東方迷子伝   作:GA王

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サブタイトルからもお察しの通り、そんな感じで進めていきます。



三年後:いってきます

 少年8歳。

 

  『いただきます』

 

 今日も一家揃っての朝食。少年の前には一家の底辺、町のNo.2の親方様(じぃじ)。その隣には行儀に口うるさい町のNo.1の棟梁様(ばぁば)。そして、少年の隣には勇儀(ユーネェ)。いつものポジションである。

 家族で会話を楽しみながら進める食事。何気ない良くある日常の風景ではあるが、少年にとってこれ程安心できて、幸せなことは無い。

 

大鬼「おかわり!」

 

笑顔で勇儀に空の碗を向け、次の飯の要求する大食い少年。

 

勇儀「はいはい」

大鬼「おっかわり♪おっかわり♪」

 

少年は今日も元気一杯だ。

 

 

--小僧食事中--

 

 

食事と身支度を終え、少年と勇儀は屋敷の門に来ていた。

 

勇儀「じゃあ、行って来るな」

 

この日、勇儀は出勤の日。

 

大鬼「いってらっしゃーい」

 

笑顔で手を振りながら、勇儀を見送る少年。

 以前は勇儀の仕事場へ「絶対一緒に行く」と駄々をこねていたが、ここ最近ではそれも無くなり、屋敷で勇儀の帰りを待つ事が増えて来ていた。

 

勇儀「棟梁様(ばぁば)親方様(じぃじ)の言う事、

   ちゃんと聞くんだよ」

大鬼「はーい」

勇儀「それと遊びに行くなら棟梁様(ばぁば)親方様(じぃじ)

   それかお手伝いさんに言ってから行きなよ」

大鬼「はいはーい」

 

心配する勇儀の言葉に、慣れた返事をする少年。

 少年は留守番をする毎に、何度も言われている事なので、「それくらい分かってる」とも思ってもいた。ここまではいつも通り。後は再び勇儀に笑顔で「いってらっしゃい」と言えば終わりだった。

 

勇儀「あっ、あと…」

 

しかし視線を上に向け、何かを思いついた彼の保護者。

 

大鬼「まだ何かあるの?」

 

肩を落として、呆れ顔で尋ねる。

 

勇儀「遊びに行くのはいいけど…、

   喧嘩はするなよ?」

 

睨み付ける様に最後の『約束』を取り付ける保護者。

 

大鬼「えー…。でもそれは…」

 

保護者から視線を外らせて、これ以上面倒な事にならない様に、その場を逃れようとする少年だったが…。

 

勇儀「いいな!?」

 

顔を少年の目の前まで寄せ、鋭い目で強引に視線を合わせる保護者だった。

 「こうなってはもう逃げられない」と悟った少年は、

 

大鬼「はーい」

 

その場逃れの気の無い返事をした。

 

勇儀「『約束』だからな!!」

 

だがそんな少年の心中を察してでもいる様に、更に語尾を強調して、念を押す様に詰め寄る保護者。少年と保護者の額は仲良くぶつかっていた。

 

大鬼「は、はーい…」

 

威圧感と頭上に伸し掛かる角の重みに耐えながら、渋々約束を交わす少年。

 返事をするも、未だに離れてくれない保護者に、

 

大鬼「も、もう分かったから…。

   いってらっしゃーい」

 

苦笑いを浮かべ、離れてくれる様、懇願した。

 観念した少年を見つめ、ため息と共に姿勢を直す勇儀。

 

勇儀「…じゃあ、行ってくるよ」

 

一時の別れを惜しむ様に言葉を残しながら、少年に背を向ける勇儀。以前は勇儀の仕事場まで一緒に通っていた『寂しがり屋』。その『寂しがり屋』が今は仕事へと向かう勇儀を見送っている。

 当時は頭を抱えていた勇儀だったが、

 

勇儀「少し、寂しいな…」

 

心の声が口から溢れていた。このままでは支障が出かねない。そんな時は…。再び少年の方を振り向き、

 

勇儀「んっ!」

 

少年の顔まで頬を突き出し、元気の源の『おねだり』。

 

大鬼「えー…、恥ずかしいよ…」

勇儀「誰も見てないって、ほら早く!

   遅れちまうよ」

 

少年は顔を赤くし、ゆっくりと勇儀の頬に顔を近づけ、

 

 

チュッ。

 

 

優しく口付けをした。

 

勇儀「ん〜〜〜っ!!」

 

その瞬間、勇儀は体を「ゾクゾクッ」と震わせ、内から湧き出て来る不思議な力を感じた。

 

勇儀「よしっ!今日も仕事頑張るぞ!

   じゃあ、行ってくるよ!」

大鬼「うん、いってらっしゃい!」

 

今度は力一杯の大きな笑顔で、先程と同じ言葉を残して仕事へと向かう勇儀。

 そして、その笑顔に負けないくらいの笑顔で、少年は彼女を送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが勇儀が歩き始めたところで、

 

 

トンッ。

 

 

彼女の体が何かにぶつかった。彼女が違和感の正体を確認するため、視線を下に向けると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「ブツブツブツブツ…」

 

ブツブツと何か呟いているショートヘアの金髪の少女が。妬みがあるところに彼女あり、一応『橋姫』水橋パルスィだった。

 パルスィが何を言っているのか分からない勇儀だったが、嫌な予感はしていた。そしてそれは的中していた。徐々に妖力と共に音量を上げるパルスィ。勇儀の耳にもその言葉がはっきりと聞こえて来た。

 

パル「勇儀のほっぺにチュー…、

   勇儀のほっぺにチュー…。

   勇儀のほっぺにチュー…!

   私だってした事ないのに…、

   私だってした事ないのに…。

   私だってした事ないのに…!

   妬ましい…、

   妬ましい…。

   妬ましい…!

   羨ましい!!」

 

「最後一個違うのが入ったぞ」と突っ込みを入れたかった勇儀だったが、それ以上に…。

 

勇儀「毎度毎度…。いい加減に……」

 

歯を食いしばり、眉間に皺を寄せ、利き手の左手に拳をつくり、怒りを露わにする勇儀。と、そこへ…。

 

大鬼「あっ、パルパルだ」

 

勇儀の背後から何食わぬ顔でヒョッコリと顔を出す少年。タイミングは最悪。

 

 

ブチッ!

 

 

何かが切れる音と共に、橋姫は緑色の瞳を見開き、光を放ちながら妖力を全身から噴き出させた。

 

パル「パルパルパルパルパルパルパルパルパル…」

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「パ!?」

勇儀「しろおおおおぉぉぉーーっ!!」

パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」

 

勇儀に片手で投げ飛ばされる橋姫。

 少年にとってこの光景はもうお馴染み。よく見る光景だった。そして、猛スピードで宙を飛んで行く橋姫に、

 

大鬼「後で遊ぼーねー!!」

 

慣れた様に両手でメガホンを作って、一方通行の約束を交わす少年だった。と、ここまでは日常だった。

 

 

バコーーン!!

 

 

パルスィーの飛んでいった方向から突然聞こえて来た破壊音。見ると砂煙を巻き上げる地底の壁。更に目を凝らして見ると、その中心には…

 

大鬼「パルパル?」

 

大の字で壁に埋まった橋姫の姿が。

 

勇儀「おいおい…、ウソだろ?」

 

自分のやってしまった事に焦り出す勇儀。これまで幾度も彼女を力いっぱい投げて来たが、そこまで到達する事はなかった。いくら勇儀が他の鬼よりも力があるとは言え、今彼女がいる位置から地底の端の壁まで届く事は異常だった。

 

勇儀「何なんだよいったい…」

 

掌を眺め、自身に起きた事を整理する勇儀。だがいくら考えても、その理由が分からず…。

 

勇儀「ん〜、絶好調!」

 

運動を終えた左肩をポキポキと音を立てながら一回転させ、そういう事にした。

 

勇儀「大鬼悪い。パルスィと遊ぶのは…、

   また今度にしてあげてくれ…」

大鬼「うん…。そうする…」

 

悲惨な目にあったパルスィを哀れむ少年だった。

 

大鬼「ユーネェ、それよりも時間大丈夫?」

勇儀「ヤバっ!あーもう!ヤツのせいで…」

 

少年の一言で現実に戻った勇儀。

 そして急に現れたお馴染みの『ヤツ』にブツブツと文句を言いながら、3度目の正直。今度こそ…。

 

勇儀「じゃあ、行ってくるよ!」

大鬼「うん、いってらしゃーい」

 

少年に見送られながら、駆け足で仕事場へと向かう勇儀だった。

 

 

 

 

 

 手を振りながら勇儀を見送った少年。今何をしているのかと言うと…。

 

大鬼「さて、お昼食べたら遊びに行こっと」

 

手を頭の後ろに組んで今日の予定を考えていた。

 

大鬼「パルパルはダメだけど、

   他の『隊員』はどうかな?

   今日は仕事休みかな?んー…」

 

少年が天を見上げて唸っていると、

 

??「おう大鬼。勇儀ちゃんはもう行ったか?」

 

その天を大きな顔で隠す様に、親方様(じぃじ)が上から覗き込んで来た。

 急にこの様に現れられては、身震いと共に驚くところではあるが…。

 

大鬼「あ、じぃじ。今行ったとこー」

 

平然と返事をする肝の座った少年。更にそこへ、

 

??「大鬼、ちょっといいですか?」

 

少年を呼ぶ聞き慣れた声。棟梁様(ばぁば)だった。

 声の主の方へ視線を移す少年。その姿はいつも家にいる時とは違い、化粧を施し、美しい着物に身を包んでいた。

 そして顔しか見えなかった親方様(じぃじ)へ視線を戻し、反り返りながら服を見ると、彼もまた普段は着ていない余所行き用の着物を着ていた。

 

大鬼「あれ?2人ともどっかいくの?」

親方「ああ、会合があってな。

   今から出かけて来る」

棟梁「暫くですが、その間留守を頼めますか?」

 

少年にとって大きな誤算だった。僅かな時間でお手伝いさんが居るとは言え、広い屋敷に一人になってしまう。寂しい上、退屈過ぎて発狂してしまうだろう。

 そう考えた少年の答えは、

 

大鬼「一緒に行く」

 

苦渋の決断だった。

 

棟梁「それは構いませんが…」

親方「いいのか?本当に?」

 

会合の場所は恐らく『あそこ』。少年は気付いていた。その上で決断したのだ。

 

大鬼「うん…」

 

一度自信なさそうに、萎れながら返事をしたが、

 

大鬼「うん!大丈夫!もう負けない!」

 

グッと拳を握りしめ、力強い視線で決意を表した。

 

棟梁「ですが…」

 

少年を心配し、反対をしようとする棟梁様(ばぁば)だったが、彼女の目の前に突然大きな掌が割って入った。

 

親方「いいんだな?」

大鬼「うん!」

親方「負けるなよ?」

大鬼「うん!!」

 

親方様(じぃじ)の問い掛けに、素早く、全力で答える少年。彼の決意は固かった。そして、その意思が伝わった親方様(じぃじ)はニヤリと笑い、

 

親方「じゃあ、一緒に行こう」

 

少年と並んで歩き出した。

 その大きな背中を見つめる一人の女鬼。久しぶりに見た親方様()の男らしい姿に、忘れていた当時の気持ちが込み上げ、

 

棟梁「おまえ〜さん♡」

 

後ろからその幹の様に太い腕に、頬を寄せながらしがみついた。

 

 

ドキーーーッ!

 

 

背後からの不意打ちに顔を赤くして、驚く巨大な鬼。

 

親方「どどどどどーしたのかなー?」

棟梁「いいじゃないさ、たまには♡」

大鬼「……ボク先行こ…」

 

呆れ顔をして先頭を歩いていく、無駄に気の利く少年だった。

 

 

 




毎度毎度パルスィファンの方ごめんなさい。


次回【三年後:負けない】




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