東方迷子伝   作:GA王

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三年後:鬼の祭_前夜祭

振り向いた先にいたのは、たった今星になったはずの…。

 

パル「パルパルパルパルパルパル…」

ヤマ「え?え?え?」

大鬼「パルパルが2人!?」

親方「こりゃたまげた」

パル「残念、今のは分身。今度こそ…。

   いただきまーす!」

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「パッ!?」

勇儀「いらん技を…」

パル「せっかくのご馳走なのにぃ!」

勇儀「覚えるなぁーーーーーっ!」

パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」

 

ヤツが星に返ると、4人の表情に冷静さが戻った。エネルギーを食われたのかもしれない。彼女達の事が少し心配ではあるが、今なら話しが通じそうだ。

 

勇儀「お前さん達、いい加減にしろよ。

   まず萃香、悪気は無いにしても、

   さとり嬢の気にしている事を茶化すな」

萃香「え?」

勇儀「呼び名の事!」

萃香「…」

 

何の事か理解した親友は(しお)れながら口を閉ざした。

 

勇儀「次にさとり嬢、紛らわしい言い方はよせ。

   ただの大鬼の治療の事だろ?」

さと「…はい」

萃香「え?そうなの?」

お燐「ニャ!?」

勇儀「私だって変に勘違いしそうになったぞ」

さと「…」

 

真相を知った親友と彼女のペットは、目を見開いて驚きつつも、安心した表情を浮かべ、そして地霊殿の主は先程の親友と同様、視線を落として黙り込んでしまった。2人とも反省してくれたようで、私も一安心だ。

 

勇儀「互いに謝りな!」

萃香「ごめんなさい」

さと「申し訳ありませんでした」

 

俯くように謝る親友と、丁寧に腰から曲げて謝るさとり嬢。謝罪方法に差はあるが、両者とも同じ気持ちだろう。この2人はこれでよし。あとは…。

 

勇儀「それとお燐」

 

彼女の名前を呼び、正面に立った。この3人の中では彼女が一番の被害者だろう。だから彼女へは、

 

勇儀「あの事で悔やみきれないのは分かる。

   でも次頑張れ!それこそ誰にも文句を言われ

   ないくらいに!」

 

励ましの言葉を送ろう。

 

お燐「はいニャ!」

 

明るく元気に返事をしたお燐は、どこか吹っ切れたような、気持ちの整理がついたような、そんな表情をしていた。これならもう大丈夫だろう。

 

勇儀「で、大鬼」

大鬼「ん?」

 

事の元凶に注意をしようと声を掛けてみたはいいものの…、何を注意したらいい?そもそもこうなった原因が分からない。たかだか8つの、しかも人間の小僧に、何故こうまで3人が夢中になるんだ?

 

勇儀「ダメだ分からん」

大鬼「え?何が?」

勇儀「いやー…、あれだ。

   お前さんはみんなと仲良くしろよ」

大鬼「うん、分かった」

 

結局これくらいの事しか言えなかった。

 そして荒れ放題な一連の騒動は、ようやく終幕を迎えていた。

 

ヤマ「それじゃあ、私はもう帰ろうかな」

 

ヤマメの言葉を皮切りに、他の者達も場の空気を感じ取り、口を開いた。

 

鬼助「オイラも帰ります。スゲェ疲れました…」

 

ガックリと背中を大きく曲げて肩を落とす弟分。初めて見る弟分の疲れきった姿に、本気で心配になる。

 

勇儀「お前さん大丈夫か?さっきもパルスィに食わ

   れてたし、腹が減っているなら何か食って行

   くか?」

鬼助「いえ、すぐにでも寝たいです。

   お気持ちだけ頂きます」

大鬼「キスケ大丈夫?」

鬼助「けっ、色男が。お前に心配されたくねーよ」

 

大鬼の心遣いを鼻であしらう弟分ではあるが、あんな事があった後だ。彼からすれば余計なお節介でしかないのだろう。

 

鬼助「まあでも、さっきは悪かったな」

大鬼「?」

鬼助「分からないならいい。聞き流せ」

 

でも、こちらもどうやら丸く収まったようだ。そしてあちらでは、

 

さと「棟梁様、親方様。本日は私のペットが大変お

   世話になりました。それにお見苦しいところ

   まで…」

棟梁「いいえ、そんな事ありませんよ。

   今度は古明地さんもいらして下さいね」

親方「なんだかんだあったが、楽しかったしな」

さと「ありがとうございます」

 

父さんと母さんに頭を下げるさとり嬢。どうやら彼女は、お燐の事を迎えに来ただけのようだ。しかし、さとり嬢は今日一日私達に頭を下げてばかりだな。

 

さと「それと…」

 

そう呟くと、彼女は親友の目の前まで歩み寄って行った。

 

さと「伊吹さん、あの…」

萃香「萃香でいいよ。それとさっきはごめんね」

さと「いえ、こちらの方こそごめんなさい」

萃香「なんかさ…えっと…」

 

親友が言いかけた時、その口を塞ぐように、細くも綺麗な人差し指が差し出された。

 

さと「私は覚り妖怪です」

 

彼女は片目をそっと閉じ、その言葉だけを残した。

 

さと「頑張りましょう」

萃香「負けないよ」

 

笑顔でお互いをライバルとして認めあった2人だったが、彼女達はもう1人のライバルの存在を完全に蚊帳の外にしてしまっていた。そしてそのせいで…。

 

お燐「大鬼君、またねニャ」

大鬼「うん、じゃあね。また来てね」

鬼助「あ、お燐ちゃん今度オイラと一緒に…」

 

気付いた時には既に遅かった。確かに私は彼女にああ言った。だが、なにも全てが丸く収まったこのタイミングで…。

 

  『おいーーーーーっ!』

大鬼「はわわわわわ…」

さと「お燐あなた!」

萃香「なにをどさくさに紛れて!」

鬼助「しかもオイラの目の前で…」

ヤマ「キターーーッ!」

親方「がっはははは!確かにこれならもう誰にも文

   句を言われないな」

棟梁「ああ、もう目眩が…」

勇儀「なぁお燐、お前さんに迷いとか躊躇(ためら)いとかな

   いのか?」

お燐「それはあ(ニャ)たのお陰で吹き飛んだニャ」

 

やっぱり…。私が彼女を励ますつもりで言ったあの一言が、彼女を後押ししてしまったみたいだ。ん?という事は…。

 

さと「ゆ・う・ぎ・さ・んー?」

萃香「勇儀ぃ〜?」

 

困った。こんな時はどうすれば…。そうだ!たった一つだけ残った策がある!とっておきのやつだ!

 

勇儀「えっと、お前さん達も頑張れ!

   あ、片付けまだだった。

   じゃあな、みんな気を付けて帰れよ!」

  『逃げるなぁ!』

 

その後は直ぐに場も静まり、喧嘩別れをする事も無く、全員が笑顔でそれぞれの家へと帰って行った。

 客人達が帰った途端、大鬼はすぐにその場から逃げ出そうと試みたが、呆気なく母さんに捕まり、その悪態をみっちりと説教される事になった。

 父さんは「食後の運動だ」と言って、客人達の後を追うように、また鍛錬へと出掛けて行き、そして私は後片付けと、翌日の朝食の仕込みを済ませ、長くて騒がしい一日がようやく終わりを迎えた。

 ここからは後から聞かされた話だが、パルスィはちゃんとキスメに夜食を届けてくれていた。最初の一口こそ恐る恐る食べたらしいが、その後は「美味しい、美味しい」と言いながら、あっという間に完食してくれたそうだ。それこそが私の求めていたものだけに、その光景を見られなくてすごく残念だ。

 さとり嬢とお燐の仲はあんな事があっても、飼い主とペットの関係は崩れず良好らしい。ただお互い引けない物を持っているだけに、今後の展開が少し心配ではある。

 そして親友は…。

 

 

 

 

 

萃香「いくよー」

勇儀「おー、思いっきり頼むぞー!」

 

私が合図を送ると親友は両手を天井に向かって突き出し、

 

萃香「『ミッシングパワー』」

 

その小さな体を瞬く間に巨大化させた。その大きさは地底の天井まで残り半分といった具合、ちょうど地霊殿と同じくらいだろうか。これが今の彼女の精一杯の大きさであり、当日想定される彼女の親父さんの大きさだ。

 

鬼助「それじゃあ萃香さんお願いしまーす!」

 

弟分の掛け声と共に、力強い地響きを立てて揺れる大地。親友の巨大な足が着地する度に、

足元のそれは悲鳴を上げるも、その原型を留めようと必死に堪えていた。

「どうか、持ち堪えておくれ」私は祈る思いでその光景を腕を組んで見守っていた。

 

鬼助「98、99、100!姐さんやりましたよ!」

勇儀「よしっ!」

 

弟分からの合格を知らせる言葉に、私は小さくガッツポーズをとり「なんとか間に合った」と心から安堵した。

 

萃香「やったぁーっ!」

 

元の小さくて可愛らしい姿に戻り、両手を広げて嬉しそうに叫びながら向かう先は、

 

??「やったね、おめでとう!」

 

彼女が思いを寄せる小僧。とびっきりの笑顔でハイタッチを交わし、それの完成を称え合った。

 あの日があってから、2人は互いに緊張の糸が解けたというか、どこか吹っ切れたところがある。顔を合わせればすぐに照れてしまい、近づけばろくに会話さえもままならなかったが、今では心の底から喜び合い、笑い合い、本当の意味で『通じ合っている』様に見える。

 他の2人には悪いが、同族で親友である私としては、こうして2人がいつまでも…。

 

大鬼「ユーネェ、キスケもおめでとう!」

鬼助「へへっ、どうだ!オイラ達だけだってやりゃ

   あ出来るんだ!見直したか!」

大鬼「ボクも手伝ったから!」

勇儀「そうだな、手伝ってくれてありがとな」

 

私に礼を言われた大鬼は、所々抜け落ちている歯を見せながら、大きな笑顔を作った。

 

大鬼「あのね、ユーネェ」

勇儀「ん?なんだい?」

大鬼「ボクも大きくなったら、

   ユーネェ達と一緒に仕事したい!」

勇儀「え?」

 

本当にコイツは………。不意打ちでこういう事を平然と言いやがる。

 

鬼助「へぇー…、じゃあオイラの弟分にして面倒を

   みてやるよ」

 

だからきっと、

 

大鬼「えー、キスケが?大丈夫なのそれ?」

 

みんなが

 

萃香「あははは、鬼助じゃ不安だってさ」

 

夢中になるんだ。

 

勇儀「そうだな。いつかきっと一緒にやろうな」

 

最後の難関、父さんの闘技場である大きな土俵も完成した。祭りの準備は万全。町では既に至るところで前夜祭が始まりつつある。そう、祭りはいよいよ明日から。私達の罰則の本番はまだこれから。

 

勇儀「お前さん達、いよいよ明日からだ!」

 

私の掛け声と共に、目の色を変える一同。みんな例年より良い目をしていやがる。

 

勇儀「気合い入れていくぞ!」

  『うおーーーっ!!!!』

 

 




次回【三年後:鬼の祭_壱】
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