東方迷子伝   作:GA王

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三年後:鬼の祭_拾

映姫「一仕事終えた後のコレは格別ですね」

小町「四季様、口の周りが…」

 

彼女はそう呟くとハンカチを取り出し、

 

小町「拭きますよ」

映姫「んっ」

 

突き出された上司の口を丁寧に拭いていった。

 勇儀が(?)起こした騒動は幕を閉じ、人集りはもう跡形もなくなった。この場に残ったのは勇儀を含めて14人だけ。

 

映姫「それよりも小町、何処に行っていたのですか

   ?勝手に居なくなるなんて、どういうつもり

   ですか!?自由奔放にも程があります!」

 

部下と逸れてしまい、1人で祭りを回っていた彼女。部下とようやく会えたにも関わらず、お得意の説教を始めていた。

 

小町「…」ジトー…

 

その彼女を部下は目を細めて物言いたそうに見つめていた。「いずれはこの視線に気付くだろう」と踏んでいた部下だったが、彼女の説教は止まる事を知らない。

 そして、とうとう耐えきれなくなり

 

小町「おまえだー!」

 

叫んでいた。

 部下の叫び声に目を点にする彼女。何を言い放ったのか、ましてやそれが自分に向けて言っているのか、脳が追いつけずにいた。そこへ畳み掛ける様に、上司が頬張る物を指差しながら死神は更に言葉を続けた。

 

小町「勝手に居なくなったのは四季様の方です!

   それが欲しいって言うから、あたいが人に出

   店の場所を聞いていたら、いつの間にか消え

   ていたのですよ!?

   こっちが聞きたいくらいです!

   いったいどちらに行かれていたんですか!」

 

そこまでは勢い任せ。だが言い終えた途端、彼女は冷静さを取り戻し、一気に後悔の波が押し寄せていた。

 

小町「四季…様?」

 

俯いたまま声を発さない上司を恐る恐る覗き込むと、

 

映姫「…?…?…?」ブツブツ

 

口元をヒクヒクと引きつらせ、小声で呪文を唱えていた。やがてそれは加速すると共にボリュームを上げ、部下の耳にも届き始めた。

 

映姫「おまえ?おまえ?おまえ?おまえ?おまえ?

   おまえ?おまえ?おまえ?おまえ?」

 

彼女は脳内処理を終えていた。しかし部下からの文句を余所に、ただその部分だけが残ってしまったのだ。

 額に血管を浮かばせ、爆発寸前の死神の上司。とそこに、

 

??「四季ちゃん一本ちょ~だい」

 

彼女の手からスイーツを奪って行く自由な女神。大好物を奪われた彼女は瞬時に平常心を取り戻し「あ…」と悲しい声を出したが、時既に遅し。それは女神への献上品として美味しく召し上がられていた。

 

ヘカ「う~ん、私もコレ好きなんだよねぇ~。

   よく見つけたね。何処にあったの?」

映姫「向こうの出店で…」

 

目上の者とはいえ、好物を取られた彼女はしょんぼりと俯き、購入した出店の方を指差した。だが彼女の胃袋には、

 

ヘカ「へー、そっちの方にあったんだ。それよりも

   随分と食べているみたいだけど、今何本目な

   の?」

映姫「6本…」

 

ものそれが収められていた。

 

ヘカ「えー…。それは食べ過ぎだよ。よく入るね」

 

目を見開き細い彼女の体、主に腹回りを入念にチェックする女神。時折突いてみたり、摘んでみたりと触診も(おこた)らない。

 

映姫「むふっ、むふふふ…。へ、ヘカーティア様。

   く、くすぐったいです…」

ヘカ「ほほぉ~…」

 

「カチリ」と音と共に、地獄の女神に謎のスイッチが入った。

 

映姫「あひゃひゃひゃひゃひゃっ」

ヘカ「こちょこちょこちょこちょ~」

 

 

--乙女達がじゃれ合っていたその頃--

 

 

勇儀「鬼助の怪我はどうなんだい?」

 

怪我人の容態を心配して集まる旧地獄一同。大の字で寝そべる彼を中心に、取り囲む様にしてその様子を伺っている。

 

鬼助「多分(あばら)が何本かいってるかと」

??「ごめんね、私達のせいで…」

 

俯くように頭を下げる小さな鬼。彼女はもう充分に反省していた。その思いは彼にもしっかりと届いていた。

 

鬼助「もう気にしていません。頭を上げて下さい」

 

言葉ではそう答えたが、心では「遊ぶなよ」、「真面目にやっていた自分が阿呆らしい」とまだ許せないところもあった。そんな彼に、

 

??「鬼助さん、私は立派だと思います」

 

その心中を察したかの様な心遣い。他の者であればこの様な真似は到底できないが、彼女の場合はそうではない。彼女はその能力故、彼の内に秘めたやるせない思いを既に知っていた。

 和やかに的を射たその一言は、彼にとってこの上ない救いだった。

 

鬼助「ミツメー、惚れていい?」

さと「はいはい…、心にも無い事を言わないで下さ

   い。あなた鬼ですよね?」

鬼助「へへ…、やっぱダメか…」

 

騒ぎの事はもう過ぎた事。旧地獄組一同が穏やかな空気に包まれ、一件の幕を閉じようとしていた。

 だがそこへ間髪入れず、その余韻をぶち壊す空気を読む事を知らない者が。

 

??「みんな玉こんにゃく食べる?」

  『は?』

 

誰もが突拍子もない事を言う彼女に、「何かの聞き間違いか?」と首を傾けて聞き返す。

 

??「みんな玉こんにゃく食べる?」

 

それに笑顔で一字一句違わずに答える地獄鴉に、彼女の家族の猫娘は堪らず注意した。

 

お燐「(ニャん)で今ニャ!」

お空「だってだって人が沢山いるし、お話終わった

   みたいだったから」

お燐「それでもタイミングがあるニャ!

   今はそのタイミングじゃ(ニャ)いニャ!」

お空「そうなの?めんご」

 

手の施しようのない家族に頭を抱える猫娘。今日、彼女は気苦労だけでカロリーを大きく消費していた。

 

勇儀「なあ、そいつお燐の知り合いかい?」

 

桶姫が勢いよく襲来して来た時に現れた正体不明の女。彼女と親しげに話す猫娘に、鬼のお嬢様は「まさか」と思い声を掛けた。

 

お燐「家族ですニャ。地獄鴉の…」

お空「お空だよー」

勇儀「って事は地霊殿の…」

お燐「お察しの通りですニャ」

 

意外な事実に鬼のお嬢様が地霊殿のお嬢様の方へ視線を向けると、彼女は黙って頷いた。

 

勇儀「へー…、変わった奴がいるんだな。

   私が行った時にはいなかったよな?

   まだ私が見ていない奴もいるのかい?」

さと「彼女は特別なんです。

   例の部屋の管理を任せているんです」

勇儀「え!?それってあの…」

さと「ええ、灼熱地獄跡です。

   彼女は普段そこから出る事はあまりありませ

   んが、今日は特別に慰労を兼ねてお祭りを楽

   しむ事にしたんです。

   特例措置の有給休暇です」

勇儀「へー、それじゃあ見た事が無いわけだ」

さと「それと、私のペットはあの時呼んだ子達と

   お燐、お空だけです。他にはもういません。

   でも気に入った子がいれば、増やすつもりで

   す」

 

そう笑顔で答える彼女に「まだアレ以上増やすのか!?」と、鬼のお嬢様は苦笑いを浮かべ、

 

勇儀「そ、そうか。動物が好きなんだな」

 

と当たり障りのない返事で答えた。

 するとそこへ救いを求める声が、荒々しい息と共に2人のお嬢様の背後から耳に伝わって来た。

 

??「ゼェ、ゼェ、ゼェ…。た、助けてください」

 

2人が振り向くとそこには膝に手を乗せ、肩で息をする閻魔がいた。

 

さと「どうされたの…」

 

覚り妖怪はそこで気付いた。助けを求める彼女の背後に迫る、手をワキワキと動かす存在に。そして状況だけで全てを覚り、行動に移した。

 

さと「(黙っておこう)」

 

それはもう一方のお嬢様も同じだった。

 

勇儀「(放っておこう)」

 

差し迫る魔の手からは何人たりとも逃れられないのだ。

 

??「隙ありっ!」

??「あひゃひゃひゃひゃ!へ、ヘカーティア様。

   も、もうゆるじでぇー!

   く、苦しいですー。あひゃひゃひゃひゃ」

??「こちょこちょこちょこちょ〜」

??「あの…、ヘカーティア様。もうそろそろ止め

   て差し上げたて頂けませんか?」

 

更に戯れ合う彼女達の背後から丁寧な口調で声を掛ける死神。笑い死にしそうな上司を救うため、女神に向けてやんわりと静止を呼びかけた。すると女神は「待ってました」とでも言うようにニヤリと微笑むと、

 

??「しょうがない。ここは四季ちゃんの優秀な

   部下さんに免じて終わりにしますか」

 

両手を上げ閻魔を解放した。

 

??「ゼェ、 ゼェ、ゼェ。小町、助かりました。

   ありがとうございます」

??「ヘカーティア様…。ありがとうございます」

 

深々と頭を下げる死神に地獄の女神は何も語らず、ウインク一つで答えた。

 目の前で繰り広げられる戯れ合いをただ呆然と見守っていた2人のお嬢様。閻魔が女神から開放された頃、

 

??「ひゅーひ(勇儀)ー、ひゃへふ(食べる)〜?」

 

そこにリスの様に頬を膨らませながら、小さな鬼が彼女達に例のアレを差し出した。

 




次回【三年後:鬼の祭_拾壱】
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