映姫「一仕事終えた後のコレは格別ですね」
小町「四季様、口の周りが…」
彼女はそう呟くとハンカチを取り出し、
小町「拭きますよ」
映姫「んっ」
突き出された上司の口を丁寧に拭いていった。
勇儀が(?)起こした騒動は幕を閉じ、人集りはもう跡形もなくなった。この場に残ったのは勇儀を含めて14人だけ。
映姫「それよりも小町、何処に行っていたのですか
?勝手に居なくなるなんて、どういうつもり
ですか!?自由奔放にも程があります!」
部下と逸れてしまい、1人で祭りを回っていた彼女。部下とようやく会えたにも関わらず、お得意の説教を始めていた。
小町「…」ジトー…
その彼女を部下は目を細めて物言いたそうに見つめていた。「いずれはこの視線に気付くだろう」と踏んでいた部下だったが、彼女の説教は止まる事を知らない。
そして、とうとう耐えきれなくなり
小町「おまえだー!」
叫んでいた。
部下の叫び声に目を点にする彼女。何を言い放ったのか、ましてやそれが自分に向けて言っているのか、脳が追いつけずにいた。そこへ畳み掛ける様に、上司が頬張る物を指差しながら死神は更に言葉を続けた。
小町「勝手に居なくなったのは四季様の方です!
それが欲しいって言うから、あたいが人に出
店の場所を聞いていたら、いつの間にか消え
ていたのですよ!?
こっちが聞きたいくらいです!
いったいどちらに行かれていたんですか!」
そこまでは勢い任せ。だが言い終えた途端、彼女は冷静さを取り戻し、一気に後悔の波が押し寄せていた。
小町「四季…様?」
俯いたまま声を発さない上司を恐る恐る覗き込むと、
映姫「…?…?…?」ブツブツ
口元をヒクヒクと引きつらせ、小声で呪文を唱えていた。やがてそれは加速すると共にボリュームを上げ、部下の耳にも届き始めた。
映姫「おまえ?おまえ?おまえ?おまえ?おまえ?
おまえ?おまえ?おまえ?おまえ?」
彼女は脳内処理を終えていた。しかし部下からの文句を余所に、ただその部分だけが残ってしまったのだ。
額に血管を浮かばせ、爆発寸前の死神の上司。とそこに、
??「四季ちゃん一本ちょ~だい」
彼女の手からスイーツを奪って行く自由な女神。大好物を奪われた彼女は瞬時に平常心を取り戻し「あ…」と悲しい声を出したが、時既に遅し。それは女神への献上品として美味しく召し上がられていた。
ヘカ「う~ん、私もコレ好きなんだよねぇ~。
よく見つけたね。何処にあったの?」
映姫「向こうの出店で…」
目上の者とはいえ、好物を取られた彼女はしょんぼりと俯き、購入した出店の方を指差した。だが彼女の胃袋には、
ヘカ「へー、そっちの方にあったんだ。それよりも
随分と食べているみたいだけど、今何本目な
の?」
映姫「6本…」
ものそれが収められていた。
ヘカ「えー…。それは食べ過ぎだよ。よく入るね」
目を見開き細い彼女の体、主に腹回りを入念にチェックする女神。時折突いてみたり、摘んでみたりと触診も
映姫「むふっ、むふふふ…。へ、ヘカーティア様。
く、くすぐったいです…」
ヘカ「ほほぉ~…」
「カチリ」と音と共に、地獄の女神に謎のスイッチが入った。
映姫「あひゃひゃひゃひゃひゃっ」
ヘカ「こちょこちょこちょこちょ~」
--乙女達がじゃれ合っていたその頃--
勇儀「鬼助の怪我はどうなんだい?」
怪我人の容態を心配して集まる旧地獄一同。大の字で寝そべる彼を中心に、取り囲む様にしてその様子を伺っている。
鬼助「多分
??「ごめんね、私達のせいで…」
俯くように頭を下げる小さな鬼。彼女はもう充分に反省していた。その思いは彼にもしっかりと届いていた。
鬼助「もう気にしていません。頭を上げて下さい」
言葉ではそう答えたが、心では「遊ぶなよ」、「真面目にやっていた自分が阿呆らしい」とまだ許せないところもあった。そんな彼に、
??「鬼助さん、私は立派だと思います」
その心中を察したかの様な心遣い。他の者であればこの様な真似は到底できないが、彼女の場合はそうではない。彼女はその能力故、彼の内に秘めたやるせない思いを既に知っていた。
和やかに的を射たその一言は、彼にとってこの上ない救いだった。
鬼助「ミツメー、惚れていい?」
さと「はいはい…、心にも無い事を言わないで下さ
い。あなた鬼ですよね?」
鬼助「へへ…、やっぱダメか…」
騒ぎの事はもう過ぎた事。旧地獄組一同が穏やかな空気に包まれ、一件の幕を閉じようとしていた。
だがそこへ間髪入れず、その余韻をぶち壊す空気を読む事を知らない者が。
??「みんな玉こんにゃく食べる?」
『は?』
誰もが突拍子もない事を言う彼女に、「何かの聞き間違いか?」と首を傾けて聞き返す。
??「みんな玉こんにゃく食べる?」
それに笑顔で一字一句違わずに答える地獄鴉に、彼女の家族の猫娘は堪らず注意した。
お燐「
お空「だってだって人が沢山いるし、お話終わった
みたいだったから」
お燐「それでもタイミングがあるニャ!
今はそのタイミングじゃ
お空「そうなの?めんご」
手の施しようのない家族に頭を抱える猫娘。今日、彼女は気苦労だけでカロリーを大きく消費していた。
勇儀「なあ、そいつお燐の知り合いかい?」
桶姫が勢いよく襲来して来た時に現れた正体不明の女。彼女と親しげに話す猫娘に、鬼のお嬢様は「まさか」と思い声を掛けた。
お燐「家族ですニャ。地獄鴉の…」
お空「お空だよー」
勇儀「って事は地霊殿の…」
お燐「お察しの通りですニャ」
意外な事実に鬼のお嬢様が地霊殿のお嬢様の方へ視線を向けると、彼女は黙って頷いた。
勇儀「へー…、変わった奴がいるんだな。
私が行った時にはいなかったよな?
まだ私が見ていない奴もいるのかい?」
さと「彼女は特別なんです。
例の部屋の管理を任せているんです」
勇儀「え!?それってあの…」
さと「ええ、灼熱地獄跡です。
彼女は普段そこから出る事はあまりありませ
んが、今日は特別に慰労を兼ねてお祭りを楽
しむ事にしたんです。
特例措置の有給休暇です」
勇儀「へー、それじゃあ見た事が無いわけだ」
さと「それと、私のペットはあの時呼んだ子達と
お燐、お空だけです。他にはもういません。
でも気に入った子がいれば、増やすつもりで
す」
そう笑顔で答える彼女に「まだアレ以上増やすのか!?」と、鬼のお嬢様は苦笑いを浮かべ、
勇儀「そ、そうか。動物が好きなんだな」
と当たり障りのない返事で答えた。
するとそこへ救いを求める声が、荒々しい息と共に2人のお嬢様の背後から耳に伝わって来た。
??「ゼェ、ゼェ、ゼェ…。た、助けてください」
2人が振り向くとそこには膝に手を乗せ、肩で息をする閻魔がいた。
さと「どうされたの…」
覚り妖怪はそこで気付いた。助けを求める彼女の背後に迫る、手をワキワキと動かす存在に。そして状況だけで全てを覚り、行動に移した。
さと「(黙っておこう)」
それはもう一方のお嬢様も同じだった。
勇儀「(放っておこう)」
差し迫る魔の手からは何人たりとも逃れられないのだ。
??「隙ありっ!」
??「あひゃひゃひゃひゃ!へ、ヘカーティア様。
も、もうゆるじでぇー!
く、苦しいですー。あひゃひゃひゃひゃ」
??「こちょこちょこちょこちょ〜」
??「あの…、ヘカーティア様。もうそろそろ止め
て差し上げたて頂けませんか?」
更に戯れ合う彼女達の背後から丁寧な口調で声を掛ける死神。笑い死にしそうな上司を救うため、女神に向けてやんわりと静止を呼びかけた。すると女神は「待ってました」とでも言うようにニヤリと微笑むと、
??「しょうがない。ここは四季ちゃんの優秀な
部下さんに免じて終わりにしますか」
両手を上げ閻魔を解放した。
??「ゼェ、 ゼェ、ゼェ。小町、助かりました。
ありがとうございます」
??「ヘカーティア様…。ありがとうございます」
深々と頭を下げる死神に地獄の女神は何も語らず、ウインク一つで答えた。
目の前で繰り広げられる戯れ合いをただ呆然と見守っていた2人のお嬢様。閻魔が女神から開放された頃、
??「
そこにリスの様に頬を膨らませながら、小さな鬼が彼女達に例のアレを差し出した。
次回【三年後:鬼の祭_拾壱】