少年8歳。
『いただきます』
今日も一家揃っての朝食。少年の前には一家の底辺、町のNo.2の
家族で会話を楽しみながら進める食事。何気ない良くある日常の風景ではあるが、少年にとってこれ程安心できて、幸せなことは無い。
大鬼「おかわり!」
笑顔で勇儀に空の碗を向け、次の飯の要求する大食い少年。
勇儀「はいはい」
大鬼「おっかわり♪おっかわり♪」
少年は今日も元気一杯だ。
--小僧食事中--
食事と身支度を終え、少年と勇儀は屋敷の門に来ていた。
勇儀「じゃあ、行って来るな」
この日、勇儀は出勤の日。
大鬼「いってらっしゃーい」
笑顔で手を振りながら、勇儀を見送る少年。
以前は勇儀の仕事場へ「絶対一緒に行く」と駄々をこねていたが、ここ最近ではそれも無くなり、屋敷で勇儀の帰りを待つ事が増えて来ていた。
勇儀「
ちゃんと聞くんだよ」
大鬼「はーい」
勇儀「それと遊びに行くなら
それかお手伝いさんに言ってから行きなよ」
大鬼「はいはーい」
心配する勇儀の言葉に、慣れた返事をする少年。
少年は留守番をする毎に、何度も言われている事なので、「それくらい分かってる」とも思ってもいた。ここまではいつも通り。後は再び勇儀に笑顔で「いってらっしゃい」と言えば終わりだった。
勇儀「あっ、あと…」
しかし視線を上に向け、何かを思いついた彼の保護者。
大鬼「まだ何かあるの?」
肩を落として、呆れ顔で尋ねる。
勇儀「遊びに行くのはいいけど…、
喧嘩はするなよ?」
睨み付ける様に最後の『約束』を取り付ける保護者。
大鬼「えー…。でもそれは…」
保護者から視線を外らせて、これ以上面倒な事にならない様に、その場を逃れようとする少年だったが…。
勇儀「いいな!?」
顔を少年の目の前まで寄せ、鋭い目で強引に視線を合わせる保護者だった。
「こうなってはもう逃げられない」と悟った少年は、
大鬼「はーい」
その場逃れの気の無い返事をした。
勇儀「『約束』だからな!!」
だがそんな少年の心中を察してでもいる様に、更に語尾を強調して、念を押す様に詰め寄る保護者。少年と保護者の額は仲良くぶつかっていた。
大鬼「は、はーい…」
威圧感と頭上に伸し掛かる角の重みに耐えながら、渋々約束を交わす少年。
返事をするも、未だに離れてくれない保護者に、
大鬼「も、もう分かったから…。
いってらっしゃーい」
苦笑いを浮かべ、離れてくれる様、懇願した。
観念した少年を見つめ、ため息と共に姿勢を直す勇儀。
勇儀「…じゃあ、行ってくるよ」
一時の別れを惜しむ様に言葉を残しながら、少年に背を向ける勇儀。以前は勇儀の仕事場まで一緒に通っていた『寂しがり屋』。その『寂しがり屋』が今は仕事へと向かう勇儀を見送っている。
当時は頭を抱えていた勇儀だったが、
勇儀「少し、寂しいな…」
心の声が口から溢れていた。このままでは支障が出かねない。そんな時は…。再び少年の方を振り向き、
勇儀「んっ!」
少年の顔まで頬を突き出し、元気の源の『おねだり』。
大鬼「えー…、恥ずかしいよ…」
勇儀「誰も見てないって、ほら早く!
遅れちまうよ」
少年は顔を赤くし、ゆっくりと勇儀の頬に顔を近づけ、
チュッ。
優しく口付けをした。
勇儀「ん〜〜〜っ!!」
その瞬間、勇儀は体を「ゾクゾクッ」と震わせ、内から湧き出て来る不思議な力を感じた。
勇儀「よしっ!今日も仕事頑張るぞ!
じゃあ、行ってくるよ!」
大鬼「うん、いってらっしゃい!」
今度は力一杯の大きな笑顔で、先程と同じ言葉を残して仕事へと向かう勇儀。
そして、その笑顔に負けないくらいの笑顔で、少年は彼女を送り出した。
だが勇儀が歩き始めたところで、
トンッ。
彼女の体が何かにぶつかった。彼女が違和感の正体を確認するため、視線を下に向けると…。
??「ブツブツブツブツ…」
ブツブツと何か呟いているショートヘアの金髪の少女が。妬みがあるところに彼女あり、一応『橋姫』水橋パルスィだった。
パルスィが何を言っているのか分からない勇儀だったが、嫌な予感はしていた。そしてそれは的中していた。徐々に妖力と共に音量を上げるパルスィ。勇儀の耳にもその言葉がはっきりと聞こえて来た。
パル「勇儀のほっぺにチュー…、
勇儀のほっぺにチュー…。
勇儀のほっぺにチュー…!
私だってした事ないのに…、
私だってした事ないのに…。
私だってした事ないのに…!
妬ましい…、
妬ましい…。
妬ましい…!
羨ましい!!」
「最後一個違うのが入ったぞ」と突っ込みを入れたかった勇儀だったが、それ以上に…。
勇儀「毎度毎度…。いい加減に……」
歯を食いしばり、眉間に皺を寄せ、利き手の左手に拳をつくり、怒りを露わにする勇儀。と、そこへ…。
大鬼「あっ、パルパルだ」
勇儀の背後から何食わぬ顔でヒョッコリと顔を出す少年。タイミングは最悪。
ブチッ!
何かが切れる音と共に、橋姫は緑色の瞳を見開き、光を放ちながら妖力を全身から噴き出させた。
パル「パルパルパルパルパルパルパルパルパル…」
ガッ!(パルスィの服を掴む音)
パル「パ!?」
勇儀「しろおおおおぉぉぉーーっ!!」
パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」
勇儀に片手で投げ飛ばされる橋姫。
少年にとってこの光景はもうお馴染み。よく見る光景だった。そして、猛スピードで宙を飛んで行く橋姫に、
大鬼「後で遊ぼーねー!!」
慣れた様に両手でメガホンを作って、一方通行の約束を交わす少年だった。と、ここまでは日常だった。
バコーーン!!
パルスィーの飛んでいった方向から突然聞こえて来た破壊音。見ると砂煙を巻き上げる地底の壁。更に目を凝らして見ると、その中心には…
大鬼「パルパル?」
大の字で壁に埋まった橋姫の姿が。
勇儀「おいおい…、ウソだろ?」
自分のやってしまった事に焦り出す勇儀。これまで幾度も彼女を力いっぱい投げて来たが、そこまで到達する事はなかった。いくら勇儀が他の鬼よりも力があるとは言え、今彼女がいる位置から地底の端の壁まで届く事は異常だった。
勇儀「何なんだよいったい…」
掌を眺め、自身に起きた事を整理する勇儀。だがいくら考えても、その理由が分からず…。
勇儀「ん〜、絶好調!」
運動を終えた左肩をポキポキと音を立てながら一回転させ、そういう事にした。
勇儀「大鬼悪い。パルスィと遊ぶのは…、
また今度にしてあげてくれ…」
大鬼「うん…。そうする…」
悲惨な目にあったパルスィを哀れむ少年だった。
大鬼「ユーネェ、それよりも時間大丈夫?」
勇儀「ヤバっ!あーもう!ヤツのせいで…」
少年の一言で現実に戻った勇儀。
そして急に現れたお馴染みの『ヤツ』にブツブツと文句を言いながら、3度目の正直。今度こそ…。
勇儀「じゃあ、行ってくるよ!」
大鬼「うん、いってらしゃーい」
少年に見送られながら、駆け足で仕事場へと向かう勇儀だった。
手を振りながら勇儀を見送った少年。今何をしているのかと言うと…。
大鬼「さて、お昼食べたら遊びに行こっと」
手を頭の後ろに組んで今日の予定を考えていた。
大鬼「パルパルはダメだけど、
他の『隊員』はどうかな?
今日は仕事休みかな?んー…」
少年が天を見上げて唸っていると、
??「おう大鬼。勇儀ちゃんはもう行ったか?」
その天を大きな顔で隠す様に、
急にこの様に現れられては、身震いと共に驚くところではあるが…。
大鬼「あ、じぃじ。今行ったとこー」
平然と返事をする肝の座った少年。更にそこへ、
??「大鬼、ちょっといいですか?」
少年を呼ぶ聞き慣れた声。
声の主の方へ視線を移す少年。その姿はいつも家にいる時とは違い、化粧を施し、美しい着物に身を包んでいた。
そして顔しか見えなかった
大鬼「あれ?2人ともどっかいくの?」
親方「ああ、会合があってな。
今から出かけて来る」
棟梁「暫くですが、その間留守を頼めますか?」
少年にとって大きな誤算だった。僅かな時間でお手伝いさんが居るとは言え、広い屋敷に一人になってしまう。寂しい上、退屈過ぎて発狂してしまうだろう。
そう考えた少年の答えは、
大鬼「一緒に行く」
苦渋の決断だった。
棟梁「それは構いませんが…」
親方「いいのか?本当に?」
会合の場所は恐らく『あそこ』。少年は気付いていた。その上で決断したのだ。
大鬼「うん…」
一度自信なさそうに、萎れながら返事をしたが、
大鬼「うん!大丈夫!もう負けない!」
グッと拳を握りしめ、力強い視線で決意を表した。
棟梁「ですが…」
少年を心配し、反対をしようとする
親方「いいんだな?」
大鬼「うん!」
親方「負けるなよ?」
大鬼「うん!!」
親方「じゃあ、一緒に行こう」
少年と並んで歩き出した。
その大きな背中を見つめる一人の女鬼。久しぶりに見た
棟梁「おまえ〜さん♡」
後ろからその幹の様に太い腕に、頬を寄せながらしがみついた。
ドキーーーッ!
背後からの不意打ちに顔を赤くして、驚く巨大な鬼。
親方「どどどどどーしたのかなー?」
棟梁「いいじゃないさ、たまには♡」
大鬼「……ボク先行こ…」
呆れ顔をして先頭を歩いていく、無駄に気の利く少年だった。
毎度毎度パルスィファンの方ごめんなさい。
次回【三年後:負けない】