『いただきます』
私の右隣に大鬼を座らせ、左には
酔っ払い共はもうすっかり酔いを覚まし、平常心を取り戻しているはずなのだが…。
萃香「…」
大鬼「…」
尚も赤い顔で体を小さくして、無言のまま下を向く親友と大鬼。
萃香よ…、そうなるなら何故大鬼の隣に座った?配膳終えて、座る位置を考えている時に、真っ先に「大鬼の隣がいい」と言って来たから、希望通りにしてやったと言うのに…。これなら正面の鬼助の位置の方が良かったんじゃないか?
そしてその弟分はというと、
鬼助「意外にも見た目は…」
ヤマ「う、うん。普通だけど…」
パル「いい匂いもしてる…。妬ましい…」
ヤマメとパルスィ達と共に、箸を持ったまま硬直していた。事情を察している
親方「ほら鬼助とっとと食え!これは親方命令だ」
悪そうに笑いながら、権力を使う我が家の底辺。どうやら
鬼助「で、では…。逝かせて頂きます!」
覚悟を決めた表情で料理に勢い良く箸を伸ばした。
ヤマ「がんばっ!」
パル「骨は拾ってあげる」
男を見せる鬼助にエールを送るヤマメとパルスィ。
そして私達一家が注目する中、鬼助は強く目を閉じ、震えながらその一口を…、
鬼助「モグ………」
放り込んだ。
『どう!?』
その瞬間、鬼助は目を見開いて大声で叫び出した。
鬼助「
食ってみろよ!」
ヤマ「え?そうなの?じゃあ…」
パル「う、うん…。いただきます…」
鬼助に薦められ、2人共一口…。
『モグモグ………!!」
そして鬼助と同様、私の期待通りの表情を浮かべた。これだ、私はこれを待っていたんだ。でも…。
ヤマ「ホントだ!
パル「…」
勇儀「お前さん達…。普通普通って…。泣くぞ…」
鬼助「いやいや、オイラは美味しいって言いました
よ!?」
ヤマ「でも先に『普通』って言ったの鬼助だよ?」
鬼助「そういう事じゃないから…」
親方「お?なんだ鬼助。勇儀ちゃんの料理に文句が
あるのか?」
ボキボキと大きな拳を鳴らして鬼助を睨み付ける父さん。先程から鬼助がいる事をいい事に、ここぞとばかりに地位を利用している。ホントにせこい…。
鬼助「えーーー!?そんな事、一言も言っていませ
んけど!?」
勇儀「しくしく…。鬼助が私の料理を…」
ヤマ「あー、鬼助泣かせたー!」
親方「よし鬼助、表に出ろ!」
鬼助「いやいやいやいや!だから違いますって!」
『あはははは』
騒がしい食卓。こんなにも大勢でとなればもう宴だ。いつもの
そんな騒がしい中でも、別世界に行っているのが…。
大鬼「…」
萃香「…」
尚も箸すらも持たずに、俯いたままの2人。いや、時々視線は合っているみたいで、顔が赤くなったり、元に戻ったりを繰り返している。まあこの2人がそれでいいなら、それでもいいだろう。
ただもう一人が…。
パル「勇儀の美味しい料理!
大鬼…妬ましい…。
勇儀の手料理!
大鬼…妬ましい…。
勇儀の…勇儀の…勇儀のーーー!
大鬼…大鬼…大鬼…妬ましいー!」
飯を食べては妬み、飯を食べては妬みと忙しない。でもまあ、これは…知ってた。こうなるのは知っていた。
勇儀「おい、パルスィ。食うか妬むかどっちかにし
ろよ」
パル「じゃあ…………………………………食べる」
暫く視線をキョロキョロと左右に泳がせて、ようやく決心した。
勇儀「そうしろ。私がせっかく作ったんだから、
ちゃんと味わえよ」
少し厚かましいかも知れないが、コイツにはこれくらいが調度いい。じゃないとすぐ勘違いしやがる。
パル「それは私へのプロポーズ?」
『どうしてそうなる!?』
ここは満場一致。アレでもダメか…。コイツは本当に…。ここまで行くと流石に…。
思考がぶっ飛び過ぎの橋姫に顔を引きつらせていると、何かが左足に擦り寄る感触が。お燐だ。こっちから来た事を考えると、さっきまで母さんの所にいたのだろう。
黒猫「ニャーン」
勇儀「あ、悪い。お前さんの飯を忘れてた。
何がいいかな?」
私がそう言うと、お燐は首を大きく横に振った。「いらない」という合図なのか?
勇儀「いらないのか?」
尋ねてみると、首を縦に振った。そういう事らしい。それにしても頭のいい猫だ。流石あの主人のペット。
パル「ん?その猫何?」
勇儀「あー、地霊殿の猫だよ」
ヤマ「さっき私威嚇されたんだよ」
鬼助「でもあの時だけだろ?」
ヤマ「うん…、でもやっぱり私は犬派だなぁ」
棟梁「そう?人懐っこくて可愛いじゃない」
親方「それが何でまたここに?」
勇儀「あーそれは…」
私が父さんの質問に答えようとした時、
黒猫「フシャーーーッ!!」
お燐が毛を逆立てて、また威嚇の姿勢を取った。
ヤマ「え?え?え?なに?なに?なに?」
鬼助「うわっ!急にどうした!?」
親方「んー?」
棟梁「あらあら、何かしら?」
パル「ん?この匂い…」
その視線の先、威嚇の矛先は…。
パル「
急に叫び出す嫉妬妖怪。突然の事に私を含め、その場の全員が一斉に彼女に注目した。
ヤマ「ちょっ、どうしたのパルスィ!?
ご飯中だよ!?落ち着いて!」
パル「ご馳走の匂いがする。しかも特上の!」
鬼助「は?何も匂わないぞ?」
パル「匂う…匂う!嫉妬の匂いが!その猫から!」
『はあーーーっ!?』
嫉妬心を操り、嫉妬心を好物とするパルスィ。そんな彼女が指差した先にいるのは、萃香に威嚇するお燐。
猫が嫉妬?そう言えば、お燐は大鬼に会いに来たんだったよな。
私はお燐を連れて来た理由を思い出し、依然として2人だけの世界から出て来ようとしない大鬼に、「そろそろいい加減にしろ」と肩を叩いた。
大鬼「あっ、え?なに?」
勇儀「あのな、今日地霊殿行って来たんだよ。
そしたらそこの猫がお前さんに会いたいって
言うから、連れて来たんだ。
ちょっとは相手してやれ」
私がそう言うと大鬼はお燐の方へ視線を向けた。
大鬼「あ、ホントだ。遊びに来てたんだ」
黒猫「ニャ〜〜〜ン♡」
大鬼に声を掛けてもらったお燐は、すぐに威嚇の姿勢を解き、嬉しそうに鳴き声を上げた。そして大鬼に近付いて行き、食事の邪魔をしないように背後で寄り添う様に丸くなった。
パル「あ、消えた…」
と、同時にコイツが大人しくなった。ご馳走までもう少しのところだっただけに、それはガックリと
鬼助「パルパルどうした?」
ヤマ「嫉妬が無くなったの?」
親方「がっははは、それは残念だったな」
その橋姫を哀れむ者達。だがその顔はどこか安心をしている様でもある。
棟梁「はいはい、もうご飯を食べましょ」
手を「パンッ」と叩き、一同の気持ちを入れ替えさせる
鬼助「大鬼、その肉食べないならよこせ」
大鬼「食べるから!」
勇儀「おい萃香、そろそろ帰って来い。
飯がなくなるぞ」
萃香「ふぇっ!?ごごごこめん。いただきます」
親友の最初の一口。皆が彼女の第一声に注目していた。さて…、お前さんにはちゃんとした感想を期待しているぞ。
萃香「あ、普通だ」
いかん…、目頭が…。
次回【三年後:9人】