東方迷子伝   作:GA王

88 / 229
三年後:鬼の祭_陸

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◆

 

 

 自分の正体を明かした彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 

??「じゃあ、ちゃんとエスコートして

   おくれよ?」

??「おう!任せな!」

 

彼女の笑顔に、彼は胸を叩いて答えた。彼はやっと訪れた出会いに喜んでいた。そして早く目的を果たそうと、彼女が探している()()について尋ねた。

 

??「それはここからでも見えるのかい?」

 

そこは周囲を一望出来き、近くであれば道行く者達の表情を伺えた。しかし離れた場所では姿を辛うじて確認できる程度である。

 

??「うーん、そうだねぇ…。それっぽいのが見え

   れば、直ぐに気付くんだけどねぇ」

 

彼女はそう呟くと、敬礼をする様に町を眺め始めた。

 

??「そいつは大きいのかい?」

 

彼は尋ねながら彼女の隣に立ち、同様に町の中を探し始めた。

 

??「小さいと言えば小さいかなぁ?

   少なくともあたいよりは小さいよ」

 

その言葉に彼は「それは大きいのでは?」と違和感を覚えて始めていたが、「特に気にする必要もないだろう」と深くは尋ねなかった。

 

??「何か目印になりそうな物はあるかい?」

??「見た目が独特なんだよ。あと多分騒がしい所

   とかに…」

 

彼女がそこまで話した時、

 

 

ドーン!

 

 

後方から大きな爆発音が聞こえ、

 

??「何事だい!?」

 

彼女は慌てて振り向いた。すると隣の彼は

 

??「あー、合図だな。この時間はパルパルか?」

 

平然とした顔で答えた。

 

??「合図?」

 

彼女が首を傾けて尋ねると、今度は視線の先に赤い光の玉が打ち上がり、目の高さで彼岸花の様に花開いた。その光景に彼女は目を奪われ、思わず心の声がこぼれた。

 

??「綺麗…」

??「気に入って貰えて嬉しいけど、

   あれはウチらの合図なんよ。

   あの色は…トラブルだな」

??「トラブル…。もしかしたらそこに()()かも

   しれないねぇ」

??「え?いる?」

 

 

◆   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 彼女が辿り着いた時には、既に緊迫した空気が2人の鬼を包んでいた。だがそれを止めようとする者はおらず、その場の全員が傍観者の態度を取っていた。しかしその瞳は輝き、期待に満ち溢れ、それは傍観者というよりも観客に近い。

 

鬼①「ふざけるな!今の言葉取り消せ!」

 

片方の鬼が怒りを(あら)わにしながら、相手の胸ぐらを掴んだ。

 

鬼②「キサマこそ図に乗るなよ!」

 

こちらも負けじと怒号と共に胸ぐらを掴む鬼。その瞬間辺りから「おーっ!」と歓声が上がり、場に熱が入り始めた。

 

??「まったく…。これだから鬼という種族は…」

 

その光景をただ静かに見守っていた彼女だったが、「ここは出番か」と愚痴と共にため息を吐き、一歩前へと歩み出した。と、そこに…。

 

??「おい、お前さん達!」

 

凛としつつも、勇ましい一本角の女鬼が大声を上げ、ゆっくりとした足取りで睨み合う2人に近付いて行った。

 

??「あれは棟梁の娘で四天王の…」

 

その者の登場に、彼女は二歩目をその場に下ろし、三歩目を踏み出す事を止めた。そして笑みを浮かべ、静かに呟いた。

 

??「それではこの場をどう収めるのか、

   お手並み拝見といきましょうか。

   頑張って下さいね。『無能の四天王』さん」

 

 

◆   ◆   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

一向に反省の色を見せない目の前の鬼に、彼女の堪忍袋の緒はついに音を立てて切れた。

 

勇儀「どうやら痛い目見ないと分からないみたいだ

   ね!」

 

彼女の一歩目。

 それは踏み込んだ途端、局地的に地震を起こさせ、その余波は町中を駆け巡り、町外れでは砂塵を巻き上げさせた。そして騒ぎの中心の鬼は、その揺れに足を取られ、体を前後に動かしてバランスを崩していた。

 

勇儀「鬼の一歩は大地を揺らし!」

 

彼女の二歩目。

 踏み込むと同時に彼女から発せられる強烈な圧迫感。それは周囲の者達にも肌で感じられる程の突き刺さる様なプレッシャーだった。その威圧感の的となり、全身でもろに受けた者は、さっきの事も相重なって、何者かに押されたかの様に背後へと倒れ始めた。

 

勇儀「鬼の一歩は大気を震わせ!」

 

そこへ間髪入れず踏み込む彼女の三歩目。

 だがそれはこれまでのとは違い、地に足を付けた瞬間、彼女はターゲットに飛びかかっていた。そして酒に飲まれ、彼女の静止を聞かず、出店を破壊しても反省しない頭を鷲掴みにし、「頭を冷やして反省しろ!」という思いを乗せ、一気に地面へと叩きつけた。

 

 

バッコーーーン!

 

 

巨大な破壊音と共に地面はひび割れた。彼女の技の餌食となった鬼は頭に大きな(こぶ)を作り、その場で気を失った。

 

勇儀「そして鬼の一歩は全てをなぎ倒す」

 

彼女の決め台詞と共に湧き上がる観客達。

 

鬼 「すっげぇ!」

妖怪「何なんだよ今の!?」

鬼 「あれがお嬢の秘技だ!その名も」

  『三歩必殺!』

 

彼女の事をまるで正義のヒーローのように称えていた。そんな中、その様を厳しい目で見る者がいた。

 

??「これはいけませんね」

 

彼女は再び前へと歩き出した。

 

 

◆   ◆   ◆   ◇   ◆   ◇

 

 

??「出た!ユーネェの三歩必殺!」

 

少年は目を輝かせながら、彼の保護者の勇姿を最前列で見届けていた。彼女達を囲う野次馬達も少年と同様に熱い眼差しを向け、歓声を上げていた。

 

??「あれが本家の…。お前のとは大分違うな」

 

そこに頭の後ろで手を組みながらやって来た休戦相手。少年の隣に並ぶと、たった今見たそれと見慣れた物とを照らし合わせ、思った事をそのまま呟いた。

 

??「だってあんなの真似出来ないし…。

   けどあれもユーネェが教えてくれたんだよ」

??「ふーん…。でもお前のってさぁ、

   掴まれたら何も出来ないじゃん」

 

 

グサッ!

 

 

少年の心に鋭い刃が突き刺さった。

 

??「それにお前使う時分かり易過ぎ。

   初見はいいけど、2回目からは通じないよ」

 

 

グサッ!グサッ!

 

 

秘技の弱点を淡々と語る喧嘩相手に、少年は言葉を返せずにいた。「もうこれ以上の駄目出しはごめんだ」と、

 

??「そ、それよりみんなは?」

 

強引に話題を変えた。

 

??「たぶんまだ後ろじゃない?

   この人集りでここまで来られるのは、

   背の低いオレ達くらいだよ」

 

 

--その頃、彼らの後方では--

 

 

??「2人だけで大丈夫かな?」

 

再び少年達を見失ってしまった近所の優しいお姉さん。

 このトラブルを静めようと、勇んで駆け出してみたはいいものの、いざ現場に着いてみれば大勢の野次馬。前へ進もうにも軽い彼女は押し返えされ、その場で足止めされていた。

 そこに彼女の隊長が横を走り抜けていき、目の前の壁の下に空いた穴、野次馬連中の足の下を身を屈めて潜って行ったのだ。その光景に彼女が呆気に取られていると、2人目の少年を引き連れた女神がやって来た。

 女神は彼女から状況を聞かされると、連れて来た少年に一言二言伝え、姿が見えなくなった少年の後を追わせたのだ。

 

??「まあ、大丈夫でしょ。カズキ君には大鬼君が

   無茶をしないように見張らせてるし」

 

不安そうな表情を浮かべる蜘蛛姫に、景品の球体で遊びながら「心配し過ぎだ」と答える変なTシャツを着た女神様。そんな彼女の隣では、

 

??「これじゃあ前が見え(ニャ)いニャ」

 

何とかして状況を探ろうと、猫娘がジャンプを繰り返しており、更にその隣では

 

??「さとり様、上から見てもいいですか?」

 

地獄鴉が天井を指差し、特等席へと移動しようとしていた。

 

??「何も見えないよ〜」

??「待って。…騒ぎは勇儀さんが静めてくれたみ

   たいです」

 

しかしそこは状況把握と情報収集ならお手の物の覚り妖怪が、野次馬達の心の声を読んでいた。

 

??「そうなんだ、良かったぁ」

 

トラブルは解決したと聞いて、ほっと一安心のため息を吐く少年達の監視役。そして彼女はここに着いて間もなくに起きた自然現象の事を思い出した。

 

??「それじゃあ、さっきの地震はもしかして…」

??「勇儀さんの技のようです。

   『三歩必殺』っていう。有名らしいですね」

??「なにそれ!?か~っくうぃ〜」

 

その技名が気に入ったのか、瞳を輝かせて歓喜の声を上げる変なTシャツヤロー。更にそれは飛び火したようで…。

 

??「うにゅーっ!うつほもカッコイイ名前の技が

   欲しい!」

??「そんなの勝手にすればいいニャ…」

??「じゃあ…、

   ウツホミラクルスペシャルウルトラスーパー

   メガトンパンチ!」

 

地獄鴉は拳を前に突き出し、考えた技名と共にドヤドヤした。

 

??「えーっと…」

??「なにそれ?お空センス悪っ…」

??「変なの〜♪」

??「(ニャが)過ぎるニャ…。

   そもそもそれただのパンチニャ」

 

だが一同は皆一様に目を細め、彼女に「それはダメだろ」と視線を送っていた。

 

??「うにゅーっ!みんな酷いよ!

   カッコイイでしょ!?

   さとり様もそう思いますよね?ねっ?」

 

せっかく考えた技名を却下され、機嫌を悪くした地獄鴉は、ただ唯一コメントをしていない主人に同意を求めた。だが主人はまだ絶賛読心中。人差し指を立てて彼女に合図を送り、話し始めた。

 

??「しっ!動きがありました。えっ!?

   何であの方がここに!?」

 

状況を覚った覚り妖怪は目を見開き、驚きの声を上げた。

 

??「さとりちゃん、どうかしたの?」

 

様子が急変した友人を不思議に思い、蜘蛛姫が声を掛けると、彼女は自分を落ち着かせる様に、ゆっくりと状況を報告した。

 

??「閻魔様が…、来られています」

  『えーーーーっ!?』

??「どどどどどうして!?」

??「お仕事を放り出すよう(ニャ)方じゃ(ニャ)いはずニャ!」

 

事情を知り驚きの隠せない者達。

 

??「うにゅ?誰だっけ?」

??「ん〜、会ったことあったかな〜?」

 

事情を知ってもぴんと来ない者達。一同の反応が二分化する中、

 

??「四季ちゃんもやっぱり来たかぁ」

 

事情を知っている素振りを見せる者が。

 

??「ヘカーティア様は何かご存知なのですか?」

 

その言葉に、女神へと詰め寄る地霊殿の主人。だが女神はその内容を今この場で言いたくはなかった。お楽しみにしておきたかったのだ。

 鬼気迫る表情を浮かべる小さなしっかり者に、表情から覚られまいと視線を上へ外しお茶を濁そうとした。

 

??「え?何あれ?」

 

その時女神の目に尾を引く彗星が映った。

 

 

 

 




次回【三年後:鬼の祭_漆】

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。