東方迷子伝   作:GA王

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『彼』の話を書くのは凄く久しぶりです。
ちゃんと書くのは初?


Menu⑭:◯◯◯ケーキ(企画)

《前回までのあらすじ》

永遠亭メンバーに突然知らされた花見の開催日。それは明日。あゆみも一緒に参加することになり、皆が盛り上がる中、突然現れた謎の青年。彼はあゆみにとって因縁の相手でもあった。

 

 

 

 

 妹紅を追い回し恐怖させ、てゐを精神的に傷つけた男。あゆみが2人に誠心誠意に謝罪をしてもらおうと心に誓った男。その男が今、目の前に。そして今度は輝夜を毒牙にかけ様としている。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

あゆみの背後に現れる不吉な効果音。

 

 

そして、

 

 

動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あゆ「カッコイイ〜〜!イケメンだ〜♡」

  『へっ?』

 

あゆみの発言に困惑する一同。

 あゆみは彼を取り押さえた訳では無かった。彼の外観的魅力に魅了され、飛び付いただけだった。そんな彼女の瞳はてゐ達に飛び付いた時とは違い、ハート…。正に恋する乙女すそのものだった。

 一方で飛び付かれた方は、

 

??「は、離れてぇー…」

 

輝夜に平気な顔で求婚をしていたにも関わらず、顔を赤くし、必死にあゆみから逃れ様としていた。どうやら異性に触れられる事に慣れていないといったご様子。

 そして何とかあゆみの呪縛から解放された青年は、

 

??「な、何なんだよー!あ、グーヤ待ってー!」

 

あゆみから逃げつつ輝夜を追い掛けた。

 

が、

 

恋する乙女の力は凄まじい。

 

あゆ「きゃー!待って〜♡」

 

その彼を更に追い掛けた。

 

輝夜「こっちに来ないでー!」

??「グーヤー♡嫁になってよー!」

あゆ「イケメンさ〜ん、名前教えて〜♡」

??「うわっ!追って来た!?」

輝夜「あゆみ助けてー!」

 

取り残されたてゐと鈴仙。目の前で繰り広げられる奇妙な三角関係に、どう対処すればいいのか分からず、立ち竦んでいると、

 

??「鈴仙、変な男を見なかった?!」

 

彼女達の後方から鈴仙を呼ぶ声が。

 走りながらやって来たのは、白髪のおかっぱ頭の少女だった。鈴仙達と彼女は面識があり、名を

 

鈴仙「あ、妖夢。変な男って?」

 

魂魄妖夢。冥界にある白玉楼の庭師である。

 

妖夢「嫁になれとか言い始める変人です」

てゐ「それならあっちに行ったウサ」

 

てゐが3人の走って行った方を指差して答えると、

 

妖夢「ありがとうございます!

   少し待ってて下さい!」

 

そう言い残し、持ち前の運動神経を活かし、猛スピードで追い掛けた。そしてその直後、

 

妖夢「『人符:現世斬』」

 

彼女のスペルカードを宣言する声と共に、

 

 

ピチューン…

 

 

誰かが召されたのだった。

 

 

 

 

 数分後、ズタボロになった青年を引き摺りながら、てゐと鈴仙の下へ戻って来た妖夢。彼の変わり果てた姿から、何が起きたのか悠々と想像出来た2人は、苦笑いをしつつも、「ざまあみやがれ」と心の中で指差して笑っていた。

 そんな2人に妖夢は突然深々と頭を下げ、

 

妖夢「この度はご迷惑をお掛けして、

   申し訳ありませんでした!」

 

彼女達への無礼を詫び始めた。

 

鈴仙「えっ?えっ?えっ?」

てゐ「何であんたが謝るウサ!?」

 

妖夢のいきなりの謝罪に、訳が分からず戸惑う2人。彼にキツイお仕置きをしてくれた彼女に、寧ろ感謝さえしていたのだ。すると彼女はゆっくと頭を上げ、

 

妖夢「実は彼、白玉楼の居候でして…。

   買い物について行きたいと言うので、

   連れて来た途端…。私の監督不届きでした」

 

事情を話した後、再び頭を下げた。

 

てゐ「そうかも知れないけど、

   あんたは全然悪くないウサ!」

 

力強く「妖夢が謝るのは筋違いだ」と言うてゐ。隣の鈴仙もてゐの言葉に同意する様に大きく頷いた。

 

??「そ、そうだぜ…。みょん」

 

すると、彼女達の下の方から弱々しい青年の声が聞こえて来た。かなりキツイお仕置きだった様で、声を発するのもやっと、といったご様子。

 

??「悪いのは…、俺…。

   てゐ、優曇華。ごめん…なさい」

 

彼が今できる必死の謝罪だった。これもまた、心からの飾り気のない、真っ直ぐな気持ちだった。が!

 

ドコッ!×2

 

  『その名で呼ぶな!!』

 

妖夢と鈴仙に踏み潰されるのだった。しかしそんな状況下でも、

 

??「(幸せー♡)」

 

と青年が思っていた事を彼女達は知る由もなかった。

 そしてこの時、青年の口から出た言葉をてゐは聞き逃していなかった。

 

てゐ「何でコイツ、鈴仙のフルネームを知ってるウサ?」

 

謎が多い奇妙な青年に、てゐは恐怖に似た感情を抱いていた。

 

妖夢「輝夜さん達にはあちらで謝罪をしましたが、

   輝夜さんは怯えておられましたし、

   後日改めて彼を連れて謝罪に伺います」

 

 妖夢は青年の毒牙から輝夜を助けた際に、鈴仙達と同様の謝罪をしていた。しかし、輝夜は自分の物差しでは測れない未知の生物に恐怖し、聞く耳を持ち合わせていなかったのだ。それが日を改めようと考えた理由の一つ。そしてもう一つの理由が…。

 

妖夢「それにもうお一方が…」

 

この時点で鈴仙とてゐは何の事だか気付き、

 

  『あー…。ごめんなさい』

 

今度は逆の立場で謝罪した。

 

妖夢「いえ私は全然、全く、道端の石ころ…、

   いや、ゾウリムシ程も気にしていません」

 

鈴仙とてゐの謝罪を、手を振りながら「必要無い」と語る妖夢。ただその言い方は刺々しく…。

 

てゐ「酷い言われ様ウサ…」

鈴仙「あははは…」

 

青年の事を少し憐れむ2人だった。そんな中、場の空気を変えようと、鈴仙が別の話題に切り替えた。

 

鈴仙「そ、そう言えば明日のお花見来るでしょ?」

妖夢「はい!実はその時に持って行く、

   料理の材料を買いに来ていたんです」

鈴仙「妖夢は偉いね。

   私は当日の手伝いに参加しようかなぁ」

てゐ「ソレはどうするウサ?」

 

3人の足下のボロ雑巾を指差して尋ねるてゐ。先程から地面で俯せのまま、天を仰ぐ様にして、3人の話を聞いていた。

 

妖夢「それはこの方次第ですね」

??「反省してます。

   山よりも高く、海より深く反省してます」

妖夢「言葉では何とでも言えます」

??「…見てろよみょん。

   後で俺の本気の誠意を見せてやるからな」

妖夢「どうぞご自由に」

 

青年の言葉を全否定する妖夢ではあるが、彼女の顔からは、それを楽しんでいる様に見えた。

 

妖夢「お時間を取らせてしまってごめんなさい。

   では、私達はこれで失礼します。

   明日、またよろしくお願いします」

 

妖夢に首根っこを掴まれ、またズルズルと引き摺られながら去って行く青年。去り際に2人に手を振りながら、

 

??「2人共また明日ねー」

 

明日の再会を勝手に約束していたのだった。

 妙な関係の2人ではあったが、

 

鈴仙「何だかんだ言いながら」

てゐ「良いコンビウサ。

   夫婦漫才みたいだったウサ」

鈴仙「そうだね」

 

 あゆみと輝夜と合流するため、先程2人が走って行った方へ移動するてゐと鈴仙。しかし、それらしき場所には既に2人は居らず、ただ斬撃の後だけが残っていた。それを見た2人の兎は、

 

鈴仙「コレ結構本気じゃない?」

てゐ「峰打ちだろうけど、地面が抉れてるウサ…」

 

「よくあれだけの怪我で済んだもんだ」と感心していた。あゆみと輝夜は、もう店に行っているのだろう、という事になり、鈴仙と別れて店へと向かうてゐ。彼女が店に着くと、2人は開店の準備に取り掛かっていたのだが…。

 

あゆ「はー…♡かっこよかったな〜♡」

輝夜「はー…、まったく何なのよアレ…」

 

2人共溜息を吐き、別々の意味で心が何処かへ出かけていた。そんな2人に、

 

てゐ「はー…、これじゃ営業に支障が出るウサ」

 

こちらも溜息を一つ吐き、大きく息を吸って、

 

てゐ「2人共戻って来るウサ!!」

 

喝を入れた。てゐの大声のおかげで心が無事生還できた2人は、我に返り、またいそいそと準備に取り掛かった。

 大きなハプニングに遭遇したものの、ケーキ屋は通常通り営業を開始し、そして昼休み。

 

てゐ「え?名前を聞いたウサ?」

あゆ「うん!あの人『カイト』さん

   って言うんだって〜♡」

 

鈴仙のフルネームを知っていて、てゐに精神的ダメージを与え、妹紅と輝夜を追い掛け、あゆみに追い掛けられた奇妙な青年。彼の名は『海斗』。彼もまた、あゆみ同様、外の世界からやって来た者。しかしその事は、この時誰も予期していなかった。そして、彼女達がその事実を知るのは、もうすぐそこまで来ていた。

 

輝夜「今度会ったらビシッと文句言ってやるわ!」

あゆ「また会いたいな〜♡」

輝夜「あゆみって…」

てゐ「面食いウサ…」

 

これまでのあゆみの奇行。彼女好みの者がいれば飛び掛かる。いつもその状況を目にしている者達からすれば、彼女が『面食い』である事は意外ではなかった。ただ、「やはりか」と再認識する程度だった。

 

あゆ「そうだ、チビウサギちゃん!」

 

ようやく現実に戻って来たあゆみ。しかし、相変わらずタイミングが掴めない話の振り方に、

 

てゐ「急にどうしたウサ!?」

 

少し驚く店長補佐。

 

あゆ「私明日の手土産、

   ショートケーキに決めた〜」

輝夜「でも明日大勢来るのよ?

   いつもの大きさだと、

   あっという間に無くなるわよ?」

てゐ「それに、そんなに沢山持てないウサ」

 

店長の発言に反対する店長補佐と看板娘。

 毎年参加している彼女達からすれば、店長の考えはあまりに無謀。花見の参加者全員に配るとなると、ホールのケーキが大量に必要だった。更にそれらを保存できる場所が開催地には無いのだ。

 だが店長の考えは、その事を心配する彼女達の遥か上を行っていた。

 

あゆ「沢山なんて作らないよ〜。

   凄く大きいの作るの〜」

  『はぁーーーーーっ!?』

 

完全に暴挙だった。2人は店長を説得をしようとしたが、

 

あゆ「一度作ってみたかったんだ〜。

   大勢で食べれる大きなケーキ♪」

 

目を輝かせながら、遠い目で夢を語る店長。そんな店長を見てしまっては、

 

  『はー…』

 

溜息をついて、諦めるしかなかった。

 

てゐ「どういうのにするのか決まってるウサ?」

あゆ「もちろん!これくらいの大きさ〜」

 

両手で大きく四角を描く店長。

 彼女が考えていたのは、四角い大きなショートケーキ。更に飾り付けには、苺を均等に並べ、その間をカットすれば、一人用の小さなショートケーキが出来上がる、といった物だった。

 

てゐ「1人分でどれくらいの大きさにするウサ?」

あゆ「5cm四方くらいかな〜」

てゐ「酒飲みのデザートなら、それで充分ウサ」

輝夜「少なくとも40か50人くらいは

   来るわよ?」

あゆ「じゃあ余裕持たせて60人分くらい

   かな〜?」

てゐ「正方形で作ると考えると、一辺に8人分で、

   1人当たり5cmだから…」

輝夜「40cm四方…」

てゐ「まあまあいい大きさウサ」

あゆ「作ろうよ!」

 

これまでに作った事のない大きなケーキ。「上手く作れるのか」という不安よりも、「挑戦したい」という気持ちが先走りしている店長。そんなやる気溢れる彼女を近くで見ていれば、乗せられても仕方のないというもの。

 

てゐ「分かったウサ。やってやるウサ!」

輝夜「しょうがない…。やるわよ!」

 

一丸となって巨大ケーキを作る事になった。

 

昼休みを終え、午後の営業を開始したあゆみのケーキ屋。

店の前には、明日の臨時の休業を知らせる張り紙が掲示された。

そしてこの日もケーキ屋は、通常通り営業を終了した。

 




女性がいるところで、
『地面で俯せのまま、天を仰ぐ』それはつまり…。

ヒント:妖夢、鈴仙、てゐの共通点

次回:【Menu⑮:◯◯◯ケーキ(注文)】

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