さと「萃香さん、誠に勝手ながらあなたの心を読ま
せて頂きました。私はあなたがそこまで気に
病む必要はないと思います。
ですから、余計なお世話かもしれませんが、
私から事情を説明させて頂きますね」
彼女は親友にそう伝えると、返事を聞く前に親友の身に起きた事を全て話した。集めたゴミでキスメと遊んでいた事、その最中に予期せぬ砂埃が起きて手元が狂ってしまい、キスメに火の玉をこちらへ放らせてしまった事、そしてそれをどうにかしようと、キスメを投げ飛ばした事を。
さと「…これが全てです」
映姫「砂埃ですか…。それはいつ頃に起きたか分か
りますか?何分程前?」
さと「えっと…、推測ですけど恐らく私達がここに
ついて間もなくの頃だと思うので、
ちょうど………」
さとり嬢はそこで言葉を区切ると、何かに気付いたように「あっ」と言葉を放ち、私の方へ視線を向けた。この時私はなぜ彼女がこちらを見たのか、皆目検討もつかなかった。ただ首を傾げ「ん?」と眉をひそめ、彼女に「私がどうかしたか?」と合図を送っていた。
しかしそんな中でも、閻魔様は彼女のその仕草を見逃していなかった。
映姫「彼女に何か思い当たる事でも?」
さと「いえ…、なんでも…」
あの時彼女は私の事を思ってお茶を濁そうとしていたのだろう。それなのに私はその事に気付かず、
勇儀「私も気になる。話してくれないか?」
と自分の首を絞めていた。
さと「そ、それじゃあ…。その時に…その…、
ゆ、勇儀さんがちょうど『三歩必殺』を…」
この言葉を皮切りに閻魔様の
??「…と」
私はまだ『無』の世界にいる。
??「…っと、…ょっと」
私の耳には何も…
??「ちょっとーーーーーーーーーーーーー!!」
耳元で放たれた爆発音にも似た叫び声に、私の意識は強引に現実へと戻され、耳の中ではキーンとした高音が反響していた。
??「呼んでいるのにさっきから返事もしないで!
ちゃんと聞いているのですか!?
復唱要求!」
かなりご立腹の閻魔様。どうやら私の秘策を見破ったようだ。
確かに親友の手元を狂わせてしまったのは、私が原因だろう。でも私にだって言い分はある。
勇儀「でも元はと言えば…」
映姫「問答無用です!」
私の弁明に耳を貸さず、話しを打ち切る閻魔に流石の私でもカチンと来た。
??「まあまあ、四季ちゃんも落ち着いて」
そこに見計らったかのような抜群のタイミングで、私達の間に割って入って来た女神様。
ヘカ「鬼さんの言い分もちゃんと聞こうよ」
その言葉に私は「救われた」と心から安堵した。そしてそれは同時に閻魔への説教でもあった。
映姫「大変失礼しました。私とした事が…。
思慮分別が出来ておりませんでした」
閻魔は瞬時に我に返り、謝罪と共に彼女に
ヘカ「もー…。四季ちゃんは真面目だなぁ。
あ、鬼さん続きをどうぞ」
そう言われて続きをやらねばならない程、やりにくいものはない。私の熱もすっかり冷めている。
勇儀「えーと、閻魔………様」
危うく本音で止まる所だった。
勇儀「その、私の言い分というのが…」
映姫「その前にこの姿勢を戻しても構わないでしょ
うか?了承希望です」
一気に冷や汗が吹き出た。私は事もあろうに跪いたままの彼女に、上から話しかけていたのだ。突き刺すような強い視線でこちらを見上げる彼女に、私は苦笑いで誤魔化すしか術がなかった。
勇儀「あははは…、どうぞどうぞ」
映姫「全く…、随分と偉くなられたものですね。
閻魔の威厳も地に落ちたものですよ。
自信喪失です」
彼女は立ち上がり、膝に付いた砂を払いながら捨て台詞にも似たトゲトゲしい言葉を残した。
勇儀「いやははは…」
映姫「あなたの言い分はだいたい予測可能です」
勇儀「え?」
映姫「あの者が反省していないようだから、制裁を
与えた。十中八九そんなところでしょう?」
私が気絶させた鬼を指し、尋ねてくる閻魔。その鬼はたった今目が覚めたようで、頭を押さえながら苦悶の表情を浮かべ、起き上がってきていた。
勇儀「…」
映姫「反論しないという事は予想的中ですね。でも
先程も申し上げた通り、力で解決するのは良
くありません。暴力反対です」
勇儀「はい…」
映姫「あなたにはそこの者の対応をお任せします。
一刀両断とまでは言いません」
そう言う彼女の視線の先には、不安そうに私を見つめる親友がいた。そして彼女は「落ち着いて話し合いなさい」と
映姫「あの者達については私も思うところがありま
すので、こちらは任せて頂きますよ?
身勝手なのは重々承知です」
目を覚まして己の置かれた状況を把握したのだろう。彼は青ざめ、慌てて正座をすると両手を地に付け、
鬼②「四季様!すみませんでした!
酒に飲まれたとは言え…」
土下座と共に謝罪を始めた。
何を今更…。素直にそう思った。すると彼女はチラリと私を見て、そのやるせない思いを代弁してくれた。
映姫「その事に気付くのが遅すぎましたね。
あなたは少しやり過ぎました。
傍若無人も
そして彼女は右手を下に向け、左手で袖を横に引っ張ると
映姫「ジャッジメントですの!」
そう言い放った。その彼女の右手にはチョコバナナではなく、
映姫「罪名!」
彼女の言葉に反応してそれはぼんやりと光りだし、
映姫「器物破損、暴力行為、迷惑行為…」
彼が犯した罪を読み上げる毎に光量を増していった。
映姫「以上!」
そして罪状を言い終えた頃、その光りは輝きを放つ程までに成長し、彼女はそれを頭上で構え、
映姫「しっかりと反省なさい!」
バチコーーーンッ!!
罪人目掛けて勢いよく振り下ろした。
勇儀「(えーーーっ!?)」
目を疑った。人に散々暴力は良くないと散々説教しておきながら、まさかの力押し。しかもその威力は私のそれ以上。罪人を地面に埋め込む程だ。
映姫「ふー…、スッキリしました。気分爽快です」
清々しい笑顔で額の汗を拭う閻魔に「ただのストレス発散だったのでは?」という疑問が頭を横切った。そんな私の事を横目に
映姫「あともう1人…」
そう呟くと、出店へと突っ込んだ鬼へと歩み出していた。
??「勇儀、あのさ…」
唖然とする私に申し訳無さそうに近づいて来た親友。ただでさえ背の低い彼女だが、体をキュッと
勇儀「まあ…、あれだ。私が頭にきて地響き起こし
たばかりに、お前さんに責任を負わす様な事
になっちまったな」
萃香「ふふ、そうだね。アレが勇儀の仕業だなんて
思わなかったよ」
彼女の顔に笑みが戻った。昔から、幼い頃からあまり変わらないその顔には、やっぱり笑顔が良く似合う。
勇儀「でも当番中に遊ぶなよな。罰則なんだし」
私が腕を組んで親友を叱ると、彼女は頭の後ろで手を組み、ニヤついた表情で答えた。
萃香「分かってるよ。ちゃんと真面目にやるよ」
勇儀「って人に言える立場じゃないよな…」
萃香「ホントだよ」
形勢が逆転した。
気不味くなって頬をかく私に、親友は腕を組んで「ご立腹」と言わんばかりの態度を見せつけた。でもこれは本気で怒っているのではない。その証拠に可愛らしく頬を膨らませ、こちらを伺っている。もし彼女が本当に怒ったら、それはそれは…。
分かりやすい小芝居に思わず笑いが込み上げ、それを隠すように足元に視線を移した。そして、彼女の様子を見ようと視線を戻すと、彼女も拳で口を隠しながらクスクスと笑っていた。あとはもうする事は一つだけ。
勇儀「ごめんな」 萃香「ごめんね」
私達は同時に笑顔で謝っていた。
次回【三年後:鬼の祭_拾】