東方迷子伝   作:GA王

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三年後:8人+一匹

  『いただきます』

 

 親方様(父さん)が風呂からあがり、全員が揃ったところで食事を開始。こんなにも大勢で食べるのは久しぶりだ。

 私の右隣に大鬼を座らせ、左には棟梁様(母さん)親方様(父さん)と続き、鬼助、ヤマメ、パルスィ、萃香の順で食卓を囲む。大鬼の右隣がちょうど萃香になる配置だ。

 酔っ払い共はもうすっかり酔いを覚まし、平常心を取り戻しているはずなのだが…。

 

萃香「…」

大鬼「…」

 

尚も赤い顔で体を小さくして、無言のまま下を向く親友と大鬼。

 萃香よ…、そうなるなら何故大鬼の隣に座った?配膳終えて、座る位置を考えている時に、真っ先に「大鬼の隣がいい」と言って来たから、希望通りにしてやったと言うのに…。これなら正面の鬼助の位置の方が良かったんじゃないか?

 そしてその弟分はというと、

 

鬼助「意外にも見た目は…」

ヤマ「う、うん。普通だけど…」

パル「いい匂いもしてる…。妬ましい…」

 

ヤマメとパルスィ達と共に、箸を持ったまま硬直していた。事情を察している棟梁様(母さん)の発案で、客人達が先に一口食べる事になっている。つまり、彼等が食べないと私達は食べられないのだ。

 

親方「ほら鬼助とっとと食え!これは親方命令だ」

 

悪そうに笑いながら、権力を使う我が家の底辺。どうやら親方様(父さん)も事情を察しているようだ。鬼助の背中を力強く叩いて後押しすると、鬼助は驚いた顔をした後、一度大きく深呼吸をし、

 

鬼助「で、では…。逝かせて頂きます!」

 

覚悟を決めた表情で料理に勢い良く箸を伸ばした。

 

ヤマ「がんばっ!」

パル「骨は拾ってあげる」

 

男を見せる鬼助にエールを送るヤマメとパルスィ。

 そして私達一家が注目する中、鬼助は強く目を閉じ、震えながらその一口を…、

 

鬼助「モグ………」

 

放り込んだ。

 

  『どう!?』

 

その瞬間、鬼助は目を見開いて大声で叫び出した。

 

鬼助「()()にうめぇー!ちょっ、ヤマメとパルパル

   食ってみろよ!」

ヤマ「え?そうなの?じゃあ…」

パル「う、うん…。いただきます…」

 

鬼助に薦められ、2人共一口…。

 

  『モグモグ………!!」

 

そして鬼助と同様、私の期待通りの表情を浮かべた。これだ、私はこれを待っていたんだ。でも…。

 

ヤマ「ホントだ!()()に食べれる!」

パル「…」

勇儀「お前さん達…。普通普通って…。泣くぞ…」

鬼助「いやいや、オイラは美味しいって言いました

   よ!?」

ヤマ「でも先に『普通』って言ったの鬼助だよ?」

鬼助「そういう事じゃないから…」

親方「お?なんだ鬼助。勇儀ちゃんの料理に文句が

   あるのか?」

 

ボキボキと大きな拳を鳴らして鬼助を睨み付ける父さん。先程から鬼助がいる事をいい事に、ここぞとばかりに地位を利用している。ホントにせこい…。

 

鬼助「えーーー!?そんな事、一言も言っていませ

   んけど!?」

勇儀「しくしく…。鬼助が私の料理を…」

ヤマ「あー、鬼助泣かせたー!」

親方「よし鬼助、表に出ろ!」

鬼助「いやいやいやいや!だから違いますって!」

  『あはははは』

 

 騒がしい食卓。こんなにも大勢でとなればもう宴だ。いつもの棟梁様(母さん)なら怒るところだろうけど、さすがに今日は大目に見てくれている様で、優しく微笑んでその様を見守ってくれていた。

 そんな騒がしい中でも、別世界に行っているのが…。

 

大鬼「…」

萃香「…」

 

尚も箸すらも持たずに、俯いたままの2人。いや、時々視線は合っているみたいで、顔が赤くなったり、元に戻ったりを繰り返している。まあこの2人がそれでいいなら、それでもいいだろう。

 ただもう一人が…。

 

パル「勇儀の美味しい料理!

   大鬼…妬ましい…。

   勇儀の手料理!

   大鬼…妬ましい…。

   勇儀の…勇儀の…勇儀のーーー!

   大鬼…大鬼…大鬼…妬ましいー!」

 

飯を食べては妬み、飯を食べては妬みと忙しない。でもまあ、これは…知ってた。こうなるのは知っていた。

 

勇儀「おい、パルスィ。食うか妬むかどっちかにし

   ろよ」

パル「じゃあ…………………………………食べる」

 

暫く視線をキョロキョロと左右に泳がせて、ようやく決心した。

 

勇儀「そうしろ。私がせっかく作ったんだから、

   ちゃんと味わえよ」

 

少し厚かましいかも知れないが、コイツにはこれくらいが調度いい。じゃないとすぐ勘違いしやがる。

 

パル「それは私へのプロポーズ?」

  『どうしてそうなる!?』

 

ここは満場一致。アレでもダメか…。コイツは本当に…。ここまで行くと流石に…。

 思考がぶっ飛び過ぎの橋姫に顔を引きつらせていると、何かが左足に擦り寄る感触が。お燐だ。こっちから来た事を考えると、さっきまで母さんの所にいたのだろう。

 

黒猫「ニャーン」

勇儀「あ、悪い。お前さんの飯を忘れてた。

   何がいいかな?」

 

私がそう言うと、お燐は首を大きく横に振った。「いらない」という合図なのか?

 

勇儀「いらないのか?」

 

尋ねてみると、首を縦に振った。そういう事らしい。それにしても頭のいい猫だ。流石あの主人のペット。

 

パル「ん?その猫何?」

勇儀「あー、地霊殿の猫だよ」

ヤマ「さっき私威嚇されたんだよ」

鬼助「でもあの時だけだろ?」

ヤマ「うん…、でもやっぱり私は犬派だなぁ」

棟梁「そう?人懐っこくて可愛いじゃない」

親方「それが何でまたここに?」

勇儀「あーそれは…」

 

私が父さんの質問に答えようとした時、

 

黒猫「フシャーーーッ!!」

 

お燐が毛を逆立てて、また威嚇の姿勢を取った。

 

ヤマ「え?え?え?なに?なに?なに?」

鬼助「うわっ!急にどうした!?」

親方「んー?」

棟梁「あらあら、何かしら?」

パル「ん?この匂い…」

 

その視線の先、威嚇の矛先は…。

 

パル「嫉ーーーーーっ妬(しーーーーーっと)!!」

 

急に叫び出す嫉妬妖怪。突然の事に私を含め、その場の全員が一斉に彼女に注目した。

 

ヤマ「ちょっ、どうしたのパルスィ!?

   ご飯中だよ!?落ち着いて!」

パル「ご馳走の匂いがする。しかも特上の!」

鬼助「は?何も匂わないぞ?」

パル「匂う…匂う!嫉妬の匂いが!その猫から!」

  『はあーーーっ!?』

 

嫉妬心を操り、嫉妬心を好物とするパルスィ。そんな彼女が指差した先にいるのは、萃香に威嚇するお燐。

 猫が嫉妬?そう言えば、お燐は大鬼に会いに来たんだったよな。

 私はお燐を連れて来た理由を思い出し、依然として2人だけの世界から出て来ようとしない大鬼に、「そろそろいい加減にしろ」と肩を叩いた。

 

大鬼「あっ、え?なに?」

勇儀「あのな、今日地霊殿行って来たんだよ。

   そしたらそこの猫がお前さんに会いたいって

   言うから、連れて来たんだ。

   ちょっとは相手してやれ」

 

私がそう言うと大鬼はお燐の方へ視線を向けた。

 

大鬼「あ、ホントだ。遊びに来てたんだ」

黒猫「ニャ〜〜〜ン♡」

 

大鬼に声を掛けてもらったお燐は、すぐに威嚇の姿勢を解き、嬉しそうに鳴き声を上げた。そして大鬼に近付いて行き、食事の邪魔をしないように背後で寄り添う様に丸くなった。

 

パル「あ、消えた…」

 

と、同時にコイツが大人しくなった。ご馳走までもう少しのところだっただけに、それはガックリと項垂(うなだ)れ、見るからに残念&無念といった様子。

 

鬼助「パルパルどうした?」

ヤマ「嫉妬が無くなったの?」

親方「がっははは、それは残念だったな」

 

その橋姫を哀れむ者達。だがその顔はどこか安心をしている様でもある。

 

棟梁「はいはい、もうご飯を食べましょ」

 

手を「パンッ」と叩き、一同の気持ちを入れ替えさせる棟梁様(母さん)。それを合図に皆が姿勢を正し、料理と向き合う。こういうところは私では真似ができない。さすがだ。

 

鬼助「大鬼、その肉食べないならよこせ」

大鬼「食べるから!」

勇儀「おい萃香、そろそろ帰って来い。

   飯がなくなるぞ」

萃香「ふぇっ!?ごごごこめん。いただきます」

 

親友の最初の一口。皆が彼女の第一声に注目していた。さて…、お前さんにはちゃんとした感想を期待しているぞ。

 

萃香「あ、普通だ」

 

いかん…、目頭が…。

 

 




次回【三年後:9人】
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