東方迷子伝   作:GA王

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いっしょに行こう

 

ピーーーーーッ!

 

 

 今日の仕事の終わりを告げる笛が鳴った。

 首に掛けた手拭で汗を拭きながらダイキが待つ場所へと足を運ぶ。仲間達から遊び道具をもらったとはいえ、一人きりで待っているんだ。きっと私の事を首を長くして待っているに違いない。深夜の出来事もあってか、昨日は考えもしなかった感情が次々と浮かんでくる。

 だが私のそんな想いとは裏腹に、ダイキはけん玉を握り締めてスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。しかも(かたわら)にはしっぽが2本生えた黒い猫が寄り添って一緒に寝ている。首には首輪をしているので、誰かの飼い猫なのだろうとは思うが……。

 

勇儀「何だ、この猫? 妖怪みたいだけど」

 

 ダイキに手を近づけると、その猫は私の気配に気付いたのか、瞬時に飛び起きてそのままどこかへと去って行ってしまった。黒猫も驚いただろうが、急に動かれると鬼の私とはいえ驚く。

 さてそれはそうと、心地よく眠っているところ悪いが、起きてもらわないと。

 

勇儀「おい、ダイキ。起きな」

 

 返事がない。ただの…いやいや、かなり眠りが深いようだ。揺すっても叩いても起きる気配がない。あんな時間まで起きていたのだから、仕方がないと言えば仕方がないが……。

 

勇儀「まいった。どうしよう」

 

 頭を掻きながら「どうしたものか」と悩んでいると、後ろから肩を「トントン」と叩かれた。振り向くとそこには自信に満ち溢れた表情の弟分が。そして親指を自分に向けながら、

 

鬼助「姐さん、ちょっと任せてくれませんか?」

 

 そう言うとダイキの耳元でたった一言だけ(ささや)いた。

 

鬼助「メシだぞ」

ダイ「ふぇっ!? あ、キスケ、ユーネェお帰り」

 

 なんという素早い反応。そうやれば起きるのか。でも、どこまで食欲旺盛なんだ…。

 瞬時に眠気の去ったダイキは弟分からもらったけん玉と、仲間が持って来てくれた玩具で、ずっと遊んでいたと話してくれた。その時にさっきの黒猫を見つけ、遊んでいるうちに眠ってしまったそうだ。

 

ダイ「あ、そうだ。ユーネェ、キスケ見て見て!」

 

 突然興奮しながら声を掛けてきたダイキ。言われるがままダイキへ視線を向けると、覚束無(おぼつかな)い手付きでけん玉を披露してくれた。

 

勇儀「すごいじゃないか!」

ダイ「まだ重過ぎて、大きいところじゃないと乗せられないけどね」

鬼助「ダイキ、けん玉はそうやって持つんじゃないんだ。筆を持つみたいにして持つんだ。ほら、こうやって、こうだよ。」

 

 弟分は得意気にそう言いながらダイキの手を取り、けん玉を握り方を直させ出した。そしてそのダイキは……迷惑そうに顔をしかめている。

 

勇儀「いいじゃないか好きな様にさせてあげれば。それよりも明日の事、みんなに言っておいておくれよ。夜居なかった連中もいるんだし」

鬼助「へい、お任せ下さい」

 

 弟分はそう返事をすると、大きな声を掛けながら仲間達の下へと向かっていった。でも既に他の者からも聞いて概ね伝わっているのだろうけど。一先ずこれで職場の連中全員に明日の事が周知されたと見て間違いないだろう。

 

 

クイッ、クイッ。

 

 

勇儀「あん?」

 

 袴を引っ張られ、視線を下に受けるとダイキが不思議そうな顔で尋ねてきた。

 

ダイ「明日何かあるの?」

 

 いた。何も知らない者が。一番身近に…。

 

勇儀「あれ? 知らなかったのか? 実は明日……」

 

 そこまで話しかけて名案が浮かんだ。「どうせなら……」と。

 

勇儀「やっぱりなんでもない。()()()()()だ」

ダイ「えー……、教えてよ。ユーネェのケチー」

勇儀「その方が楽しみが増えるだろ? でもそうだな……ダイキは絶対喜ぶと思うぞ」

ダイ「きーにーなーるー! 教えてくれないと嫌いになるよ!」

 

 それだけはご勘弁願いたい。

 

勇儀「そ、そう言うなよ……。ダイキをびっくりさせたいだけなんだ」

鬼助「姐さんどうしたんですか? ダイキなに膨れてんだ?」

ダイ「ユーネェが明日何があるのか教えてくれないの」

鬼助「はは〜ん、そういう事〜。じゃあオイラも教えられないな。()()()()()だ。そんじゃボチボチ帰りますか」

 

 帰り際、弟分が「明日の準備で行く所がある」と言うので、夕飯を3人で食べて帰る事になった。その方が家に帰って食事の支度をしないで済むから私も助かる。弟分も私も「コレを食べたい」といった希望が無かったので、ダイキに決定権を(ゆだ)ねる事にした。

 

勇儀「ダイキ、何がいい?」

ダイ「蕎麦!」

 

 一瞬でその事を後悔する破目に。

 

鬼助「また!? 昼も蕎麦食っただろ?」

ダイ「そーばー」

勇儀「鬼助、諦めな……」

 

 昼と同じ店。私が行き着けの蕎麦屋へと入ると、店長が「また来たのか!?」と目を丸くして視線で語ってきた。言わなくても分かる。私が店長の立場だったら絶対そう思う。

 奥の4人掛けの席に着いてダイキは本日2度目のかけ蕎麦を注文したが、私も弟分も「流石に2食連続で蕎麦は勘弁」ということで、私は天丼を弟分は水団(すいとん)を注文した。

 

店長「ほれ、おまたせ」

ダイ「わぁー、天ぷらだ!」

 

 運ばれて来たダイキの器には小さなかき揚げが。2食連続かけ蕎麦を注文した小僧への何とも粋な心遣いだ。これは嬉しい。ダイキもまさかの展開に目を輝かせている。

 

店長「おまけだ。山菜が余ったからやるよ」

ダイ「店長さん、ありがとうございます。いただきまーす!」

 

 笑顔で「ありがとう」ではなく「ありがとうございます」と、ちゃんとお礼を言えたダイキに驚いた。いったい何時の間に……。

 

鬼助「なぁ、店長。オイラ達にはないのか?」

店長「食いたきゃ金払いな」

鬼助「そんなー……、鬼だ」

店長「鬼だよ」

 

 

--小僧食事中--

 

 

鬼助「それじゃあ姐さん、ダイキまた明日」

勇儀「おう、明日頼むな」

ダイ「ばいばーい」

 

 夕飯を食べ終え、私達は家へと帰って来た。

 明日は午前中、友人が家に来る事になっている。ダイキの親について何か情報があればいいのだが……。でも、そうなるとこの暮らしはもう……。もやもやとした物を胸に抱え、寝る準備を進めていく。そしてそれは解決する事も無く、とうとう明日を迎える体勢に。

 

勇儀「じゃあ、おやすみ」

ダイ「ユーネェ、おやすみ」

 

 こうして何気ない眠りの挨拶を交わすのは3度目……。いや、2度目だろうか。たかがその程度。それなのに……。

 

勇儀「ダイキ、やっぱりお母さん……、ママに会いたいか? また一緒に暮らしたいか?」

 

 内に秘めていた物は思わず口から零れ落ちた。

 

ダイ「え? ママ……。会いたい。ママに会いたい……。また一緒に……」

 

 涙ぐむダイキ。バカな事を聞いたと後悔した。

 コイツはまだ5つ、親が恋しくて当然。当たり前じゃないか。私はなんて答えを期待していたんだ。たかが3日間一緒にいただけだっていうのに、なにを競うと……張り合おうとしていたんだ。

 

勇儀「ダイキ、すまない。変なことを聞いて……。絶対にママを見つけてあげるからな」

 

 それがダイキの一番なんだ。

 

 

ガンガンガンガン!

 

 

 戸を叩く音が耳につく。「こんな時間に誰だ?」と思っていると、

 

??「お〜い、勇儀〜。来たぞ〜」

 

 聞き覚えのある馴染み深い声が。

 

勇儀「んあ? 萃香? 萃香!? もうそんな時間か!」

 

 完全に寝坊した。

 慌てて身支度をして戸を開けると、友人が腕を組んで頬を膨らませていた。

 

萃香「も〜、人を呼んでおいて寝坊とはやってくれるじゃないさ~」

勇儀「わ、悪い悪い」

萃香「あ、あのさ……。ダイキは?」

勇儀「まだそこで寝てるよ」

 

 友人を中へ招き入れると、彼女は真っ直ぐにスヤスヤと眠るダイキの下へと進んで行き、その寝顔を覗き込むなり

 

萃香「わ、本当だ。寝顔かわいい〜♡」

 

 と、うっとりしながら呟いた。幸せそうなところ悪いが、聞くなら今しかない。

 

勇儀「萃香、どうだった?」

 

 そう尋ねると、友人は何の話か直ぐに察した様で、明るかった表情がみるみる険しくなっていった。

 

萃香「勇儀……。私、能力を全力で使って毎日探し続けたよ。人里、山の中、森の中、それこそ幻想郷中。それっぽい話を聞けば確かめにも行った。でも……」

勇儀「見つからなかった……か?」

萃香「……」

 

 私の質問に友人は口を閉ざして(うつむ)きながら小さく頷いた。そして彼女の回答の意味するもの。それはつまり……。

 

勇儀「幻想郷の人間じゃないんだね?」

 

 薄々察していた。でも幻想郷の人間である可能性も十分にあった。ただ友人が全力で探して見つからないとなると、やはり幻想郷には……。例えそうだとしても厄介だ。

 

萃香「そう……、それに……」

 

 友人が何かを言いかけた時、

 

ダイ「ユーネェおはよう……」

 

 寝坊助(ねぼすけ)がぼんやりとした顔で、目を擦りながら起き上がってきた。

 

ダイ「それと、萃香ちゃん……? 萃香ちゃん!?」

 

 起きたはいいが彼女の存在に気付いた途端、また布団の中へと飛び込む様に潜ってしまった。でもそれはもう手遅れだろう。今思いっきり叫んでいたし。

 

萃香「えっ? えっ? えっ!? 萃香()()()!? ねぇ、今ダイキが私の事を萃香()()()って……」

勇儀「あー、呼んだな」

 

 そう答えると友人は目を皿にして瞬く間に赤くほてり出し、その顔を両手で隠しながら小さく(うずくま)ってしまった。おもしろい。

 ダイキに着替えをさせるため、友人に外で待っていてもらう様伝え、彼女が外へ出たところで布団に隠れたダイキを無理やり引き摺り出した。

 

 

--小僧着替中--

 

 

ダイ「ユーネェ酷いよ。来るなら言ってよ」

勇儀「んー? 誰のことかな?」

ダイ「……ちゃん」

勇儀「聞こえないなぁ。それに嫌がっているみたいだし、帰ってもらおうかなー」

ダイ「イヤじゃ、ないけど……。ユーネェの意地悪」

 

 上目遣いで睨みつける様に不貞腐(ふていくさ)れ出した。そんな表情をされるとまた意地悪をしたくなる。

 

勇儀「よし、着替え完了。じゃあ、自分で中に入れてあげな」

ダイ「う~……、わかった……」

 

 軽く背中を叩いてやるとダイキは頬少し赤くさせ、渋々といった様子で表へと出て行った。

 

 

--10数分後--

 

 

 遅い……。友人は直ぐそこに居ただろうに、2人とも一向に帰って来ない。これでは焼肉会に遅れてしまう。それに朝食も食べていない。いや、朝食はもう諦めるか……。

 あまりの遅さから外に様子を見に出ると、2人は向き合って立っていた。奇妙な光景に「何をしているんだ?」と暫く観察。視線が合えばお互いが反らし、視線が反れたと思えば、また視線が合う。

 なにコレ? ずっとコレなのか? 焼肉会……、腹減った……、耐えられん。

 

勇儀「おい、ダイキ。ちょっと……」

 

 2人の空間を邪魔して申し訳ないが、私は色々限界だ。ダイキに耳打ちをしてクイッと顎で合図を送る。

 

ダイ「あ、あのね。これから僕とユーネェ、すごく楽しい所に行くんだけど、萃香……ちゃんも……一緒に行かない?」

萃香「ふぁっ!? ダイキからのお誘い……行く! 絶対行く!!」

勇儀「じゃあとっとと行くぞ、遅れちまう」

 

 まぁ、1人くらい増えても問題ないだろ。

 

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