)】
日頃お世話になっている人達へ感謝をこめて。
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