東方迷子伝   作:GA王

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三年後:ボクの友達

 少年には友達がいた。

 

大鬼「隊員!番号!」

女①「1!」

 

笑顔で返事をする隊員No.1。

 

女②「()()()ッ…2」

 

不気味に微笑みながら返事をする隊員No.2。

 

女③「はぁ…3…」

 

面倒臭そうにやる気のない返事をする隊員No.3。

 近頃の少年の遊びと言えば、友人達との冒険ごっこだった。

 

大鬼「よし、全員いるな!

   隊長より皆に連絡事項。

   今日、萃香ちゃんは欠席です」

 

もう一人の隊員の欠席の旨を伝える小さな隊長。

 

女②「フッフッフッ…。今日はお預けか…」

 

その連絡事項に不気味に笑うも、何処か残念と言った様子の隊員No.2。彼女の目当ては別のところにある様だ。

 

女①「隊長!よろしいでしょうか?」

 

手を挙げ、発言の許可を確認する隊員No.1。他の隊員達と比べても、冒険ごっこに一番乗り気で、楽しんですらいた。

 

大鬼「認める!」

女①「今日のご予定は?」

大鬼「秘密基地の補強作業を行う!」

女③「えー…またぁ?」

 

がっくりと肩を落とす隊員No.3。冒険ごっことは言うものの、何処かへ出かけることはほぼなく、だいたいが秘密基地作りをしていた。

 

女①「パルスィー文句言わないの。

   大鬼君が楽しめたら、それでいいじゃない」

パル「せっかくの休みなのに…。妬ましいわ。

   キスメとヤマメは良く付いていけるよね?」

ヤマ「え?だって楽しいじゃない」

パル「もうそのポジティブなところが妬ましいわ」

キス「フッフッフッ…。

   萃香がいればネタはつきない」

パル「妬ましいだけだよ…」

 

隊長を余所に会話をし始める3人の隊員達。すると隊長は、

 

大鬼「ねー、隊長許可出してないんだから、

   勝手に喋らないでよね」

 

見るからに不機嫌な顔をしていた。

 

ヤマ「あはは、ごめんごめん。

   じゃあ秘密基地に行こうか?」

 

 

--小僧移動中--

 

 

 少年達の秘密基地。拾って来た木材で、木の上に簡易的に作られた小屋をベースに、ネットやハンモック、ターザンロープもあり、それは基地というよりも…。

 

パル「どうするの?この遊具…」

 

もはや完全にアスレチック。そしてこの施設の器具の殆どが黒谷ヤマメによる作品である。

 彼女には『程度の能力』とは別に、糸を出す能力があった。その能力を使い、ロープや紐を作り、隊長好みの秘密基地を建設していたのだった。しかも彼女はそれを苦と感じてはおらず、今となっては趣味と化していた。

 

ヤマ「大分仕上がって来たよねー。

   けどまだ作りたい物があるんだよねー」

キス「フッフッフッ…。桶はあるぞ」

 

腕組みをして創作意欲に燃える巨匠。しかし、

 

パル「もうこれ以上テリトリーを広げない方が

   いいと思うけど…」

 

その領域は公園一つ分程度までに膨れ上がっていた。

 流石にもうやり過ぎだろうと、隊員No.3が心配していると、

 

ヤマ「うーむ…。じゃあ質の方で攻めるか…」

 

腕を組んだまま作戦を練り直し始めた巨匠。彼女の創作意欲は底が知れない。

 

大鬼「見て見て!ここもう腕だけで登れるんだよ」

 

自慢気に隊員達を呼び、木の枝から垂れ下がったロープを腕の力だけで登っていく隊長。

 その様子に隊員達は自然に口元が緩んだ。

 

ヤマ「なんかさ。人の成長を見るのっていいよね」

キス「フッフッフッ…。同感。最初なんてあそこ」

 

キスメが桶の中のから手を出して指した場所。それはヤマメ巨匠の処女作。少年の背丈の倍程の岩の上から、ネットを張り巡らせただけの単純な物。

 

パル「上れなかったよね」

ヤマ「そうそう、私達が下から押してあげてさ」

キス「フッフッフッ…。泣いていたし…」

パル「下りられなくてね」

 

思い出話に花が咲く隊員達。

 彼女達がこうして少年と遊ぶ様になったのは、保護者である勇儀からの依頼が発端だった。この町にやって来て間もない少年の「遊び相手になって欲しい」という純粋な願いからだった。しかし、ある期を境に彼女達は少年の見張り役兼、トレーナーとなったのだった。

 

ヤマ「そのうち上れるようにはなったけど、

   なかなか下りられなかったよね。

   抱っこして下ろしてあげてたなー」

キス「フッフッフッ…。私は桶の中」

パル「2人とも甘やかせ過ぎじゃない?

   私は教えながら戻らしたよ」

  『スパルタ!!』

パル「いやいや、普通でしょ?」

 

尚もガールズトークを繰り広げるトレーナー達。と、そこへ…。

 

大鬼「ヤマメー!キスメー!」

 

隊長の彼女達を呼ぶ元気な声。少年はロープを上り終え、更にその上へと上っていた。

 

ヤマ「なにー?」

 

高い所へと上った少年に聞こえる様に、大きな声で返事をするヤマメ隊員。

 

大鬼「ここにブランコ作りたい!」

  『いやいやいやいや…』

 

「流石にそれは危険だろ」と隊長にツッコミを入れる隊員一同。

 

ヤマ「そこは高過ぎるから、

   もう少し低い所にしよー」

大鬼「ふーん…」

 

巨匠の優しい注意に素直に従う少年。

 

大鬼「じゃあここはー?」

 

が、そこはさっきの位置から一段下がっただけ。

 

  『いやいやいやいや…』

 

それでは変わらないと再びツッコミを入れる隊員一同。

 

ヤマ「もっと下かなー…」

 

巨匠の言葉に従い、

 

大鬼「じゃあここ?」

 

また一段だけ下がる少年。

 

  『いやいやいやいや…』

 

と、これを複数回繰り返し…。

 

大鬼「ここー…?」

 

見るからに不服そうな表情の隊長。

 

パル「そこならまあ…」

ヤマ「無難だね」

キス「フッフッフッ…。ようやく落ち着いたか」

 

その位置はごく普通のブランコの高さの2倍程度の高さ。この結果に隊長は不満がある様で…。

 

大鬼「低くない?」

パル「充分でしょ。だいたい高すぎると、

   乗れないでしょ?」

 

パルスィ隊員の言葉に「確かに」と納得する2人の隊員。

 

大鬼「気合いで頑張る!」

 

だが自信満々にそれを根性論で解決しようとする隊長。「その自信はどこから来るんだ」と思いながらも、

 

パル「じゃあもう一段だけだからね」

 

パルスィはため息交じりに許可を出したが、少年はまだ引かなかった。

 

大鬼「もうひとこえ!」

パル「もうダメ」

大鬼「…」

 

「ラスト一段欲しい」少年はそう思っていた。しかし目の前の見張り役の決意は固そう。そこで少年は行動に出た。

 掌を合わせ、その手を傾けた顔に添え、

 

大鬼「おねがい」

 

笑顔でおねだり。少年が最近学んで来たこのポーズに、

 

ヤマ「きゃーっ!可愛いー!」

 

目を輝かせて鼻息を荒くする者、

 

キス「フッフッフッ…。グハッ!」

 

興奮を通り越し吐血する者、

 

パル「そ、そういうのホント妬ましい…」

 

頬を染め視線を外す者。彼女達には効果が抜群の様だ。

 

パル「もう、ないからね」

大鬼「うん!わかった、ありがとう!」

 

少年の交渉勝ち。そう、全ては少年の

 

大鬼「(計画通り)」

 

だった。なぜならそこが本来の希望していた位置。あり得ない高さでの事は全て布石だった。

 いきなり希望通りの位置を言ってしまっては、それよりも低くなるのは目に見えていた。そこで時間をかけ、徐々に下げていき、相手が油断を見せたところで交渉開始。

 実に見事なやり口。天晴れである。

 

 

--遊具製作中--

 

 

ヤマ「ドヤッ!」

 

腰に手を当て、誇らしく胸を張る巨匠。

 

大鬼「おーっ!」

 

出来上がった遊具に目を輝かせ、大満足の少年。

 

キス「フッフッフッ…。桶よ、達者でな」

 

手を合わせ、桶に別れを告げる桶少女。

 キスメが持ってきた桶を縦に真っ二つに切断し、補強を行った後、ヤマメのロープで吊るして完成。

 なんということでしょう。匠の手によってキスメの使い古しの桶が、腰掛け付きのブランコとして生まれ変わったのです。

 

ヤマ「キスメ、あの桶本当によかったの?」

キス「フッフッフッ…。心配ご無用。

   アレはスペア。それに少し小さい」

パル「小さい?少し前までアレにも

   入ってなかった?」

 

 キスメは少女の姿をしてはいるが、もう成長仕切った妖怪。少年の様に背が伸びたりする事はもうない。故に…。

 

ヤマ「あのさ…。キスメ最近ふと…」

キス「それ以上言ったら首を刈る!」

 

目に涙を浮かべ、険しい表情で鎌を構えるキスメ。

 久しぶりに見た本気の友人の姿に、

 

パル「ぷっ…、あははは」

ヤマ「きゃはははは」

 

腹部を押さえて笑い出す2人。

 

キス「わわわわ笑うな!」

パル「やっぱりそうだったんだ。

   なんか最近『女性らしい体系になったな』

   って思っていたんだよ」

キス「はぅー…」

ヤマ「そうそう、今の方が健康的な感じだよ。

   前はガリガリだったから」

キス「はうわぁー…。こんなの私じゃない…」

 

友人達からの一言一言が鋭利な刃物となり、彼女に突き刺さった。

 普段は決して明るいとは言えない性格で、笑顔も不気味な彼女が、珍しく顔を苺の様に赤く染めていた。

 

ヤマ「きゃーー!キスメが可愛いー♡」

 

友人のギャップにやられ、抱きつき頬擦りをするヤマメ。

 

パル「ヤマキス!妬ましい!

   ヤマキス!妬ましい!

   ヤマキス!妬ましいぃぃ!」

 

そしてその光景をオカズに通常運転に入る橋姫。

 

 

--ヤマキス中--

 

 

キス「もういい加減離して…」

 

 顔の火照りはすっかり無くなり、いかにも迷惑そうな表情を浮かべる桶娘。だがヤマメはそれを止めようとする気配が無かった。

 彼女は友人のシルクの様に肌理(きめ)の細かい肌を「まだまだ堪能していたい」と思っていた。

 

ヤマ「んー?もうすこ…」

キス「フッフッフッ…。ならば首はいらないと?」

 

平常運転へと切り替わったキスメ。くっ付いて離れようとしない友人に、愛用の鎌を見せつけ、不気味に微笑んだ。

 

ヤマ「はい、やめまーす」

 

両手をあげ、降参のポーズを取るヤマメ。

 

パル「だからキスメ気にすることないよ」

 

時を同じく、冷静(賢者タイム)になった橋姫。自然に話題を先程の軸に戻した。

 

キス「フッフッフッ…。

   でもこれ以上は阻止したい…」

ヤマ「じゃあ桶から出て大鬼君と遊んだら?」

 

ヤマメのナイス提案。

 

パル「そうだよ。それなら少し痩せるかもよ」

 

年中桶に入り、ふよふよ浮いているキスメ。そんな彼女に「たまには運動しろ」と優しく誘導する友人達だったが、

 

キス「フッフッフッ…。私が()()と一緒に?」

 

キスメが指差した先には、遊具から遊具へと飛び移り、走しり回る元気な少年の姿が。

 

キス「フッフッフッ…。あんな『赤色の配管工』の

   様な動きを私にしろと?」

ヤマ「あはは…、そうは言わないけど」

パル「今度、亀と土管を持って来ようか?」

ヤマ「いやー、流石にそれは…」

 

少年を見守りながら井戸端会議に夢中になる臨時保護者達。と、その背後から…

 

子鬼「また妖怪と遊んでるのかよ」

 

一人の子供の鬼が近づいて来た。

 

 




次回【三年後:ムカつくアイツ】

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