少年には友達がいた。
大鬼「隊員!番号!」
女①「1!」
笑顔で返事をする隊員No.1。
女②「
不気味に微笑みながら返事をする隊員No.2。
女③「はぁ…3…」
面倒臭そうにやる気のない返事をする隊員No.3。
近頃の少年の遊びと言えば、友人達との冒険ごっこだった。
大鬼「よし、全員いるな!
隊長より皆に連絡事項。
今日、萃香ちゃんは欠席です」
もう一人の隊員の欠席の旨を伝える小さな隊長。
女②「フッフッフッ…。今日はお預けか…」
その連絡事項に不気味に笑うも、何処か残念と言った様子の隊員No.2。彼女の目当ては別のところにある様だ。
女①「隊長!よろしいでしょうか?」
手を挙げ、発言の許可を確認する隊員No.1。他の隊員達と比べても、冒険ごっこに一番乗り気で、楽しんですらいた。
大鬼「認める!」
女①「今日のご予定は?」
大鬼「秘密基地の補強作業を行う!」
女③「えー…またぁ?」
がっくりと肩を落とす隊員No.3。冒険ごっことは言うものの、何処かへ出かけることはほぼなく、だいたいが秘密基地作りをしていた。
女①「パルスィー文句言わないの。
大鬼君が楽しめたら、それでいいじゃない」
パル「せっかくの休みなのに…。妬ましいわ。
キスメとヤマメは良く付いていけるよね?」
ヤマ「え?だって楽しいじゃない」
パル「もうそのポジティブなところが妬ましいわ」
キス「フッフッフッ…。
萃香がいればネタはつきない」
パル「妬ましいだけだよ…」
隊長を余所に会話をし始める3人の隊員達。すると隊長は、
大鬼「ねー、隊長許可出してないんだから、
勝手に喋らないでよね」
見るからに不機嫌な顔をしていた。
ヤマ「あはは、ごめんごめん。
じゃあ秘密基地に行こうか?」
--小僧移動中--
少年達の秘密基地。拾って来た木材で、木の上に簡易的に作られた小屋をベースに、ネットやハンモック、ターザンロープもあり、それは基地というよりも…。
パル「どうするの?この遊具…」
もはや完全にアスレチック。そしてこの施設の器具の殆どが黒谷ヤマメによる作品である。
彼女には『程度の能力』とは別に、糸を出す能力があった。その能力を使い、ロープや紐を作り、隊長好みの秘密基地を建設していたのだった。しかも彼女はそれを苦と感じてはおらず、今となっては趣味と化していた。
ヤマ「大分仕上がって来たよねー。
けどまだ作りたい物があるんだよねー」
キス「フッフッフッ…。桶はあるぞ」
腕組みをして創作意欲に燃える巨匠。しかし、
パル「もうこれ以上テリトリーを広げない方が
いいと思うけど…」
その領域は公園一つ分程度までに膨れ上がっていた。
流石にもうやり過ぎだろうと、隊員No.3が心配していると、
ヤマ「うーむ…。じゃあ質の方で攻めるか…」
腕を組んだまま作戦を練り直し始めた巨匠。彼女の創作意欲は底が知れない。
大鬼「見て見て!ここもう腕だけで登れるんだよ」
自慢気に隊員達を呼び、木の枝から垂れ下がったロープを腕の力だけで登っていく隊長。
その様子に隊員達は自然に口元が緩んだ。
ヤマ「なんかさ。人の成長を見るのっていいよね」
キス「フッフッフッ…。同感。最初なんてあそこ」
キスメが桶の中のから手を出して指した場所。それはヤマメ巨匠の処女作。少年の背丈の倍程の岩の上から、ネットを張り巡らせただけの単純な物。
パル「上れなかったよね」
ヤマ「そうそう、私達が下から押してあげてさ」
キス「フッフッフッ…。泣いていたし…」
パル「下りられなくてね」
思い出話に花が咲く隊員達。
彼女達がこうして少年と遊ぶ様になったのは、保護者である勇儀からの依頼が発端だった。この町にやって来て間もない少年の「遊び相手になって欲しい」という純粋な願いからだった。しかし、ある期を境に彼女達は少年の見張り役兼、トレーナーとなったのだった。
ヤマ「そのうち上れるようにはなったけど、
なかなか下りられなかったよね。
抱っこして下ろしてあげてたなー」
キス「フッフッフッ…。私は桶の中」
パル「2人とも甘やかせ過ぎじゃない?
私は教えながら戻らしたよ」
『スパルタ!!』
パル「いやいや、普通でしょ?」
尚もガールズトークを繰り広げるトレーナー達。と、そこへ…。
大鬼「ヤマメー!キスメー!」
隊長の彼女達を呼ぶ元気な声。少年はロープを上り終え、更にその上へと上っていた。
ヤマ「なにー?」
高い所へと上った少年に聞こえる様に、大きな声で返事をするヤマメ隊員。
大鬼「ここにブランコ作りたい!」
『いやいやいやいや…』
「流石にそれは危険だろ」と隊長にツッコミを入れる隊員一同。
ヤマ「そこは高過ぎるから、
もう少し低い所にしよー」
大鬼「ふーん…」
巨匠の優しい注意に素直に従う少年。
大鬼「じゃあここはー?」
が、そこはさっきの位置から一段下がっただけ。
『いやいやいやいや…』
それでは変わらないと再びツッコミを入れる隊員一同。
ヤマ「もっと下かなー…」
巨匠の言葉に従い、
大鬼「じゃあここ?」
また一段だけ下がる少年。
『いやいやいやいや…』
と、これを複数回繰り返し…。
大鬼「ここー…?」
見るからに不服そうな表情の隊長。
パル「そこならまあ…」
ヤマ「無難だね」
キス「フッフッフッ…。ようやく落ち着いたか」
その位置はごく普通のブランコの高さの2倍程度の高さ。この結果に隊長は不満がある様で…。
大鬼「低くない?」
パル「充分でしょ。だいたい高すぎると、
乗れないでしょ?」
パルスィ隊員の言葉に「確かに」と納得する2人の隊員。
大鬼「気合いで頑張る!」
だが自信満々にそれを根性論で解決しようとする隊長。「その自信はどこから来るんだ」と思いながらも、
パル「じゃあもう一段だけだからね」
パルスィはため息交じりに許可を出したが、少年はまだ引かなかった。
大鬼「もうひとこえ!」
パル「もうダメ」
大鬼「…」
「ラスト一段欲しい」少年はそう思っていた。しかし目の前の見張り役の決意は固そう。そこで少年は行動に出た。
掌を合わせ、その手を傾けた顔に添え、
大鬼「おねがい」
笑顔でおねだり。少年が最近学んで来たこのポーズに、
ヤマ「きゃーっ!可愛いー!」
目を輝かせて鼻息を荒くする者、
キス「フッフッフッ…。グハッ!」
興奮を通り越し吐血する者、
パル「そ、そういうのホント妬ましい…」
頬を染め視線を外す者。彼女達には効果が抜群の様だ。
パル「もう、ないからね」
大鬼「うん!わかった、ありがとう!」
少年の交渉勝ち。そう、全ては少年の
大鬼「(計画通り)」
だった。なぜならそこが本来の希望していた位置。あり得ない高さでの事は全て布石だった。
いきなり希望通りの位置を言ってしまっては、それよりも低くなるのは目に見えていた。そこで時間をかけ、徐々に下げていき、相手が油断を見せたところで交渉開始。
実に見事なやり口。天晴れである。
--遊具製作中--
ヤマ「ドヤッ!」
腰に手を当て、誇らしく胸を張る巨匠。
大鬼「おーっ!」
出来上がった遊具に目を輝かせ、大満足の少年。
キス「フッフッフッ…。桶よ、達者でな」
手を合わせ、桶に別れを告げる桶少女。
キスメが持ってきた桶を縦に真っ二つに切断し、補強を行った後、ヤマメのロープで吊るして完成。
なんということでしょう。匠の手によってキスメの使い古しの桶が、腰掛け付きのブランコとして生まれ変わったのです。
ヤマ「キスメ、あの桶本当によかったの?」
キス「フッフッフッ…。心配ご無用。
アレはスペア。それに少し小さい」
パル「小さい?少し前までアレにも
入ってなかった?」
キスメは少女の姿をしてはいるが、もう成長仕切った妖怪。少年の様に背が伸びたりする事はもうない。故に…。
ヤマ「あのさ…。キスメ最近ふと…」
キス「それ以上言ったら首を刈る!」
目に涙を浮かべ、険しい表情で鎌を構えるキスメ。
久しぶりに見た本気の友人の姿に、
パル「ぷっ…、あははは」
ヤマ「きゃはははは」
腹部を押さえて笑い出す2人。
キス「わわわわ笑うな!」
パル「やっぱりそうだったんだ。
なんか最近『女性らしい体系になったな』
って思っていたんだよ」
キス「はぅー…」
ヤマ「そうそう、今の方が健康的な感じだよ。
前はガリガリだったから」
キス「はうわぁー…。こんなの私じゃない…」
友人達からの一言一言が鋭利な刃物となり、彼女に突き刺さった。
普段は決して明るいとは言えない性格で、笑顔も不気味な彼女が、珍しく顔を苺の様に赤く染めていた。
ヤマ「きゃーー!キスメが可愛いー♡」
友人のギャップにやられ、抱きつき頬擦りをするヤマメ。
パル「ヤマキス!妬ましい!
ヤマキス!妬ましい!
ヤマキス!妬ましいぃぃ!」
そしてその光景をオカズに通常運転に入る橋姫。
--ヤマキス中--
キス「もういい加減離して…」
顔の火照りはすっかり無くなり、いかにも迷惑そうな表情を浮かべる桶娘。だがヤマメはそれを止めようとする気配が無かった。
彼女は友人のシルクの様に
ヤマ「んー?もうすこ…」
キス「フッフッフッ…。ならば首はいらないと?」
平常運転へと切り替わったキスメ。くっ付いて離れようとしない友人に、愛用の鎌を見せつけ、不気味に微笑んだ。
ヤマ「はい、やめまーす」
両手をあげ、降参のポーズを取るヤマメ。
パル「だからキスメ気にすることないよ」
時を同じく、
キス「フッフッフッ…。
でもこれ以上は阻止したい…」
ヤマ「じゃあ桶から出て大鬼君と遊んだら?」
ヤマメのナイス提案。
パル「そうだよ。それなら少し痩せるかもよ」
年中桶に入り、ふよふよ浮いているキスメ。そんな彼女に「たまには運動しろ」と優しく誘導する友人達だったが、
キス「フッフッフッ…。私が
キスメが指差した先には、遊具から遊具へと飛び移り、走しり回る元気な少年の姿が。
キス「フッフッフッ…。あんな『赤色の配管工』の
様な動きを私にしろと?」
ヤマ「あはは…、そうは言わないけど」
パル「今度、亀と土管を持って来ようか?」
ヤマ「いやー、流石にそれは…」
少年を見守りながら井戸端会議に夢中になる臨時保護者達。と、その背後から…
子鬼「また妖怪と遊んでるのかよ」
一人の子供の鬼が近づいて来た。
次回【三年後:ムカつくアイツ】