??「勇儀ー。いるー?」
遠くまで通るこの声は………ヤマメだ。大鬼と遊んでくれていた筈なのに、どうしたのだろう?
勇儀「いるよー!そっちに行った方が良いかい?」
ヤマ「おねがーい!きゃっ!なになに!?」
ヤマメに呼ばれ、玄関へと向かう。何やら事が起きている様なので、急ぎ足で。
着いてみると…、
黒猫「フシャーッ!!」
毛を逆立てて威嚇するお燐と、
ヤマ「ひぃ〜っ!」
涙を浮かべてそれに怯えるヤマメが。そして…
大鬼「いたたたた…」
蓑虫状態で地面に寝転がる大鬼。
ヤマ「勇儀この黒猫何!?
なんか凄い怒っているんだけど!
知ってるでしょ!?私猫より犬派なの!」
勇儀「何かしたのか?」
ヤマ「何もしてないよ。
私の事見るなりいきなりだよ!」
玄関の外から救いを求めるヤマメ。
けど、お前さんが犬派だなんて初耳だし、だから何だって言うんだ?取り敢えず困っているみたいだし、見ていて可哀想だから助けてやるか。
勇儀「こら、ヤマメは私の友達なんだ。
何があったのか知らないけど、
威嚇しないでやっておくれよ」
腰に手を当ててお燐にそう言葉を放つと、不機嫌そうな表情を浮かべて威嚇の姿勢を崩した。
一先ず場が落ち着いたところで、
勇儀「で、ヤマメ。
そういう事なんだね?」
私が尋ねると、ヤマメは深くため息を吐いて、
ヤマ「……そういう事」
ガックリと
他の者からすれば暗号の様な会話だが、彼女達とはこれでだいたいが通じてしまう。特にこの件に関しては。私は気まずそうな表情を浮かべている大鬼を
勇儀「詳しく話してくれるかい?」
ヤマメにその詳細を尋ねた。彼女から聞かされた内容は、予想通りカズキとの喧嘩について。ただその中で見逃せない事が。
勇儀「そうだったのかい。ヤマメ、ごめんな。
辛かっただろ?」
ヤマ「…」
ヤマメは私の言葉に視線を落として、暗い表情を浮かべてしまった。
ヤマ「でも…」
勇儀「大鬼!」
ヤマメが何かを言い掛けていたが、それよりも私の怒号の方が早かった。そして地面に寝転ぶ大鬼を掴み上げ、
勇儀「あそこの物はヤマメがお前さんの事を思って
一生懸命作ってくれたんだろ!?それを…。
喧嘩の原因にされて、自分の手で壊させる真
似させて。ヤマメにとってどれほど辛い事か
考えなかったのか!?」
説教モードへとスイッチが入った。職業柄、今のヤマメの気持ちが痛い程分かってしまい、いつも以上に熱が入る。
喧嘩をしてしまった事は大目に見るとしても、ヤマメが今どんな気持ちなのかを理解した上で、ちゃんと反省して謝って欲しい。
だが目の前の
勇儀「おい!話しを聞いてるのか!?」
ヤマ「勇儀、私はもう大丈夫だから。
それに大鬼君、仲良く使うって約束してくれ
たから。だからそんなに怒らないであげて」
苦笑いをしながら私を
勇儀「そうかい。大鬼、すまなかったな」
大鬼「ホントだよ。ちゃんと話を聞いてよ…」
勇儀「悪い悪い。ヤマメ、糸を解いてやってくれる
かい?」
ヤマメが糸を解き終えると、大鬼は全身の痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がり、
大鬼「ヤマメーごめんなさい!」
ヤマメを正面にして綺麗に頭を下げて謝った。
私は後でもう一度ちゃんと謝らせようとしていた。けど、私が言う前に自分から進んで行動をとった
ヤマ「もう…、約束だからね」
そんな大鬼にヤマメは腕を組んでため息を吐くも、微笑みながら大鬼の謝罪を受け入れた。
勇儀「ちゃんと謝って偉いぞ」
大鬼の頭を撫でて褒めてやる。これで一件落着、
勇儀「でもそれはそれ。カズキのとこ行くぞ」
とはいかせない。
大鬼「えーーーっ!?やっぱり行くのー!?」
大鬼が大声で拒否反応を示した時、私の背後から笑い声が聞こえて来た。
??「あははは。大鬼、また喧嘩して来たのか?」
鬼助だ。大鬼の事を冷やかしにでも来たのだろう。
大鬼「だったら何だよ…」
ニタニタと笑う鬼助を睨みつける大鬼。だが鬼助の背後から現れた彼女の登場に、
大鬼「!!」
大鬼は目を皿にし、顔を真っ赤にした。
萃香「大鬼…、おかえり」
2人を包み込む温かく、甘酸っぱい雰囲気。その間に挟まれた私は、
勇儀「(い、いずらい…)」
居心地の悪さを感じていた。それは私だけでは無かった様で、
黒猫「フシャーッ!!」
再び毛を逆立てて、威嚇の姿勢を取る地霊殿のペット。しかもその標的は事もあろうに……親友。妖怪だけでは無く、鬼にまで威嚇するなんて…。いいね、気に入った。
萃香「また、喧嘩しちゃったの?」
鈴を転がす様な声で大鬼に尋ねる親友。普段では絶対に聞く事が出来ない声に、「どこから出しているんだ?」と疑問に思うと共に、「気持ち悪っ!」と思ってしまう。
けどこれが思いの外、
大鬼「……うん」
萃香「仲直り…しなきゃダメだよ?」
大鬼「うん…。仲直りして来る」
この様にあっさりと言う事を聞く。
私が言っても渋るクセに、どうしてこうも違うのだろう?流石萃香とでも言ったところだろうか。それとお燐。さっきからフシャーフシャー
萃香「私、待ってるから。仲直りして来てね♡」
頬を赤く染め、眩しい笑顔で大鬼を送り出す親友。その笑顔は汚れのない少女その物。彼女の場合はその威力は絶大で、
ヤマ「きゃーっ!かーわーいーいー!」
鬼助「……萃香さん、それは卑怯です」
黒猫「フシャーーーッ!!」
周囲の連中までを巻き込む。ヤマメは火照った頬を隠す様に手を当てて奇声を上げ、鬼助は不意打ちに耐え切れず、表情を隠す様に他所を向き、お燐は………
そして大鬼はと言うと、
大鬼「〜〜〜っ」
先程よりも赤く実り、口元が緩んでいた。この幸せ者め…。大鬼もその気になってくれたみたいだし、出荷するなら今だろう。
勇儀「じゃあ大鬼行くぞ。
それとヤマメは上がって待っていてくれ。
詫びに夕飯作るから食べていきなよ。
あ、萃香と鬼助も食うだろ?」
『え?』
勇儀「それじゃあ留守を頼むよ」
客人達に留守番を頼み、大鬼を引き連れて、いざ私の戦場へ。
--勇儀が去った屋敷では--
ヤマ「ねー…、誰か最近勇儀の作ったご飯を食べた
事ある人、いる?」
萃香「わ、私は全然…」
鬼助「オイラは以前、パルパルとそれを回避しまし
た」
ヤマ「大鬼君のご飯を作っているのって勇儀?」
『いやいやいや、まさかまさかまさか…』
ヤマ「…」
萃香「…」
鬼助「…」
『不安だ…』
不穏な空気に包まれていた。
黒猫「ニャー?」
次回【三年後:お母ちゃん】