小皿に取った汁を
勇儀「うん、よしよし」
いつもと変わらない味付けだ。問題なし。あとは落し蓋をして煮込めば出来上がり。なのだけれど…、
じー…
背後から多数の強い視線を感じる。視線の出所は親友、ヤマメ、パルスィそして鬼助だろう。後でコイツらの驚く顔を想像すると、
??「ねー勇儀、ホントに何か手伝う事ない?」
この声は………萃香か。どうも落ち着いて待つ事が出来ないみたいだ。
勇儀「そうだなぁ…。あっ、だったら大鬼にコレを
付けてあげてくれないか?」
後ろを振り向き、肉屋の奥さんから譲って貰った容器を親友に手渡す。
萃香「ん?何これ?」
渡された親友は先程の私と同じ反応を示した。
勇儀「筋肉痛とかに効く薬だってさ」
パル「『お母ちゃん』さんがくれたの」
現場にいた私とパルスィで説明員に徹する。
ヤマ「へー、どうやって使うの?」
興味津々といった様子で、ヤマメは親友の手元を覗き込みながら尋ねてきた。その質問に答えるため、肉屋の奥さんが言っていた事を思い起こす。その殆どが抜け落ちているので、必死に記憶を
私はもうあまり使っていない
勇儀「この中に薬を入れて、『酒』で『溶かす』。
それで『布に浸し』て大鬼に巻き付ける」
うん、これだろ。間違いない!
だが視界に入るコイツらの目付きといったら…。
パル「勇儀、それ絶対違うと思う…」
全否定ときたもんだ。
勇儀「じゃあお前さんは覚えてるのか?
一緒に居ただろ?」
パル「いや…、勇儀がちゃんと聞いていると思って
いたから…」
ヤマ「2人して『お母ちゃん』さんの迫力に負けて
たんだ…」
『お恥ずかしながら…』
鬼助「でも酒で溶かす薬なんて、
聞いた事無いですよ?」
勇儀「まあ物は試しだ。
違ったらその時はその時だ」
『えー…』
萃香「お酒はどうするの?何でも良いのかな?」
勇儀「んー…。少し勿体ない気もするけど、
安いやつとか調理酒とか…」
とボヤいてみるが、それらも金を出して買った物。屋敷で生活している以上、金の面については気にする事はないのだが、一人暮らしが長かったのもあって、私のケチ症がそれを許さない。何かタダで……
勇儀「あ、良いのがある」
『何?』
私の閃きに興味を示す客人達。だが次に私が何気無く放った言葉が、
勇儀「『酒が無限に湧き出る瓢』」
『はーーーっ!?』
全員の度肝を抜く事になった。
鬼助「いやいやいやいや、何でアレがここにあるん
ですか!?」
ヤマ「それって鬼達の宝でしょ!?」
パル「お宝…。妬ましい…」
萃香「私の実家にあるはずなのに…」
勇儀「あー、そうなんだけど…」
私が連中に事の成り行きを説明しようとした時、
??「お、今日は客が多いなぁ」
首にタオルをぶら下げ、全身から湯気を出した
パル「こんにちは」
ヤマ「おじゃましてまーす」
と、ここまでは普通。
鬼助「
この度は娘さんに呼ばれ、おじゃまさせて頂
いている次第です!」
深々と頭を下げて失礼の無いように、丁寧にかたい挨拶をする弟分。だがこれは鬼達では当たり前の挨拶。
親方「おう、楽にしな」
綺麗なお辞儀を決めている弟分に、
萃香「
親友も弟分に習って同様の挨拶を…
親方「ガッハハハハ、何だよ改まって。
萃香久しぶりだな。いつも通りに呼んでくれ
よ」
その姿が可笑しかったのか、
萃香「では、お言葉に甘えまして…」
その命令に親友は、一度瞳を閉じて軽くお辞儀をすると、
萃香「おじさん久しぶり〜!家の親父と相撲を取る
って聞いたけど、ホント?」
表情を明るくして、普段通りの
親方「おう、本当だ。
だから今まで鍛錬に行っていたところよ!」
萃香「本気…、なんだよね?」
親友は笑顔で答える
親方「ああ、今日昼飯を食いに行った
伊吹の所に寄ったんだ。
そしたら『本気で取りに行く』って
やがってよ」
萃香「親父が本気…」
その言葉にこの場の全員が下を向き、黙り込んだ。事情を知らなかった2人の妖怪も、どうやらある程度察したようだ。再び私達は無言になり、グツグツと料理を煮込む音だけが聞こえていた。
鬼助「
ボソッと小声で呟いた弟分の一言に、
『鬼助つまらない!』
全員でダメ出し。本人はそんなつもりではなかったと思うが、思いの外これが静寂に包まれていた雰囲気に風穴を開けた。
勇儀「まあ、それは飯を食ってから考えよう。
それで父さん。あの瓢はまだあるかい?」
親方「おう、あるぞ。今日持って行き忘れてよ」
頭を掻きながら自分の失態を恥じる
萃香「おじさん。何でここにアレがあるの?」
親方「借りた」
親友の問いに3文字でまとめた。「幾ら何でもそれでは誰も納得しないだろう」と思っていると、
『へー…』
まさかの全員が納得した。え、終わり?もう少し食い下がってもいいんじゃないか?結構面白いんだぞ、その話。
萃香「それでおじさん、それ借りてもいい?」
親方「いいが、飲むのか?だったらそれよりも…」
「美味い酒がある」と言うつもりだったのだろう。けど私達は飲むために求めている訳ではない。
鬼助「いえいえ…、そうではないんです。
大鬼の薬に使うんです」
そこに弟分が申し訳なさそうに、その用途を簡単に説明した。
親方「は?薬に?酒を?」
鬼助の言葉に目を点にし、首を傾げる
ヤマ「らしいです…」
パル「絶対に違うと思いますけど…」
全員が私の記憶に疑問を持っている。料理の事といい、さっきから信用が無さ過ぎじゃないか?終いにゃ泣くぞ?
私が一人傷心していると、程よく濃くなった醤油の良い匂いがしてきた。そろそろ火加減を調節し、また暫くすれば頃合いだろう。
勇儀「大丈夫だって。
もう直ぐで飯が出来るから行った行った。
父さんは風呂、皆は大鬼を頼むよ」
私は「邪魔だから向こうへ行け」と手で合図を送りながら、全員をこの場から追い払った。いつまでも居られると
外野連中が居なくなり、台所には私一人。大きく深呼吸をして、再び調理開始。
--鬼再調理中--
勇儀「おーい、出来たぞー」
焼いたバラ肉が山になって盛られた大皿を持って広間へ。客人が多いので今日はここで夕飯だ。そしてこの肉は…まあ言わずもがな。私が広間に着くとそこには、
??「勇〜儀〜、ご飯まら〜?」
??「姐さんの手料理…。
オイラは猛烈に感動しています!」
顔を赤くして
そして、ふと視線を移すとこれまた顔を赤くして、呆けている大鬼の姿。腕と足に包帯を巻き付けているところを見ると、私の指示通り薬を付けてくれたみたいだ。と、そこに2人の妖怪が不安そうな顔つきで近寄って来た。
ヤマ「勇儀、あれホントに大丈夫かな?」
パル「大鬼、出来上がっちゃってるよ?」
勇儀「え?何で?」
ヤマ「あのお酒かなりキツイよ」
パル「私は臭いでアウト」
そんなにキツイ酒なのか?この間はなんだかんだで結局飲めなかったから、その事を知らない。でも鬼助と萃香が酔っ払っているって事は、そういう事なのだろう。
勇儀「という事は…、匂いだけで酔っ払った?」
『そうでしょ!!』
やってしまった…。素直にそう思った。大鬼の事が心配になり、様子を見るために近付いて声を掛ける。
勇儀「大鬼、大丈夫か?」
すると大鬼はぼんやりと私を見つめ、返事をしてくれた。
大鬼「あー、ユーネェ。頭がボーッとするけど、
すごい身体が楽になったよ。
もうどこも痛くない」
勇儀「本当か!?」
何という即効性。使い方は正しかった。この事を皆に自慢したくて、
勇儀「もう大丈夫だってよ!
ほれ見ろ、やっぱり間違ってないだろ!?」
声を張ってドヤ顔をしてやった。
『いやいやいやいや…』
顔の前で手を左右に振り、「それでも違う」と言いたげな表情を浮かべる妖怪達。
萃香「ふぇ〜?なにら〜?」
鬼助「良かったですね姐さん!感激です!」
そして話を聞いていない親友に、暑苦しさに磨きの掛かる弟分。もうお前さん達コレ禁止な。それと…。
??「ふふ、お前さんは可愛いな〜♡」
黒猫「ニャーン♡」
お燐を膝の上に乗せて戯れる
町で一番偉いからな。
それはそれとして、飯だ!ヤマメに大鬼から包帯を外す様に頼み、パルスィには面倒くさい2人の介抱を指示し、母さんには
「父さんが風呂から出たら飯にするから、
いい加減にして手を洗って来い!」
とは強く言えないので、
勇儀「父さんが風呂から出たら夕飯にするから、
そろそろ手を洗って来てくれるかい?」
伝えて、私は配膳へと取り掛かる。
次回【三年後:8人+一匹】