ちゃんと書くのは初?
《前回までのあらすじ》
永遠亭メンバーに突然知らされた花見の開催日。それは明日。あゆみも一緒に参加することになり、皆が盛り上がる中、突然現れた謎の青年。彼はあゆみにとって因縁の相手でもあった。
妹紅を追い回し恐怖させ、てゐを精神的に傷つけた男。あゆみが2人に誠心誠意に謝罪をしてもらおうと心に誓った男。その男が今、目の前に。そして今度は輝夜を毒牙にかけ様としている。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
あゆみの背後に現れる不吉な効果音。
そして、
動いた。
あゆ「カッコイイ〜〜!イケメンだ〜♡」
『へっ?』
あゆみの発言に困惑する一同。
あゆみは彼を取り押さえた訳では無かった。彼の外観的魅力に魅了され、飛び付いただけだった。そんな彼女の瞳はてゐ達に飛び付いた時とは違い、ハート…。正に恋する乙女すそのものだった。
一方で飛び付かれた方は、
??「は、離れてぇー…」
輝夜に平気な顔で求婚をしていたにも関わらず、顔を赤くし、必死にあゆみから逃れ様としていた。どうやら異性に触れられる事に慣れていないといったご様子。
そして何とかあゆみの呪縛から解放された青年は、
??「な、何なんだよー!あ、グーヤ待ってー!」
あゆみから逃げつつ輝夜を追い掛けた。
が、
恋する乙女の力は凄まじい。
あゆ「きゃー!待って〜♡」
その彼を更に追い掛けた。
輝夜「こっちに来ないでー!」
??「グーヤー♡嫁になってよー!」
あゆ「イケメンさ〜ん、名前教えて〜♡」
??「うわっ!追って来た!?」
輝夜「あゆみ助けてー!」
取り残されたてゐと鈴仙。目の前で繰り広げられる奇妙な三角関係に、どう対処すればいいのか分からず、立ち竦んでいると、
??「鈴仙、変な男を見なかった?!」
彼女達の後方から鈴仙を呼ぶ声が。
走りながらやって来たのは、白髪のおかっぱ頭の少女だった。鈴仙達と彼女は面識があり、名を
鈴仙「あ、妖夢。変な男って?」
魂魄妖夢。冥界にある白玉楼の庭師である。
妖夢「嫁になれとか言い始める変人です」
てゐ「それならあっちに行ったウサ」
てゐが3人の走って行った方を指差して答えると、
妖夢「ありがとうございます!
少し待ってて下さい!」
そう言い残し、持ち前の運動神経を活かし、猛スピードで追い掛けた。そしてその直後、
妖夢「『人符:現世斬』」
彼女のスペルカードを宣言する声と共に、
ピチューン…
誰かが召されたのだった。
数分後、ズタボロになった青年を引き摺りながら、てゐと鈴仙の下へ戻って来た妖夢。彼の変わり果てた姿から、何が起きたのか悠々と想像出来た2人は、苦笑いをしつつも、「ざまあみやがれ」と心の中で指差して笑っていた。
そんな2人に妖夢は突然深々と頭を下げ、
妖夢「この度はご迷惑をお掛けして、
申し訳ありませんでした!」
彼女達への無礼を詫び始めた。
鈴仙「えっ?えっ?えっ?」
てゐ「何であんたが謝るウサ!?」
妖夢のいきなりの謝罪に、訳が分からず戸惑う2人。彼にキツイお仕置きをしてくれた彼女に、寧ろ感謝さえしていたのだ。すると彼女はゆっくと頭を上げ、
妖夢「実は彼、白玉楼の居候でして…。
買い物について行きたいと言うので、
連れて来た途端…。私の監督不届きでした」
事情を話した後、再び頭を下げた。
てゐ「そうかも知れないけど、
あんたは全然悪くないウサ!」
力強く「妖夢が謝るのは筋違いだ」と言うてゐ。隣の鈴仙もてゐの言葉に同意する様に大きく頷いた。
??「そ、そうだぜ…。みょん」
すると、彼女達の下の方から弱々しい青年の声が聞こえて来た。かなりキツイお仕置きだった様で、声を発するのもやっと、といったご様子。
??「悪いのは…、俺…。
てゐ、優曇華。ごめん…なさい」
彼が今できる必死の謝罪だった。これもまた、心からの飾り気のない、真っ直ぐな気持ちだった。が!
ドコッ!×2
『その名で呼ぶな!!』
妖夢と鈴仙に踏み潰されるのだった。しかしそんな状況下でも、
??「(幸せー♡)」
と青年が思っていた事を彼女達は知る由もなかった。
そしてこの時、青年の口から出た言葉をてゐは聞き逃していなかった。
てゐ「何でコイツ、鈴仙のフルネームを知ってるウサ?」
謎が多い奇妙な青年に、てゐは恐怖に似た感情を抱いていた。
妖夢「輝夜さん達にはあちらで謝罪をしましたが、
輝夜さんは怯えておられましたし、
後日改めて彼を連れて謝罪に伺います」
妖夢は青年の毒牙から輝夜を助けた際に、鈴仙達と同様の謝罪をしていた。しかし、輝夜は自分の物差しでは測れない未知の生物に恐怖し、聞く耳を持ち合わせていなかったのだ。それが日を改めようと考えた理由の一つ。そしてもう一つの理由が…。
妖夢「それにもうお一方が…」
この時点で鈴仙とてゐは何の事だか気付き、
『あー…。ごめんなさい』
今度は逆の立場で謝罪した。
妖夢「いえ私は全然、全く、道端の石ころ…、
いや、ゾウリムシ程も気にしていません」
鈴仙とてゐの謝罪を、手を振りながら「必要無い」と語る妖夢。ただその言い方は刺々しく…。
てゐ「酷い言われ様ウサ…」
鈴仙「あははは…」
青年の事を少し憐れむ2人だった。そんな中、場の空気を変えようと、鈴仙が別の話題に切り替えた。
鈴仙「そ、そう言えば明日のお花見来るでしょ?」
妖夢「はい!実はその時に持って行く、
料理の材料を買いに来ていたんです」
鈴仙「妖夢は偉いね。
私は当日の手伝いに参加しようかなぁ」
てゐ「ソレはどうするウサ?」
3人の足下のボロ雑巾を指差して尋ねるてゐ。先程から地面で俯せのまま、天を仰ぐ様にして、3人の話を聞いていた。
妖夢「それはこの方次第ですね」
??「反省してます。
山よりも高く、海より深く反省してます」
妖夢「言葉では何とでも言えます」
??「…見てろよみょん。
後で俺の本気の誠意を見せてやるからな」
妖夢「どうぞご自由に」
青年の言葉を全否定する妖夢ではあるが、彼女の顔からは、それを楽しんでいる様に見えた。
妖夢「お時間を取らせてしまってごめんなさい。
では、私達はこれで失礼します。
明日、またよろしくお願いします」
妖夢に首根っこを掴まれ、またズルズルと引き摺られながら去って行く青年。去り際に2人に手を振りながら、
??「2人共また明日ねー」
明日の再会を勝手に約束していたのだった。
妙な関係の2人ではあったが、
鈴仙「何だかんだ言いながら」
てゐ「良いコンビウサ。
夫婦漫才みたいだったウサ」
鈴仙「そうだね」
あゆみと輝夜と合流するため、先程2人が走って行った方へ移動するてゐと鈴仙。しかし、それらしき場所には既に2人は居らず、ただ斬撃の後だけが残っていた。それを見た2人の兎は、
鈴仙「コレ結構本気じゃない?」
てゐ「峰打ちだろうけど、地面が抉れてるウサ…」
「よくあれだけの怪我で済んだもんだ」と感心していた。あゆみと輝夜は、もう店に行っているのだろう、という事になり、鈴仙と別れて店へと向かうてゐ。彼女が店に着くと、2人は開店の準備に取り掛かっていたのだが…。
あゆ「はー…♡かっこよかったな〜♡」
輝夜「はー…、まったく何なのよアレ…」
2人共溜息を吐き、別々の意味で心が何処かへ出かけていた。そんな2人に、
てゐ「はー…、これじゃ営業に支障が出るウサ」
こちらも溜息を一つ吐き、大きく息を吸って、
てゐ「2人共戻って来るウサ!!」
喝を入れた。てゐの大声のおかげで心が無事生還できた2人は、我に返り、またいそいそと準備に取り掛かった。
大きなハプニングに遭遇したものの、ケーキ屋は通常通り営業を開始し、そして昼休み。
てゐ「え?名前を聞いたウサ?」
あゆ「うん!あの人『カイト』さん
って言うんだって〜♡」
鈴仙のフルネームを知っていて、てゐに精神的ダメージを与え、妹紅と輝夜を追い掛け、あゆみに追い掛けられた奇妙な青年。彼の名は『海斗』。彼もまた、あゆみ同様、外の世界からやって来た者。しかしその事は、この時誰も予期していなかった。そして、彼女達がその事実を知るのは、もうすぐそこまで来ていた。
輝夜「今度会ったらビシッと文句言ってやるわ!」
あゆ「また会いたいな〜♡」
輝夜「あゆみって…」
てゐ「面食いウサ…」
これまでのあゆみの奇行。彼女好みの者がいれば飛び掛かる。いつもその状況を目にしている者達からすれば、彼女が『面食い』である事は意外ではなかった。ただ、「やはりか」と再認識する程度だった。
あゆ「そうだ、チビウサギちゃん!」
ようやく現実に戻って来たあゆみ。しかし、相変わらずタイミングが掴めない話の振り方に、
てゐ「急にどうしたウサ!?」
少し驚く店長補佐。
あゆ「私明日の手土産、
ショートケーキに決めた〜」
輝夜「でも明日大勢来るのよ?
いつもの大きさだと、
あっという間に無くなるわよ?」
てゐ「それに、そんなに沢山持てないウサ」
店長の発言に反対する店長補佐と看板娘。
毎年参加している彼女達からすれば、店長の考えはあまりに無謀。花見の参加者全員に配るとなると、ホールのケーキが大量に必要だった。更にそれらを保存できる場所が開催地には無いのだ。
だが店長の考えは、その事を心配する彼女達の遥か上を行っていた。
あゆ「沢山なんて作らないよ〜。
凄く大きいの作るの〜」
『はぁーーーーーっ!?』
完全に暴挙だった。2人は店長を説得をしようとしたが、
あゆ「一度作ってみたかったんだ〜。
大勢で食べれる大きなケーキ♪」
目を輝かせながら、遠い目で夢を語る店長。そんな店長を見てしまっては、
『はー…』
溜息をついて、諦めるしかなかった。
てゐ「どういうのにするのか決まってるウサ?」
あゆ「もちろん!これくらいの大きさ〜」
両手で大きく四角を描く店長。
彼女が考えていたのは、四角い大きなショートケーキ。更に飾り付けには、苺を均等に並べ、その間をカットすれば、一人用の小さなショートケーキが出来上がる、といった物だった。
てゐ「1人分でどれくらいの大きさにするウサ?」
あゆ「5cm四方くらいかな〜」
てゐ「酒飲みのデザートなら、それで充分ウサ」
輝夜「少なくとも40か50人くらいは
来るわよ?」
あゆ「じゃあ余裕持たせて60人分くらい
かな〜?」
てゐ「正方形で作ると考えると、一辺に8人分で、
1人当たり5cmだから…」
輝夜「40cm四方…」
てゐ「まあまあいい大きさウサ」
あゆ「作ろうよ!」
これまでに作った事のない大きなケーキ。「上手く作れるのか」という不安よりも、「挑戦したい」という気持ちが先走りしている店長。そんなやる気溢れる彼女を近くで見ていれば、乗せられても仕方のないというもの。
てゐ「分かったウサ。やってやるウサ!」
輝夜「しょうがない…。やるわよ!」
一丸となって巨大ケーキを作る事になった。
昼休みを終え、午後の営業を開始したあゆみのケーキ屋。
店の前には、明日の臨時の休業を知らせる張り紙が掲示された。
そしてこの日もケーキ屋は、通常通り営業を終了した。
女性がいるところで、
『地面で俯せのまま、天を仰ぐ』それはつまり…。
ヒント:妖夢、鈴仙、てゐの共通点
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