東方迷子伝   作:GA王

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三年後:父親の能力

--勇儀実家前--

 

 

私が実家に到着すると、塀に寄りかかり、腕を組んで遠くを見つめる2人の鬼の姿が。近づくと、手前にいた鬼が私の存在に気が付いた。

 

??「も〜!勇儀遅いよ〜!」

 

私の顔を見るなり、文句をぶつけて来る幼い頃からの親友。

 

??「姐さん、どちらへ行かれていたんですか?」

 

不機嫌な表情で敬語を使う、私の頼れる弟分。2人の様子から察するに、どうやらかなり待たせてしまったみたいだ。

 

勇儀「悪い悪い。大鬼の事で地霊殿に

   行っていたんだよ」

萃香「大鬼の事で?何かしたの?」

鬼助「いやいや、何かするっていう以前に、

   大鬼(アイツ)あそこには近付こうともしないじゃ

   ないですか」

 

鬼助が言う様に、つい先日までの大鬼(アイツ)は確かにそうだった。でもあの事を話したら、きっと2人は驚くだろう。でもここは一先ず(はや)る気持ちを押さえる。

 

勇儀「詳しい事は後で話すから、

   取り敢えず上がりなよ」

 

待たせてしまった2人を広間に案内し、私は台所へ。3人分の茶と茶菓子を用意して、私も広間へと足を運ぶ。広間に着くと、2人は先程の私の発言について、怪訝(けげん)な顔をして話し合いをしていた。大鬼に何があったのか、見当もつかないといったところだろう。

 そんな客人達に用意した茶と茶菓子を差し出し、私もおっさん臭い言葉を放ちながら腰を下ろして、

 

 

ズズー…。

 

 

  『はぁ~。お茶が美味し~』

 

一服。

 

 

 

 

 

萃香「ね〜勇儀、さっきの話どういう事?」

鬼助「大鬼のやつ地霊殿(あそこ)に行ったんですか?」

 

再び怪訝な顔で尋ねてくる萃香達に、大鬼が地霊殿へ行った日の事を話した。私は現場に居なかったから、棟梁様(母さん)から聞いた事をそのまま伝えた。私が話を終えると、鬼助が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして尋ねてきた。

 

鬼助「…マジっすか?」

勇儀「大マジだ。それで中にも入ったってさ。

   『凄く綺麗だった』って言ってくれたよ」

萃香「勇儀、良かったね。私もほっとしたよ」

 

(あふ)れた涙を拭いながら嬉しそうに微笑む親友。彼女も大鬼の事をずっと気に掛けていただけあって、喜びも一入(ひとしお)なのだろう。それに彼女にとって大鬼は…。

 

鬼助「でもそれで何で姐さんが地霊殿(あそこ)に?」

 

鬼助が核心を突いて来た。話はまだ途中までだったから、その疑問は当然と言えば当然。

 

勇儀「それがさー…」

 

私は笑いを堪えながら、さっき地霊殿の主人から聞いた話を着色する事なく、ありのままを伝えた。

 私が大鬼の珍行動について話した途端、

 

  『あっははははは』

 

やっぱり2人とも私と同じ反応を示した。

 

鬼助「ひーっ!ひーっ!腹が痛い!

   大鬼のヤツそこまでになりましたか」

萃香「いいね〜。男の子はそれくらいじゃないと。

   私()嬉しいよ」

 

たぶん私は感情を抑えきれず、顔に出ていたのだろう。少なくとも萃香にはバレバレだった様だ。

 

勇儀「けど、主人さんは凄い責任を感じていた

   から、気にするなって伝えておいたよ。

   それと大鬼が暴れた事には変わりないから、

   ペット達にも謝って来たんだ」

萃香「そうだったんだ。勇儀も苦労してるね」

 

大鬼の()()が余程気に入ったのか、親友はクスクスと笑いながら私を(ねぎら)った。苦労…ね。大鬼と一緒に生活する様になってから、それは絶えないが、不思議と嫌じゃない。

 私達が大声で笑いながら話をしていると、

 

黒猫「カー…」

 

存在をアピールする様に、黒猫が空いた座布団の上で丸くなりながら、大きな欠伸をした。いつの間にか私の肩から降りていたみたいだ。そう言えば連れて来たんだった。

 

鬼助「その猫は?」

 

黒猫にの存在に気が付いた鬼助が、不思議そうに眺めながら尋ねてきた。

 

勇儀「ああ、地霊殿のペットだよ。

   確か『お燐』って呼ばれてたっけ?

   大鬼に会いたいんだってさ」

萃香「へー…。大鬼に…。

   イッタイナンノヨウカナ〜?」

 

鋭い眼差しでお燐を見下ろす親友。何で猫にまで熱くなるかね…。萃香は束縛タイプか、大鬼は苦労するだろうな…。そんな親友の視線にも物怖じせず、尚も眠り続けるお燐。いい度胸をしている。

 

勇儀「さて、雑談は終わりだ。

   今日は緊急連絡があるんだ」

 

先日の夕食の時に棟梁様(母さん)から聞かされた超一大イベント。親方様(父さん)と萃香の父親との相撲対決。今日はその事について、この2人に知らせておく必要があった。

 萃香はあの日の一件があってから私と同様、罰として毎年祭当番をしなければならない。だが鬼助は()()()()()()手伝ってくれている。

 私の話しが進むに連れ、2人の表情がみるみる曇っていき、話し終える頃には目を皿の様にし、口は開いたままの状態になっていた。

 

勇儀「ってな事を棟梁様(母さん)が言っていたんだけど、

   萃香知ってたか?」

萃香「ううん。全然、初めて聞いたよ。

   親父のヤツ何を考えてるんだろ?

   そんなに盃が欲しいのかな?」

 

昔からの付き合いで、萃香の親父さんの事は良く知っている。物腰柔らかで好戦的な感じではなかった筈だ。ましてや親方様(父さん)とは、親友とも言える仲…。

 

勇儀「何か心当たりあるか?」

萃香「いや〜…、私あまり実家に帰らないし、

   帰っても親父とは全然話をしないし…」

 

先程から腕を組み、首を傾けて悩み続ける親友。思い当たる節を必死に探しているのだろう。

 

鬼助「親方様もこの事を知らなかったんですよ

   ね?」

勇儀「ああ、だからすごい驚いていたよ。

   でもその後『久々に特訓するか』って

   張り切っていたよ」

鬼助「え?親方様が特訓ですか?

   能力を使ったら誰も敵わないのにですか?」

 

私の言葉に再び目を丸くし、尋ねてくる弟分。

 私の父さんの能力は有名で、この町の誰もが知っている。その名も『力を倍化する程度の能力』。読んで字の如くの能力だ。単純ではあるが、鬼という種族である上、能力無しでも鬼の中では力が強い方の彼にとって、この上ない武器。その能力故に「本気を出した彼には誰も敵わない」と思われていたのだが…。

 

勇儀「な?変だろ?萃香の親父さんって、

   そんな実力者だったか?」

萃香「え?」

鬼助「いやー…、記憶に無いですね」

  『うーん…』

 

眉間に皺を寄せて腕を組み、次々と浮上してくる謎の答えを考えていると、

 

鬼助「でもこれは史上初ですよね!?

   あの(はい)(ひょう)が一人の物になるなんて」

 

その場の雰囲気を変える様に、鬼助が興奮しながら口を開いた。

 気持ちは分かる。そしてその史上初となるビッグイベントの祭の当番が私達。

 

勇儀「ああ、だから責任重大だぞ」

鬼助「なんか久々に燃えて来ました!

   相撲会場はどうしましょう?」

 

瞳の奥に闘志を燃やし、期待に心躍らせる子供のような表情の鬼助。

 コイツはどうやら目標が高い方がやる気を出すタイプの様だ。確かに久々に見たな鬼助のこんな顔。地霊殿の建設の時以来かな。

 

勇儀「そうだな、取り敢えず観客席を…」

萃香「ちょちょちょちょっと待って!」

 

私が鬼助に指示を送る直前で、慌てた様子で話しに割って入って来た萃香。

 

勇儀「なんだい急に?」

萃香「親父の能力知らないの!?

   もし親父が本気を出すとしたら、

   観客席がどうとかっていう次元の話じゃ

   なくなるよ!?」

鬼助「何でしたっけ?

   萃香さんのお父さんの能力って」

 

そう言えば聞いたことがなかった。やはり親方様(父さん)に匹敵する程の能力なのだろうか?

 私と鬼助が萃香の言葉に注目する中、彼女は真剣な表情で口を開いた。

 

萃香「巨大化だよ」

 

親友の口から語られた彼女の父親の能力に、私と鬼助は絶句した。だがそれは彼女の能力を考えると行き着く能力でもあった。

 彼女の能力は『密と疎を操る程度の能力』。これにより彼女は自身を小さくする事も出来れば、巨大化する事も出来る。となれば、彼女の親はその能力に関係する能力を持っていてもおかしくない。完全に見逃していた。

 

勇儀「巨大化ってどのくらい大きくなるんだい?」

 

額に汗を(にじ)ませながら、恐る恐るその能力の底力を聞いてみる。

 

萃香「最大だと地底の天井に頭が着くと思う」

勇儀「おいおいおいおい、何だよそれ。

   それじゃあ相撲なんて出来ないだろ?」

鬼助「土俵が壊れますし、暴れられたらそれこそ

   町全体に被害が出ますよ!」

萃香「だからどういうつもりか分からないんだ

   よ!」

 

大声を上げる親友に私と鬼助は口を閉ざした。

 巨大化…。その能力を使ったら、もしかしたら親友の親父さんは、この町で最強なのではないだろうか?今まで相撲に参加していなかったのが不思議なくらいだ。父さん…。大丈夫か?これは初めて負けるんじゃ…。

 想像を絶する挑戦者に自分の父の事が心配になる。勝敗の行方をじゃない。「無事に帰って来れるか」をだ。

 そこからは3人とも口を閉ざして俯いたままだった。何かいい案はないかを考え、また同時に誰かが閃いてくれる事を願っていた。それは他の2人も同じだったと思う。ただ時間だけが過ぎ去り、今日はダメかと諦めた時…。

 

黒猫「ニャー!」

 

地霊殿の黒猫が飛び起きて、鳴き声と共に部屋を出て行った。それから間も無く、

 

ガラ…。

 

 

玄関の方で扉が開く音がした。

 

 

 




次回【三年後:玄関先で】

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