◇ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
??「見つけた!」
突然見失った2人を見つけた彼女は、思わず大声で叫んだ。
??「あ、ヤマメー!」
その声に気付いた少年は、彼女を見るや地獄から解放された様な、安堵の表情を浮かべた。そこに
??「どーもー」
??「大鬼君こんばんはニャ」
彼女の背後から現れる者達。少年は顔を見知った彼女達を見つけると笑顔を浮かべ、
大鬼「ミツメーとお燐!よっ!」
元気良く挨拶を交わした。
大鬼「あと…」
少年が見つめる先には背の高い黒髪の女性。彼は彼女の事を知っていた。だから、
大鬼「お空…、だっけ?」
名前を確認するために声を掛けた。だがその彼女は顔色を変え、
お空「うにゅーーーっ!?さとり様どうしよう!
うつほはあの子の事が記憶に無いです!」
主人に慌てながら泣きついた。
それを受け止めた小さな主人は、彼女の事を落ち着かせるのかと思いきや、
さと「お空…」
お空「うにゅ?」
さと「あなた何処であのボケっ子と会ったのよ!?
何でボケっ子があなたの事を知っているのよ
!?」
嫉妬が爆発した。そして、彼女の胸倉を掴んでガタガタと揺らし、激しい見幕で詰め寄った。
お空「うにゅーーーっ!?分からないんです!
覚えてないんです!記憶にないんです!
お願いですから怒らないで下さい!!」
しかし彼女には身に覚えがない事。この理不尽極まりない主人の物言いに、とうとう泣き出してしまった。
大鬼「あのさミツメー、前にじぃじとばぁばとで
ミツメーの家に行ったでしょ?」
さと「あ、うん…」
大鬼「その時にお燐が教えてくれた」
お燐「だニャ」
見るに見兼ねた者からの発言に、地霊殿の主人は当時の事を思い起こしていた。そしてその事を思い出した彼女はペットから手を放し、ポンと叩いて納得した。
さと「あー、なるほど。そういう事。
お空、私の勘違いだったみたい…」
お空「さとり様もう怒らない?」
さと「ええ、ごめんなさいね」
ペットと主人の仲が回復する中、
カズ「なぁ、あれって地霊殿の連中だろ?」
大鬼「うん、そう」
カズ「あれもお前の知り合いなわけ?」
大鬼「うん、そう」
カズ「お前…、ホントに妖怪の知り合い多くね?」
大鬼「うん、そう」
小声で会話をする少年達。カズキの質問に全てYESで答える少年に、彼はこう思った。「コイツ実は凄いヤツなんじゃないか?」と。故に、
カズ「鬼の知り合いは少ないのにな?」
悔しくて意地悪。
大鬼「うん、…?は?」
カズ「事実だろ?」
その言葉に、第2ラウンドのゴングが鳴った。すると間髪いれず、睨み合う2人の前に
ヤマ「はいはい、喧嘩しない!」
近所の優しいお姉さんが立ちはだかり、試合を打ち切りにした。
ヤマ「2人共探したんだよ?何処に行って…」
彼女はそこまで言いかけてようやく気が付いた。少年達の後ろで笑みを浮かべながら、彼女達を温かい目で見守る、変なTシャツを着た偉大な存在に。
そして慌ててその場で
ヤマ「ヘカーティア・ラピスラズリ様!」
『えっ!?』
蜘蛛姫の言葉を皮切りに、地霊殿の者達も通行人達も続々と跪いた。
ヘカ「いい、いい、いい、いい。
そういうの要らないから。
通行人の人達はどうぞ通り過ぎちゃって〜」
手で振り払いながら「お気になさらず」とサインを送った。
だが彼女のせっかくの心遣いにも関わらず、その場から去ろうとする者は誰もおらず、
あまつさえ皆が身動きすら出来ずにいた。
ヘカ「弱ったなぁ〜…」
ただ純粋に祭りを楽しんでいた彼女にとって、この状態は好ましくなかった。どうにかしてこの均衡を破れないかと悩んでいると、
ピー「Hey , Master!Listenね」
彼女の部下、『地獄の妖精』クラウンピースが耳打ちを始めた。
ヘカ「ふんふん、なるほどなるほど」
彼女は部下の話を聞き終えると、「コホンッ」と
ヘカ「では命令します。ここにいる者達6名以外は
他へ行きなさい。あ、お店の人達はそのまま
営業を続けてね」
彼女がそう言い終わると、少年達一同以外の者達は足早にその場を後にした。
ヘカ「これで良し。ピース、サンキュー。
ナイスアイディア」
ピー「You're welcomeね」
ヘカ「で?あなた達もいい加減に頭をあげて普通に
してよ」
ヤマ「で、ですが…」
ヘカ「これも命令。それにお子ちゃま達はずっと
普通にしていてくれてるよ?」
その言葉に目を丸くし、慌てて顔を上げるヤマメ達。その目に映ったのは2本足で立ち、
大鬼「お子ちゃまって言うな!」
事もあろうに
カズ「もうそんな年じゃない!」
彼女に反抗する
『このボケーッ!!!!』
子達。そのボケっ子達の無礼に
ヤマ「2人共この方を知らないの!?」
さと「地獄の女神様よ!」
血相を変えて詰め寄る者達。またある者達は
お燐「も、もうおしまいニャ…」
お空「ゆで卵食べたかった…」
絶望の
ヘカ「いいの、いいの。私がそうしろって言ったん
だから。友達だと思えって」
大鬼「ヘカーティア様の事は知ってたよ」
カズ「そりゃ最初はオレ達もちゃんとしてたさ」
大鬼「でもさっきみたいに命令されてたから」
カズ「ならまあいっかって」
ヤマ「ん?ちょっと待って。じゃあ今までずっと
ヘカーティア様と一緒にいたって事?」
『うん、そう』
平然と答える少年達に、彼等の監視役の表情はみるみる青くなっていき、
ヤマ「ご迷惑をお掛けしました。
私がちゃんと見張って無かったばかりに、
ヘカーティア様のお手を
申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げてこれまでの事を謝罪した。
でもこれは筋違い。少年達を行方不明にした原因は、このお騒がせ女神様なのだ。にもかかわらず、
ヘカ「あはは…。ド、ドウッテコトナイヨー」
笑って誤魔化し、そればかりか「気付かれていないなら、それでいいや」と蜘蛛姫の言葉に便乗した。だが被害者、事情を知っている者は目を細め、呆れた表情で彼女の事を見ていた。
ヤマ「お詫びとお近づきの印に、
何か差し上げたいのですが、生憎今は…」
事情を知らずに気を回す人の出来た近所の優しいお姉さん。そんな彼女に「その気遣いはいらない」と変なTシャツヤローが答えようとした時、
お空「卵こんにゃく要ります?」
空気の読めない地獄鴉が、持て余しているそれを差し出した。
さと「何してるのよ!」
お燐「
しかも玉こんにゃくニャ!
いい加減卵から頭を
失礼極まりない彼女の行為に慌て出す家族達。だがこれは、
お空「だってヤマメーちゃんがヘカーティア様に
渡す物が無くて、困ってそうだったから…」
彼女なりの好意だった。
ヤマ「あはは…、お空ちゃんありがとう。
でもそれじゃない方がヘカーティア様も…」
ヘカ「いいよ、それなら貰ってあげる。
でもそんなに要らないから1個だけ頂戴」
何という慈悲。度重なる無礼に目を瞑り、更には悩みにも協力してくれて、まさに神対応。地霊殿組は一様にしてそう思った。そして、そんな彼女は地霊殿組にとって、文字通り女神様となった。
女神は玉こんにゃくが盛られた皿を地獄鴉から受け取ると、添えてあった
ヘカ「うん、少し冷めているけど美味しい。
おチビちゃん達も食べる?」
その女神様は笑顔で頬張った物を少年達に差し出すが、
大鬼「だーかーらっ!」
カズ「さっきより酷くなってるし!」
呼ばれ方が気に入らなかったのか、しかめっ面で反抗される始末。だがそこはやはり育ち盛り。
ヘカ「じゃあいらない?」
『いただきます!』
頂ける物は容赦なく貰う。
ヘカ「ピースもいる?」
更に女神は自分の部下にもそれを差し出した。
ピー「Oh , Thank you ね。
Umm~.Yummy , Yummyね」
主人からの気遣いをありがたく頂戴した地獄の妖精は、頬を押さえてその純和風な味付けを堪能した。面識がないにも関わらず、悩みのタネを消費してくれている彼女は、地霊殿組にとってまさに突然現れた救世主だった。
ヘカ「ご馳走様、はいこれ」
さと「いえ、こちらこそ。ありがとうございます」
満足した顔で皿を覚り妖怪に返す女神様。彼女は皿を手渡すと、姿勢を覗き込む様にして話し始めた。
ヘカ「へぇ〜、あなたが棟梁さんの言っていた地霊
殿の主人ね。確かにしっかりしていそうね」
さと「え?棟梁様が何か言われていましたか?」
ヘカ「ふふ、それは本人から直接聞いてね。
私からは『頑張ってね』って言う事くらいか
な?」
意味深な微笑みで語る女神の本質を探ろうと、覚り妖怪はその能力を発動した。
さと「うそ、どうして…」
彼女のセオリーでは言葉を発する時、心や脳はリンクするはずだった。
例えば、音読をしながら暗算をする事はとても困難である。それは脳が同時に2つの事を処理しようとするからだ。日常の何気ない会話の中でそれをやってのけるのは、まず無理な事。
しかし彼女が読んだのは、この件とは全く関係のない言葉。むしろ別次元の内容だった。
ヘカ「ざーんねーんでした。そうはさせないよ。
私には体が他にもあるからね。
私はたぶん3人目だと思うから…」
さと「はい?」
ヘカ「でもまあ今日中には分かるよ。
それまでお楽しみに〜」
謎の名言を残し、覚り妖怪に笑顔を送る変T。そして今度はペットの方へ視線を向けると、ゆっくりと近づいて行った。
お空「うにゅ?うつほに何かご用?」
お燐「こらお空!ちゃんとし
ヘカ「あはは、いいよいいよ。
ふーん、お空って言うの」
お燐「失礼でごめん
もうお気付きかも知れませんが、
彼女はその、頭があまり…」
お空「お燐!それはうつほに失礼だよ!
うつほだってやる時はちゃんとやるよ!」
自分の事をバカにされている。無い頭でもそれに気付いた地獄鴉は、両手を上げ「そんな事ない」と頬を膨らませてアピールした。
ヘカ「ふふ、2人とも仲が良いんだね。
それにお空は純粋なんだね。良い事だよ。
でもね…」
そこまで話すと、女神は真剣な表情で続きを語り出した。
ヘカ「そこに付け入る悪い輩もいるから、
くれぐれも気を付けてね。
そんな時はお燐が助けてあげてね」
お燐「はいニャ!」
女神様からのありがたいお言葉に、ビシッと姿勢を正してキレのある返事をする地獄鴉の親友。更に女神様は一同の方へと振り向き、
ヘカ「みんなもね。困った事があったらお互い仲良
く助け合ってね」
『はいっ!』
女神らしい仕事をした。
ヤマ「大鬼君とカズキ君聞いたぁ?
『うっ…』
近所の優しいお姉さんからの念押しに、仲良く苦虫を噛み潰したよな表情を浮かべる少年達。
その場が穏やかな雰囲気に包まれる中、それは突然起きた。
ドーン!
大鬼「合図だ!」
その音にいち早く気付いた少年。キョロキョロと上空を見回し、次の信号を待っていた。
ヤマ「向こうだ!ちょっと行ってくる!」
第2弾目を見つけるのは蜘蛛姫の方が早かった。彼女は確認するや否や現場へと急行した。
さと「ヤマメさん、いったいどちらへ!?」
お燐「
大鬼「トラブルが起きた時の合図だよ!」
お空「そう言えば、さっきからあちこちで喧嘩がど
うって…」
ヘカ「え?なになに?喧嘩?」
カズ「なんで嬉しそうなのさ…」
少年がふと周りに目をやると、多くの者が蜘蛛姫と同じ方へと向かっていた。出所はこの近く。そう覚った少年は、
大鬼「ボクも行ってくる!」
好奇心から駆け出していた。
さと「ボケっ子ちょっと待ちなさい!」
お燐「アタイも行くニャ!」
お空「待ってぇー!置いて行かなでー!」
その少年を追う様に続々とついて行く地霊殿組、
ヘカ「ピースまた後で来るね」
カズ「ちょっ、離せよ!」
そして、
ピー「Aye aye sir ね。
Master , Have a good time ね」
次回【三年後:鬼の祭_陸】