東方迷子伝   作:GA王

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みんなでご飯

??「姐さん、持って来ました!」

 

 家で夕食を作っていると、両手に袋を持ち背中に大きな荷物を背負い、まるで旅の商人の様な格好をした影が玄関の襖に映った。鬼助だ。昼休みに話していた布団を持って来てくれたのだろう。

 

勇儀「開いてるから勝手に入って来ていいぞ」

鬼助「へい! おじゃまさせて頂きます。よっと、ここ置いておきますね。あと、コレ。御袋に事情話したら、持って行けって」

勇儀「あー、あったなこんなの。それと食べ物までこんなに……。御袋さんによろしく伝えておくれよ」

 

 鬼助は布団と一緒に漬物や煮物、野菜等の食べ物の他に、ダイキ用にと玩具まで持って来てくれていた。

 

勇儀「よくあったなぁ」

鬼助「オイラもビックリしましたよ。昔オイラ達が使っていた玩具が、全部残っていたんですよ。中には傷が酷いのがあったので、ましなヤツだけ持って来ました」

勇儀「本当にありがとう。おーいダイキ! 鬼助がいい物持って来てくれたぞー」

 

 この場にはいないダイキに聞こえる様に、大きな声で呼んでやる。家に帰ってから「何か手伝う」と意気込んでいたので、風呂の支度をさせていた。

 

ダイ「なに? うわー、これ全部くれるの?」

 

 ダイキは鬼助が持って来た玩具を見て、案の定目を輝かせていた。

 

鬼助「おぅ、オイラが昔使っていたヤツだ。もう使わないからやるよ」

ダイ「ありがとうございます」

鬼助「へへっ、そうだコレ知ってるか?」

ダイ「けん玉?」

鬼助「正解、じゃあちょっと見てろよ」

 

弟分はそう言ってけん玉を手に取ると、

 

カッ♪ コッ♪ カッ♪ コッ♪

 

 リズム良く玉を皿から皿へと移動させ始めた。

 

勇儀「へー、上手いじゃないか」

鬼助「昔相当やりましたからね」

ダイ「やりたいやりたい、かしてかして!」

鬼助「ほれ、大事に使いな」

 

 両手を前に突き出し強請(ねだ)るダイキに、弟分は使い古したけん玉をゆっくりと手渡した。

 

 

ズンッ…!

 

 

 その瞬間ダイキの手が一気に下へと沈み、小刻みに震え出した。

 

ダイ「何これ!? けん玉ってこんなに重いの?」

  『は?』

 

 鬼助が持って来たのは鬼の子供達が遊びでよく使う一般的な物だ。それをダイキが重いと感じるという事は、鬼と人間には小さい頃からそれだけ力の差があるという事だろう。これは他にも苦労する事が出て来そうだ。

 

勇儀「よし、それじゃあ今日からダイキはそいつで特訓だ」

鬼助「いいですねそれ。そんじゃ、まずはそれで()()()()出来る様に頑張れ」

 

 モシカメとは音楽に合わせて、けん玉で皿から皿へ玉を移動させる遊びだ。私も昔はよく挑戦したが、いつも最後まで出来なかった記憶がある。どうもあの手の遊びは苦手なんだよな……。

 

鬼助「モシカメ出来る様になったら『世界一周』とか教えてやるよ」

ダイ「う、うんがんばる……」

 

 両手で一生懸命にけん玉の重みに耐えるダイキの姿に、きっと鬼助も私と同じ事を思っただろう。「まずは片手で持てる様に頑張れ」と。

 

勇儀「あ、そうだ鬼助。夕飯食べて行くか?」

鬼助「え゛っ!?」

勇儀「まだ食べてないんだろ? 丁度いいから食って行けよ」

鬼助「……あの、(ちな)みに今日の献立は?」

勇儀「焼き魚と米と味噌汁だ。あとお前さんのお袋さんが作ってくれた煮物だな」

鬼助「あの……魚はもう焼かれたんで?」

勇儀「これからだ。味噌汁も今から作る」

鬼助「魚は是非オイラにやらせてください! 味噌汁……、困った……。」

勇儀「あっ? 今なんか言ったか?」

鬼助「いえ、何でもないです! はい……」

 

 様子のおかしい鬼助を目を細めて見ていると、ダイキが何かに気付いたように玄関へと歩き出した。

 

ガラッ……

 

??「パッ!? な、なによ……」

 

 また来ていた。

 

勇儀「お前さんは()りないようだなぁ」

 

 いまひとつ反省の色が見えない()()に拳を鳴らしながら近づいて行くと、

 

鬼助「姐さん、ちょっと! 少しだけコイツと話しをさせて下さい!」

 

 弟分が慌てた様子でパルスィを引き連れ、何処かへと去っていった。

 

 

--5分後--

 

 

鬼助「姐さん、コイツも夕飯を一緒にさせてはくれませんか?」

勇儀「はあぁーーーっ!?」

 

 弟分からのまさかの申し出に、耳を疑った。「いったい2人で何を話していたんだ?」と疑問に思っていると、弟分が更に話し始めた。

 

鬼助「なんでも、コイツは姐さんとダイキが仲良くしているのが、(うらや)ましかっただけらしいんです」

 

 そうなのか? イヤイヤ、違うだろ。

 

鬼助「それに今日夕飯を一緒に出来れば、もう家は覗かないって言っています」

 

 こちらとしては願ってもない提案だ。ここは強く念を押す必要がある。

 

勇儀「本当か? 約束守れるのか? 鬼と約束をするんだ。それなりの覚悟はあるんだろうな!?」

パル「約束します」

勇儀「それと、ダイキにも手を出すなよ?」

パル「……………………………………………はい」

 

 おい、今の間はなんだ?

 

勇儀「ダイキはいいか?」

ダイ「うん、へーき」

鬼助「じゃ、じゃあ早速……。そ、そうだー。ただ食べるだけじゃ失礼だよねー。ねー、パルスィー」

パル「う、うんー。私も何かお手伝いしたいなー。あー、まだお味噌汁作ってないんだー。じゃ、じゃあ私が作ろーっと」

勇儀「は? お前さん達何を言って……」

鬼助「そーだー、それがいいー。って事で姐さんはダイキと遊んでいて下さい」

ダイ「やったぁ! ユーネェ遊ぼ♪」

勇儀「お、おお。まあお前さん達がそれでいいって言うなら……。なんかすまないね」

 

 

グッ! ×2

 

 

 おい、2人共。その拳の意味は何だ?

 

 

--小僧等食事中--

 

 

ダイ「美味しかったぁー、焼き魚サイコー!」

鬼助「あれ、オイラが焼いたんだぞ。焼き加減絶妙だろ?」

勇儀「確かに美味かったよ。鬼助料理するのか?」

ダイ「いえ、大それた物は無理です。オイラに出来るのは『焼く』だけです」

パル「ぁの、私の、味噌汁……」

 

 チラチラと私の顔色を伺いながら、パルスィが小声で自分の料理の出来栄えを尋ねてきた。具の少ない簡単な味噌汁だったが、

 

勇儀「あー、美味かったよ。ありがとう」

 

 思った事をそのまま感謝の言葉と共に送った。

 

パル「パ〜☀︎」

 

 するとパルスィの表情が明るくなり、何かの余韻に浸っていた。コイツこんな顔もするのか……。

 

鬼助「ただ、ダイキは自分で魚食べたれるようになれよな。オイラが骨を全部取ったんだぞ?」

勇儀「あはは、そうだな。それも特訓だな」

パル「骨を取ってもらえるなんて、妬ましい」

  『どこが?』

 

 パルスィのひょんな言葉に、私達3人は同じ反応をしてしまった。ただその事が可笑しくて、思わずみんな揃って声を出して笑った。

 

勇儀「なんかこういうの久しぶりだけど、いいものだな。やっぱり食事は大勢の方が楽しいよ」

ダイ「うん、キスケとパルパル来てくれてありがとう」

パル「え? パルパル? 私の事?」

勇儀「あははは、ダイキいいぞ。お前さん面白い名付けの才能があるぞ」

鬼助「なのにオイラは呼び捨てだと……」

パル「私も名前で呼んで欲しい……」

勇儀「いいじゃないか、パルパルー」

パル「勇儀になら、呼んでもらってもいいかも……」

勇儀「あっ? もう呼ばないよ」

ダイ「パルパル、ダメ?」

 

 首を傾げて上目遣いでパルスィにおねだりをするダイキ。これは流石に計算された物だろう。だが思いのほかコレが有効だったようで、

 

パル「うっ、そういうの妬ましいわ」

 

 パルスィは頬を赤らめ、それを隠すように他所へと視線を移した。ダイキ……、程々にな。

 食後の一休みを終え、後片付けをしていると、ふと昨日友人に偶然会った事を思い出した。

 

勇儀「そういえば、昨日萃香が来てたんだよ」

鬼助「そうなんですか? じゃあダイキも会っているんですか?」

勇儀「そうそう、ダイキの親を探すのを手伝ってもらう事になったんだよ」

鬼助「へー、萃香さんが人間の子供の親を? なんか意外というか、なんというか」

勇儀「その経緯は色々あるんだよ。な〜、ダイキ?」

 

 ダイキの方へ振り向きながら声をかけると、案の定顔を真っ赤にして硬直していた。

 

鬼助「ダイキ? どうした?」

勇儀「ふっふっふ、萃香ちゃんなんだよなー?」

ダイ「ユーネェ!」

鬼助「はあ!? 萃香()()()? 怒られるぞ?」

勇儀「でもそうじゃないんだよなー?」

ダイ「もー、ユーネェ! 怒るよ!」

 

 このネタはもう暫く使えそうだ。ダイキには悪いが、おもしろい。なにより私の大好物だ。

 

パル「嫉妬の臭いがして……」

勇儀「ないから!」

 

 背後から気配を感じさせること無く突然現れるパルスィ。コイツはいちいちこういう事に鼻が利きやがる。それこそほんの些細(ささい)なものでも。

 

勇儀「それで明後日こっちに来てもらって、中間報告を聞く事になってる」

鬼助「明後日って事は、その日は一斉休日ですね。そうだ! みんなで焼肉会しませんか?」

勇儀「いいなそれ! 現場の連中全員でやろう!」

鬼助「予定入れられると集まらないんで、今日中に周知させておきたいですね」

勇儀「となると……、あそこか」

鬼助「あそこでしょうね。それに姐さん、あの日の勝ち分どうするんですか?」

 

 その瞬間、今まで私の記憶に引っ掛かっていた物の正体が(あらわ)になった。

 

勇儀「そうだった! すっかり忘れていたよ。でも、ダイキを連れては行けないし……」

 

 思い出したのは良いが、どうやって貰いにいけばいいか悩んでいると、弟分がダイキの事を気にしながら、耳打ちをする様に小声で話してきた。

 

鬼助「それなら寝付いた後に、こっそりと行けば大丈夫ですよ。それに連絡して勝ち分を貰って帰るだけですよ?」

勇儀「それもそうだな。じゃあダイキが寝付いたら行くとするよ」

 

 その言葉に私も小声で約束を交わして、この日はお開きになった。

 

ダイ「パルパル、キスケまたね」

鬼助「姐さん、ご馳走さまでした」

パル「勇儀とまた一緒に寝られるなんて妬ましい」

勇儀「おい、約束守れよ」

パル「パル……、はい」

 

 弟分が去り際に「またあとで」と口だけ動かし、彼の家の反対方向、賭博場の方へと歩いて行った。

 客人達が去った後、私とダイキはこれまで通りに眠る支度を済ませた。だがこれまでとは違い、今日からはお互い違う布団だ。

 

ダイ「やったー、僕の布団だ」

 

 笑顔で弟分が持って来てくれた布団へと飛び込むダイキ。あまりにも嬉しそうなので()()

 

勇儀「良かったな。でも寂しくなったら、こっちに来てもいいんだぞ?」

 

 からかいたくなる。

 

ダイ「ユーネェ寝相悪いからイヤだ」

 

 真顔で断られた。なかなかの威力。これは効いた。

 

勇儀「そう言わないでおくれよ。悲しくなるじゃないか。ユーネェ泣いちゃうぞ?」

 

 笑顔で明るく振舞っているが、ふざけている訳ではない。これは本音だ。

 

ダイ「でもね……」

 

 そう言うと布団に潜り込み、顔を鼻から上だけを出して、私を見つめながら呟いた。

 

ダイ「大好き」

 

 その言葉は心の底まで響いた。とんでもない威力。これは流石に効きすぎだ。人には見せられない顔になってしまい、咄嗟(とっさ)にダイキに背を向けた。

 

ダイ「ユーネェ?」

勇儀「あ、あぁ……。何でもないよ、大丈夫。それじゃあ、おやすみ」

 

 何事もなかった様にダイキに眠る前の挨拶をし、部屋を温かく照らす行燈(あんどん)の明かりを消した。

 

勇儀「ダイキ、私もお前さんが大好きだ」

 

 

 

 




一人でゆっくり食べる食事も好きですが、
大勢で話しながら楽しく食べるのもかなり好きです。

毎週日曜日の国民的人気アニメの様な
一家みんなで食事をする光景とか本当にうらやましいです。

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