東方迷子伝   作:GA王

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ケーキに飾られた板チョコ。
通称メッセージプレート。
これは幼い頃は喧嘩の火種でしかなかった…。





Menu⑫:ショートケーキ(メッセージプレート)

《前回までのあらすじ》

新装開店したあゆみの店。そして、いよいよ彼女念願のケーキ屋として歩き始めた。しかしショートケーキの人気は低く、他の商品が売れていく中、再び現れた謎の客小傘。彼女こそ、あゆみの店の火付け役。そんな彼女に、あゆみはショートケーキの営業を依頼するのだった。

 

 

--2時間後--

 

 再び賑わいを見せる店内。客の殆どが小傘の営業によるもの。店員達は、一気に押し寄せて来た客の対応に追われ、息つく暇もない。客が多くとも買う物が限られていたので、接客がスムーズにいく筈だったのだが。

 

あゆ「はい、ショートケーキ2個で〜す。

   保冷剤を一つ入れておきますね〜」

客A「ホレイザイ?」

あゆ「氷みたいな物で〜す。

   食べれないので気を付けて下さいね〜。

   それと次回来て頂いたときに〜、

   保冷剤を持って来て頂いたら〜、

   お値引きしま〜す」

 

輝夜「何処まで持って行くの?」

客B「なんでそんな事聞くの?

   あっ!もしかして…」

輝夜「保冷剤の量を知りたかっただけでーす」

客B「へ?何それ?」

 

てゐ「ありがとうございましたダニ」

客C「これずっと冷たいの?」

てゐ「そのうち溶けて袋の中身が液化するダニ。

   そうなったらまた凍らさないと駄目ダニ」

 

あゆ「カットとホール、どちらにしますか〜?」

客D「何が違うの?」

あゆ「大きいのがホールで〜、

   小さいのがカットで〜す」

 

 幻想郷の人々は『保冷剤』『ホール』『カット』の言葉に馴染みが無い様で、彼女達は訪れる客達に都度説明をしていたのだ。これが原因で回転率が落ち、もう間も無くで閉店時間だというのにも関わらず、客が溢れ、店の外まで行列が出来ていたのだった。

 そして、ドーナツとシュークリームはいつもの様に売り切れ、残ったのはカットのショートケーキが一個とホールのケーキのみとなった。結局、あゆみ達が用意したホールのケーキは2個とも売れず、あゆみの貴重な反省材料となった。

 あゆみが店内にいる最後の客の対応を終える頃には、閉店時間を優に過ぎており…。

 

てゐ「あ!人里のお店が全部しまっちゃうダニ!

   急いで材料の補充に行って来るダニ!

   永遠亭に荷物置いてから来るから、

   遅くなるかも知れないけれど、

   後で迎えに来るダニ!」

輝夜「あー…、つっかれたー。

   私は一足先に帰ってるわね」

あゆ「うん、わかった〜」

 

激務を終え、店長を1人残して店を出て行く店員達。

 そして1人になったあゆみは、

 

あゆ「…った

   やった…、

   やった、

   やった〜!」

 

両手の拳を高らかに掲げ、確かな手応えとその余韻に浸っていた。それもそのはず、新装開店初日、ケーキ屋としての初日は見事大成功だったのだ。

 いつも協力を惜しまない永遠亭一同と妹紅、店の売り上げに貢献してくれた小傘、この店を無償で改装してくれた鬼達、そして彼女が作るスイーツを求めて買いに来る客達。あゆみが出会った数々の人達の協力があったからこそ、今この喜びを堪能できていた。あゆみはその事を充分過ぎるほど理解していた。

 

あゆ「ありがとう」

 

そして感謝の言葉を一つ呟き、いつか世話になったこの世界のみんなのために、恩返しをしようと心に誓うのだった。

 いつもより遅い時間になってしまったが、今日の営業は終了。店の看板もしっかりと【CLOSE】の文字が出されていた。そして、気持ちを入れ替えたあゆみは、店内の片付けをしていた。

 

あゆ「これでおしまい。

   チビウサギちゃんまだ来ないのかな?」

 

 片付けを一通り終えたあゆみだったが、てゐがまだ迎えに来ていなかった。大人しく待つ事を考えたあゆみだったが、今の彼女は気持ちが高ぶり、じっとしていられなかった。そして、てゐが迎えに来るまでの間、店の奥で明日の下準備をすることにした。

 

あゆ「うん、ここまで出来ればいいかな〜」

 

 明日の準備まで終わらせてしまったあゆみ。体を反らせ、大きく伸びをするのと同時に、大きな口で欠伸をした。あゆみの今日一日を振り返ると、朝は萃香と輝夜を相手に弾幕ごっこをし、その後レティへ保冷剤生産の依頼。更にその後は、店で出来上がったショーケースに大はしゃぎし、ケーキ作りと大勢の客の対応。あゆみにとって、密度が濃くて充実した一日だった。

 そんな彼女は今、ようやく緊張の糸が切れ、体力と気力共に限界を迎え、

 

あゆ「う〜…、眠い〜。頭がボーっとする〜」

 

瞳を閉じればそのまま眠れてしまいそうな程疲労していた。あゆみが眠い目を擦りながら、最後の気力を絞って片付けを進めていると…。

 

カランカラン。

 

 扉を開ける音が店内に響いた。あゆみは「てゐがようやく迎えに来てくれた」とほっとし、顔を出して店頭を確認した。しかし、そこに居たのはてゐではなく、あゆみと同じくらいの年齢の青年がいた。あゆみは「店の看板を【CLOSE】にした筈なのに」と思いながらも、

 

あゆ「は~い、いらっしゃいませ~」

 

せっかく来てもらったのだからと、客の対応をする事にした。

 

あゆ「あ~、ちょっと~、

   待っててもらえますか~?」

 

疲労のせいか、いつも以上に緩い口調のケーキ屋の店長。急いで片付けを済ませ、店頭へと向かった。

 

あゆ「お待たせしました~。

   片付けの~途中だったんで~」

 

疲れきった体でいつも通りに対応する店長。しかし目は虚ろで、思考も覚束無い状態だった。

 

??「あ、えと、ケーキを3つ」

あゆ「どのケーキにしますか~?

   3つとも同じですか~?」

 

完全に夢見心地。『どのケーキ』と聞くも、今あるのはショートケーキだけ。

 

??「あ、はい」

あゆ「じゃあ~、今は~このホールの

   ショートケーキしかないから~」

??「じ、じゃあ、それで」

あゆ「なにか~、メッセージ添えますか~?」

??「あ、えと、みんないつもありがとうって」

あゆ「は~い、

   『みんないつもありがとう』ですね~」

 

突然来た迷惑な客の注文を必死の笑顔で聞き終え、ショーケースからホールケーキを取り出し、作業をする為に店の奥へと向かうあゆみ。

 小さな冷蔵庫から板チョコを取り出し、言われたメッセージを入れようとした時、ある事に気付いた。その途端、彼女の全身に電流が走り、眠気が一気に飛んでいった。

 

あゆ「私…、あの人に何の説明もしてない」

 

 今日一日嫌と言う程客に説明してきた『ホール』という言葉の意味。しかしそれは会話の流れで察した可能性があった。だが、彼は『メッセージを添える』、これに関して何の疑問も持たなず、当たり前の様に、ケーキ屋に注文する様に答えていた。

 

あゆ「もしかして…」

 

あゆみの中で生まれたその疑惑を確かめるため、メッセージを添えたケーキを持って、遅れてやって来た客の下へ。そして、

 

あゆ「お待たせしました~。こちらになりま~す。

   お持ち歩きのお時間は~、

   どれくらいですか~」

 

敢えて外の世界のケーキ屋の店員と同じ様に振る舞い、様子を伺うあゆみ。

 

??「えと、$%¥#です」

 

しかし彼の口から出た言葉を理解する事が出来ず、寧ろ日本語なのかすら疑っていた。そして首を傾げ困った表情を浮かべ、

 

あゆ「ん~?」

 

伝わっていない事を合図した。

 

??「えと、すぐそこです」

 

今度は聞き取れた様だ。そしてその返事から、彼はこのやり取りが初めてではないと察したあゆみ。目的地が近くであれば、本来は必要の無い物なのだが、どうしても確かめたいあゆみは、最後の切り札をさり気なく差し出した。

 

あゆ「じゃあ~保冷剤一つ入れておきますね~。

   お会計はこちらで~す」

 

また様子を伺うあゆみ。彼の第一声を待つ。

 

??「あ、はい。え?安っ!」

あゆ「売れ残りのですし~、半額でどーぞ~」

 

やはり彼は『保冷剤』について何も聞かず、疑ったり怪しんだりといった表情もせずに、自然に受け入れた。彼女の疑惑はほぼ確信へと変わった。

 

??「あ@がと#ござ$ます」

あゆ「ん~?あー、どういたしまして~」

 

また所々聞き取れず、首を傾げるあゆみだったが、なんとなく伝わったみたいだ。

 

あゆ「またよろしくお願いしま~す」

 

カランカラン。

 

遅れて来た客を見送り、また1人になったあゆみ。先程あゆみが仕掛けた数々の罠は、

見事に隠れていた彼の素性を露わにしていった。しかしそれは余りにも突然で意外過ぎる事実に、あゆみは未だ半信半疑だった。

 

あゆ「あの人も外来人さんかな~?

   私以外にもまだいるんだ~」

 

カランカラン。

 

あゆみが店内に片付けたテラス用の椅子に腰を掛け、独り言を呟いた時、再び店内に鐘の音が響いた。

 

てゐ「迎えに来たダニ」

あゆ「あー、チビウサギちゃんありがと~。

   だけど~、その語尾はダメだよ~」

てゐ「でもコレはしっくりきてるダニ」

あゆ「でもそれだと~、出番減るよ~」

てゐ「メタいダニ…」

あゆ「いつものままの方が可愛いよ〜……」

てゐ「そ、そうかなぁ…。

   じゃ、じゃあ戻す…ウサ。

   うん、やっぱりこれが一番ウサ」

 

自分を見失い、彷徨い続けたてゐだったが、あゆみのアドバイスで本当の自分を取り戻す事が出来た様だ。

 

てゐ「あゆみ、ありがとうウサ」

 

頬を赤くしながら笑顔で感謝をするチビ兎。

 

あゆ「…」

てゐ「あゆみ?」

 

返事のないあゆみを不審に思い、顔を覗き込むと…

 

てゐ「あれ?寝ちゃったウサ。

   ふふ、嬉しそうにしちゃって」

 

 






Ep.2とリンクした回でした。
Ep.2を書いてる時にこの構想を思いつき、
今ようやく出せて満足しています。

次回:【Menu⑬:◯◯◯ケーキ(考案)】



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