東方迷子伝   作:GA王

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三年後:玄関先で

??「勇儀ー。いるー?」

 

遠くまで通るこの声は………ヤマメだ。大鬼と遊んでくれていた筈なのに、どうしたのだろう?

 

勇儀「いるよー!そっちに行った方が良いかい?」

ヤマ「おねがーい!きゃっ!なになに!?」

 

ヤマメに呼ばれ、玄関へと向かう。何やら事が起きている様なので、急ぎ足で。

 

 

 

 

 

着いてみると…、

 

黒猫「フシャーッ!!」

 

毛を逆立てて威嚇するお燐と、

 

ヤマ「ひぃ〜っ!」

 

涙を浮かべてそれに怯えるヤマメが。そして…

 

大鬼「いたたたた…」

 

蓑虫状態で地面に寝転がる大鬼。

 

ヤマ「勇儀この黒猫何!?

   なんか凄い怒っているんだけど!

   知ってるでしょ!?私猫より犬派なの!」

勇儀「何かしたのか?」

ヤマ「何もしてないよ。

   私の事見るなりいきなりだよ!」

 

玄関の外から救いを求めるヤマメ。

 けど、お前さんが犬派だなんて初耳だし、だから何だって言うんだ?取り敢えず困っているみたいだし、見ていて可哀想だから助けてやるか。

 

勇儀「こら、ヤマメは私の友達なんだ。

   何があったのか知らないけど、

   威嚇しないでやっておくれよ」

 

腰に手を当ててお燐にそう言葉を放つと、不機嫌そうな表情を浮かべて威嚇の姿勢を崩した。

 一先ず場が落ち着いたところで、

 

勇儀「で、ヤマメ。()()がそういう状態って事は、

   そういう事なんだね?」

 

私が尋ねると、ヤマメは深くため息を吐いて、

 

ヤマ「……そういう事」

 

ガックリと項垂(うなだ)れながら答えた。

 他の者からすれば暗号の様な会話だが、彼女達とはこれでだいたいが通じてしまう。特にこの件に関しては。私は気まずそうな表情を浮かべている大鬼を一睨(ひとにら)みし、

 

勇儀「詳しく話してくれるかい?」

 

ヤマメにその詳細を尋ねた。彼女から聞かされた内容は、予想通りカズキとの喧嘩について。ただその中で見逃せない事が。

 

勇儀「そうだったのかい。ヤマメ、ごめんな。

   辛かっただろ?」

ヤマ「…」

 

ヤマメは私の言葉に視線を落として、暗い表情を浮かべてしまった。

 

ヤマ「でも…」

勇儀「大鬼!」

 

ヤマメが何かを言い掛けていたが、それよりも私の怒号の方が早かった。そして地面に寝転ぶ大鬼を掴み上げ、

 

勇儀「あそこの物はヤマメがお前さんの事を思って

   一生懸命作ってくれたんだろ!?それを…。

   喧嘩の原因にされて、自分の手で壊させる真

   似させて。ヤマメにとってどれほど辛い事か

   考えなかったのか!?」

 

説教モードへとスイッチが入った。職業柄、今のヤマメの気持ちが痛い程分かってしまい、いつも以上に熱が入る。

 喧嘩をしてしまった事は大目に見るとしても、ヤマメが今どんな気持ちなのかを理解した上で、ちゃんと反省して謝って欲しい。

 だが目の前の大鬼(コイツ)は、私から視線を外して不服そうな表情をしやがる。

 

勇儀「おい!話しを聞いてるのか!?」

ヤマ「勇儀、私はもう大丈夫だから。

   それに大鬼君、仲良く使うって約束してくれ

   たから。だからそんなに怒らないであげて」

 

苦笑いをしながら私を(なだ)めるヤマメ。彼女の話から察するに、ここに来るまでに2人で話は決着していた様だ。そう気付いたとき、今の自分の行いに「やってしまった」と後悔した。つい感情が先走り、大鬼の話しを聞くのを忘れていた。ならば謝るのが筋だ。

 

勇儀「そうかい。大鬼、すまなかったな」

大鬼「ホントだよ。ちゃんと話を聞いてよ…」

勇儀「悪い悪い。ヤマメ、糸を解いてやってくれる

   かい?」

 

ヤマメが糸を解き終えると、大鬼は全身の痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がり、

 

大鬼「ヤマメーごめんなさい!」

 

ヤマメを正面にして綺麗に頭を下げて謝った。

 私は後でもう一度ちゃんと謝らせようとしていた。けど、私が言う前に自分から進んで行動をとった大鬼(コイツ)に、私は心底驚かされた。もしかしたら私の出番は必要無かったのかも知れない。

 

ヤマ「もう…、約束だからね」

 

そんな大鬼にヤマメは腕を組んでため息を吐くも、微笑みながら大鬼の謝罪を受け入れた。

 

勇儀「ちゃんと謝って偉いぞ」

 

大鬼の頭を撫でて褒めてやる。これで一件落着、

 

勇儀「でもそれはそれ。カズキのとこ行くぞ」

 

とはいかせない。

 

大鬼「えーーーっ!?やっぱり行くのー!?」

 

大鬼が大声で拒否反応を示した時、私の背後から笑い声が聞こえて来た。

 

??「あははは。大鬼、また喧嘩して来たのか?」

 

鬼助だ。大鬼の事を冷やかしにでも来たのだろう。

 

大鬼「だったら何だよ…」

 

ニタニタと笑う鬼助を睨みつける大鬼。だが鬼助の背後から現れた彼女の登場に、

 

大鬼「!!」

 

大鬼は目を皿にし、顔を真っ赤にした。

 

萃香「大鬼…、おかえり」

 

2人を包み込む温かく、甘酸っぱい雰囲気。その間に挟まれた私は、

 

勇儀「(い、いずらい…)」

 

居心地の悪さを感じていた。それは私だけでは無かった様で、

 

黒猫「フシャーッ!!」

 

再び毛を逆立てて、威嚇の姿勢を取る地霊殿のペット。しかもその標的は事もあろうに……親友。妖怪だけでは無く、鬼にまで威嚇するなんて…。いいね、気に入った。

 

萃香「また、喧嘩しちゃったの?」

 

鈴を転がす様な声で大鬼に尋ねる親友。普段では絶対に聞く事が出来ない声に、「どこから出しているんだ?」と疑問に思うと共に、「気持ち悪っ!」と思ってしまう。

 けどこれが思いの外、大鬼(コイツ)には効果が抜群で、

 

大鬼「……うん」

萃香「仲直り…しなきゃダメだよ?」

大鬼「うん…。仲直りして来る」

 

この様にあっさりと言う事を聞く。

 私が言っても渋るクセに、どうしてこうも違うのだろう?流石萃香とでも言ったところだろうか。それとお燐。さっきからフシャーフシャー五月蝿い(うっさい)。さっきまで大人しかったのに、ここに来て急にどうした?

 

萃香「私、待ってるから。仲直りして来てね♡」

 

頬を赤く染め、眩しい笑顔で大鬼を送り出す親友。その笑顔は汚れのない少女その物。彼女の場合はその威力は絶大で、

 

ヤマ「きゃーっ!かーわーいーいー!」

鬼助「……萃香さん、それは卑怯です」

黒猫「フシャーーーッ!!」

 

周囲の連中までを巻き込む。ヤマメは火照った頬を隠す様に手を当てて奇声を上げ、鬼助は不意打ちに耐え切れず、表情を隠す様に他所を向き、お燐は………五月蝿い(うっさい)

 そして大鬼はと言うと、

 

大鬼「〜〜〜っ」

 

先程よりも赤く実り、口元が緩んでいた。この幸せ者め…。大鬼もその気になってくれたみたいだし、出荷するなら今だろう。

 

勇儀「じゃあ大鬼行くぞ。

   それとヤマメは上がって待っていてくれ。

   詫びに夕飯作るから食べていきなよ。

   あ、萃香と鬼助も食うだろ?」

  『え?』

勇儀「それじゃあ留守を頼むよ」

 

客人達に留守番を頼み、大鬼を引き連れて、いざ私の戦場へ。

 

 

--勇儀が去った屋敷では--

 

 

ヤマ「ねー…、誰か最近勇儀の作ったご飯を食べた

   事ある人、いる?」

萃香「わ、私は全然…」

鬼助「オイラは以前、パルパルとそれを回避しまし

   た」

ヤマ「大鬼君のご飯を作っているのって勇儀?」

  『いやいやいや、まさかまさかまさか…』

ヤマ「…」

萃香「…」

鬼助「…」

  『不安だ…』

 

不穏な空気に包まれていた。

 

黒猫「ニャー?」

 

 

 




次回【三年後:お母ちゃん】

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