大鬼と3人の妖怪の前に現れた1人の子供の鬼。その子供を見るや否や、3人の妖怪達は
『あ、まずい…』
不穏な空気に包まれた。
ヤマ「じゃ、じゃあ一緒に遊ぶ?」
キス「フッフッフッ…。いらっしゃーい」
パル「キットタノシーヨー」
固い笑顔でこの子供の鬼を迎え入れようとする3人。
子鬼「え?」
彼女達の言葉に子鬼も少しその気になり始めていた。見渡せば心を踊らされる数々の遊具。子供ならば一度は遊んでみたいと思って至極当然。が、
大鬼「ダメー!ボクの秘密基地だぞ!
それにカズキは絶対にダメ!」
自分の領地への侵入を拒む隊長。そして少年とこの子鬼は面識があり、
カズ「お前と一緒に遊びたいなんて思ってない!」
仲が悪い。
ヤマ「あーもう、また…。
大鬼君、仲良くしなきゃダメだよ」
パル「勇儀にも言われたでしょ?」
カズキと大鬼の争いは今に始まった事ではなかった。
それは少年が『大鬼』の名前を貰う少し前の事。最初に声を掛けたのは大鬼の方だった。近くの公園に1人でいたカズキを大鬼が誘ったのが彼等の出会い。初めこそ仲良くしていた2人だったが、そこは人間と鬼。子供ながらに2人の間には大きな力の差があった。カズキが難無くこなせる事が、大鬼にとっては大変厳しく、困難な事だった。それでも大鬼はカズキの後を必死の想いで食らいついて行っていた。しかし、それは鬼のカズキからすれば鈍臭い上、危なっかしいとしか見えてなかった。
そしてある日、ついにカズキから一緒に遊ばない宣言が。その言葉にショックを受けた大鬼。ようやく出来た遊び相手を失いたくない一心で泣き付いた。
だがカズキとしては、大鬼に怪我をさせてしまう事が怖かった。掴まれた腕を「離せ」と言葉共に振り払った。
カズキに吹き飛ばされた大鬼。身体に走る痛みと一方的な通告から悲しみは怒りへと姿を変え、カズキに殴りかかった。
これを境に、2人は顔を合わせれば喧嘩を始める犬猿の仲となっていた。そして大鬼の筋肉痛もこの時から始まったのだった。
大鬼「だってコイツ直ぐ悪口言うんだよ!?」
カズ「悪口じゃない!そのまま言ってるだけだ!」
大鬼「なんだとー!?」
睨み合う2人の少年。唯一の救いは2人の距離が離れている事。カズキは3人の隊員達と同じ場所。一方隊長は木の上。
手が届かなければ殴り合いになる事はない。と、隊員達は安心していた。
が、
大鬼「いいからココから出て行けよ!」
隊長が木から下りて近付いて来た。
『あ、やばい…』
一気に緊張が走る隊員達。そこに追い打ちを掛けるカズキの一言。
カズ「別にお前の場所じゃないだろ!
お金出して買ったのかよ!
バッカじゃねーの!!」
ゴングが鳴った。
大鬼「バカって言うな!」
カズキに向かって走り出す大鬼。
カズ「バカだろうが!」
返り討ちにしてやろうと、大鬼目掛けて勢いよくスタートを切ったカズキ。急接近する2人。最初に仕掛けたのは…
カズ「わーーっ!!」
カズキ。右手に拳を作り、力強く大地を蹴って迫る敵に飛びかかった。
襲いかかるカズキに一度立ち止まり、身構える大鬼。一度深く息を吐き、そして再び動き出した。
大鬼「さん…」
??「『キャプチャーウェブ』」
大鬼が一歩目を踏み込んだ瞬間、2人の間に現れた巨大な蜘蛛の巣。カズキは空中で、大鬼はその網に首を突っ込む姿勢で捕らえられた。
キス「フッフッフッ…ナイスタイミング」
パル「ホント便利で妬ましい」
友人の仕事ぶりに舌を巻く桶姫と橋姫。
ヤマ「まったく…」
呆れた表情でため息を吐く巣の主人。そして更に手から糸を出し、捕らえた獲物をグルグル巻きにしていった。
カズ「なにすんだよ!」
大鬼「ヤマメー離せ!」
蓑虫状態でもがきながら怒鳴り声をあげる獲物達。
カズ「ぐぎぎぎ!」
大鬼「だあーー!」
力を込めて糸を引き千切ろうと試みるが、
キス「フッフッフッ…。それ無駄」
パル「大人の鬼でも切れないから」
数年前のヤマメの糸であれば、少年達でも引き千切ることができただろう。しかしあの事故があって以来、彼女は己の力の無さを悔い、日々トレーニングをしてきた。更に秘密基地の器具を作るために、大鬼が怪我をしないようにと、丈夫な糸の作り方も研究していた。
その努力を知っている彼女の友人達は「諦めて大人しくしていろ」と忠告したのだった。そこへ巣の主人が腕を組んで少年達へ歩み寄った。
ヤマ「あのねー。何で仲良く出来ないかな?
喧嘩するならココ壊しちゃうけど」
『え…』
巨匠からのまさかの通告に、
ヤマ「大鬼君はみんなと仲良く使う事!
カズキ君はすぐ悪口言わない事!いい!?」
『はい…』
いつも笑顔で人当たりが良いヤマメは、地底に住む者達からの印象は良く、人気も高い。そんな彼女が見せた説教モードに驚き、俯向きながら反省する少年達。
『おー』
そして名演説に感嘆の声を上げ、拍手を送る彼女の友人達。
キス「フッフッフッ…。もっと評価されるべき」.
パル「ヤマメはお姉さんだねー」
ヤマ「いやははははは」
友人達からの称賛の声に、嬉しそうに後頭部を掻きながら、笑顔に戻るヤマメ。
ヤマ「今から糸を解くから仲良くしなよ」
彼女はそう言うと糸を回収し、
ヤマ「
2人の少年に強く念を押した。
糸から解放された少年達。己の身が自由になったと知った途端。
ダッ!!
2人で遊具に向かって猛ダッシュ。その先には作ったばかりのブランコが。2人は
ゴールはほぼ同時。となると、
大鬼「ボクが先!まだ乗ってない!」
カズ「先に着いたのはオレだ!」
ブランコの取り合いが始まった。睨みあう2人。
大鬼「ボクの方が早かった!」
カズ「違うね!先にオレの指が触っていましたー」
『やんのか!?』
そしてついに取っ組み合いになった。状況は…。
カズ「力弱いくせに逆らうな!」
大鬼「うぐぐぐ…」
大鬼が鬼の子供であるカズキに押されていた。
カズ「人間のクセに力で鬼に敵うはずないだろ!」
大鬼「だまれー!」
ありったけの力を込めて押し返す大鬼。両者が同じ姿勢になった。
シュルシュルッ!
2人の足元から巻きついて来る糸。それはあっという間に2人を取り込み、
大鬼「うわっ!」
カズ「また!?」
再び蓑虫状態に。
ヤマ「あんた達さー…」
これまでと明らかに違う声色。その場に不穏な空気と緊張が走った。
ヤマ「言ったよね?仲良く出来ないなら…」
身体から強い妖力を放ちながら、次の言葉の用意をするヤマメ。
そんな彼女の様子に、己の仕出かした過ちにようやく気付いた少年達。
『ごめんなさい!』
カズ「もう悪口言いません!」
大鬼「一緒に遊びます!だから…」
必死に
ヤマ「だから何?さっきだよ?
ついさっきだよ!?」
更に妖力を上げ、掌に力を集中させた。手の向かう先は…、喧嘩の原因。彼女が今日作ったばかりのブランコ。
パル「はい、ストップー」
ヤマメとブランコの間に割って入る橋姫。それは彼女の作品を守る様に大の字で現れた。そして巨匠の金色の髪を撫でながら、お開きにする事を提案した。
パル「今日はもう帰ろ。
私とキスメでカズキ君を送って行くから、
ヤマメは大鬼をお願いね」
キス「フッフッフッ…。半桶よ、助かったな…」
救われた半分の桶を労る桶姫。その背後では、
カズ「おい!なにすんだよ!?」
橋姫が蓑虫状態のカズキを担ぎ上げ、キスメの桶に詰め込もうとしていた。
キス「フッフッフッ…。いらっしゃ〜い♡」
桶姫は久しぶりの来客者に大歓迎。しかしその城の中は…
カズ「うわっ、鎌に槍!?骸骨まで!?
何だこれ?ぎゃーっ!目が合ったー!!」
リアルホラーグッズのオンパレード。免疫のない者はトラウマになり兼ねない物だらけ。そこに大鬼は何度も入れられていた訳だが…。
パル「じゃあそっちよろしくね」
ヤマ「…うん」
パル「キスメ行くよ」
キス「フッフッフッ…。上へ参りまーす」
不気味に笑うエレベーターガールに案内され、家へと連れ戻されるカズキ。
そして大鬼は…
ズルズルズルズル…。
ヤマメに引き摺られ、勇儀の下へと運ばれていた。
大鬼「いだだだだっ。ヤマメー筋肉痛が来た!
引き摺ると痛いって!」
本気を出した後の反動。お馴染みの筋肉痛が大鬼を襲っていた。この時の大鬼には
絶え間なく送られてくる刺激から、蜘蛛姫に「せめて引き摺らないでくれ」と懇願するが、
ヤマ「知らないっ!」
振り向きもせず即答で拒否された。
ズルズルズルズル…。
大鬼「ヤマメー、怒ってる?」
ヤマ「なんでそう思うの?」
大鬼「仲良く出来なかったから…」
ヤマ「…そうだね。でもそれで、
私が怒っている
大鬼「え?」
2人の会話はそこで途切れ、しばらく沈黙が続いた。聞こえくるのは大鬼を引き摺る音だけ。やがてその音も止んだ。
ヤマ「もし大鬼君が一生懸命作った遊び道具で、
他の子達が喧嘩を始めたら、どう思う?」
大鬼に背を向けたまま語り掛けるヤマメ。大鬼はその言葉にハッとした。ようやく事の大きさに気付いたのだ。
大鬼「イヤだ」
ヤマ「それだけ?」
大鬼「…悲しい」
ヤマ「そうでしょ!」
拳を握りしめて耐えるヤマメ。
大鬼「ヤマメー、ごめんなさい。
ボク約束する。あそこでは仲良く遊ぶ」
ヤマメの本当の気持ちを知った上での謝罪。「もうしない」と誓いを立て、ヤマメに誠心誠意で謝った。
ヤマ「ウソつかないでよ…」
大鬼「一つ!鬼は嘘をつかない!ボクは鬼だ!!」
大きな声で三カ条の一つを叫び、自分の決意を表した。もう二度と同じ過ちはしないと。
ヤマ「……バカ」
ズルズルズルズル…。
再び聞こえて来る引き摺り音。
ちゃんと謝った。反省もしている。「流石にもう許してくれるだろう」と踏んでいた大鬼にとって、この結果は不意打ちだった。
大鬼「えっえっえっ?痛いって!」
ヤマ「…」
大鬼「ねー!」
ヤマ「お仕置き」
大鬼「はー!?」
ヤマ「ふふ…」
大鬼のリアクションに笑いを吹き出し、「これで許してやるか」と思う大鬼の一番の友達だった。
次回【三年後:会いに行ってみた】