東方迷子伝   作:GA王

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三年後:鬼の祭_伍    ※挿絵有

◇   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

 

 

??「見つけた!」

 

突然見失った2人を見つけた彼女は、思わず大声で叫んだ。

 

??「あ、ヤマメー!」

 

その声に気付いた少年は、彼女を見るや地獄から解放された様な、安堵の表情を浮かべた。そこに

 

??「どーもー」

??「大鬼君こんばんはニャ」

 

彼女の背後から現れる者達。少年は顔を見知った彼女達を見つけると笑顔を浮かべ、

 

大鬼「ミツメーとお燐!よっ!」

 

元気良く挨拶を交わした。

 

大鬼「あと…」

 

少年が見つめる先には背の高い黒髪の女性。彼は彼女の事を知っていた。だから、

 

大鬼「お空…、だっけ?」

 

名前を確認するために声を掛けた。だがその彼女は顔色を変え、

 

お空「うにゅーーーっ!?さとり様どうしよう!

   うつほはあの子の事が記憶に無いです!」

 

主人に慌てながら泣きついた。

 それを受け止めた小さな主人は、彼女の事を落ち着かせるのかと思いきや、

 

さと「お空…」

お空「うにゅ?」

さと「あなた何処であのボケっ子と会ったのよ!?

   何でボケっ子があなたの事を知っているのよ

   !?」

 

嫉妬が爆発した。そして、彼女の胸倉を掴んでガタガタと揺らし、激しい見幕で詰め寄った。

 

お空「うにゅーーーっ!?分からないんです!

   覚えてないんです!記憶にないんです!

   お願いですから怒らないで下さい!!」

 

しかし彼女には身に覚えがない事。この理不尽極まりない主人の物言いに、とうとう泣き出してしまった。

 

大鬼「あのさミツメー、前にじぃじとばぁばとで

   ミツメーの家に行ったでしょ?」

さと「あ、うん…」

大鬼「その時にお燐が教えてくれた」

お燐「だニャ」

 

見るに見兼ねた者からの発言に、地霊殿の主人は当時の事を思い起こしていた。そしてその事を思い出した彼女はペットから手を放し、ポンと叩いて納得した。

 

さと「あー、なるほど。そういう事。

   お空、私の勘違いだったみたい…」

お空「さとり様もう怒らない?」

さと「ええ、ごめんなさいね」

 

ペットと主人の仲が回復する中、

 

カズ「なぁ、あれって地霊殿の連中だろ?」

大鬼「うん、そう」

カズ「あれもお前の知り合いなわけ?」

大鬼「うん、そう」

カズ「お前…、ホントに妖怪の知り合い多くね?」

大鬼「うん、そう」

 

小声で会話をする少年達。カズキの質問に全てYESで答える少年に、彼はこう思った。「コイツ実は凄いヤツなんじゃないか?」と。故に、

 

カズ「鬼の知り合いは少ないのにな?」

 

悔しくて意地悪。

 

大鬼「うん、…?は?」

カズ「事実だろ?」

 

その言葉に、第2ラウンドのゴングが鳴った。すると間髪いれず、睨み合う2人の前に

 

ヤマ「はいはい、喧嘩しない!」

 

近所の優しいお姉さんが立ちはだかり、試合を打ち切りにした。

 

ヤマ「2人共探したんだよ?何処に行って…」

 

彼女はそこまで言いかけてようやく気が付いた。少年達の後ろで笑みを浮かべながら、彼女達を温かい目で見守る、変なTシャツを着た偉大な存在に。

 そして慌ててその場で(ひざまず)き、頭を垂れた。

 

ヤマ「ヘカーティア・ラピスラズリ様!」

  『えっ!?』

 

蜘蛛姫の言葉を皮切りに、地霊殿の者達も通行人達も続々と跪いた。

 

ヘカ「いい、いい、いい、いい。

   そういうの要らないから。

   通行人の人達はどうぞ通り過ぎちゃって〜」

 

【挿絵表示】

 

 

手で振り払いながら「お気になさらず」とサインを送った。

 だが彼女のせっかくの心遣いにも関わらず、その場から去ろうとする者は誰もおらず、

あまつさえ皆が身動きすら出来ずにいた。

 

ヘカ「弱ったなぁ〜…」

 

ただ純粋に祭りを楽しんでいた彼女にとって、この状態は好ましくなかった。どうにかしてこの均衡を破れないかと悩んでいると、

 

ピー「Hey , Master!Listenね」

 

彼女の部下、『地獄の妖精』クラウンピースが耳打ちを始めた。

 

ヘカ「ふんふん、なるほどなるほど」

 

彼女は部下の話を聞き終えると、「コホンッ」と(わざ)とらしく咳払いをし、少年達一同を指差して真剣な顔付きで語り出した。

 

ヘカ「では命令します。ここにいる者達6名以外は

   他へ行きなさい。あ、お店の人達はそのまま

   営業を続けてね」

 

彼女がそう言い終わると、少年達一同以外の者達は足早にその場を後にした。

 

ヘカ「これで良し。ピース、サンキュー。

   ナイスアイディア」

ピー「You're welcomeね」

ヘカ「で?あなた達もいい加減に頭をあげて普通に

   してよ」

ヤマ「で、ですが…」

ヘカ「これも命令。それにお子ちゃま達はずっと

   普通にしていてくれてるよ?」

 

その言葉に目を丸くし、慌てて顔を上げるヤマメ達。その目に映ったのは2本足で立ち、

 

大鬼「お子ちゃまって言うな!」

 

事もあろうに

 

カズ「もうそんな年じゃない!」

 

彼女に反抗する

 

  『このボケーッ!!!!』

 

子達。そのボケっ子達の無礼に

 

ヤマ「2人共この方を知らないの!?」

さと「地獄の女神様よ!」

 

血相を変えて詰め寄る者達。またある者達は

 

お燐「も、もうおしまいニャ…」

お空「ゆで卵食べたかった…」

 

絶望の(ふち)に立たされ、命の危険を感じていた。だが彼女は苦笑いを浮かべ、片手をヒラヒラと振りながら話し始めた。

 

ヘカ「いいの、いいの。私がそうしろって言ったん

   だから。友達だと思えって」

大鬼「ヘカーティア様の事は知ってたよ」

カズ「そりゃ最初はオレ達もちゃんとしてたさ」

大鬼「でもさっきみたいに命令されてたから」

カズ「ならまあいっかって」

ヤマ「ん?ちょっと待って。じゃあ今までずっと

   ヘカーティア様と一緒にいたって事?」

  『うん、そう』

 

平然と答える少年達に、彼等の監視役の表情はみるみる青くなっていき、

 

ヤマ「ご迷惑をお掛けしました。

   私がちゃんと見張って無かったばかりに、

   ヘカーティア様のお手を(わずら)わせてしまい、

   申し訳ありませんでした」

 

深々と頭を下げてこれまでの事を謝罪した。

 でもこれは筋違い。少年達を行方不明にした原因は、このお騒がせ女神様なのだ。にもかかわらず、

 

ヘカ「あはは…。ド、ドウッテコトナイヨー」

 

笑って誤魔化し、そればかりか「気付かれていないなら、それでいいや」と蜘蛛姫の言葉に便乗した。だが被害者、事情を知っている者は目を細め、呆れた表情で彼女の事を見ていた。

 

ヤマ「お詫びとお近づきの印に、

   何か差し上げたいのですが、生憎今は…」

 

事情を知らずに気を回す人の出来た近所の優しいお姉さん。そんな彼女に「その気遣いはいらない」と変なTシャツヤローが答えようとした時、

 

お空「卵こんにゃく要ります?」

 

空気の読めない地獄鴉が、持て余しているそれを差し出した。

 

さと「何してるのよ!」

お燐「(ニャ)んでそう(ニャ)るニャ!

   しかも玉こんにゃくニャ!

   いい加減卵から頭を(はニャ)すニャ!」

 

失礼極まりない彼女の行為に慌て出す家族達。だがこれは、

 

お空「だってヤマメーちゃんがヘカーティア様に

   渡す物が無くて、困ってそうだったから…」

 

彼女なりの好意だった。

 

ヤマ「あはは…、お空ちゃんありがとう。

   でもそれじゃない方がヘカーティア様も…」

ヘカ「いいよ、それなら貰ってあげる。

   でもそんなに要らないから1個だけ頂戴」

 

何という慈悲。度重なる無礼に目を瞑り、更には悩みにも協力してくれて、まさに神対応。地霊殿組は一様にしてそう思った。そして、そんな彼女は地霊殿組にとって、文字通り女神様となった。

 女神は玉こんにゃくが盛られた皿を地獄鴉から受け取ると、添えてあった爪楊枝(つまようじ)で一つ取り、一口で頬張った。

 

ヘカ「うん、少し冷めているけど美味しい。

   おチビちゃん達も食べる?」

 

その女神様は笑顔で頬張った物を少年達に差し出すが、

 

大鬼「だーかーらっ!」

カズ「さっきより酷くなってるし!」

 

呼ばれ方が気に入らなかったのか、しかめっ面で反抗される始末。だがそこはやはり育ち盛り。

 

ヘカ「じゃあいらない?」

  『いただきます!』

 

頂ける物は容赦なく貰う。

 

ヘカ「ピースもいる?」

 

更に女神は自分の部下にもそれを差し出した。

 

ピー「Oh , Thank you ね。

   Umm~.Yummy , Yummyね」

 

主人からの気遣いをありがたく頂戴した地獄の妖精は、頬を押さえてその純和風な味付けを堪能した。面識がないにも関わらず、悩みのタネを消費してくれている彼女は、地霊殿組にとってまさに突然現れた救世主だった。

 

ヘカ「ご馳走様、はいこれ」

さと「いえ、こちらこそ。ありがとうございます」

 

満足した顔で皿を覚り妖怪に返す女神様。彼女は皿を手渡すと、姿勢を覗き込む様にして話し始めた。

 

ヘカ「へぇ〜、あなたが棟梁さんの言っていた地霊

   殿の主人ね。確かにしっかりしていそうね」

さと「え?棟梁様が何か言われていましたか?」

ヘカ「ふふ、それは本人から直接聞いてね。

   私からは『頑張ってね』って言う事くらいか

   な?」

 

意味深な微笑みで語る女神の本質を探ろうと、覚り妖怪はその能力を発動した。

 

さと「うそ、どうして…」

 

彼女のセオリーでは言葉を発する時、心や脳はリンクするはずだった。

 例えば、音読をしながら暗算をする事はとても困難である。それは脳が同時に2つの事を処理しようとするからだ。日常の何気ない会話の中でそれをやってのけるのは、まず無理な事。

 しかし彼女が読んだのは、この件とは全く関係のない言葉。むしろ別次元の内容だった。

 

ヘカ「ざーんねーんでした。そうはさせないよ。

   私には体が他にもあるからね。

   私はたぶん3人目だと思うから…」

さと「はい?」

ヘカ「でもまあ今日中には分かるよ。

   それまでお楽しみに〜」

 

謎の名言を残し、覚り妖怪に笑顔を送る変T。そして今度はペットの方へ視線を向けると、ゆっくりと近づいて行った。

 

お空「うにゅ?うつほに何かご用?」

お燐「こらお空!ちゃんとし(ニャ)きゃダメニャ!」

ヘカ「あはは、いいよいいよ。

   ふーん、お空って言うの」

お燐「失礼でごめん(ニャ)さいニャ。

   もうお気付きかも知れませんが、

   彼女はその、頭があまり…」

お空「お燐!それはうつほに失礼だよ!

   うつほだってやる時はちゃんとやるよ!」

 

自分の事をバカにされている。無い頭でもそれに気付いた地獄鴉は、両手を上げ「そんな事ない」と頬を膨らませてアピールした。

 

ヘカ「ふふ、2人とも仲が良いんだね。

   それにお空は純粋なんだね。良い事だよ。

   でもね…」

 

そこまで話すと、女神は真剣な表情で続きを語り出した。

 

ヘカ「そこに付け入る悪い輩もいるから、

   くれぐれも気を付けてね。

   そんな時はお燐が助けてあげてね」

お燐「はいニャ!」

 

女神様からのありがたいお言葉に、ビシッと姿勢を正してキレのある返事をする地獄鴉の親友。更に女神様は一同の方へと振り向き、

 

ヘカ「みんなもね。困った事があったらお互い仲良

   く助け合ってね」

  『はいっ!』

 

女神らしい仕事をした。

 

ヤマ「大鬼君とカズキ君聞いたぁ?

   ()()()して、()()()()んだよ?」

  『うっ…』

 

近所の優しいお姉さんからの念押しに、仲良く苦虫を噛み潰したよな表情を浮かべる少年達。

 その場が穏やかな雰囲気に包まれる中、それは突然起きた。

 

 

ドーン!

 

 

大鬼「合図だ!」

 

その音にいち早く気付いた少年。キョロキョロと上空を見回し、次の信号を待っていた。

 

ヤマ「向こうだ!ちょっと行ってくる!」

 

第2弾目を見つけるのは蜘蛛姫の方が早かった。彼女は確認するや否や現場へと急行した。

 

さと「ヤマメさん、いったいどちらへ!?」

お燐「(ニャ)(ニャ)のかニャ?」

大鬼「トラブルが起きた時の合図だよ!」

お空「そう言えば、さっきからあちこちで喧嘩がど

   うって…」

ヘカ「え?なになに?喧嘩?」

カズ「なんで嬉しそうなのさ…」

 

少年がふと周りに目をやると、多くの者が蜘蛛姫と同じ方へと向かっていた。出所はこの近く。そう覚った少年は、

 

大鬼「ボクも行ってくる!」

 

好奇心から駆け出していた。

 

さと「ボケっ子ちょっと待ちなさい!」

お燐「アタイも行くニャ!」

お空「待ってぇー!置いて行かなでー!」

 

その少年を追う様に続々とついて行く地霊殿組、

 

ヘカ「ピースまた後で来るね」

カズ「ちょっ、離せよ!」

 

そして、然程(さほど)興味を示さない少年の首根っこを掴み、引き()る様に遅れてその後を追う女神。その瞳はこれまで以上に輝いていた。

 

ピー「Aye aye sir ね。

   Master , Have a good time ね」

 

 

 




次回【三年後:鬼の祭_陸】

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