東方迷子伝   作:GA王

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三年後:I'll be back

勇儀「はーい!」

 

「こんな時間に誰だ?」と不審に思いながらも玄関へと足を運ぶ。

 だが、そこには誰もおらず「門の方か?」と下駄を履き、屋敷の外に繋がるその場所へと更に歩を進める。父さんも(くぐ)れるこの巨大な門をゆっくりと開けると、そこには今日会ったばかりのもう1人のお嬢様が息を切らせ、慌てた様子で待っていた。

 

勇儀「よー、どうしたんだ?何かあったのかい?」

さと「いいい今さっきそこでパパパルスィさんが!

   凄い勢いでビューンって!」

 

来たほうを指差し、見た物をあたふたしながら説明してきた。そうか、彼女もアレを見るのは初めてか。

 

勇儀「あー、アレな。いつもの事だから。

   恒例行事とでも思ってくれ」

さと「え?恒例行事?」

 

私達が簡単な挨拶をしていると、

 

??「おー、さとり殿」

??「あら、古明地さん。いらっしゃい」

さと「あ、棟梁様と親方様。こんばんは」

 

父さんと母さん、

 

??「さとりちゃんだ。やっほー」

さと「ヤマメさんいらしてたんですね」

 

ヤマメまで私に続いて来ていた。

 笑顔で手を振るヤマメに、明るい表情で答えているところ見ると、やはり親しい仲みたいだな。

 

??「へー、アレが地霊殿の。私初めて見たよ」

??「オイラは何度か会った事がありますよ」

 

更に声が聞こえて来た方へ視線を移すと、親友と弟分が少し離れた所からこちらの様子を伺っていた。2人共あまり面識がないのか、謙遜しているといった具合だ。すると地霊殿の主人さんが2人の存在に気が付き、声を掛けた。

 

さと「あなたは…。伊吹萃香さんですか?」

萃香「え?そうだよ。私の事知ってるの?」

さと「ええ、お噂は予々(かねがね)耳にしていますよ」

萃香「そ、そうなの?いや~、嬉しいな〜」

 

「噂になっている」そう聞いて頭を掻きながら、照れ臭そうにしているけど、その噂必ずしもいい物とは限らないからな。特にお前さんの場合は。

 

さと「あ、えっと…」

鬼助「どもー」

 

目の合ったさとり嬢に、気軽に手を振って答える弟分に「面識があったのか?」と考え直していると、彼女は困ったような表情を浮かべた後、意を決したように口を開いた。

 

さと「ど、どちら様でしたっけ?」

  『あっはははは』

勇儀「コレは恥ずかしいな」

萃香「会った事あるんじゃなかったの?」

ヤマ「お、覚えられてないって…。ぷぷぷー」

棟梁「笑ったら可哀想ですよ。ふふふ…」

親方「がっははは、さすが鬼助!

   いや、これはさとり殿を評価すべきかな」

 

散々の言われ様に、弟分がしくしくと泣き始めた。

 

鬼助「オイラは鬼助です…。

   もう何度かお会いしていますって…」

さと「ごめんなさい!それは大変失礼しました」

勇儀「気にしなくていいよ。コイツの扱いはいつも

   こんな感じだから」

鬼助「姐さん酷いです、鬼です…」

勇儀「鬼だよ」

棟梁「ところで今日はどういったご用件で?」

 

棟梁様(母さん)がさとり嬢に訪れた理由を尋ねた途端、

 

??「さとり様ー!」

 

玄関からお燐が駆け抜けて行き、さとり嬢にしがみついた。

 

さと「なに?どうしたの?」

 

突然の事に慌てふためく主人。その言葉にお燐は顔を上げ、視線で何かを訴え出した。すると主人はそれに答えるように、優しくお燐を引き離し、胸元の瞳で彼女を見つめ始めた。

 

さと「そういう事…。皆さんお騒がせしてしまい、

   申し訳ありませんでした」

 

その能力で状況を把握したのだろう。彼女は頭を下げて謝罪をした後、お燐のさっきまでの言葉の真相について語り出した。

 

  『なーんだ』

 

事情を知った私達は「そういう事か」と大きくため息を吐くと共に、緊張の糸がプツリと途切れ、一気に脱力した。

 

棟梁「あー、良かった。もうハラハラしたわよ」

鬼助「そんな事だろうと思っていましたよ!」

勇儀「鬼助、あとで大鬼に謝れよ!」

鬼助「はい…」

 

初めて事情を知った者達は「お燐の()()はカウントしない」という事に自然と意見が一致した。

 

お燐「でもあれはあたいにとって…」

さと「はいはい、そうね」

 

物言いたげなお燐に主人は「ここは堪えろ」とでも言うように、彼女の肩に手を置きながら(なだ)めていた。そんな彼女を「少し気の毒だな…」と思いながら見守っていると、

 

ヤマ「ということは、もしかして…」

 

傍にいたヤマメがある事に気付いたようだ。そして、大声でそれを発表した。

 

ヤマ「さっきのアレが大鬼君の初めて!?」

 

大鬼がここに来る前の事は分からないが、あの歳だったら無いと考えて間違いだろう。という事はやはり…。

 

ヤマ「あ、でも勇儀がいたか」

 

ヤマメに言われ、これまでの大鬼と暮らしてきた日々を思い起こす。朝起きた時、夜眠る時、何気ない日常の一コマ。出会った時から今まで私が大鬼の頬に………。あれ?もしかして無い?してもらった事はまだ記憶に新しい。だがいくら思い起こしても、私からは…。

 

勇儀「…ない」

  『えっ!?』

勇儀「一度も大鬼にそういう事をした事がない!」

  『えーーー!?』

ヤマ「忘れているだけとかじゃなくて?」

勇儀「間違いない!抱きしめた事は何度もあるが、

   それだけは無いって断言できる!」

萃香「え?ウソ、えっ?えっ?えっ?」

鬼助「と、という事はつまり…」

ヤマ「萃香が正真正銘の初めての人!?」

萃香「えーーーっ!?わ、私が大鬼の…」

 

突然浮上した事実に、親友は赤くなった頬を両手で覆いながら慌てだした。しかしその口元は緩み、明らかに喜んでいる。

 そんな中、地霊殿の者達はと言うと。

 

お燐「〜〜〜っ!」

 

お燐は頬を膨らませ、ぷるぷると小刻みに拳を震わせていた。それは自分の気持ちを言葉にしてはいけないと、必死になって堪えているのが分かりやすく表現されていた。

 自分の思いとは裏腹に、周囲の者がそれを認めてくれない。そう思うと彼女の事が不憫(ふびん)に思えてきてしまった。

 

勇儀「お燐、お前さん…」

 

彼女を励まそうと近付いた時、恐ろしい威圧感が襲ってきた。その出所に視線を移すと、そこにはまさかのさとり嬢。しかもそのプレッシャーの矛先は、赤く実った親友。

 

勇儀「お、おい。お燐の事は気の毒だけど…」

 

そこまで言いかけた時、

 

??「誰が来たの?」

 

大鬼の声がした。今までこの場におらず「一人で何をしているんだ?」と気にはなっていたが、その姿を見て全てを覚った。口元に米粒を付け、口をモゴモゴと動かしているのだ。

 

勇儀「おい!さっきご馳走様しただろ!」

大鬼「あ、ヤバッ!」

勇儀「それと口に物を入れて歩くな!喋るな!」

大鬼「ゴクン…。もう無い」

 

そう言うと、大鬼は空になった口の中を見せつけてきた。ホントにコイツはこういうところがあるから、たまにイラッとくる。

 私が拳を握りしめ、込み上げる怒りを堪えていると、母さんが微笑みながら大鬼に優しく語り始めた。

 

棟梁「大鬼、調子乗り過ぎですよ?後で…」

 

「来る」。そう覚った途端私の本能が、記憶が鳥肌となって拒否反応を出し始めた。

 

棟梁「覚悟なさいよ!」

 

ドスの利いた声でザ・鬼の顔。その表情と声は他の者達を瞬時に凍りつかせ、この場に緊迫した雰囲気を作り出す。こうなると長時間の説教は間逃れない。大鬼、少し度が過ぎたな。

 

さと「あ、えっと。ボケ…大鬼君こんばんは」

 

 一先ず、凍りついたこの場の雰囲気を変えようとしたのだろう。勇敢なお嬢様が大鬼に笑顔を作り、手を振って声を掛けた。

 

大鬼「あ、ミツメーだ」

ヤマ「何それ?さとりちゃんの事?」

勇儀「一文字も名前と関係ないぞ?」

大鬼「三つ目だからミツメー」

 

大鬼からその呼び名の由来を聞かされるも、殆どの者がどこか腑に落ちないといった表情を浮かべていた。だが私と蜘蛛姫には心当たりあった。

 

勇儀「大鬼、キスメの事は何て呼んでる?」

大鬼「キスメー」

ヤマ「私は?」

大鬼「ヤマメー」

さと「そ、それで私は?」

大鬼「ミツメー」

 

この瞬間、全員が「そう言う事か」と納得した様な表情を浮かべた。ただ事情を知ったさとり嬢だけはガックリと項垂れ、傷心してしまった。

 

棟梁「古明地さんごめんなさい。

   後で勇儀から厳しく言わせますので」

親方「さとり殿もそんな落ち込まんでぇ」

鬼助「もう少し他に無かったのかよ」

萃香「ふふふ、大鬼がそう呼んでるなら、

   私もそうしようかな〜?」

 

多くの者がさとり嬢の事を励ます中、イタズラっぽい笑みを浮かべて、それに便乗しようとする親友。彼女を良く知る者であれば、それは彼女なりの親しみを込めた冗談だと分かるだろう。だが、その言葉にさとり嬢は彼女の事を一瞬、鋭い視線で睨みつけ、姿勢を正した。そして両手を後ろで組むと声色を変え、はにかみながら口を開いた。

 

さと「大鬼君。明後日、約束の場所に来てね。

   あの続きをしましょ」

 

彼女の言っているのは、大鬼のトラウマの治療の事だろう。「でも何でわざわざそんな回りくどい言い方をするんだ?」と彼女の不可解な行動に首を傾げていると、

 

鬼助「おい大鬼!何のことだ!?」

 

またしてもコイツが素早く反応した。しかし、彼女の言葉はこれで終わりではなかった。

 

さと「そうだ!お菓子の約束もしていたよね?

   何がいい?クッキーとかでもいいかな?

   作って持って行くから、食べ終わったら…」

 

そして最後に、あたかもそれが言いにくい言葉であるかの様に、頬を赤らめながら首を傾け、「ね?」と大鬼に向けてメッセージを送った。

 

  『はーーーっ!?』

 

これには事情を知っている私でさえも、思わず反応してしまった。大鬼の治療について母さんから聞かされていた内容と、大きく違うような印象を受けた。それこそ大鬼には早すぎる世界の様に。何でわざわざ誤解を招くような事…。そうか、彼女はお燐の事で…。だとすれば、親友の追い討ちを掛けるようなあの態度は頭に来ても仕方ないだろう。

 さとり嬢の奇行について一人で納得し、ふと視線を親友に向けると、

 

 

メラメラメラメラ…

 

 

燃えている。鋭い殺気を撒き散らして燃えている!

 

萃香「あんた、大鬼に何をしようと…」

 

だがこれが彼女の狙い。親友が暴れる前に仲裁に入ろうと身構えていると、

 

 

メラメラメラメラ…

 

 

とんでもない熱量が私を襲った。

 

お燐「さとり様ずるいニャ。

   1人だけ抜け駆け(ニャ)んて許さ(ニャ)いニャ」

 

前言撤回。さとり嬢は私情で親友を挑発していた。恐らくお燐の心を読んだ時に、さっきまでの事を覚ったんだ。つまりコイツら揃いも揃って…。

 

ヤマ「うそ!?さとりちゃんもなの!?」

鬼助「大鬼お前どこまで…。チィィックショー!」

親方「いや〜本当にワシの若い頃にそっくりだ!」

棟梁「また頭痛が…」

 

その事に1人を残して全員が気付いた。そして火花を散らす3人。状況はまさに一触即発。

 

さと「なによ、ボケ…大鬼君の頬にして」

萃香「大鬼と密会の約束なんて」

お燐「アタイだってアレが初めてだったのに」

鬼助「なんで大鬼だけ…。ね、ね、ね」

  『妬ましーーー!!!!』

 

現れた4つの高純度の嫉妬心。となれば…。

 

??「嫉ーーーーーーーーーーっ妬(しーーーーーーーーーーっと)!!」

ヤマ「え!?戻って来た!」

パル「ご馳走だー!宴だー!祭りだー!」

 

ナイスタイミング。せっかくの再登場のところ悪いが、場がこれ以上荒れる前にご退場願おう。

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「!?」

勇儀「とりあえずありがとよーーーー!」

パル「……………☆」

 

よし、これで場も収まって…

 

勇儀「えっ…?」

 

 




次回【鬼の祭_前夜祭】
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