--勇儀実家前--
私が実家に到着すると、塀に寄りかかり、腕を組んで遠くを見つめる2人の鬼の姿が。近づくと、手前にいた鬼が私の存在に気が付いた。
??「も〜!勇儀遅いよ〜!」
私の顔を見るなり、文句をぶつけて来る幼い頃からの親友。
??「姐さん、どちらへ行かれていたんですか?」
不機嫌な表情で敬語を使う、私の頼れる弟分。2人の様子から察するに、どうやらかなり待たせてしまったみたいだ。
勇儀「悪い悪い。大鬼の事で地霊殿に
行っていたんだよ」
萃香「大鬼の事で?何かしたの?」
鬼助「いやいや、何かするっていう以前に、
ないですか」
鬼助が言う様に、つい先日までの
勇儀「詳しい事は後で話すから、
取り敢えず上がりなよ」
待たせてしまった2人を広間に案内し、私は台所へ。3人分の茶と茶菓子を用意して、私も広間へと足を運ぶ。広間に着くと、2人は先程の私の発言について、
そんな客人達に用意した茶と茶菓子を差し出し、私もおっさん臭い言葉を放ちながら腰を下ろして、
ズズー…。
『はぁ~。お茶が美味し~』
一服。
萃香「ね〜勇儀、さっきの話どういう事?」
鬼助「大鬼のやつ
再び怪訝な顔で尋ねてくる萃香達に、大鬼が地霊殿へ行った日の事を話した。私は現場に居なかったから、
鬼助「…マジっすか?」
勇儀「大マジだ。それで中にも入ったってさ。
『凄く綺麗だった』って言ってくれたよ」
萃香「勇儀、良かったね。私もほっとしたよ」
鬼助「でもそれで何で姐さんが
鬼助が核心を突いて来た。話はまだ途中までだったから、その疑問は当然と言えば当然。
勇儀「それがさー…」
私は笑いを堪えながら、さっき地霊殿の主人から聞いた話を着色する事なく、ありのままを伝えた。
私が大鬼の珍行動について話した途端、
『あっははははは』
やっぱり2人とも私と同じ反応を示した。
鬼助「ひーっ!ひーっ!腹が痛い!
大鬼のヤツそこまでになりましたか」
萃香「いいね〜。男の子はそれくらいじゃないと。
私
たぶん私は感情を抑えきれず、顔に出ていたのだろう。少なくとも萃香にはバレバレだった様だ。
勇儀「けど、主人さんは凄い責任を感じていた
から、気にするなって伝えておいたよ。
それと大鬼が暴れた事には変わりないから、
ペット達にも謝って来たんだ」
萃香「そうだったんだ。勇儀も苦労してるね」
大鬼の
私達が大声で笑いながら話をしていると、
黒猫「カー…」
存在をアピールする様に、黒猫が空いた座布団の上で丸くなりながら、大きな欠伸をした。いつの間にか私の肩から降りていたみたいだ。そう言えば連れて来たんだった。
鬼助「その猫は?」
黒猫にの存在に気が付いた鬼助が、不思議そうに眺めながら尋ねてきた。
勇儀「ああ、地霊殿のペットだよ。
確か『お燐』って呼ばれてたっけ?
大鬼に会いたいんだってさ」
萃香「へー…。大鬼に…。
イッタイナンノヨウカナ〜?」
鋭い眼差しでお燐を見下ろす親友。何で猫にまで熱くなるかね…。萃香は束縛タイプか、大鬼は苦労するだろうな…。そんな親友の視線にも物怖じせず、尚も眠り続けるお燐。いい度胸をしている。
勇儀「さて、雑談は終わりだ。
今日は緊急連絡があるんだ」
先日の夕食の時に
萃香はあの日の一件があってから私と同様、罰として毎年祭当番をしなければならない。だが鬼助は
私の話しが進むに連れ、2人の表情がみるみる曇っていき、話し終える頃には目を皿の様にし、口は開いたままの状態になっていた。
勇儀「ってな事を
萃香知ってたか?」
萃香「ううん。全然、初めて聞いたよ。
親父のヤツ何を考えてるんだろ?
そんなに盃が欲しいのかな?」
昔からの付き合いで、萃香の親父さんの事は良く知っている。物腰柔らかで好戦的な感じではなかった筈だ。ましてや
勇儀「何か心当たりあるか?」
萃香「いや〜…、私あまり実家に帰らないし、
帰っても親父とは全然話をしないし…」
先程から腕を組み、首を傾けて悩み続ける親友。思い当たる節を必死に探しているのだろう。
鬼助「親方様もこの事を知らなかったんですよ
ね?」
勇儀「ああ、だからすごい驚いていたよ。
でもその後『久々に特訓するか』って
張り切っていたよ」
鬼助「え?親方様が特訓ですか?
能力を使ったら誰も敵わないのにですか?」
私の言葉に再び目を丸くし、尋ねてくる弟分。
私の父さんの能力は有名で、この町の誰もが知っている。その名も『力を倍化する程度の能力』。読んで字の如くの能力だ。単純ではあるが、鬼という種族である上、能力無しでも鬼の中では力が強い方の彼にとって、この上ない武器。その能力故に「本気を出した彼には誰も敵わない」と思われていたのだが…。
勇儀「な?変だろ?萃香の親父さんって、
そんな実力者だったか?」
萃香「え?」
鬼助「いやー…、記憶に無いですね」
『うーん…』
眉間に皺を寄せて腕を組み、次々と浮上してくる謎の答えを考えていると、
鬼助「でもこれは史上初ですよね!?
あの
その場の雰囲気を変える様に、鬼助が興奮しながら口を開いた。
気持ちは分かる。そしてその史上初となるビッグイベントの祭の当番が私達。
勇儀「ああ、だから責任重大だぞ」
鬼助「なんか久々に燃えて来ました!
相撲会場はどうしましょう?」
瞳の奥に闘志を燃やし、期待に心躍らせる子供のような表情の鬼助。
コイツはどうやら目標が高い方がやる気を出すタイプの様だ。確かに久々に見たな鬼助のこんな顔。地霊殿の建設の時以来かな。
勇儀「そうだな、取り敢えず観客席を…」
萃香「ちょちょちょちょっと待って!」
私が鬼助に指示を送る直前で、慌てた様子で話しに割って入って来た萃香。
勇儀「なんだい急に?」
萃香「親父の能力知らないの!?
もし親父が本気を出すとしたら、
観客席がどうとかっていう次元の話じゃ
なくなるよ!?」
鬼助「何でしたっけ?
萃香さんのお父さんの能力って」
そう言えば聞いたことがなかった。やはり
私と鬼助が萃香の言葉に注目する中、彼女は真剣な表情で口を開いた。
萃香「巨大化だよ」
親友の口から語られた彼女の父親の能力に、私と鬼助は絶句した。だがそれは彼女の能力を考えると行き着く能力でもあった。
彼女の能力は『密と疎を操る程度の能力』。これにより彼女は自身を小さくする事も出来れば、巨大化する事も出来る。となれば、彼女の親はその能力に関係する能力を持っていてもおかしくない。完全に見逃していた。
勇儀「巨大化ってどのくらい大きくなるんだい?」
額に汗を
萃香「最大だと地底の天井に頭が着くと思う」
勇儀「おいおいおいおい、何だよそれ。
それじゃあ相撲なんて出来ないだろ?」
鬼助「土俵が壊れますし、暴れられたらそれこそ
町全体に被害が出ますよ!」
萃香「だからどういうつもりか分からないんだ
よ!」
大声を上げる親友に私と鬼助は口を閉ざした。
巨大化…。その能力を使ったら、もしかしたら親友の親父さんは、この町で最強なのではないだろうか?今まで相撲に参加していなかったのが不思議なくらいだ。父さん…。大丈夫か?これは初めて負けるんじゃ…。
想像を絶する挑戦者に自分の父の事が心配になる。勝敗の行方をじゃない。「無事に帰って来れるか」をだ。
そこからは3人とも口を閉ざして俯いたままだった。何かいい案はないかを考え、また同時に誰かが閃いてくれる事を願っていた。それは他の2人も同じだったと思う。ただ時間だけが過ぎ去り、今日はダメかと諦めた時…。
黒猫「ニャー!」
地霊殿の黒猫が飛び起きて、鳴き声と共に部屋を出て行った。それから間も無く、
ガラ…。
玄関の方で扉が開く音がした。
次回【三年後:玄関先で】