東方迷子伝   作:GA王

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親心

ダイ「スー、スー……」

 

 寝息を立て、穏やかな表情で眠るダイキ。時折クスクスと笑う寝言が何とも微笑ましい。どんな夢を見ているのだろう。

 

勇儀「寝た……よな?」

 

 ダイキの頭を「行ってくる」と呟きながらそっと()で、外出用の浴衣へと袖を通す。長居をするつもりは更々無い。「用を済ませるだけだ」そう自分に言い聞かせ、履き慣れた下駄で表へ。そして最後にもう一度ダイキに視線を戻すと、先程と変わらぬ体勢でただ安らかに眠っていた。

 

勇儀「ダイキ、すぐ戻るからな」

 

 そう言葉を残してゆっくりと、静かに戸を閉めて約束の場所へ歩き出した。

 

 

--女鬼移動中--

 

 

 地底の夜は闇そのもの。日中は至るところで明かりが灯り不自由はしない。祭りの時期ともなれば、提灯が頭上に連なる様に吊るされ、眩しいと感じる程だ。しかし、祭りでもない平凡な日の深夜とも呼べるこの時間帯、街灯は小さくなり民家の灯りも当然消えている。更にここは地上とは違い太陽が無ければ月もない。明かりという明かりはほぼない。

 そんな中でも一際煌々と灯りを灯す一軒の平屋。そこが賭博場だ。今日も外まで熱気が溢れていた。験担ぎの扉に手をかけ、

 

 

スー……ッ。

 

 

 今日は静かに開いた。()()が来ているのかもしれない。でもそんな事今日は関係ない。

 

??「おぅ、勇儀ちゃん。いらっしゃい。あの日の小僧と一緒にいるんだって?」

 

 毎度お馴染みの位置、受付の席に店長が出迎えるように声を掛けてきた。

 

勇儀「そうだよ。だからなかなか来られなくてさ。そうだ、鬼助は来ているかい?」

店長「鬼助ならほれ、そこにいるよ」

 

 店長の指した方へ視線を向けると、直ぐそこの()で真剣な表情をして張っている弟分がいた。あの位置なら調度良い。態々(わざわざ)鬼助を呼び寄せる必要もなさそうだ。私は店中の皆に聞こえる様に、こちらに注目を集める様に大きな声で呼び掛けた。

 

勇儀「地霊殿建設の皆の衆、今日もお疲れ」

 

 そう言い放つと、店の連中は手を止めて狙い通り私に視線を向け始め、

 

  『お疲れ様です!』

 

 部屋中から威勢のいい野太い返事が返って来た。一度店内を見回し、皆が私に注目している事を確認して

 

勇儀「まず、現場のみんなにはダイキについて、理解してもらって本当にありがとう。明日からもよろしく頼む」

 

 感謝の言葉と共に深く一礼。そして早々に用件を伝える。

 

勇儀「それと明後日の一斉休日だが、焼肉会を開催したいと考えている。場所はいつもの大穴の所だ。みんなには是非参加して欲しい」

 

 そこまで言い終わると、皆一斉に喜びの雄叫びを上げた。

 

勇儀「準備に人手がいる。手伝ってくれる者は鬼助に言ってくれ。材料は明日、肉屋の店主と話しをつけて来る」

??「おるぞー」

 

 店の奥から返事。そちらの方へ視線を移すと、手を振っている鬼がいた。肉屋の店主だ。これは好都合。

 

肉屋「肉の提供なら任せておけ。今日は景気が良くてな、大きく勝ち越しだ。だから予算に色を付けた分の肉を出してやる」

鬼 「勝手にそんな事して『お母ちゃん』に叱られないかー?」

肉屋「まあ、大丈夫じゃろ。心配すんな」

 

 

パチパチパチパチッ!

 

 

 肉屋の店主の粋な心遣いに一斉に拍手が鳴り、

 

勇儀「肉屋の店長ありがとう。私からは以上だ。あとは鬼助、頼む」

鬼助「へい! では。事前準備には……」

 

 私はそこで連絡係を弟分へと交代した。

 弟分は飲み物や道具の準備、当日の段取りについて簡単ではあるが、分かりやすく説明していった。連中も焼肉会には慣れた者達。「私の出る幕はもう無さそうだ」と判断し、もう一つの用事を済ませるため、店長へと話し掛けた。

 

勇儀「店長、今日ここにはもう一つ用があって来たんだ」

店長「なんだい? 用って?」

勇儀「実はあの日の勝ち分を受け取りに来たんだ」

店長「あー、勇儀ちゃん。その事なんだけど……」

 

 渋った表情で店長が何か言い掛けたその時、

 

??「ユーネェー!! どこーーー!? ユーネェ!」

 

 外の少し離れた所から聞こえる私を呼ぶ叫び声。その声に気付いた途端、私は居ても立ってもいられず慌てて店を飛び出していた。

 

??「うわぁーん、ユーネェーー!」

 

 悲鳴にも似た泣き声に私は心で「ごめん、ごめん、ごめん」と何度も謝り続け、ただひたすらに声が聞こえて来る方へと全速力で走って行った。

 不気味な程暗い町中。「今あいつは一人で……」そう考えただけで「後悔」という2文字が私の背中に強く圧し掛かってきた。

 目に映る人集り。そこはあの日と同じ場所だった。「きっとあそこだ」覚った私は焦る気持ちを抑えられず、その大衆の中へと全力で突っ込み、野次馬共を掻き分けながら、

 

勇儀「ごめん、ごめん、ごめん、ごめん」

 

 と心の声を口にしていた。

 ようやくの思いで人集りを抜けるとあの日と同じ位置で、私を呼びながら泣きじゃくるダイキの姿が。その瞬間私の心臓は「ドクン」強く脈を打ち、心を強く締め付けた。(あふ)れ出る感情を拭うことなく駆け寄ると、ダイキも私に気付いて駆け寄って来た。

 私はダイキを優しく胸へと迎え入れた。そして強く抱きしめ、止め処なく込み上げ続ける感情を言ぶつけた。

 

勇儀「すまないダイキ。ごめん、本当にごめん!」

ダイ「ユーネェ。一人にしないで、一人にしないで」

勇儀「ああ、もうお前さんを絶対に一人にしない! 一人で何処にも行かない! ずっとダイキの側にいるよ。ごめん、ごめんね、ごめんなさい!」

ダイ「ユーネェ、ユーネェ! ずっと一緒にいて!」

勇儀「約束するよ。ずっと一緒だ」

 

 もう離したくない。離さない。誰がなんと言おうと、ダイキは私の……。

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

??「勇儀……、あの子自分で言った事の大きさ、分かっているのでしょうか?」

??「カッカッカ、ええじゃないか。勇儀はええ子じゃよ」

鬼 「あんなに鬼に好かれる人間ってのも、また珍しいのぉ」

鬼 「これは次回の会議、慎重にならねばならないねぇ」

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

鬼助「姐さん、ダイキ。すみませんでした!」

 

 地面に額を付けて謝罪を始める弟分。騒ぎの熱りが冷めて人集りが散り始めた頃、慌てた様子で現れて躊躇すること無く、私とダイキの前で土下座を始めたのだ。

 

鬼助「オイラが野暮な事を(ほの)めかしたばかりに……。ダイキ、姐さんは何も悪くないんだ。オイラが誘ったんだ。恨むならオイラを恨んでくれ!」

勇儀「鬼助、頭をあげな。お前さんは悪くないよ。ダイキに話しもせず、少しの時間とは言え、一人にしてしまった私の責任だ。それにダイキは誰かを恨むとかしないよ。な?」

 

 私の腕の中で未だすすり泣くダイキに尋ねると、声には出さなかったが小さく頷いて返事をした。

 

勇儀「鬼助、悪いな。今日はもう……」

鬼助「はい! お帰り下さい。後の事はオイラにお任せ下さい!」

 

 弟分の言うように後の事を任せ、私はダイキを抱いたまま家へと帰る事にした。

 

 

--女鬼移動中--

 

 

 家へと戻ると、戸に背を付けて膝を抱えながら座るヤツがいた。彼女は私に気が付くと、立ち上がって心配そうな表情で話し始めた。

 

パル「ダイキ、大丈夫だった? 私が気付いた時にはもう遠い所にいて、慌てて追いかけようとしたんだけど、勇儀の家が開けっ放しだったのに気付いて……」

勇儀「見張っていて……くれたのか?」

パル「うん……。ごめんね。本当はもっと力になりたかったのに……」

 

 涙ながらに事情を話してくれた彼女に、この時ばかりは心から感謝し、

 

勇儀「パルスィ、ありがとう。すごく助かったよ。でも今日はそっとしておいてくれるかい?」

 

 そう言い残して家へと入った。

 家の中は布団がひっくり返り、所々荒れていた。ダイキが私を探した痕跡だろう。座れそうな空間を見つけ、ダイキを抱えたまま壁に(もた)れるようにして座る。ダイキは私の服をしっかりと掴んでいるが、寝息を立ててもうすっかり夢の中だ。

 

勇儀「ダイキ、大好きだからな」

 

 私は再び囁き、そのまま眠りについた。

 

 

--翌朝--

 

 

 全身に痛み。それを合図に目を覚ました。首をゆっくりと回すとゴリゴリと鈍い音を立てる。時計を寝起きの瞳でぼんやりと眺めていると、時刻は少し早いがいつも起きる時間くらいになっていた。

 だがダイキはまだ眠っていた。しかも自分の布団で横になって。すやすやと気持ち良さそうに。

 つい「涙を返せ!」と叫びたくなった。

 昨夜、私がダイキを抱きしめた時に一瞬過った想い。それはあってはならない想い。でももしそうなれば…と思ってしまう。だがそれは同時にダイキを裏切ってしまう事になる。

 

勇儀「私はどうしたら……」

 

 身支度をしているとダイキが目を覚まし、屈託のない笑顔で「おはよう」と元気に挨拶をしてくれた。私もいつも通り「おはよう」と返したが、どこかぎこちなかったと思う。

 ダイキの笑顔、ダイキの声、ダイキの仕草。その一つ一つが愛おしい。このままでは私は……。

 

 

ガラッ……

 

 

 支度を済ませて戸を開けると、やっぱりまたまたヤツがいた。ただ横になって寝ている。昨夜からずっとココにいたようだ。

 

勇儀「おい、パルスィ。起きろ、調子悪いのか?」

パル「パルー……」スヤスヤ

勇儀「ったくしょうがないなぁ……」

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「パッ!?」

勇儀「パルスィの家は…、あっちだったかな?」

パル「えっ!? ちょ、勇儀!?」

勇儀「よっこら、しょーー!!」

パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。……☆」

勇儀「もう朝だからなー! 仕事行けよー!」

鬼助「姐さん、おはようございます。今何か飛んで行きましたけど……」

勇儀「気にするな。準備運動だ」

 

 ここ最近の日課になりつつある朝の準備運動を終え、私とダイキと弟分とで現場へ向かう。深夜の出来事もあり誰も何も語らず、無言のまま歩を進めていた。

 重苦しい空気のまま現場に到着してしまった。

 

鬼 「勇儀姐さん、おはようございます。ダイキもおはよう」

鬼 「姉さん、おはようございます。よっ、ダイキ。おはよう」

鬼 「お嬢、おはようございます。お、ダイキ〜。おはよ!」

 

 けどそんな私達を出迎える様に、仲間が明るく私とダイキに挨拶をしに来てくれ、更にはダイキが暇をするだろうと、遊び道具を持って来てくれた者まで……。

 

勇儀「みんな、本当にありがとう」

 

 ダイキ、みんなもお前さんのことが大好きみたいだぞ。

 




小学生の頃、昔の遊びが
友達の間で流行った時期がありました。

ベーゴマ、けん玉、ビー玉。

それらが気付けばリニューアルされて、
アニメや漫画、そして玩具屋にならんでいました。


アレ考えた人、凄すぎです。

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