東方迷子伝   作:GA王

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三年後:鬼の祭_弐

◆   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

??「ください」

店員「はいよ!何本…」

 

他の客と変わらぬ威勢の良い対応で迎える店員だったが、目の前の人物を見て瞬時に凍りついた。

 

??「一先ずこの黒いのを5本お願いします」

 

彼女が指差した先には、黒色にコーティングされた長い物体が、棒に刺さって陳列されていた。その隣には桃色、黄色とカラフルに装飾された同様の物が陳列され、華やかに店を彩っていた。

 

店員「ぜ、全部黒色で宜しいのですか?」

 

伸し掛かるプレッシャーの中、一言一言に気を使いながら接客をする店員。それは高級な骨董品を扱うように丁寧且つ慎重に。

 

??「そうです。それと一本につき、じゃんけんが

   一回出来ますよね?」

店員「はい。左様でございます」

??「では私は5回じゃんけんができますよね?」

店員「おっしゃる通りです」

??「勝てば2本、他は1本のまま。ですよね?」

 

しつこいくらいの質問に、ガチガチに固まりながらも、丁寧に敬意を払って答える店員。しかしこの店員は思っていた。「こうまで白黒はっきりつけなけないといけないものなのか」と。

 

店員「仰せの通りでございます」

??「では、早速じゃんけんを始めましょう」

 

その一言に「やっと終わった」と店員は胸を撫で下ろした。

 だが次の一言で、この店員は更なるプレッシャーに襲われる事になる。

 

??「私はグーを出します」

店員「えーっ!?」

??「聞こえませんでしたか?私はグーを出しま

   す」

店員「ちょちょちょちょっと待って下さい!なんで

   ご自分の出す手を宣言されるのですか!?」

??「いけませんか?」

店員「そそそそんな事はございませんが、

   何故わざわざご自分が不利になる事を…」

??「はっきりさせておきたいのです。あやふやな

   気持ちのまま勝負をしたくないのです。

   それに、私はこれで負けた事がありません」

 

自信満々に拳を突き出し、無茶苦茶な事を語る客を前に、店員は生まれて初めて胃薬を欲していた。

 

??「それじゃあいきますよ。じゃーんけーん…」

 

 

◇   ◆   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

現場に着くと既に人集りが出来ていた。

 

??「勇儀こっち!」

 

光の玉の発生源である()()が手を振って私を呼んでいるが、ここまで派手に騒ぎになっていれば、

 

勇儀「分かってる!」

 

自ずと目に付く。

 野次馬連中を掻き分けその中心部へ到着すると、そこでは2人の鬼が胸ぐらを掴み合っていた。両者の足下には空いた酒の容器が多数転がっており、その顔も怒りに満ちてはいるものの、目が座っていた。

 祭りはいい。至る所で笑顔と活気に溢れ、裏方役に徹している私でさえも、元気がもらえる。そんな祭りだが、中にはこういう輩がいるのもまた事実。喧嘩や居眠り、無意味に暴れ出す者までいる。しかも最終日ともなれば、その頻度が高い。

 酒には強い種族の鬼だが、祭りの最中常時飲み続けているとなれば、さすがに…。

 

勇儀「ちっ、面倒くさいな」

 

原因は分からないが状況は把握した。ちっぽけな火種はどうでもいいとして、消火活動を急がないと。

 

勇儀「おい、お前さん達!何があったか知らないけ

   ど、下らない事で喧嘩するのは止めろよな」

鬼①「姉さん、でもコイツが…」

鬼②「オレが悪いってか!?先に…」

勇儀「いい加減にしろ!折角の祭りを台無しにする

   つもりか!?」

 

まったく…。こんなのがいるから私達は毎年忙しいんだ。それに注意する方も気分の良いものじゃない。

 

鬼①「けっ、ここは姉さんに免じて引きます」

勇儀「そうか、ありがとうよ」

 

話が通じる状態で助かった。「これでこの騒ぎも幕を下ろすだろう」と安心した矢先、

 

鬼②「はっ、腰抜けが」

 

この言葉で均衡が破れた。

 大人しく引いてくれた鬼が安い挑発に乗って殴りかかり、気付いた時には振り抜いた拳は鈍い音を上げ、ターゲットの顔面に命中していた。

 私は咄嗟の間の出来事に不意をつかれ、身動きが出来なかった。

 

鬼②「やりやがったな!」

勇儀「よせっ!」

 

今度は止めに入ったが間に合わなかった。

 反撃の拳は相手の胸元を(えぐ)る角度で、下から上へと勢いよく振り上げられ、敵の顎を打ち抜いた。その拳の勢いをもろに受けた鬼は、体が浮き上がり後方へと吹き飛んでしまった。

 

 

◇   ◇   ◆   ◇   ◇   ◇

 

 

??「〜♪」

 

笑顔で鼻歌を歌いながら次の店へと向かう少女。彼女を見た者は皆一様に深々と(こうべ)を垂れ、通り過ぎるのを待っていた。

 そしてその彼女の背後には、両手に彼女が獲得した景品の数々を持った

 

??「なー、何処に行こうとしているのさ?」

??「戻らなくていいの?ユーネェ達が探してると

   思うよ」

 

犬猿の仲の2人の少年が、迷惑そうな顔をして歩いていた。仲の悪いこの2人だが、今日は珍しく喧嘩をする事もなく、ただ大人しく前を行く少女の付き人に徹していた。

 

??「質問は一個ずつね、まずカズキ君から。

   今向かっているのは私の部下のお店でーす」

 

軽快な足取りで前進しながら、背後にいる少年達に答える少女。だが、

 

??「次に大鬼君」

 

もう1つの質問に答えようとした時、突然その足を止めて腕を組み、少年達の方に振り返った。

 

??「戻らない!あんな所でじっとしているなんて

   楽しくないじゃない!

   お祭りっていうのはねぇ、出店に行ってこそ

   なのよ!だいたいねぇ…」

 

眉間に皺を寄せ、膨れっ面で自身の祭論を唱え始めた。

 

  『…』

 

それを無言で頷きもせずに、ただ終わりだけをじっと待つ少年達。彼らは思っていた。心底どうでもいいと。

 

 

--10分後--

 

 

??「…って事で満足するまで帰りません!」

 

ようやく終わった実りのない授業に、生徒達は大きくため息を吐き、再び目的地へと歩き出した彼女を「見失ってたまるか」と、追うように付いて行った。

 

 

◇   ◇   ◇   ◆   ◇   ◇

 

 

 町から離れた場所に位置する空き地。広さはそれ程広くはないが、子供が走り回るには充分な広さだ。現在ここはゴミの収集場兼、焼却場となっている。山積みになったゴミはその場で次々と焼かれていき、今やちょっとした山火事の様になっている。と、そこに…。

 

 

ゴーッ!

 

 

 唸り声を上げながら、落下してくる赤い火の玉。それは見事ゴミ山の最下段に命中すると、山火事の勢いを更に加速させた。その一つの火の玉を皮切りに、次々と降り注ぐ同様の火の玉。来る方向は皆同じ。

 そちらの方へ目をやれば、上空にフヨフヨと浮かぶ桶、更にはその下から打ち上げられる物体。奇妙な光景が繰り広げられるそこでは…。

 

??「いっくわよ〜!」

??「はーい!」

??「そ〜っれ、トース!」

 

笑顔でゴミ袋を打ち上げる小さな鬼と、日頃の鬱憤、ストレス、体重が増えた自分への(いきどお)り、それら全てを鬼火にのせ、

 

??「アターーーック!」

 

そのゴミ袋を平手で打ち付ける桶姫が、いい汗を流していた。

 

萃香「とりあえず次で終わりだよ〜」

キス「フッフッフッ…。お願いしまーす」

萃香「気持ちいいのを頼むよ!」

キス「フッフッフッ…。任されよ」

 

2人の意思はただ一つ、最高のアタックを決める事。互いに視線を送ると深く頷いた。

 

萃香「いっくわよ〜!」

キス「はーい!」

萃香「そーっれ!」

 

元気な掛け声と共に小さな鬼は球を軽く上空へ放り、その落下点へと急いだ。

 そして彼女の上空では、桶姫がブツブツと呪文を唱え始めていた。

 

キス「桶がワンサイズアップ…。

   体重が◯キロ増…。

   お腹周りが◯センチ増…。

   お尻周りが◯センチ増…。

   胸部………変化なし!!」

 

もとい、やるせない思いをここぞとばかりに怒りへと変換していた。その怒りはエネルギーとなり、赤く轟々(ごうごう)と燃え盛る鬼火へと姿を変えていた。その大きさはこれまでの比ではなく、ターゲットの山火事を優に飲み込む程までに成長していた。

 しかしそこから彼女は、せっかく大きく膨らんだそれを収縮させ始めたのだ。鬼火はみるみる小さくなっていき、やがて小さな彼女の手程までに縮んでいった。

 だがその色は深い青色へと変化し、彼女の笑みの様に静かに、不気味に揺らいでいた。

 

キス「フッフッフッ…。出来た。最高の鬼火が!」

 

こちらの準備は万全。あとは下からの正確無比のトスを待つばかり。

 

 




次回【三年後:鬼の祭_参】
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