ダイ「スー、スー……」
寝息を立て、穏やかな表情で眠るダイキ。時折クスクスと笑う寝言が何とも微笑ましい。どんな夢を見ているのだろう。
勇儀「寝た……よな?」
ダイキの頭を「行ってくる」と呟きながらそっと
勇儀「ダイキ、すぐ戻るからな」
そう言葉を残してゆっくりと、静かに戸を閉めて約束の場所へ歩き出した。
--女鬼移動中--
地底の夜は闇そのもの。日中は至るところで明かりが灯り不自由はしない。祭りの時期ともなれば、提灯が頭上に連なる様に吊るされ、眩しいと感じる程だ。しかし、祭りでもない平凡な日の深夜とも呼べるこの時間帯、街灯は小さくなり民家の灯りも当然消えている。更にここは地上とは違い太陽が無ければ月もない。明かりという明かりはほぼない。
そんな中でも一際煌々と灯りを灯す一軒の平屋。そこが賭博場だ。今日も外まで熱気が溢れていた。験担ぎの扉に手をかけ、
スー……ッ。
今日は静かに開いた。
??「おぅ、勇儀ちゃん。いらっしゃい。あの日の小僧と一緒にいるんだって?」
毎度お馴染みの位置、受付の席に店長が出迎えるように声を掛けてきた。
勇儀「そうだよ。だからなかなか来られなくてさ。そうだ、鬼助は来ているかい?」
店長「鬼助ならほれ、そこにいるよ」
店長の指した方へ視線を向けると、直ぐそこの
勇儀「地霊殿建設の皆の衆、今日もお疲れ」
そう言い放つと、店の連中は手を止めて狙い通り私に視線を向け始め、
『お疲れ様です!』
部屋中から威勢のいい野太い返事が返って来た。一度店内を見回し、皆が私に注目している事を確認して
勇儀「まず、現場のみんなにはダイキについて、理解してもらって本当にありがとう。明日からもよろしく頼む」
感謝の言葉と共に深く一礼。そして早々に用件を伝える。
勇儀「それと明後日の一斉休日だが、焼肉会を開催したいと考えている。場所はいつもの大穴の所だ。みんなには是非参加して欲しい」
そこまで言い終わると、皆一斉に喜びの雄叫びを上げた。
勇儀「準備に人手がいる。手伝ってくれる者は鬼助に言ってくれ。材料は明日、肉屋の店主と話しをつけて来る」
??「おるぞー」
店の奥から返事。そちらの方へ視線を移すと、手を振っている鬼がいた。肉屋の店主だ。これは好都合。
肉屋「肉の提供なら任せておけ。今日は景気が良くてな、大きく勝ち越しだ。だから予算に色を付けた分の肉を出してやる」
鬼 「勝手にそんな事して『お母ちゃん』に叱られないかー?」
肉屋「まあ、大丈夫じゃろ。心配すんな」
パチパチパチパチッ!
肉屋の店主の粋な心遣いに一斉に拍手が鳴り、
勇儀「肉屋の店長ありがとう。私からは以上だ。あとは鬼助、頼む」
鬼助「へい! では。事前準備には……」
私はそこで連絡係を弟分へと交代した。
弟分は飲み物や道具の準備、当日の段取りについて簡単ではあるが、分かりやすく説明していった。連中も焼肉会には慣れた者達。「私の出る幕はもう無さそうだ」と判断し、もう一つの用事を済ませるため、店長へと話し掛けた。
勇儀「店長、今日ここにはもう一つ用があって来たんだ」
店長「なんだい? 用って?」
勇儀「実はあの日の勝ち分を受け取りに来たんだ」
店長「あー、勇儀ちゃん。その事なんだけど……」
渋った表情で店長が何か言い掛けたその時、
??「ユーネェー!! どこーーー!? ユーネェ!」
外の少し離れた所から聞こえる私を呼ぶ叫び声。その声に気付いた途端、私は居ても立ってもいられず慌てて店を飛び出していた。
??「うわぁーん、ユーネェーー!」
悲鳴にも似た泣き声に私は心で「ごめん、ごめん、ごめん」と何度も謝り続け、ただひたすらに声が聞こえて来る方へと全速力で走って行った。
不気味な程暗い町中。「今あいつは一人で……」そう考えただけで「後悔」という2文字が私の背中に強く圧し掛かってきた。
目に映る人集り。そこはあの日と同じ場所だった。「きっとあそこだ」覚った私は焦る気持ちを抑えられず、その大衆の中へと全力で突っ込み、野次馬共を掻き分けながら、
勇儀「ごめん、ごめん、ごめん、ごめん」
と心の声を口にしていた。
ようやくの思いで人集りを抜けるとあの日と同じ位置で、私を呼びながら泣きじゃくるダイキの姿が。その瞬間私の心臓は「ドクン」強く脈を打ち、心を強く締め付けた。
私はダイキを優しく胸へと迎え入れた。そして強く抱きしめ、止め処なく込み上げ続ける感情を言ぶつけた。
勇儀「すまないダイキ。ごめん、本当にごめん!」
ダイ「ユーネェ。一人にしないで、一人にしないで」
勇儀「ああ、もうお前さんを絶対に一人にしない! 一人で何処にも行かない! ずっとダイキの側にいるよ。ごめん、ごめんね、ごめんなさい!」
ダイ「ユーネェ、ユーネェ! ずっと一緒にいて!」
勇儀「約束するよ。ずっと一緒だ」
もう離したくない。離さない。誰がなんと言おうと、ダイキは私の……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
??「勇儀……、あの子自分で言った事の大きさ、分かっているのでしょうか?」
??「カッカッカ、ええじゃないか。勇儀はええ子じゃよ」
鬼 「あんなに鬼に好かれる人間ってのも、また珍しいのぉ」
鬼 「これは次回の会議、慎重にならねばならないねぇ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鬼助「姐さん、ダイキ。すみませんでした!」
地面に額を付けて謝罪を始める弟分。騒ぎの熱りが冷めて人集りが散り始めた頃、慌てた様子で現れて躊躇すること無く、私とダイキの前で土下座を始めたのだ。
鬼助「オイラが野暮な事を
勇儀「鬼助、頭をあげな。お前さんは悪くないよ。ダイキに話しもせず、少しの時間とは言え、一人にしてしまった私の責任だ。それにダイキは誰かを恨むとかしないよ。な?」
私の腕の中で未だすすり泣くダイキに尋ねると、声には出さなかったが小さく頷いて返事をした。
勇儀「鬼助、悪いな。今日はもう……」
鬼助「はい! お帰り下さい。後の事はオイラにお任せ下さい!」
弟分の言うように後の事を任せ、私はダイキを抱いたまま家へと帰る事にした。
--女鬼移動中--
家へと戻ると、戸に背を付けて膝を抱えながら座るヤツがいた。彼女は私に気が付くと、立ち上がって心配そうな表情で話し始めた。
パル「ダイキ、大丈夫だった? 私が気付いた時にはもう遠い所にいて、慌てて追いかけようとしたんだけど、勇儀の家が開けっ放しだったのに気付いて……」
勇儀「見張っていて……くれたのか?」
パル「うん……。ごめんね。本当はもっと力になりたかったのに……」
涙ながらに事情を話してくれた彼女に、この時ばかりは心から感謝し、
勇儀「パルスィ、ありがとう。すごく助かったよ。でも今日はそっとしておいてくれるかい?」
そう言い残して家へと入った。
家の中は布団がひっくり返り、所々荒れていた。ダイキが私を探した痕跡だろう。座れそうな空間を見つけ、ダイキを抱えたまま壁に
勇儀「ダイキ、大好きだからな」
私は再び囁き、そのまま眠りについた。
--翌朝--
全身に痛み。それを合図に目を覚ました。首をゆっくりと回すとゴリゴリと鈍い音を立てる。時計を寝起きの瞳でぼんやりと眺めていると、時刻は少し早いがいつも起きる時間くらいになっていた。
だがダイキはまだ眠っていた。しかも自分の布団で横になって。すやすやと気持ち良さそうに。
つい「涙を返せ!」と叫びたくなった。
昨夜、私がダイキを抱きしめた時に一瞬過った想い。それはあってはならない想い。でももしそうなれば…と思ってしまう。だがそれは同時にダイキを裏切ってしまう事になる。
勇儀「私はどうしたら……」
身支度をしているとダイキが目を覚まし、屈託のない笑顔で「おはよう」と元気に挨拶をしてくれた。私もいつも通り「おはよう」と返したが、どこかぎこちなかったと思う。
ダイキの笑顔、ダイキの声、ダイキの仕草。その一つ一つが愛おしい。このままでは私は……。
ガラッ……
支度を済ませて戸を開けると、やっぱりまたまたヤツがいた。ただ横になって寝ている。昨夜からずっとココにいたようだ。
勇儀「おい、パルスィ。起きろ、調子悪いのか?」
パル「パルー……」スヤスヤ
勇儀「ったくしょうがないなぁ……」
ガッ!(パルスィの服を掴む音)
パル「パッ!?」
勇儀「パルスィの家は…、あっちだったかな?」
パル「えっ!? ちょ、勇儀!?」
勇儀「よっこら、しょーー!!」
パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。……☆」
勇儀「もう朝だからなー! 仕事行けよー!」
鬼助「姐さん、おはようございます。今何か飛んで行きましたけど……」
勇儀「気にするな。準備運動だ」
ここ最近の日課になりつつある朝の準備運動を終え、私とダイキと弟分とで現場へ向かう。深夜の出来事もあり誰も何も語らず、無言のまま歩を進めていた。
重苦しい空気のまま現場に到着してしまった。
鬼 「勇儀姐さん、おはようございます。ダイキもおはよう」
鬼 「姉さん、おはようございます。よっ、ダイキ。おはよう」
鬼 「お嬢、おはようございます。お、ダイキ〜。おはよ!」
けどそんな私達を出迎える様に、仲間が明るく私とダイキに挨拶をしに来てくれ、更にはダイキが暇をするだろうと、遊び道具を持って来てくれた者まで……。
勇儀「みんな、本当にありがとう」
ダイキ、みんなもお前さんのことが大好きみたいだぞ。
小学生の頃、昔の遊びが
友達の間で流行った時期がありました。
ベーゴマ、けん玉、ビー玉。
それらが気付けばリニューアルされて、
アニメや漫画、そして玩具屋にならんでいました。
アレ考えた人、凄すぎです。