東方迷子伝   作:GA王

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Ep.1をリニューアルしています。
内容は変わりませんが、
レイアウト、表現、状況描写などが変わっています。
今日で3話目までリニューアルしています。
もし良ければ、そちらも覗いてみてください。

2018/07/26


三年後:会いに行ってみた

 少年が遊びに出掛けていたちょうどその頃…。

 地底の洋館の前で佇む1人の女鬼の姿が。目の前の扉を軽く叩き…。

 

勇儀「たのもーーー!!」

 

道場破りでもするかの様な大きな掛け声。彼女なりの「ごめんください」の様だ。

 

 

ガチャ…。

 

 

 扉の鍵が外された音。だが、音はすれどもそれまで。いくら待てども扉が開く気配がない。「迎え入れてくれるんじゃないのか?」と思っていると、扉の向こう側から何者かの気配を感じた。誰かがそこにいる。それは間違いない。

 

 

そー…。

 

 

ゆっくりと凄くゆっくりと扉が開いていく。注意深く見ていないと、止まっているのかと勘違いしそうな程ゆっくりと静に。まどろっこしい…。ため息を一つ吐いて、

 

勇儀「おい、さっさと開けてくれないか?」

 

開きかけの扉に向かって優しく声をかけてみる。

 

??「ひゃい!!」

 

驚いたような甲高い声が響いた。やっぱり誰かいた。これが屋敷の主人だったら、笑えるな。

 

??「…私なんです」

 

は?何が?

 

??「いえ、何でも……。今開けます」

 

やっと開かれた扉から姿を見せたのは、背丈の小さな少女、地霊殿の主人だった。

 

勇儀「あ、私星熊勇儀です。

   棟梁様と親方様の娘です」

 

意外な登場人物に、吹き出しそうになる笑いを堪えながら挨拶をする。

 今日私がここへ来た理由は、先日大鬼がここを訪れた時に何があったのかを聞くため。大鬼(アイツ)の保護者としての使命だ。彼女達に迷惑を掛けていない事を祈りながら、憂鬱な気分でここまでやって来たのだ。

 

勇儀「えっとそれで、今日こちらに伺ったのは、

   先日こちらに父と母がお邪魔した時に、

   一緒に来ていた子供…大鬼がそのー、

   迷惑を掛けたんじゃないかって。

   あ、これ。茶菓子です。どうぞ」

 

手で謎のジェスチャーを取りながら、今日訪れた理由を下手クソな言い方で説明し、最悪なタイミングで手土産の茶菓子を献上。あー…ダメだ。順番が滅茶苦茶だし、うまい言い方も出来ない。慣れないといけないのに、どうもこういうのは苦手だ。私が自分の駄目出しをしていると、

 

さと「ふふっ」

 

目の前にいる屋敷の主人が口元に手を当て、上品に笑いだした。

 

さと「大丈夫ですよ。貴女のお気持ちはちゃんと

   伝わっていますよ。

   それとお茶菓子ありがとうございます。

   立ち話も何ですから中へどうぞ」

 

これまた上品に中へと案内してくれる屋敷の主人。

 屋敷の代表者で女性だからお嬢様って事だよな?私も仕事仲間から「お嬢」って呼ばれるし、友人から「お嬢様」って言われた事もある。けどこの天と地の差はなんだ?出来が違いすぎる。品とか礼儀作法とかこういう時に物を言うんだな。私はそれが性に合わなくて嫌だったから…。もし、私が彼女みたいに上品だったらどうだろう?ちょっと想像してみる………。

 

 

ゾクッ!

 

 

自分で自分の事を想像しておいてなんだが、気持ち悪っ!

 

 

さと「ふふふ、本当に面白い方ですね。

   私はそんな事ないと思いますよ。

   上品なあなたも、ありのままのあなたも

   素敵だと思います」

勇儀「ちょっと待て!私今口に出していたか!?」

 

出来たお嬢様のカミングアウトに、堪らず顔が熱くなる。人に聞こえる程の声量で独り言って…恥ずっ!自分の醜態に嫌気が差し、ガックリと肩を落として大きなため息を吐く。

 

さと「えっと……、そうではなくて…。

   私一応覚り妖怪でして、心が読めるんです」

勇儀「は!?じゃあ今まで私の心を読んでいたって

   言うのかい!?」

 

驚愕の事実に思わず声が大きくなってしまった。

 

さと「ごめんなさい!癖なんです。特に初対面だと

   どうしても使っちゃうんです」

 

怯えた様子で慌てて頭を下げて謝罪をしてきた。別に怒ってはいないし、寧ろ驚いただけなんだけどな。悪い事しちまったな。

 

勇儀「あーっと、あれだ。別に怒ってないから、

   頭上げておくれよ。

   それに初対面じゃないだろ?

   前に一度会っているよ」

 

頭を掻きながら胸の内を明かす。すると地霊殿の主人はゆっくりと頭を上げて、

 

さと「ありがとうございます。

   あなたがいい人そうで助かりました」

 

そう言いながら、明るく微笑んだ。チクショー…、可愛らしいじゃないか。

 

さと「はうー…」

 

突然顔を赤くして奇声を上げ出した。コイツ…。

 

勇儀「だから心の中を覗くなよな!」

さと「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

連続して頭を下げて来る覚り妖怪。まったく…。こっちも恥ずかしくなるじゃないか。……おい、今も覗いているだろ?

 

さと「え?」

勇儀「だんだんお前さんって奴が分かってきた」

さと「あははは…」

勇儀「ふふ、もう遠慮しないからな。

   思った事は直ぐに言う事にするから、

   多少の無礼は許しておくれよ」

さと「はい、私ももう能力を使わないように

   努めます」

 

お互い微笑み合い、挨拶を交わし、

 

勇儀「じゃあ、おじゃまします」

さと「ようこそ地霊殿へ」

 

2人並んで屋敷の中へ。

 屋敷の中へ通された瞬間、私は目が釘付けになった。そこは私が工事を行った時よりも遥かに美しくなっていた。赤い絨毯、大きな照明、高価そうな置物。今まで仕事で数々の建設工事に加わって来た。人が住んでからの家にだって何度も見学をしに行った。工事していた時には気付かなかった事とか、その家の使い方に感心したり、残念に思う事があったりもした。けど、この屋敷はなんだ?そういう次元の話じゃあない。一言で言えば芸術作品。彼女達が住む事で、一つの作品として仕上がったんだ。

 

さと「勇儀さんは初めてでしたよね?

   どうですか?」

勇儀「ああ、すごく綺麗だ。

   正直感動すらしているよ」

さと「ふふ、勇儀さん達のおかげです。ボケ…、

   大鬼君も綺麗だって言われていましたよ」

勇儀「そうかい。ありがとう」

 

大鬼、これは確かに綺麗だよな。私はこの屋敷の工事に加われた事を誇りに思うよ。

 

さと「他の部屋も見ていかれますか?」

勇儀「いや、それは別の日にするよ。

   この後決めなくちゃいけない事があって、

   すぐ戻らないといけないんだ。

   だからあまり長居出来ないんだ」

さと「そうですか」

 

私の言葉にため息をしながら返事をする主人。今のそれは間違いなく安堵のため息だろう。「私が長居するとマズイ事でもあるのか?」と思いながら、ふと隣に視線を移すと彼女は真っ直ぐ前を向いていた。引き()った笑顔で。さらに視線をもう少し下に移す。胸元の赤い目玉が真っ直ぐに、ガッツリとこちらを向いていた。

 

勇儀「おい」

さと「ハイ、ナンデショウカ?」

勇儀「この目だろ?能力って」

 

だいたい仕組みが分かってきた。

 

さと「……ごめんなさい」

勇儀「信用されてないのか?」

さと「いえ、そういう事では…。

   ただ気になってしまって」

 

暗い表情を浮かべながら私の質問に答えてくれた。でも私としては彼女がそうなる原因に心当たりがない。すると彼女は私の事を真っ直ぐに見つめ、覚悟を決めた表情で口を開いた。

 

さと「あの、単刀直入に聞きます。

   今日こちらに来られた御用って…」

 

心なしか目が潤んでいた。忘れかけていた本題に手を叩き、

 

勇儀「そうそう。大鬼が来た時に何があったのか

   知りたくてさ。お前さんのペット達を

   再起不能にしたって聞いたんだよ。

   なんか悪い事したな。すまん!」

 

謝罪の言葉と共に頭を下げた。どんな理由があっても、彼女の大事なペット(家族)に危害を加えた事に変わりはない。でもこの謝り方はちょっと簡単過ぎたか?

 

さと「良かったー…」

勇儀「え?」

 

瞳に突然飛び込んで来た彼女の頭部。急な視界の変化に驚き、姿勢を少し戻して改めて見てみると、彼女は糸が切れた操り人形の様に「ペタン」と両手を床に付け、座り込んでいた。

 

勇儀「どうしたんだい急に」

さと「ごめんなさい。安心して腰が抜けちゃって。

   私はてっきり苦情を言われるのかとばかり」

勇儀「は?どういう事だい?」

 

 それから彼女はその姿勢のまま、あの日にあった出来事を話してくれた。話の中には私が目を丸くする様な事もあった。その時の彼女は凄く辛そうな表情をしていた。そうまでして話してくれたのだから、それは混じり気なしの事実なのだろう。

 私も聞き逃さない様に彼女の話に耳を傾け、気付けば私も彼女と肩を並べる様に座っていた。

 そして、話は終わり…

 

さと「これがあの日に起きた事です」

 

瞳を閉じて俯きながら苦しそうな表情を浮かべる彼女。

 

勇儀「……大きな蛇ねー」

 

私は正面の大きなステンドグラス見つめながら、彼女が話してくれた出来事を想像していた。

 

さと「はい…」

勇儀「……ッ」

 

そんなことが起きていたなんて…。私がしっかりしないといけないのは分かっている。けど、これはダメだ…。我慢の限界だ。

 

 

 

 




次回【三年後:地底のお嬢様】

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