振り向いた先にいたのは、たった今星になったはずの…。
パル「パルパルパルパルパルパル…」
ヤマ「え?え?え?」
大鬼「パルパルが2人!?」
親方「こりゃたまげた」
パル「残念、今のは分身。今度こそ…。
いただきまーす!」
ガッ!(パルスィの服を掴む音)
パル「パッ!?」
勇儀「いらん技を…」
パル「せっかくのご馳走なのにぃ!」
勇儀「覚えるなぁーーーーーっ!」
パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」
ヤツが星に返ると、4人の表情に冷静さが戻った。エネルギーを食われたのかもしれない。彼女達の事が少し心配ではあるが、今なら話しが通じそうだ。
勇儀「お前さん達、いい加減にしろよ。
まず萃香、悪気は無いにしても、
さとり嬢の気にしている事を茶化すな」
萃香「え?」
勇儀「呼び名の事!」
萃香「…」
何の事か理解した親友は
勇儀「次にさとり嬢、紛らわしい言い方はよせ。
ただの大鬼の治療の事だろ?」
さと「…はい」
萃香「え?そうなの?」
お燐「ニャ!?」
勇儀「私だって変に勘違いしそうになったぞ」
さと「…」
真相を知った親友と彼女のペットは、目を見開いて驚きつつも、安心した表情を浮かべ、そして地霊殿の主は先程の親友と同様、視線を落として黙り込んでしまった。2人とも反省してくれたようで、私も一安心だ。
勇儀「互いに謝りな!」
萃香「ごめんなさい」
さと「申し訳ありませんでした」
俯くように謝る親友と、丁寧に腰から曲げて謝るさとり嬢。謝罪方法に差はあるが、両者とも同じ気持ちだろう。この2人はこれでよし。あとは…。
勇儀「それとお燐」
彼女の名前を呼び、正面に立った。この3人の中では彼女が一番の被害者だろう。だから彼女へは、
勇儀「あの事で悔やみきれないのは分かる。
でも次頑張れ!それこそ誰にも文句を言われ
ないくらいに!」
励ましの言葉を送ろう。
お燐「はいニャ!」
明るく元気に返事をしたお燐は、どこか吹っ切れたような、気持ちの整理がついたような、そんな表情をしていた。これならもう大丈夫だろう。
勇儀「で、大鬼」
大鬼「ん?」
事の元凶に注意をしようと声を掛けてみたはいいものの…、何を注意したらいい?そもそもこうなった原因が分からない。たかだか8つの、しかも人間の小僧に、何故こうまで3人が夢中になるんだ?
勇儀「ダメだ分からん」
大鬼「え?何が?」
勇儀「いやー…、あれだ。
お前さんはみんなと仲良くしろよ」
大鬼「うん、分かった」
結局これくらいの事しか言えなかった。
そして荒れ放題な一連の騒動は、ようやく終幕を迎えていた。
ヤマ「それじゃあ、私はもう帰ろうかな」
ヤマメの言葉を皮切りに、他の者達も場の空気を感じ取り、口を開いた。
鬼助「オイラも帰ります。スゲェ疲れました…」
ガックリと背中を大きく曲げて肩を落とす弟分。初めて見る弟分の疲れきった姿に、本気で心配になる。
勇儀「お前さん大丈夫か?さっきもパルスィに食わ
れてたし、腹が減っているなら何か食って行
くか?」
鬼助「いえ、すぐにでも寝たいです。
お気持ちだけ頂きます」
大鬼「キスケ大丈夫?」
鬼助「けっ、色男が。お前に心配されたくねーよ」
大鬼の心遣いを鼻であしらう弟分ではあるが、あんな事があった後だ。彼からすれば余計なお節介でしかないのだろう。
鬼助「まあでも、さっきは悪かったな」
大鬼「?」
鬼助「分からないならいい。聞き流せ」
でも、こちらもどうやら丸く収まったようだ。そしてあちらでは、
さと「棟梁様、親方様。本日は私のペットが大変お
世話になりました。それにお見苦しいところ
まで…」
棟梁「いいえ、そんな事ありませんよ。
今度は古明地さんもいらして下さいね」
親方「なんだかんだあったが、楽しかったしな」
さと「ありがとうございます」
父さんと母さんに頭を下げるさとり嬢。どうやら彼女は、お燐の事を迎えに来ただけのようだ。しかし、さとり嬢は今日一日私達に頭を下げてばかりだな。
さと「それと…」
そう呟くと、彼女は親友の目の前まで歩み寄って行った。
さと「伊吹さん、あの…」
萃香「萃香でいいよ。それとさっきはごめんね」
さと「いえ、こちらの方こそごめんなさい」
萃香「なんかさ…えっと…」
親友が言いかけた時、その口を塞ぐように、細くも綺麗な人差し指が差し出された。
さと「私は覚り妖怪です」
彼女は片目をそっと閉じ、その言葉だけを残した。
さと「頑張りましょう」
萃香「負けないよ」
笑顔でお互いをライバルとして認めあった2人だったが、彼女達はもう1人のライバルの存在を完全に蚊帳の外にしてしまっていた。そしてそのせいで…。
お燐「大鬼君、またねニャ」
大鬼「うん、じゃあね。また来てね」
鬼助「あ、お燐ちゃん今度オイラと一緒に…」
気付いた時には既に遅かった。確かに私は彼女にああ言った。だが、なにも全てが丸く収まったこのタイミングで…。
『おいーーーーーっ!』
大鬼「はわわわわわ…」
さと「お燐あなた!」
萃香「なにをどさくさに紛れて!」
鬼助「しかもオイラの目の前で…」
ヤマ「キターーーッ!」
親方「がっはははは!確かにこれならもう誰にも文
句を言われないな」
棟梁「ああ、もう目眩が…」
勇儀「なぁお燐、お前さんに迷いとか
いのか?」
お燐「それはあ
やっぱり…。私が彼女を励ますつもりで言ったあの一言が、彼女を後押ししてしまったみたいだ。ん?という事は…。
さと「ゆ・う・ぎ・さ・んー?」
萃香「勇儀ぃ〜?」
困った。こんな時はどうすれば…。そうだ!たった一つだけ残った策がある!とっておきのやつだ!
勇儀「えっと、お前さん達も頑張れ!
あ、片付けまだだった。
じゃあな、みんな気を付けて帰れよ!」
『逃げるなぁ!』
その後は直ぐに場も静まり、喧嘩別れをする事も無く、全員が笑顔でそれぞれの家へと帰って行った。
客人達が帰った途端、大鬼はすぐにその場から逃げ出そうと試みたが、呆気なく母さんに捕まり、その悪態をみっちりと説教される事になった。
父さんは「食後の運動だ」と言って、客人達の後を追うように、また鍛錬へと出掛けて行き、そして私は後片付けと、翌日の朝食の仕込みを済ませ、長くて騒がしい一日がようやく終わりを迎えた。
ここからは後から聞かされた話だが、パルスィはちゃんとキスメに夜食を届けてくれていた。最初の一口こそ恐る恐る食べたらしいが、その後は「美味しい、美味しい」と言いながら、あっという間に完食してくれたそうだ。それこそが私の求めていたものだけに、その光景を見られなくてすごく残念だ。
さとり嬢とお燐の仲はあんな事があっても、飼い主とペットの関係は崩れず良好らしい。ただお互い引けない物を持っているだけに、今後の展開が少し心配ではある。
そして親友は…。
萃香「いくよー」
勇儀「おー、思いっきり頼むぞー!」
私が合図を送ると親友は両手を天井に向かって突き出し、
萃香「『ミッシングパワー』」
その小さな体を瞬く間に巨大化させた。その大きさは地底の天井まで残り半分といった具合、ちょうど地霊殿と同じくらいだろうか。これが今の彼女の精一杯の大きさであり、当日想定される彼女の親父さんの大きさだ。
鬼助「それじゃあ萃香さんお願いしまーす!」
弟分の掛け声と共に、力強い地響きを立てて揺れる大地。親友の巨大な足が着地する度に、
足元のそれは悲鳴を上げるも、その原型を留めようと必死に堪えていた。
「どうか、持ち堪えておくれ」私は祈る思いでその光景を腕を組んで見守っていた。
鬼助「98、99、100!姐さんやりましたよ!」
勇儀「よしっ!」
弟分からの合格を知らせる言葉に、私は小さくガッツポーズをとり「なんとか間に合った」と心から安堵した。
萃香「やったぁーっ!」
元の小さくて可愛らしい姿に戻り、両手を広げて嬉しそうに叫びながら向かう先は、
??「やったね、おめでとう!」
彼女が思いを寄せる小僧。とびっきりの笑顔でハイタッチを交わし、それの完成を称え合った。
あの日があってから、2人は互いに緊張の糸が解けたというか、どこか吹っ切れたところがある。顔を合わせればすぐに照れてしまい、近づけばろくに会話さえもままならなかったが、今では心の底から喜び合い、笑い合い、本当の意味で『通じ合っている』様に見える。
他の2人には悪いが、同族で親友である私としては、こうして2人がいつまでも…。
大鬼「ユーネェ、キスケもおめでとう!」
鬼助「へへっ、どうだ!オイラ達だけだってやりゃ
あ出来るんだ!見直したか!」
大鬼「ボクも手伝ったから!」
勇儀「そうだな、手伝ってくれてありがとな」
私に礼を言われた大鬼は、所々抜け落ちている歯を見せながら、大きな笑顔を作った。
大鬼「あのね、ユーネェ」
勇儀「ん?なんだい?」
大鬼「ボクも大きくなったら、
ユーネェ達と一緒に仕事したい!」
勇儀「え?」
本当にコイツは………。不意打ちでこういう事を平然と言いやがる。
鬼助「へぇー…、じゃあオイラの弟分にして面倒を
みてやるよ」
だからきっと、
大鬼「えー、キスケが?大丈夫なのそれ?」
みんなが
萃香「あははは、鬼助じゃ不安だってさ」
夢中になるんだ。
勇儀「そうだな。いつかきっと一緒にやろうな」
最後の難関、父さんの闘技場である大きな土俵も完成した。祭りの準備は万全。町では既に至るところで前夜祭が始まりつつある。そう、祭りはいよいよ明日から。私達の罰則の本番はまだこれから。
勇儀「お前さん達、いよいよ明日からだ!」
私の掛け声と共に、目の色を変える一同。みんな例年より良い目をしていやがる。
勇儀「気合い入れていくぞ!」
『うおーーーっ!!!!』
次回【三年後:鬼の祭_壱】