東方迷子伝   作:GA王

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Ep.4の最終話ですが、まずお詫びをさせてください。
23時投稿を目標に、毎回してまいりましたが、
編集が間に合いませんでした。ごめんなさい。

終わりよければ全て良しとはいいますが、
最後の最後で思いっきりこけましたorz。





幻想郷の花見(プロローグ)-開花-

 時を少し遡って…。てゐがあゆみへの復讐を誓っていた頃、妹紅と永琳も階段を上りきり、博麗神社の敷地内へと到着していた。

 

妹紅「久しぶりに歩いて来たな」

永琳「ここ結構傾斜あるわよね」

 

少しだけ早くなった鼓動を感じながら、長い階段への愚痴を零す妹紅と永琳。と、そこへ。

 

??「私は面倒だから飛んで来たわよ」

 

2人の話を聞いていたかの様な入り方で、上空からやって来たのは、店を遅れて出発した輝夜だった。皆が苦労して歩いて来たのにも関わらず、涼しい顔をして現れた輝夜が気に食わなかったのか、

 

妹紅「たまには体を動かせよネオニート」

 

言葉でどついた。となれば輝夜も黙ってはいない。

 

輝夜「なっ!誰がネオニートよ!単細胞!」

 

再びゴングが鳴った。

 

妹紅「あぁ〜?誰が単細胞だぁ!?」

 

階段の側で激しく火花を散らせる2人。側から見ても喧嘩してる様にしか見えない。そんな2人に見兼ねた大人は、

 

永琳「2人共こんな時まで止めなさい」

 

呆れ顔で2人の間に入った。

 

永琳「それよりも姫様。

   あゆみちゃんについてお願いしたい事が」

輝夜「…なに?」

 

険しい表情で声を掛けて来た教育係に、ただならぬ雰囲気を感じ取った輝夜は、彼女の話に真剣に耳を傾けた。

 あゆみと八雲紫の事、そしてあゆみの側から離れない様にする事。己の見解を踏まえて話していく天才薬師。

 

輝夜「分かった。でもアイツいつ何処から現れるか

   予想すら出来ないわよ?」

 

そう、八雲紫は『境界を操る程度の能力』の持ち主。何もない空間に『スキマ』と呼ばれる境界の裂け目を生み出し、そこを出入口として移動が可能…、所謂『ワープ』が出来るのだ。

 

妹紅「アイツに弱点とか無いのか?」

永琳「それが分かっていれば、苦労しないわよ…」

 

肩をガックリと落とし、答える永琳。と、そこに…。

 

??「すっげーーー!」

 

聞き覚えのある『あの声』。

 

??「みょん、オレの元嫁候補が大集合だぜ!」

 

『嫁』という単語。

 

妖夢「ちょっと、大きな声でやめてください…」

 

妖夢の恥ずかしがる小さな声。彼女の声だけで赤面して、身を小さくしているのが優に想像出来た。

 

女 「あらあら、良かったわね」

 

更に駄目押しの様に聞こえて来たおっとりとした声。白玉楼の主人、西行寺幽々子。開いた扇子で顔の半分までを隠しているが、笑顔であるのは誰から見ても明らか。

 彼らの言葉と共に輝夜と妹紅、そして側にいたてゐには、

 

ゾクゾクゾクゾク…。

 

拒否反応が出た。声の主の方へ恐る恐る視線を移す被害者達。

 

  『げっ、カイト』

 

遂に彼の存在を確認してしまった。

 

妹紅「マジかよ…」

輝夜「何で来てるのよ!?」

てゐ「昨日の感じだと来れる筈がないウサ!」

 

昨日、彼は妖夢からその身がズタボロになる程のキツイお仕置きを受けていた。更にその時、妖夢は彼の身勝手さに激怒しており、花見への参加へは難しいと思われていた。3人が唖然としていると…。

 

??「海斗君!」

 

彼を呼ぶ若い男の声。彼…海斗もその声に気付いた様だ。

 目を丸くし、口が半開きのまま暫く固まる海斗。そして「ニヤッ」と安堵の表情で微笑み、彼を呼んだ者の方へ駆け付けた。

 

輝夜「なに?あいつ海斗の知り合いなの?」

妹紅「あいつなら人里で何度か見かけたぞ」

てゐ「海斗の知り合いなら、

   アイツも碌でもない奴に違いないウサ」

 

海斗の知り合いというだけで、勝手にイメージを悪くさせられる、哀れな海斗の友人だった。

 彼女達が海斗の話をしていると、彼の監視役が被害者達の前に現れ、

 

妖夢「みなさん、こんにちは。

   それと昨日はご迷惑をお掛けしました」

 

挨拶と共に再び頭を下げて謝罪をした。そんな彼女に、

 

てゐ「あいつ何で昨日のあの怪我で、

   来れてるウサ?」

 

てゐはまず第1の疑問の解を尋ねた。

 

妖夢「どうやら何かの能力の様でして…。

   やたらと回復が早いんです」

てゐ「回復が…」

輝夜「早いねー…」

 

ある人物にジト目で視線を集める一同。

 

妹紅「あ?何だよ?」

 

その冷めた視線に気付き、睨み返す『老いる事も死ぬ事も無い程度の能力』の持ち主。

 

輝夜「いや、だって…。ねー…」

てゐ「もしそれが海斗の能力なら、

   『誰かさん』とそっくりウサ」

 

相変わらずジト目で『誰かさん』を見続ける2人と、

 

妖夢「そうなんです…」

 

額に掌を合わせ、ため息混じりに語る海斗の監視役。

 

妹紅「待て待て待て待て!

   私はアイツと何も関係ないからな!」

 

知人の下へと向かった海斗を指差し、声を荒げる妹紅。しかし妹紅の気持ちなど御構い無し、とでも言うように、明るい笑顔で知人と会話を楽しむ海斗。

そんな彼を見つめながら、

 

妹紅「何なんだよ…」

 

伸びた人差し指を徐々に折り曲げ、

 

妹紅「どうして…、何も無いんだよ…」

 

拳を作り、握りしめた。

 

妹紅「あ゛ー!!イラつく!

   呑気に楽しそうにしやがって!

   人に勝手に『嫁になれ』って。

   あの笑顔で…。真っ直ぐに…。

   そのクセ放ったらかしかよ…。

   なんなんだよ!」

 

そして、顔を赤く染めながら目を潤ませ、怒りを吐き捨てた。

 普段は見せない表情だった。それはまるで遊んでくれない事に腹をたてる子供…。いや、と言うよりも…。それを永遠のライバルが気付かない筈がない。

 

輝夜「あ…、あんた『も』まさか…」

 

輝夜は動揺していた。声を震わせながら、己の気持ちを隠す様に、その事実を確かめようとした。しかしたった一言…、一文字だけミスが出た。それは2人にとって大きな意味を持つ一文字。輝夜は願った。妹紅が気付かない様にと。

 

妹紅「『も』ってお前…」

 

しかしその願いは虚しく、ライバルに己の気持ちに気付かれてしまった。となれば、

 

妹紅「そうよ!あんなヤツなのに…気になるのよ!

   もう自分でも訳が分からないのよ!」

 

下を向いて表情を隠しながら、開き直るしか無かった。

 

  『えーーーっ!?』

 

輝夜の突然のカミングアウトに驚く一同ではあるが、

 

てゐ「そんな…、姫様まで…」

妖夢「…」

 

てゐは知ってしまった事実に後退りをし、妖夢は寂しげで複雑な表情を浮かべていた。そして妹紅はと言うと…。

 

ガシッ!

 

輝夜の肩を掴み、涙で決壊寸前の瞳で語った。

 

妹紅「お前の気持ち…。分かる!!

   それでアイツはココに来てから、

   私達に挨拶をしていなければ、

   見向きもしてないんだぞ。許せるか?」

輝夜「許せない!」

妹紅「悔しくないか!?」

輝夜「悔しい!!」

 

凄まじい勢いで熱を上げていく永遠のライバル達。だが今は…。

 

妹紅「私達は『仲間』だ!」

輝夜「『仲間』よ!!!」

 

2人がついに硬い絆で手を組んだ。

 

妹紅「もうダメだ。ガツンと言ってやる!」

輝夜「私も!もう我慢の限界!」

 

そして背後に怒りの炎を上げ、肩を並べて歩き出した。

一方、残された2人は…。

 

てゐ「よろしくウサー」

妖夢「是非お願いしまーす」

 

「手間が省けた」と笑顔で手を振り、2人の戦士を送り出した。するとそこへ、

 

永琳「姫様と妹紅どうしたの?

   あの雰囲気、只事じゃないわよ?」

幽々「みょんちゃん、何があったの?」

 

2人の大人が首を傾げながらやって来た。どうやら2人だけで話をしていて、先程の騒動に気付かなかった様だ。

 

妖夢「えっと…、海斗さんの事で…」

てゐ「ちょっとお灸を据えに行ってもらったウサ」

 

妖夢とてゐに説明をしてもらうも、いまいちピンと来ない2人の大人は、

 

  『ん〜?』

 

頭上に『?』を浮かばせ、首を更に傾げた。

 

てゐ「ところで何でアイツ、ここに来れてるウサ?

   あんた相当怒っていたのに…」

 

妖夢を見つめ、第2の疑問の解を尋ねるてゐ。昨日の妖夢の様子から、外出禁止の指令が出てもおかしくは無い筈だった。寧ろそれくらいの罰則が有って丁度良いくらい。すると、妖夢は急に顔を赤くして俯きだした。

 そんな妖夢の姿を見て「ならば代わりに」と思った彼女の主人が、口を開いた。

 

幽々「『誠意』を見せてくれたのよね?」

妖夢「あんなのただのご機嫌取りです!」

幽々「でも悪い気はしなかったでしょ?」

 

てゐは思い出した。昨日海斗が妖夢に放った一言『本気の誠意』。これについて何かあった事はもう間違いなかった。

 

てゐ「一体何があったウサ?」

妖夢「そ、それは……」

 

緑のスカートを握りしめ、更に小さくなる世話係。

 

幽々「ふふふ、ご主人様だったのよね?」

 

必死にお茶を濁そうとする妖夢の代わりに、また横から答える白玉楼の主人。彼女はこの状況を楽しんでいる様だ。

 

妖夢「幽々子様!」

幽々「いいじゃない。お掃除にお料理にお洗濯。

   全部やってくれたじゃない。それに〜…」

妖夢「それ以上は止めてください!

   それに洗濯は私がしました!」

 

泣きそうな顔で主人の話を断ち切ろうとする世話係。

そして、その妖夢を哀れに思ったてゐは、

 

てゐ「つまり海斗のご機嫌取りに鬱陶しくなって、

   渋々連れてきたと…」

 

綺麗にまとめた。

 

妖夢「そ、そうなんです!」

 

てゐのまとめに、藁にもすがる思いで乗っかる妖夢。

 

幽々「んー、渋々かどうかはねー…」

 

しかしその主人は頭上に咲く桜を見ながら、含みのある言い方で言葉を残した。

 

永琳「ちょっと3人共、2人がその彼の所に…」

 

今まで会話には参加せず、様子がおかしい姫達を見守りながら、耳を傾けていた天才薬師。その彼女が会話に夢中になっていた幽々子達に、合図を送る様に声を掛けた。

 

幽々「ちょーっとあの雰囲気はマズイかしら…。

   みょんちゃーん。海斗ちゃんの事、

   お願いできない?」

 

他ならぬ主人からの依頼。だが…。

 

妖夢「えー…。少し痛い目を見た方が

   良いと思いますよ?」

 

世話係は正直気乗りしていなかった。お調子者で、人の気など考えもせず、デリカシーのカケラもない彼には「良い薬になるだろう」と思っていたのだ。

 

妖夢「それに能力で…」

 

更に言葉を繋げようとした時、妖夢は主人の視線に気が付いた。それは鋭く冷たい、氷の様な視線。主人に意見した事を後悔し、

 

妖夢「申し訳ありません!」

 

姿勢を正し、勢いよく頭を下げた。

 

幽々「みょんちゃんの気持ち、

   分からなくはないけど、

   万が一って場合もあるのよ?

   海斗ちゃんは大事なお客様なんだから。

   ね?」

 

最後にニコリと微笑み、

 

妖夢「はい!行って参ります!」

 

世話係を送り出した。

 

てゐ「何でアイツにそこまで手厚いウサ?」

 

てゐにとっては素朴な質問だった。ただの居候を何故、白玉楼の主人がかばう様に、丁重にもてなすのか。簡単に答えてくれると思っていたてゐだったが…。

 

幽々「…兎さん、知らない方が幸せな事もあるのよ」

 

彼女は冷ややかな視線で含みのある言い方をし、お茶を濁した。

 

 

 

 

 

 そして、海斗の下へと怒気を放ちながら、一歩一歩近づいて行く2人の蓬莱人。ただならぬ雰囲気に、

 

人妻「珍しいね。蓬莱人(2人)が肩を並べるなんて」

大女「オーラが凄い事になってるけどねぇ…」

人妻「でも…、なんか面白くなりそうだよ」

大女「それは間違いないだろうねぇ」

 

今後の展開をワクワクしながら見守る2人の神々。少女の姿をした算数の九九ができなかった人妻、守矢諏訪子と、背にしめ縄を背負った背の高いナイスバディの八坂神奈子。

 

諏訪「んー?あそこにいるのは…海斗?」

神奈「おや?ホントだ。

   2人共海斗に用があるみたいだねぇ」

 

蓬莱人の視線の先にいる『彼』を見つけ、少し驚く神々。彼女達は既にそのお調子者と出会っていた。その時の彼は2人にとって「明るくて面白いヤツ」という印象を与えていた。

 

諏訪「どう見ても2人共怒ってるよね?」

神奈「恨みを買う様なヤツには

   見えなかったけどねぇ」

諏訪「うーん…。何があったんだろ?」

  『気になる!!』

 

 

 

 

 

 神々までもが見守る中、彼の直ぐ背後まで近づいていた硬い絆で結束した2人の蓬莱人。後はもう一歩踏み込んで、あのお調子者に胸の内の怒りを打つけるだけだった。しかし、その一歩が大きかった。彼の事を近くに感じる程、

 

輝夜「ぐー…っ」

妹紅「く、くそー…っ」

 

赤面して硬直してしまい、何も言えなくなってしまうのだった。

 

輝夜「あんた行きなさいよ!」

妹紅「お…お前こそ行けばいいだろ!」

 

小声で先陣を譲り合う2人。と、そこへ…。

 

??「なんだなんだ?優希の知り合いか?」

 

金色のロングヘアーを靡かせ、やって来た大泥棒。紅白同様、幻想郷の異変解決に何度も加わって来た「死ぬまで借りとく」がモットーの白黒魔法使い、霧雨魔理沙だった。彼女は海斗とその知人、『優希』の顔を見比べ、意外そうな表情で2人に話しかけた。すると海斗は身震いを一つし、

 

海斗「魔理沙師匠、ちわっす!海斗です!」

 

素早いお辞儀と共に体育会系のノリで挨拶をし始めた。今海斗の意識は完全に白黒魔法使いへと向いていた。それは2人の蓬莱人にとって、大きなチャンスだった。そして「この機を逃してはなるものか」と2人同時に動いた。

 

ガシッ!

 

まずは妹紅が背後から肩を掴み、力一杯引き寄せ、引き摺る様にその場から離れた。己の身に起きた出来事に、脳内処理が追い付かず、慌てふためく彼。そんな彼を投げ捨てる様に解き放ち、

 

妹紅「おい、お前」

 

眉間に皺を寄せ、顔を近づけながら威嚇した。続いて輝夜が腰に手を置き、妹紅同様、その彼に顔を近づけ威嚇し始めた。

 

輝夜「アイツ…海斗の友達?」

優希「あ、はい…」

妹紅「お前の友達なんなんだよ!」

輝夜「いきなり嫁とか言い始めて

   追い掛け回してくるのよ!」

  『どーにかしろ(なさい)よ!』

 

が、相手が違った。と言うよりも、いつの間にか怒りの矛先が海斗の友人、優希へと向けられていた。2人共、海斗を前に硬直してしまい、直接言う事は出来ないと悟っていたのだ。しかし、内から込み上げて来る怒りを、何処かに打つけずにはいられない状況の中、目に付いたのが海斗と親しげに話す優希だったのだ。所謂『八つ当たり』である。

 

優希「と、友達が、ゴ・・・カケ・・・マセン」

 

体を小刻みに震わせながら、俯き加減でボソボソと呟く海斗の友人に、

 

  『はぁ〜!?』

 

更に怒りが増した蓬莱人。優希の一言は火に油だった様だ。

 

??「ん〜っと〜、

   『友達がご迷惑をかけてすみません』

   だって〜」

 

怒りの炎が燃え上がっている2人の後ろから聞こえてきたのは、妹紅と輝夜が聞き慣れた緩い口調。あゆみだった。彼女の表情はいつも通りの、時に助けられたニコニコの笑顔。その笑顔を守るために彼女達はあゆみを支え、協力して来た。すっかり元通りになったあゆみに、2人のは「もう大丈夫」と心から安堵し、ため息と共に口元が緩んだ。

 

 そして、まるで引き合う様にあゆみ、海斗、優希の3人の外来人が今、お互いを認識できる程の至近距離に集った。

 

突然幻想郷に現れた『迷子』の物語は、まだ幕を開けたばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「お姉ちゃん達はまだ来てないんだ〜♪

   あとでビックリさせよ〜♪」

 

 

Ep.4 里のケーキ屋【完】

 

 




Ep.4 まで読んで頂き、ありがとうございます。

また、お気に入り登録して頂いた方々、
最新話を投稿する度、読んで頂いている方々、
感謝の言葉がつきません。
本当にありがとうございますm(_ _)m。

さて、各エピソード毎の恒例になりつつある
主のお休みをまた少し頂ければと思います。
いや、近頃寝不足でして…。
何がって…4年に一度の大会ですし。。。
とりあえず日本一戦目勝って嬉しいです。
(よく勝てたなと…)

次回の投稿予定日についてはまた
いつも通りに活動報告に記載させて頂きます。

by GA王

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