東方迷子伝   作:GA王

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三年後:嫉ーーーーーっ妬(しーーーーーっと)!!

  『えーーーーーっ!?』

 

目の前で起きた現実を受け入れられず、再び目を見開く私達に、彼女は照れ臭そうに頬を掻きながら、自己紹介を始めた。

 

お燐「ど、どうもニャ。この姿が初めての方は初め

   ましてニャ。さとり様のペットの火焔猫(かえんびょう)(りん)

   っていいますニャ。お燐って呼んで下さい

   ニャ」

ヤマ「そうそう、この子だよ!」

親方「いやはや、まさかあの猫だったとは…」

棟梁「お前さん、鈍感過ぎです」

鬼助「手品じゃないよな?」

大鬼「僕も最初そう思った。でも違うんだよ」

勇儀「いや〜、驚いたね」

 

黒猫が変身したという事に驚かされたが、変身したこの姿にも驚きだ。切れ長な目に赤い大きな瞳、可愛いらしいと言うよりも、美人の(たぐい)だ。しかもスタイルもいいときた。これはマズイ…。

 

萃香「な、な、な…。騙してたのね!」

お燐「そんなつもり無かったニャ!

   アタイは大鬼君に会いに来ただけニャ!」

萃香「へ、へぇ〜…。大鬼に何の用事で来たのよ」

 

互いに火花を散らすお燐と親友。これまでの流れから察するに、もしかしてお燐は…。

 

お燐「用(ニャ)んて(ニャ)いニャ!

   ただ会いたかっただけニャ!」

 

お燐のこの言葉に、私達は彼女の想いに気が付いた。

 

ヤマ「えーーー!萃香にライバル出現!?」

親方「ほほぅ〜。面白くなって来たな」

 

今後の展開を楽しみにする者達、

 

棟梁「やっぱりそういう事だったのね」

 

その事を薄々察知していた者、

 

鬼助「くっそー…、大鬼ずるいぞ!

   こんなにも可愛い子からもなんて!」

 

男達の夢を幼くして叶える大鬼を、滝の様に涙を流しながら妬む者、それぞれが違う反応を見せた。

 鬼助、お前さんああいうのが好みか…。あとパルスィがお前さんの事、(よだれ)を流しながら見ているからな。自分でどうにかしろよ。

 そしてその気持ちを知った親友は、

 

萃香「あんたねぇ…」

 

自分とは間逆のタイプのライバルを目の前に、スカートを握りしめてワナワナと震えていた。だが、突然大鬼の左腕にしがみつき、

 

萃香「私と大鬼は前から仲が良いの!

   通じ合ってるの!」

 

分かりやすく敵意を示した。

 

お燐「大鬼君から離れるニャ!困ってるニャ!」

 

親友にしがみつかれた大鬼はまた赤面し、あたふたしていた。困っている様に見えるかもしれないが、これは喜んでいる。なぜなら大鬼は…。

 「お燐には可哀想だが、勝ち目は無かろう」と思っていた矢先、

 

萃香「いや!困ってないもん!」

お燐「〜〜〜っ!ずるいニャ!」

 

お燐が空いていた右腕に飛び付いた。しかも、

 

 

ムギュ〜〜〜…♡

 

 

当てている。いや、山と山の間に押し込んでいる。間違いなくこれは意図的だ。

 昔の大鬼であれば何とも思わなかっただろう。しかしあれから月日は流れ、大鬼は成長した。と同時に、女を以前よりも意識する様になった。今では私とでさえ一緒に風呂に入ろうともしないし、抱きしめる事さえも拒否反応を見せる時もある。男として育っていく一方で、悲しくもそういったところまで大人に近づいていく。

 故に今の大鬼にコレは、

 

大鬼「はわわわ!おおおお燐!

   あたたあたあたあたっっつててててるぅ!」

 

想像以上に効果が抜群だったりする。

 今日一番のテンパりを見せる大鬼。だがその表情は口元は緩み、ニヤつく顔を必死に堪えていた。つまり、もの凄く喜んでいる。

 そしてその光景に、

 

ヤマ「きゃーーーっ!破廉恥(はれんち)ーーー!!」

棟梁「い、いけません!ははははしたない!」

 

と言いながら、顔を覆う指の隙間から見守る者、

 

親方「ほほ〜」

 

と言いながら、いやらしい顔で食い入るように見る者、

 

鬼助「大鬼ぃぃぃぃぃ…」

 

と言いながら、手にした台布巾を噛みつつ大鬼を妬む者、

 

パル「うまうま♡」

 

と言いながら、その妬みを幸せそうに頬張る者、それぞれが違う反応を見せるが、全員の意見は一致していた。大好物だと。

 そして各々に「見てないで止めろ!」「最低!」「食われてる!」「幸せそうでなにより!」と思う中、

 

お燐「ん〜?(ニャ)にがか(ニャ)ー?」

 

尚も続くお燐のターン。顔を近づけ、甘い囁きでアイツがまだ知らない世界へと(いざな)おうとする。さすがにコレはやり過ぎだ。アイツには早過ぎる。

 注意しようと口を開けた時、

 

萃香「ダメーーーッ!!」

 

私が声を発するよりも早く、親友が大声を上げて大鬼を力強く引き寄せた。

 

お燐「ニ゛ャッ!」

大鬼「うわっ!」

萃香「えっ!?」

 

その途端、大鬼の右腕がお燐の腕からすっぽ抜け、お燐の顎に肩が激突。お燐は仰け反り、勢い余った大鬼は親友と共に、

 

 

ドンッ!

 

 

倒れた。

 

お燐「いたたた…」

 

涙を浮かべ、ダメージを受けた顎に手を当てて姿勢を戻し、倒れた込んだ大鬼に声を掛けた。

 

お燐「大鬼君、だいじょ………」

 

お燐が突然目を見開き、固まった。と同時に、2人が慌てながら起き上がり、下を見て正座をした。ただ先程とは打って変わって、よそよそしく背中合わせで座っている。しかも2人共顔が異常に赤い。

 「どうした?」と軽い気持ちで思っていた。しかし、次の親友の仕草でその全てを悟った。口を両手で覆ったのだ。

 

ヤマ「もしかして………しちゃった?」

 

一同を代表して側にいたヤマメが恐る恐る親友に尋ねた。しばらく沈黙が続いた。静かに時間だけが経過する中、全員がその答えをドキドキしながら待っていた。

 

萃香「………」コクッ

  『えーーーーーっ!?』

 

それは小さな、本当に小さな返事。だがこの場の皆を驚愕(きょうがく)させるには、大き過ぎる破壊力だった。

 

棟梁「私には刺激が強過ぎて…」

親方「がっはははは!赤飯炊くか!」

勇儀「あっはははは!萃香おめでとう!」

ヤマ「キタキタキタキターーー!」

鬼助「オイラよりも先に、コンチクショーッ!!」

 

鬼助…。それ以上泣くと干からびるぞ。それに…。

 

パル「嫉ーーーーーっ妬(しーーーーーっと)!!」

 

コイツが反応する。でも標的は鬼助みたいだし、放っておこう。

 アクシデントとは言え、これで2人の関係はきっと進展するだろう。私も嬉しい…のかな?

 何気なく視線を向けると、他の連中も私と同じ気持ちなのだろう、親友を讃えるような目で2人を眺めていた。

 その彼女はと言うと、大鬼の顔色を伺うように振り向いて視線を送っていた。「イヤじゃなかったか?」「謝った方がいいのか?」そんな不安な気持ちでいっぱいなのだろう。

 そして親友の視線の先、問題の小僧は目を丸くして頬を押さえていた。ヒットしたのはどうやらあそこらしい。

 

勇儀「なんだ、頬か」

鬼助「でででですよねー。幾ら何でもそっちは

   早過ぎですよねー。あー、びっくりした」

 

私の発見に真っ先に食いついたのは、顔色が悪くなった鬼助だった。胸を撫で下ろして安心しているが、水分の出し過ぎに加え、精神的エネルギーをパルスィに食われ、見ているこっちが心配になる。(ほとぼ)りが冷めたら精の付く物でも作ってやるか。

 

パル「あー、もう少しだったのに…。妬ましい…」

 

ひもじそうに指を加え、鬼助を見つめる嫉妬妖怪。まだ搾り取るつもりだったのか…。

 

ヤマ「ほっぺにチューだったかぁ…。

   でも、いい!」

 

少し残念そうにするも、満面の笑顔でサムズアップをするヤマメ。あれはあれで良かったらしい。

 この完全にアウェーな状況が気に入らなかったのだろう。お燐は頬を膨らませ涙を浮かばせながら、とんでもない事を口にした。

 

お燐「(ニャ)にさ(ニャ)にさ!ほっぺにチューだったら、

   アタイの方が先ニャ!」

  『…』

 

全員が目を点にして硬直した。皆が彼女の言葉の意味をすぐに理解する事が出来なかったのだ。

 虫の鳴き声だけが聴こえてくる広間。徐々に皆の凍りついた表情が解けていき、ついにその静寂は破られた。

 

  『はあーーーーー!!?』

ヤマ「なにそれ!?」

勇儀「聞き捨てならないぞ!」

棟梁「大鬼あなた…」

親方「がっははは!やるなぁ!」

鬼助「大鬼なんなんだよお前!コンチクショー!」

パル「嫉ーーーーーっ妬(しーーーーーっと)!!」

 

多くの者が怒りの表情を浮かべた。しかもその矛先は大鬼。萃香がいながら大鬼(コイツ)は…。

 

萃香「そ、そんなのウソよ!」

お燐「ウソじゃ(ニャ)いニャ!しかもあ(ニャ)たと違って、

   アタイはアクシデントでじゃ(ニャ)いニャ!

   ちゃんとアタイからしたニャ!」

  『ちょっとまてーーーーーっ!!」

 

次々と語られるお燐の言葉に、私は頭が追いつかず、ただただ混乱する事しか出来なかった。

 

ヤマ「ウソだよウソだよ!ウソだって言ってよ!」

親方「がっはははは!モテモテだな!

   ワシの若い頃にそっくりだ!」

棟梁「は?何を寝ぼけた事を言ってるのですか?」

鬼助「パルパルパルパル」

パル「更に嫉ーーーーーっ妬(しーーーーーっと)!!」

 

騒がしさに拍車がかかる外野達。そして「事故ではなく自ら進んでした」と聞かされて、

 

萃香「ぐっ…」

 

親友は歯を食いしばり、言葉を返せないでいた。もうライフポイントはゼロ。だがお燐のターンは終わっていなかった。

 

お燐「それにアタイはその時が初めてニャ!!」

  『うおーーーーーいっ!!』

 

正真正銘の最後の攻撃にして最大の波に、萃香のみならず私達までもが飲み込まれた。

 

親方「それが本当なら、

   こいつは話が少し変わってくるぞ」

棟梁「はー…、もう頭が痛い…」

ヤマ「そんな…。ちょっと大鬼君!

   どういう事!?」

勇儀「大鬼!今のは本当なのか!?」

 

私とヤマメはその真相を確かめるため、大鬼に詰め寄った。しかしその本人まだ頬を押さえたまま、呆けた顔でその余韻に酔い()れていた。

 

勇儀「おい!」

大鬼「へ?なに?」

勇儀「お前さんお燐にも同じ事をされたのか!?」

大鬼「え?何の事?」

勇儀「だ、だからお燐にも…その…」

大鬼「?」

 

「何でわたしがこの役目をやらなきゃならないんだ?」素直にそう思った。この先の事を言うのが凄く恥ずかしい。私だって女なのに…。本当なら御免蒙(ごめんこうむ)りたい。しかし口火を切ってしまった手前、致し方ない。えーい、ままよ!

 

勇儀「頬に口付けされたのか!?」

 

ついに言ってやった。私の質問に全員が大鬼に注目していた。親友に至っては瞳を強く閉じ、祈るようにその答えを待っていた。すると大鬼は目を見開き、

 

大鬼「はーーーっ!?知らない!

   そんなの知らない!」

 

慌てだした。

 

鬼助「でもお燐ちゃんは『した』って言ってたぞ!

   しかもそれが初めてだって。

   ウソをつくな!!」

大鬼「ウソなんてついてない!

   ホントに知らない!!」

鬼助「じゃあ覚えてないだけだろ!

   こんなに可愛い子にそんな事させて、

   覚えてないは無いだろ!」

 

加速する2人の男の醜い争い。いや、これは鬼助の一方的な酷い尋問だ。

 鬼助を除き、他の者は薄々察知していたと思う。大鬼は本当に何も知らないのだと。だが、お燐が言った事が嘘だとも思えない。噛み合わない2人に首を傾げていると、ブツブツと何か聞こえてきた。

 

萃香「それじゃあなに?不意打ちって事?

   やってくれるじゃない…。ずるい…。

   ね、ね、ね…」

 

そして向こうでも………。

 

鬼助「ガキのクセにいい思いしやがって…。

   ね、ね、ね…」

  『妬ましーーーーーーっ!!』

パル「嫉ーーーーーーーーーーっ妬(しーーーーーーーーーーっと)!!

   今宵は祭りじゃー!嫉妬祭りじゃー!

   パルパル祭りじゃー!

   パルパルパルパルパルパルパルパルパル

   パルパルパルパルパルパルパルパルパル」

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「パッ!?」

勇儀「はい、これをしっかりと持て。

   くれぐれも落としたりするなよ?」

パル「ちょちょちょちょちょっと!この流れって」

勇儀「いつものぉぉぉーーーーーっ!」

パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」

勇儀「それちゃんとキスメに届けろよー!!」

 

私の一仕事と共に、広間に静寂が戻った。

もう毎度の光景に、殆どの者が苦笑いを浮かべているが、お燐だけが目を丸くしていた。心なしか震えているか?でもさっきの事はちゃんと聞かないと。

 

勇儀「さてお燐。さっきのはどういう事か、

   説明してくれるかい?」

 

優しく声をかけたつもりだったが、お燐はその赤い瞳を潤ませ出した。

 

お燐「ご、ご、ご、ごめ…」

??「ごめんくださーい」

 

お燐が何かを言いかけた時、外から声が聞こえてきた。




次回【三年後:I'll be back】

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