東方迷子伝   作:GA王

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小説投稿の初心という事もあり、
今まで色々な書き方をさせて頂き、
学ばさせて頂きました。

ここまでお付き合い頂いた皆様、
ありがとうございました。



そして今、あの話を…。



再開します。




Ep.5 大和
一年後


 暗闇で立ち竦む少年の前に

 

 

バリィーーーン!!!

 

 

高音と共に降り注ぐガラスの雨。差し迫る刃と化したガラスに少年は足が震え、その場から動く事が出来なかった。

 そこへ容赦なく降り注ぐガラスの刃。次々と少年の皮膚を切り裂き、傷付け、そして………

 

 

 

深く突き刺さった。

 

 

 

その瞬間、激痛が体中を駆け巡り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバッ!!

 

 

少年は慌てて目を覚ました。

 

 今でも夢に出てくる一年前の恐怖。思い出す度に体中の古傷が疼き、恐怖と不安が心を支配していた。

 

??「おーい、飯だぞー!」

 

そこへ力強くも優しい少年が聞き慣れた声。

 内から込み上げる物を押さえきれず、少年は起きたままの姿で声の主の下へと駆け寄り、

 

少年「ユーネェ!!」

 

力強く抱き着いた。

 

??「なんだなんだ?どうした?」

 

突然抱き着いてきた少年に困惑する『ユーネェ』こと星熊勇儀。勇儀の問いに、顔を上げる少年の目には光る物が。

 その表情を見た勇儀は瞬時に察し、

 

勇儀「大丈夫。お前さんはちゃんといるよ」

 

少年を安らかな顔で優しく抱き寄せ、柔らかい声で囁いた。

 そして暫く抱きしめた後、少年の背中を「ポンッ」と叩き、

 

勇儀「さっ、いつまでも甘えてんじゃないよ。

   朝飯にするから顔を洗って来な」

 

笑顔で喝を入れ、洗面所へと送り出した。

 もう少しだけ抱きしめていて欲しかったと思う少年は背を丸め、渋々洗面所へと歩を進めて行く。

 

 勇儀が少年をこうして落ち着かせるのは初めてではなかった。今みたいに朝方目を覚ます頃もあれば、夜中の寝静まっている時もあった。そしてその都度、大泣きしながら「僕はいるよね?」と血相を変えて自分の存在を確認してくるのだった。そんな少年を勇儀はいつも「いる」と「生きてここにいる」と言い聞かせていた。

 

勇儀「もう少しだけ抱いていたかったかな…」

 

送り出した少年の後姿を見つめながら、勇儀は物足りなさそうな表情でポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 少年が食卓へ付いた時は少年以外の「家族」が揃っており、勇儀が手製の料理を並べていた。

 

??「お、泣き虫小僧が来たな」

 

さっきの現場を見ていたのか、少年を巨大な鬼が冷やかした。

 

少年「じぃじ?嫌いになるけど。いい?」

 

 少年に『じぃじ』と呼ばれるこの巨大な鬼は他の者からは『親方様(おやかたさま)』と呼ばれ、立場上はNo.2の鬼。殆どの者が頭が上がらないこの鬼であるが、

 

親方「ごめんごめんごめん。それは堪忍な」

勇儀「ふっ…、冷やかすからだよ」

 

家族の中での地位は些か低い。いや、底辺の様だ。

 勇儀が少年の隣の席に腰を落としたところで、

 

親方「じゃあ、いただきます!」

  『いただきます』

 

家族揃っての朝食。

 誰かが言い出した訳では無いが、朝食と夕食は家族全員が揃ってから食べる決まりになっていた。

 そして皆が食べ始める中、

 

少年「ユーネェ、おかわり!」

 

あっという間に茶碗の飯を平らげ、勇儀に茶碗を差出す少年。

 

勇儀「あー、はいはい」

親方「がははは、良い食いっぷりだ。

   いつ見ても気持ちがいい」

 

少年の清々しいまでの食事の勢いに、高笑いをする親方様(おやかたさま)だが、

 

??「お前さん、食事は静かにするものですよ」

 

それを快く思わない一人の女鬼。

 顔立ちはどことなく勇儀に似ているが、その身に纏う雰囲気(オーラ)が気品に溢れている。彼女こそ勇儀が住むこの町のNo.1。『棟梁様(とうりょうさま)』である。そして星熊勇儀は『棟梁様(とうりょうさま)』と『親方様(おやかたさま)』の娘であり、つまりお嬢様。

 一度はこの屋敷での生活が嫌になり、飛び出した勇儀であったが、『あの日』を境に再び少年と一緒に屋敷で暮らす事になったのだ。

 

親方「はい、ごめんなさい…」

 

 大きな図体を小さくして、素直に謝る親方様(おやかたさま)。更に棟梁様(とうりょうさま)は少年の方を見て、

 

棟梁「沢山食べるのは結構ですが、

   もっと良く噛んでお食べなさい。

   あと箸は右手、茶碗は左です。

   今から直さないと…」クドクド

 

食事中にも関わらず説教を始めた。

 少年にとってこれは何度も言われて来た事で、耳にタコ。勇儀に至っては幼い頃に言われ続けた悪夢の再現で、少年が今どんな気持ちなのか痛い程理解していた。そして………、

 

 

動いた。

 

 

 

勇儀「ぉぃ!」クイッ

少年「うん!」

 

勇儀が小声で少年に顎で合図を送ると、少年はそれが何の事か瞬時に理解し、頷いた。

 

少年「ばぁば♪」

 

長々と説教を続ける棟梁様(ばぁば)を呼び、下心を感じさせない満面の笑みで、

 

少年「だーーーい好き」

 

必殺の呪文を唱えた。呪文を唱えられた棟梁様(ばぁば)は顔を真っ赤にして、

 

棟梁「~~~~~っ!」

 

にやける顔を必死で堪えていた。

 その様子を見て2人は何食わぬ顔をしながら、

 

 

パチンッ!

 

 

食卓の下で勝利のロータッチを交わすのだった。

 

親方「なあなあ、それじぃじにもやって」

少年「ヤダ」

 

 

 

――食後――

 

 

 

 家族の食器の片付けをする勇儀と少年。

 彼女は数年前まで何の縛りも無く、ただ楽しくて居心地のいい場所を求め自由奔放に生きてきた。しかし少年と出会い、これまでの生活がガラリと変わり、この生活が居心地良い物になっていた。

 

勇儀「よし、おしまい。ありがとな」

少年「ん!」

 

勇儀からお礼を言われ、誇らしげに返事をする少年に、

 

勇儀「今日は診療所に行く日だからな。

   支度が終わったら行くぞ」

 

今日の予定が告げられ、勇儀と少年は支度をするために2人の生活スペースの『離れ』へ戻った。

 屋敷の敷地に内の隅に建てられた小さな建物。そこが2人の住居スペースだった。

 

勇儀「どれを着て行こうか…。これでいいか?」

 

勇儀が何気なく手渡した服に袖を通す少年だったが、袖口は二の腕の半ば、下のズボンからは膝が完全に見えていた。

 

勇儀「ん?少し小さいか?」

 

勇儀が差し出したのは初めて少年に買ってあげた服で、その服が小さいと感じてしまう程、この一年で少年は大きく成長していた。

 その事に勇儀は驚きながらも、それが微笑ましかった。

 

勇儀「じゃあ診療所の帰りに新しい服を買うか」

 

 

――小僧移動中――

 

 

 町の外れの小さな診療所。町の誰もが気にもしない場所だが、勇儀と少年にとっては違った。少年はここで生死の淵をさ迷い、勇儀はここで一世一代の大勝負の立ち会い人となった。

 

医者「どうじゃ?変わりはないか?」

 

そして2人はこのヨボヨボに老いた鬼に大変世話になったのだ。

 

少年「うん」

勇儀「急に熱を出すこともないし、

   恐ろしい程元気だよ」

医者「カッカッカ、そうかいそうかい」

勇儀「薬もちゃんと毎日飲ませてる。

   けど、あとどれくらいあるんだ?」

医者「あと2~3ヶ月ってとこじゃな。

   辛いかもしれんが、ちゃんと飲めよ」

少年「う、うん…」

 

少年を救うために地上の天才薬師に処方してもらった薬だが、コレが今少年を苦しめていた。飲まなければいけないと分かっていても、「不味い」上「苦い」のだ。「苦くて不味い」のでなく、「不味くて苦い」のだ。それも特上急に。少年はずっと飲み続けてはいるものの、その味に慣れず、毎朝それを食後に涙目で飲んでいた。それを間近でみている勇儀は、

 

勇儀「あと2~3ヶ月なんだ、頑張ろうな」

 

少年を励まし、「もう少しだの辛抱だ」と応援した。

 勇儀の言葉の真意は分かってはいるものの、やはり辛いのだろう。少年は俯き加減に

 

少年「はーい…」

 

渋々返事をした。

 

 

――小僧移動中――

 

 

 診察終え、2人は診療所を背に歩き出していた。時刻は丁度昼飯時。昼休憩なのか町の至る所では、勇儀の仕事仲間達が思い思いの店の前に並んでいた。

 

勇儀「昼飯…」

 

何気なく口にした勇儀だったが、「しまった!」と途中で気付き、その言葉をピタリと止めた。

 そして恐る恐る隣に視線を向けると…。

 

少年「蕎麦!」

 

キラッキラの笑顔で答える少年が。「また!?」と文句を言いたくなる勇儀だったが、自分から聞いた手前、何も言い返せなかった。何より少年の眩しい笑顔に「ダメ」とは言えず、

 

勇儀「はぁー…、しょうがない」

 

ため息混じりに渋々行きつけ蕎麦屋へと足を運ぶ事に。

 蕎麦屋の前に着くと食欲をそそる出汁の香りが広がっており、店内は大勢の客で賑わっていた。

 

勇儀「あっちゃー、やっぱ混んでるか」

 

店内で食べれないと知り、頭を掻きながら苦笑いをする勇儀。

 

勇儀「少し待つことになりそうだけどいいか?」

少年「えー、お腹空いたよ。ボク外でもいいよ」

 

だが、どこでもいいから早く食べたいと言う少年。少年の言う『外』というのが勇儀はあまり気乗りしなかったが、この際はしょうがないと割り切り、

 

勇儀「店長!かけ2つ!」

少年「天かす大目でネギ少な目、

   汁少な目、蒲鉾おまけして!」

店長「はいよ!いつものだな。

   席ないから外だぞ、いいか?」

勇儀「ああ、分かってる」

 

 注文して暫くすると、

 

店長「おまちどー!」

 

店長の掛け声と共にカウンターの隅に置かれた2つの器。

 勇儀は2つの器を手に暖簾をくぐり、少年の待つ店外へ。そして少年に少し小さい方の器を手渡し、蕎麦屋の前の低い段差に2人で並んで腰をかけ…。

 

  『いただきまーす』

勇儀「ホントは行儀悪いんだからなコレ」

少年「ふぁ~い」モグモグ

勇儀「母さんに知れたら説教もんだろうな…」

少年「~♪」

 

今の状況に若干後悔した勇儀だったが、隣で笑顔で美味しそうに蕎麦を啜る少年を見て「まあいっか」と思ってしまうのだった。

 

 

――小僧食事中――

 

 

店長「まいどー」

  『ごちそうさまでした』

 

 支払いを終え、揃って大声で挨拶をする勇儀と少年。その2人を笑顔で見送る蕎麦屋の店長と客達。

 

店①「本当に仲がいいな。羨ましいよ」

客②「お嬢もごりっぱになられて…」

店長「小僧もすっかりこの町の一員だよ」

客③「オレ結婚するなら、

   姐さんみたいな嫁さんもらお」

  『それは考え直せ』

??「成程、あの子が噂の…」

 

 

――小僧買物中――

 

 

 腹の膨れた2人は仲良く並んで歩きだし、少年の小さくなった甚平の代わりを買いに今度は服屋へ。そこで購入したのは背中に『鬼』とだけ書かれたシンプルな甚平。少年はこれが酷く気に入った様で、勇儀が選ぶ間もなく持って来ては「ここで着て行く」と言いだし、店内で突然服を脱ぎ始めたのだ。

 そして…。

 

店員「ありがとうございました」

 

服屋を出て再び歩き出す2人。

 

少年「どう?似合う?」

 

歩きながら笑顔で服を見せつける様に回転する少年の後ろを

 

勇儀「ああ、似合ってるよ。でも頼むから急に服を

   脱がないでおくれよ。恥ずかしいだろ」

 

顔を赤くし、付いていく勇儀。

 少年の奇行は今日に限った事ではなかった。何の予兆もなく突然全力で走り出す事もあれば、ちょっとした段差で上り下りを繰り返す事もあったり、立ち止まって足元の虫をじっと見ていることもあった。その都度、勇儀は少年を追いかけ、立ち止まり、待たされるといった事が続いていた。しかもそれはここ一年で目立つ様になり…。

 

勇儀「大人しかったあの頃が懐かしいよ」

 

と、懐かしみながらため息をついて呟くのだった。

 

 

――小僧帰宅中――

 

 

 買物を終えた2人はその後、途中で公園に寄り帰宅した。2人が屋敷についてたのは夕刻少し手前。小腹が空いた少年は、

 

少年「なんか食べたーい」

 

おやつのおねだり。

 

勇儀「煎餅ならあるぞ?」

少年「んー、それよりも干し肉がいい」

 

近頃の少年のお気に入りのおやつ。

 親方様(じぃじ)が晩酌の時に食べている時に一切れもらったのがきっかけで、彼はコレの虜になっていた。つまりこれは親方様(じぃじ)の大事な酒の肴。最近は無造作に置いておくと少年に食べられてしまうので、彼は警戒して隠す様になっていた。

 

勇儀「でもアレ何処にあるか知らないぞ?」

少年「えーっとね、たぶん…」

 

そう言うと少年は台所へと移動し、食器棚を弄り始め、

 

少年「この辺だったような…。あ、あった!」

 

見事獲物を捕らえた。

 

勇儀「でかした!しかし、よく見つけたな」

 

少年の働きに指を鳴らして称賛する勇儀。勇儀もまた干し肉が好物で、その経緯もやはり少年と同様だった。

 

少年「じぃじが隠してるのあそこから見てた」

 

少年が指した先には太い柱。どうやらそこに隠れて親方様(じぃじ)の動向を伺っていた様だ。

 

勇儀「抜け目ないな…」

 

少年に呆れつつも「末恐ろしいヤツだ」と感じ、親方様()には「残念だったな」と憐れむ勇儀だった。

 

 

--夕食--

 

 

  『いただきます』

 

家族揃っての夕食。この日の献立は焼き魚と煮物、麦飯と味噌汁、そしてお浸しに山芋のとろろと、品数豊富で少し贅沢な夕食になった。しかもこれらの品々は全て勇儀の手料理。

 彼女と少年が屋敷暮らす事になった時、「なるべく使用人達に頼らない様に」と棟梁様()に言われ、『離れ』の掃除等の身の回りの家事全般は勇儀と少年で協力して行う事になったのだ。これには当然食事の事も含まれており、彼女は使用人達に教わりながら、ここ一年でメキメキと料理の腕を上げていった。そして、いつしか「2人分も4人分も労力は変わらない」と言い出し、今では朝・夕の家族分の飯を作っていた。

 

勇儀「今日のはどうだ?」

少年「うん!ふごふほいひい(すごくおいしい)!」モグモグ

 

頬をリスの様に膨らませながら答える少年。

 勇儀にとってこれはこの上ない褒め言葉。

 

棟梁「口に物を入れながら喋るんじゃありません」

 

しかし、第3者からすればただ行儀が悪いだけ。

行儀・作法に煩い棟梁様(ばぁば)にスイッチが入る前にヘコヘコと頭を下げる少年だった。彼もまたここ一年で家族の調理方法の腕が上がった様だ。

 一方で勇儀の手料理に舌鼓を打つ親方様(じぃじ)

 

親方「勇儀ちゃんも料理が上手になったな。

   初めの頃は今だから言うが、

   まあ~…酷かったな。

   けどもう花嫁修業はバッチリだな!」

少年「じぃじはその頃食べてないでしょ…」

 

一番の被害者は隣にいる女鬼に聞こえない様に、外方を向いてポソッと呟いた。

 

勇儀「嬉しいけどさぁ、私はそんなつもりは

   これっぽっちも無いからね?」

親方「そうかそうか、そうだよな…」

 

勇儀の言葉に苦笑いを浮かべながら詫びる親方様だが…。

 

親方「屋敷のお嬢様が嫁とは変だよな。婿だよな」

勇儀「だーかーらー!」

 

気持ちが通じていない親方様()の言葉に勇儀は眉間を寄せ、箸と茶碗を握りしめ、ワナワナと揺らすのだった。

 勇儀の怒りのバロメーターが上昇する中、彼女の前にズルズルと少年から差し出された皿。その皿の上に焼き加減抜群の一尾の魚。

 

少年「ユーネェ、骨」

勇儀「ああ、はいはい…」

 

何の事か察した勇儀はため息を一つ付き、箸で丁寧に魚の身をを解し、少年の空いた皿へと置いていく。

 

親方「がはははっ!

   魚の骨なんて食っちまえばいいんだ!

   ワシなんてほれ見てろ」

 

その光景に親方様(じぃじ)は高笑いをし、徐に皿の上の魚を箸でつまむと、

 

 

ガブッ!

 

 

魚を頭から齧り付き、

 

 

バキバキッ!ゴリゴリッ!

 

 

骨を激しい音と共に自慢の歯で粉砕していき、

 

 

ゴックン!

 

 

そして飲み込んだ。

 

親方「どうだ?」

少年「じぃじすご~い!」

 

親方様(じぃじ)の男らしく、野生的な食べ方を見て、尊敬の目を向ける少年。

 

親方「へへへ、凄いだろ!」

 

久しぶりの少年からの熱い視線に頬を赤くしながら、胸を張ってドヤ顔で答える親方様(じぃじ)

 

が、

 

棟梁「お前さん!品が無さ過ぎますよ!」

勇儀「真似したらどうするんだよ!

   変なこと吹き込むなよな!」

 

正に鬼の形相で睨んでくる教育熱心な女鬼達に、

 

親方「ご、ごめんなさい…」

 

怯えながら小さくなって詫びるのだった。

 

少年「みんな、食事は静かにするものですよ」

  『はい、ごめんなさい…』

 

 

--夕食後--

 

 

 棟梁様(とうりょうさま)は広間でゆっくりと煙管を楽しみ、少年は親方様(おやかたさま)と風呂に入り、勇儀は皆の食器を洗っていた。

 使用人達が他の場所の掃除を進める中、屋敷のお嬢様が食器を洗う。何とも奇妙な光景ではあるが、これもまた最近では見慣れた光景。

 勇儀が一段落した頃、

 

少年「ユーネェ、お風呂出た!」

 

少年と親方様(おやかたさま)が勇儀の下へやって来た。

 親方様(おやかたさま)はやって来るなり自前の盃を取り出し、適当な酒を手に取るとその場を後にした。親方様(おやかたさま)が持って行った盃は『注いだ酒のランクを上げる』という名品で、鬼達の宝だった。勇儀は密かにコレを狙っていた。

 

勇儀「いつか私の物にしてやる!」

少年「そんなに欲しいの?」

勇儀「当たり前だろ。鬼じゃなくても酒好きなら

   喉から手が出る程の品だぞ」

少年「何それ?妖怪?」

勇儀「あー、そうじゃなくてだな…。

   凄い欲しいってことだよ」

 

勇儀に力説されるも、その内容がいまいちピンと来ない少年。でも少年は彼女が欲しがっている様をいつも側で見ていた。

 

少年「ふ~ん…、

   じゃあ今度じぃじにお願いしてあげる」

勇儀「あはは、確かにお前さんのお願いだったら

   聞いてくれるかもな。

   じゃあ、その時になったら頼むな」

 

2人の間で盃を勝取るための協定が結ばれた。と、そこへ鼻歌を歌いながら親方様(じぃじ)が戻って来た。

 

親方「~♪」

 

親方様(じぃじ)は警戒をすることも無く、勇儀と少年の目の前で食器棚から干し肉が入った袋を取り出した。そして袋の中身を覗き込み…。

 

親方「おや~?」

 

 

ドキッ!

 

 

親方様(じぃじ)の言葉に緊張が走る勇儀と少年。2人共無口になり、親方様(じぃじ)の次の言葉に耳を澄ませた。

 

親方「こんなもんだったか?

   また買わなきゃいかんか…」

 

記憶していた量よりも少なかった事に不信感を抱きながらも、また鼻歌を歌いながらその場から去って行く親方様(じぃじ)

 そんなお気楽な彼を

 

勇儀「っくくく…。は、腹が痛い」

少年「あっはははは」

 

2人は腹を押さえてクスクスと笑っていた。

 

勇儀「私達の目の前で取って行くなよな」

少年「意味ないじゃん」

勇儀「それに『こんなもんだったか?』って…」

少年「普通気付くよね?」

勇儀「もう一瞬ダメかと思ったぞ」

少年「ボクもー」

 

2人がおやつに食べた干し肉。1切れずつ頬張って終わりにする筈だったのだが、その濃くて病み付きになる味に、気付けば5切れずつ食していたのだった。

一時のピンチだったが、親方様(じぃじ)の呑気な性格のおかげで助けられた2人。

 

 

 

 

 

 そして時刻は夜、子供は寝る時間。

 

勇儀「じゃあ明かり消すぞ」

少年「うん」

 

並べられた2つの布団。それぞれが自分の布団に入り、明かりを消して瞳を閉じて明日を待つ。

 

 

モゾモゾ…。

 

 

勇儀「ん?」

 

自分の布団に違和感を感じた勇儀。目を開け隣を見ると、

 

少年「今日は一緒じゃダメ…かな?」

 

上目使いですり寄って来る少年がいた。

 

勇儀「ふふ、しょうがないなぁ。いいぞ」

 

そんな少年を優しく自分の布団に招き入れる勇儀。言葉では偉そうに言ってはいるが、

 

少年「あ、でも蹴らないでね」

勇儀「それは約束できないなぁ」

少年「えー…」

勇儀「なら自分の布団で寝るか?」

 

本心は嬉しかったのだ。それを悟られまいとワザと意地悪な言い方をした。勇儀にとってこれは賭けだった。

 

少年「うんん、蹴られてもいい。

   その代わり『ぎゅっ』ってして」

勇儀「はいはい、今日は随分と甘えん坊だな」

 

今朝の事もあり、不安なのだろう。だがいつかは少年自身が超えて行かなければならない壁。そして勇儀は少年に優しく喝を入れた。

 

勇儀「なぁダイキ。私と萃香がどんな気持ちで

   あの名前をプレゼントしたか分かるか?」

少年「ううん。何?」

勇儀「どんな事にも怯えない大きな心を持って 、

   鬼にも負けないくらい強くなって欲しいって

   願いを込めてプレゼントしたんだ」

 

勇儀達の想いを聞いた少年は、力強く彼女に抱き付いて無言で小さく頷き、その名に恥じぬ様に生きて行く事を決意した。

 

 

 

 

 

 ここは幻想郷の地底世界、その名も旧地獄。

 そこへ突然現れた人間の子供、名をダイキ。1年後、彼は勇儀達から強い願いを込められた立派な名をもらい、この町ではその名前で呼ばれていた。

 その名は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大鬼(ダイキ)』。

 

 




ダイキの新しい名前については、既にEp.1の《ダイキ》の回でトリックを用いて、披露していました。場所としては勇儀の最後のコメントがヒントになってます。その後、みんなの発した言葉をその法則で見ると…。




気付かれました?


次回【三年後:いってきます】

今回文字数がいつもの倍あるので、
一回分お休みを頂きます。
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