東方迷子伝   作:GA王

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三年後:張り切り過ぎたかも…

鬼①「うおっ!?なんじゃこりゃ!」

親方「ありゃりゃ、コイツは酷い」

鬼②「大丈夫かのぉ…」

医者「カッカッカ。

   大鬼のヤツ派手に暴れた様じゃな」

 

続々と現れる会合の出席者達。多くの者が目の前に広がる悲惨な光景に驚き、立ち止まる中、屋敷の主人の下へ慌てて駆け寄る1人の鬼が。

 

棟梁「古明地さん、本当にごめんなさい。

   大鬼がとんだご無礼を…」

 

少年の頭を鷲掴みにし、強引に一緒に頭を下げさせる棟梁様。少年とさとりは既に一定の距離を保ち、少年がさとりの背を眺める様にして立っていた。

 棟梁様の謝罪に反応を示さず、ただ俯いて直立したままの覚り妖怪。

 

棟梁「古明地さん?」

 

なかなか反応しない覚り妖怪を不思議に思い、もう一度声をかける棟梁様。すると今度は気付いた様で棟梁様の方へ振り向き、

 

さと「大丈夫ですよ。みんなで仲良く遊んでただけ

   みたいなので。みんなこんな感じですけど、

   ちゃんと元気ありますから。

   まだまだ遊びたいとも言ってますよ」

  『⦅いやいや、それは流石に…⦆』

棟梁「でもかなり参っている様に見えますけど…」

  『⦅そうなんです!⦆』

さと「そんな事無いですよ。大鬼君が満足するまで

   遊びたいって言ってますよ。ね?みんな?」

 

「お気になさらず」と着色して答えた後、再びペット達の方へ振り返った。同意を求める鋭い視線で。

 

  『⦅えーーーっ!?⦆』

 

主人が何を考えているのか全く理解出来ない彼女のペット達。だがその目は本気。逆らえば本気で狩られる。彼らはそう本能的に察知した。ここは安全第一。全員の意見が一致した。

 

 

ニンマリー…

 

 

姿勢を正し、笑顔の仮面を被るペット達。

 

棟梁「はー…、そうですか…。

   でも今日はお暇いたします。

   皆さんありがとうございます。

   大鬼ももう十分でしょ?」

大鬼「え?あ、うん…」

  『⦅助かったー…⦆』

 

棟梁様からさとりのペット達への配慮。ペット達も「これでゆっくり休める」と、心から安堵した。全てが丸く収まった。誰もがそう思っていた。

 

さと「え…、そんな…」

 

その結果に物足りなさそうな表情を浮かべる主人。すると主人は続けて、

 

さと「大鬼君さえ良ければ…」

  『⦅おいおいおいおい⦆』

 

またとんでもない事を言い始めた。その後に続く言葉を予期した彼らに寒気が走った。だが、

 

さと「…ムグッ!?」

 

「それ以上いけない」と主人の口を塞ぐ者が。

 

お燐「大鬼君さえ良ければまたおいでだってニャ。

   またみんなで遊ぼうニャ」

さと「ンーッ!ンーーッ!」

 

主人の言葉を代弁するお燐。主人の様子から嫌な予感がして、背後でスタンバイしていたのだ。そして腕の中で彼女を睨みつけながら暴れ回る主人。お燐の言葉は主人のいうよりもどちらかと言えば…。

 

大鬼「うん!また来るね」

  『⦅取り敢えず助かった…⦆』

 

少年と次回遊ぶ事を約束し、その場を平和的に沈めたお燐。「ホッ」とため息を一つつき、主人を解放した。

 

さと「お燐!あなたなんて事を!私そんな事…」

 

お燐の方へ振り返り顔を近づけ、彼女だけに聞こえる程の小さな声で話し始めた。

 

さと「私は…」

お燐「さとり様。これ以上引き止めると逆に不審に

   思われるニャ。ここは次に会う約束をしてお

   いた方が賢明ニャ」

 

そんな主人に作戦を耳打ちする賢いペット。主人は彼女の意見に「それもそうか」と納得し、小さく頷き口を開いた。

 

さと「大鬼君、また来て下さいね。

   何なら明日でもいいですよ」

  『⦅どうしてそうなる!?⦆』

さと「美味しいおやつと飲み物用意しておくから」

  『⦅いやいやいやいや待て待て待て待て⦆』

 

笑顔で大鬼との再会を、明日にセッティングしようとするせっかちな主人。それはせっかちと言うよりも、もはや暴走。周りが見えず、一人突っ走る主人をペット達は止める事が出来ずにいた。

 

棟梁「ふふ、古明地さんは大鬼の事が

   余程気に入った様ですね」

 

棟梁様の言葉に彼女はふと我に返り、初めて気付かされた。

 

出会ったばかりの大っ嫌いな子供に、

気にしている事を大声で言われたムカつく子供に、

ボケっ子と呼んでいた子供に、

背後から泣きつく様に抱きしめられたこの子供に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心を踊らされていると。

 

さと「えーーーっ!!」

 

火照った顔を覆い隠し、その場で縮こまる少女。気付いてしまっては、もう彼の事を直視出来なかった。

 

さと「(ちがう!ちがう!そんなはずない!)」

 

必死に理性で自分の気持ちに抵抗する少女。頭を左右に振り、あり得ない感情を捨て様としていた。

 

棟梁「えっと、古明地さん?」

 

様子がおかしい地霊殿の主人に、恐る恐る声をかけてみる棟梁様。

 

さと「はひっ!?」

棟梁「せっかくのご好意ですが、

   明日はちょっと予定がありまして…」

さと「え…」

 

棟梁様からの丁寧な断りに再び残念そうな顔を見せる主人。しかしそれだけでは無かった。

 

棟梁「それに大鬼がまたこちらに来れるかは…。

   ご存知の通り大鬼はその…」

 

棟梁様の言葉に、はっと気付かされた。大鬼はこの屋敷の前で事故にあっている事を。それがトラウマになっている事を。

 今日は頑張って立ち向かって来れた。しかし深い心の傷は一度や二度で克服出来る程、容易い物ではない。それは覚り妖怪である彼女がよく知っていた。

 そして、彼女の気持ちは大きく動かされた。

 

さと「その件ですが、私に任せては頂けませんか?」

 

少年の力になりたいと。立ち上がって真っ直ぐに棟梁様を見つめる覚り妖怪。

 

棟梁「それはいったいどういう…」

 

覚り妖怪の提案の意味が分からず首を傾げる棟梁様。そんな彼女に覚り妖怪は真剣な顔で答え始めた。

 

さと「私は覚り妖怪です。心を読む事ができます。

   そしてその能力の発展で、トラウマを思い起

   こさせる事も出来るんです。それでこの力を

   使って、大鬼君を治してあげたいんです」

 

棟梁様から視線を外さず「必ず治す」と瞳で決意を語る覚り妖怪。とそこに、

 

医者「カッカッカ」

 

お馴染みの笑い方で入ってきたご老体。

 

医者「ええんじゃないか?大鬼どうじゃ?

   また一人でここに来れるか?」

大鬼「え?一人で?」

 

医者からの問いに、目を泳がせて不安な表情を浮かべる少年。

 またここに来なければならない、しかも一人で。正直自信が無かった。親方様(じぃじ)のおかげで、少年の心は以前よりも遙かに楽になっていた。とはいえ、やはり出来る事ならば、もうここへは近付きたくないと思っていた。

 

医者「ならワシの所でやるか。

   嬢ちゃん場所は分かるか?」

さと「へ?あ、はい。分かります」

 

地霊殿の主人を嬢ちゃんと呼ぶ診療所の医者。慣れていない呼ばれ方に、一瞬自分の事だと気付かず反応が遅れる主人。

 

大鬼「え…、またなの?」

医者「カッカッカ。そうなるの」

 

「ガクッ」と肩を落とし、背中を丸める少年。

 不味くて苦い薬を卒業した少年だったが、ある事がきっかけで、数ヶ月前まで診療所へ通っていた。それも最近ようやく落ち着き、もう診療所へは行かなくて済む。そう思っていた矢先の通院延長のお知らせだ。ショックを通り越して飽き飽きといった様子の少年に、

 

医者「それと大鬼、そろそろ来るぞ」

 

謎の予告。

 

さと「来るって何が…」

 

医者の言葉の意味が分からず、彼に聞き返そうとした時、

 

大鬼「うわーーーーっ!」

 

突然少年が体を痙攣させながら悲鳴を上げ、

 

大鬼「いてててててててっ」

 

その場にうつ伏せに倒れ込んで悶絶し始めた。

 少年の急変に驚きを隠せない地霊殿一同。

 

お燐「大鬼君!?大丈夫かニャ!」

獅子「(小僧!どこが痛いんだ?)」

蛇 「(おいおい…)」

 

ペット達は慌てて少年の下へ集まり、心配そうに見つめ始めた。そしてそれは主人も同じ。

 

さと「どうしたの!?どこか怪我を…」

 

一気に焦り出す主人。

 先程、蛇に巻き付かれた事で「やはり怪我を負わせてしまっていたのでは?」と彼女は思った。すると彼女の隣にいた鬼が口を開いた。

 

医者「あー、筋肉痛じゃよ」

  『へ?』

 

医者から語られた症状。筋肉痛。その言葉に呆気に取られ、目を点にする地霊殿一同。そんな者達に説明を加える。

 

医者「大鬼のヤツ、馬鹿力使ったじゃろ?

   まだ体が出来てないからの。

   反動がでかいんじゃ」

さと「そんな事って…。それに人間の子供に

   何でこんな力が…」

 

そこまで話して覚り妖怪は思い出した。さっき棟梁様の心を読んだ時の当時の出来事を。

 そんな彼女の様子を鋭い視線で見つめる当時の被害者。そして口を開いた。

 

医者「そうか。嬢ちゃん知ってしまったんじゃな」

さと「何故そう思うのですか?」

 

彼の言葉に冷静を装って言葉を返す覚り妖怪。

 心を読めない者に、自分の考えている事が分かるはずがない。そう思っていた。

 

医者「ワシにも嬢ちゃんと似た能力があってな。

   脈拍、呼吸、体温が一目でわかるんじゃよ。

   嬢ちゃん今動揺して脈拍が早くなっとるよ」

 

 この年老いた鬼の能力『診る程度の能力』。これによって彼はウソ発見器の様に、覚り妖怪の考えていることを見抜いたのだ。

 詰めが甘かった。覚り妖怪はそう思った。と同時にこの時初めて気が付かされた。

隠し事が出来ないとは、こんなにもやり辛いのかと。心を読める彼女は駆け引き等では、常に優位な立場にいれた。

 それが今、目の前の御老体によって立場を逆転されたのだ。

 

さと「うぐっ…」

 

これ以上ボロを出すのは危険と悟り、覚り妖怪は口を閉ざした。

 

医者「カッカッカ。そう身構えんでええよ。

   だからと言って、どうこうするつもりも

   無いんでな」

さと「はー…」

医者「取り敢えず嬢ちゃんの力、

   どんな感じか見せてくれるかの?」

 

御老体の指示に覚り妖怪は返事を返し、床で寝転がっている少年に歩み寄った。そして、その場にしゃがみ込み、胸元の第三の目を掌に乗せて少年の顔に近付けた。

 

さと「大鬼君、この目をジッと見てて」

 

見つめ合う少年と第三の目。程無くして、覚り妖怪は呪文を唱える様に呟いた。

 

さと「『テリブルスーヴニール』」

 

少年の苦い思い出を浮かばせる覚り妖怪。

 数ある物の中から、色濃く残る当時の事件の記憶を見つけた。「コレがそうだ」と彼女が確信した。とその時。

 

さと「(ん?あれは…)」

 

更に深い所にある(くす)んだ黒い記憶の存在に気が付いた。そして彼女は見た。そこに強調される5つの文字を。『電車』『音』『暗闇』そして『目』と『女』。更に詳しく知ろうと、その記憶に触れようとした時、

 

 

バーン!

 

 

高電圧の電気回路がショートしたかの様な衝撃と、目に焼きつく様な火花が。それと共にその記憶は跡形も無く消え去った。

 

 

 





次回【三年後:またね】

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