◆ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
町の大通り。そこでは多くの出店が並び、町一番の賑わいを見せる。食欲をそそるタレに漬け込んだ肉を焼く匂い、見る者を魅了する色とりどりの綿菓子、興奮して熱くなった体が求めてくる炭酸入りの飲み物。
見渡すと目移りしそうになる商品が所狭しに並ぶ中、ただまっしぐらにある店を目指す者が。
??「この先にアレが…」
目の前の人混みを掻き分けていき、目当ての店へと到着した。
◇ ◆ ◇ ◇ ◇ ◇
私達の祭にも祀る神がいる。祭の時以外は滅多に姿を現さない気まぐれな神、いや、女神だ。その女神様は祭を一望できるこの場所で町のお偉いさん達、つまり母さんや父さん達と共に、祭を堪能される事になっているのだが…。
勇儀「またいない…」
いや、正確にはいなくなった。私が最後に見た時はこの席に座って女神様らしく、訪れる者達に笑顔で接して貢物を貰ったり、父さんや母さんを相手に明るく話しをしたりしていた。けど私が見回りに行って帰って来た時には、既に彼女の席はもぬけの殻。なんでも、父さんは試合前の最後の調整に行き、母さんが他の者と話しをしている内に、何処かへと行ってしまった様なのだ。
勇儀「母さん、ちゃんと見張っていておくれよ…」
女神様を見張るというのも失礼な言い方だが、あの方の場合はこれが当たり前になっている。
棟梁「ごめんなさい。
大きくため息を吐いて「母さんを責めてもしょうがない」と気持ちを入れ替え、あの方の捜索に行こうと決意した途端、
ドーン!
爆発音が聞こえて来た。音のした方へ慌てて視線を向けて出所を探る。すると打ち上がる光の玉が目に映った。それは上空で花火の様に大きな音を立てて破裂した。合図だ。色は赤、トラブルか。
勇儀「行ってくる!もしあの方が戻って来たら今度
は頼むよ!」
棟梁「はいはい、穏便にね」
そう母さんに言い残して光の玉の下へと急ぐ。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◇
??「2個目!」
釣り上げた球体を高々と掲げ、誇らしげに自慢する少年。
??「まだだね、こっちは4個目だ」
その少年の鼻をへし折るように、更に釣り上げた球体を見せつけるもう一人の少年。と、ここでこの少年の手の針が切れ、球体と共に水の中へ。
??「あっ…」
??「よしっ、今の数に入れないからな」チラッ
??「はいはい、分かったよ。でも次釣らなきゃ大
鬼の負けだからな」チラッ
大鬼「カズキには負けるか」チラッ
ここを釣り上げれば同点。少年は意気込んで水分を多量に含んだ針を、球体が集まるその場所へと慎重に投じた。と、そこに軽快に現れるもう一つの針。
??「おっと、それは私の獲物ね」
少年のターゲットに針を引っ掛けると、易々と球体を
大鬼「…」
カズ「…」
その光景に無言になり、固まる2人の少年。その間も球体は次々と釣り上げられていき、残りはあと
大鬼「なんかさぁ…」
カズ「次元が違うよな…」
先程から少年達がチラチラと気にしている者の両脇には、ゴム製の球体が山の様に積まれていた。商品のほぼ全てがそこに集結しており、少年達を含む他の客達は、その光景に唖然とし、手出しが出来ない状態だった。
その者は少年達の方を見ると、歯を見せて微笑み、
??「伊達にヨーヨーぶら下げてないよ。
まだまだいくよ!」
閉店をお知らせした。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇
ゴミ袋を片手に動き回る小さな鬼達。彼女(達)は現在進行形で任務の真っ最中。やがて彼女(達)は一箇所へと集まり、元の姿へと戻っていった。
??「ふ〜、流石に最終日ともなると出る物も多い
ね。さっきから能力を使いっぱなしだよ~」
誰かに向けたメッセージではなく、ただの独り言。ぼやきだ。
祭りは盛大で賑やかではあるが、その分出るゴミの量が尋常ではない。祭りの盛り上がりとゴミの量は悲しくも比例関係にある。
そんな中、彼女はたった一人の力で町中のゴミを集めて回っているのだ。
??「はい、これが今回の分。あとはお願いね」
そう言って、彼女は集めた大量のゴミを一箇所にまとめると、次の者へと託した。
??「フッフッフッ…。任された」
不気味に微笑みながら、愛用の乗り物に託されたバトンを
??「フッフッフッ…。上へ参りまーす」
だが、
??「うッ!お、重い…」
どうやら定員オーバーのようだ。
??「大丈夫?」
??「………ちょっと厳しい」
??「また
◇ ◇ ◇ ◇ ◆ ◇
??「うわぁ、食べ物がいっぱい♡
ホントに何を食べてもいいんですか?」
店に陳列されている商品に目を輝かせながら、口から抑えられない欲を垂れ流す少女。視線を移せば違う食べ物が彼女を釘付けにし、「他にも」とまた視線を移すと今度は別の商品が彼女を誘惑し、記憶力の悪い彼女の頭の中は食べ物の事でいっぱいになっていた。
??「ふふ、どうぞ。欲しい物があったら言って
ね」
??「さとり様、アタイは鮎の塩焼きが欲しいです
ニャ」
それに便乗するように、己の好物を主人におねだりをするもう一人の少女。屋敷の主人からすれば、どうって事のないお願い。答えはもちろん
さと「ええ、いいわよ」
問題なし。
??「あと大鬼君も欲しいニャ」
さと「…ん?」
??「ニャ?」
このおねだりに笑顔で火花を散らす2人。和やかな雰囲気が一瞬にして険悪モードへと姿を変えた。暗雲が立ち込める中、
??「さとり様、さとり様!うつほの大好物があり
ました!アレが食べたいです!」
食べ物の事で脳が100%侵食されてしまっている者からのおねだり。彼女の指した先にあるのは…。
さと「お空…。アレ、ゆで卵じゃないわよ?」
お燐「玉こんにゃくニャ…」
お空「うにゅ?タマゴンニャク?
卵ならうつほは好物だよ♡」
『…もういい』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◆
??「あっれー?何処に行ったのかなぁ?」
辺りを見回し、見失った
それもそのはず、彼女の背には自分の背丈以上の長い棒。そしてその先には、キラリと光る三日月状の鋭利な刃物が周囲の者を威圧していたのだ。
鬼 「ねーちゃん、
置いて来てくれねぇか?」
見るに見兼ねた鬼がとうとう彼女に声を掛けた。
??「おっと悪いね。でもこれが無いと、どーも落
ち着かなくてねぇ。そうだあんた、あたいの
上司を見なかったかい?」
鬼 「ねーちゃんの上司?誰だいそりゃ?
というか、あんた何者だい?」
首を傾げる鬼に彼女は自分の正体を明かすと共に、先程から探している彼女の上司の名前を挙げた。
鬼 「見てねぇ!見てねぇ!それ以前にいらしてい
るって事の方が驚きだい!」
彼女とその上司の正体を知った途端、その鬼は顔色を変えて「関わりたくない」とでも言うように、両手を前へと突き出してその手を振りながら、そそくさとその場から離れて行った。
??「何もそんなに毛嫌いしなくてもいいのに…」
頭を掻きながら逃げ去っていく鬼を見送る鎌女。ふと周囲に視線を向ければ、他の者達も彼女と視線を合わせないように他所を向きながら、彼女から離れて歩き出していた。
??「参ったねこりゃ…」
上司の行方を聞こうにも、これでは話し掛けた途端に逃げられる。彼女はそう覚った。
??「仕方ない、迷惑にならない所から探すとしま
すか」
そしてため息を吐いてボヤいた後、再びキョロキョロと周囲を見回した。しかし今度は視線を上へ向けて。
??「んー、取り敢えずあそこがいいかな?」
彼女は1人呟くと、風のようにその場から姿を消した。
次回【三年後:鬼の祭_弐】