勇儀「あー、それな。でも何でまた急に配り出した
んだい?」
さと「簡潔にお話しすると、お空が勘違いで大量に
買ってしまったんです。申し訳ありませんが
消費にご協力をお願いします」
??「鬼助は怪我しているから無理だけど、私と
キスメとパルスィとお燐意外のこっちの
みんなはもう一個ずつ食べたんだって。
私達4人も食べ終わったから、残りはそっち
でお願いね」
小さな鬼は親友に渡す物だけ渡すと、その場からそそくさと逃げる様に離脱し、渡された彼女は「押し付けられた」とすぐに察知した。
勇儀「萃香ぁー…」
さと「ごめんなさい。私のペットが大量に購入して
しまったばかりに、勇儀さんにもご迷惑をお
掛けしてしまって…。
私もちゃんと言い聞かせるべきでした」
「玉こんにゃくの件はペットを説得出来なかった自分のせいだ」と責任を感じる覚り妖怪に、長身の四天王は「誰も責めてはいない」という意味で
勇儀「いいってば」
と苦笑いと共に言葉を掛けた。そこに
??「ん?それこっちにも回って来たの?」
彼女が手にしたそれを覗き込みながら、女神が声を掛けた。すると彼女は「ちょうどいい」とでも思ったのか、その女神に対して
勇儀「よかったら食べます?」
冷めきったそれを献上しようとした。
??「あなた何を考えているのですか!?
ヘカーティア様にそんな物を差し上げようと
するなんて、無礼千万ですよ!」
??「あたいもそれは流石にないと思うなぁ…」
変なTシャツを着て
??「実は私、もうそれ食べているんだよねぇ…」
意外な事実を聞かされ、キョトンとする閻魔と死神。そんな彼女達に女神は勇儀の手からそれを取ると、
??「はい、一個ずつ食べる」
閻魔と死神、そしてまだ食べていない者達に配り始めた。
さと「いけないいけない。私も食べておりませんで
した…。うん、冷めていても美味しい。
あの味だ」
??「甘い物ばかり食べていたので、いい口直しで
す。気分転換ですね」
??「あたいはアツアツの方が良かったなぁ」
??「美味し〜♪」
勇儀「んー?これは蕎麦屋の出汁かな?」
さと「あ、はい。蕎麦屋さんのご主人のお店です」
冷たくなった玉こんにゃくに舌鼓をうつ女子達。それぞれが味の感想を残す中、ふと大切な事を思い出す長身の四天王。
勇儀「そうだ!ヘカーティア様、今まで一人でどち
らに行かれていたんですか!?
急に居なくならないでくださいよ!」
ヘカ「だって退屈なんだもーん。お祭りだよ?
楽しみたいじゃん。それに一人じゃないよ。
ちゃんと付人がいたんだから」
そう言い訳をする彼女の視線の先には、呆然と佇む少年の姿が。
映姫「あの鬼の子供が付人ですか?」
??「正確にはもう一人居たんだけど、
どっか行ったみたいだね」
勇儀「そういえば…。さっきまでは居たと思うんで
すけど…」
この場から姿を消した少年の保護者はそう呟くと、
勇儀「お燐達。ちょっといいか?」
彼の行方を知っていると思われる2人を呼び寄せた。
カズ「なに?」
勇儀「
お燐「薬を取りにお家に戻りましたニャ」
勇儀「薬?」
カズ「家の母ちゃんがあげたヤツだよ。
いつも
お燐「鬼助さんが取って来いって命令したんです
ニャ」
勇儀「そうか。それにしては遅いな」
カズ「あいつの事だから寄り道してるんじゃない?
お祭りだし」
手を頭の後ろで組み、淡々と答える少年の予想に、未だに戻らない少年の保護者は「あり得る」と、口元をヒクつかせていた。
ヘカ「もしそうだとしても怒っちゃダメだからね。
まだまだお子様なんだから。取りに行って
くれただけでも良しとしないと」
そこに女神からのアドバイス。
注意する事だけが教育ではない、時には犯した失態に目を瞑り、良いところだけを褒める事も必要だと保護者へ言葉を送った。
勇儀「はい、そうします」
お燐「あれ?玉こんにゃくがもう…」
勇儀を指導する女神の持つ皿を見て驚く猫娘。何を隠そう、あんなに持て余していた玉こんにゃくは、出会った者達のおかげでその残りは
お燐「一個だけニャ」
なのである。ようやく呪縛から解放され、ため息を零す猫娘。
そんな彼女だが、同時に違和感も覚えてもいた。その違和感を確かめるため、彼女は指を降りながらこれまでにそれを食した者達を数え始めた。
お燐「ヤマメさん、ヘカーティア様、大鬼君、
カズキ君…」
ヘカ「ピースにもあげたよ」
その様子を見ていた女神は「忘れられては困る」と猫娘に助言をした。
お燐「あ、そうでしたニャ」
その言葉に慌てて数え直す猫娘。だが、
お燐「一個消えてるニャ…」
のである。異常な出来事に指を折り曲げながら、最後にもう一度ゆっくりと確実に数える。
お燐「(ヤマメさん、
ヘカーティア様、
大鬼君、
カズキ君、
ピースさん、
パルスィさん、
キスメさん、
萃香さん、
閻魔様、
その部下さん、
さとり様、
勇儀さん、
私…)」
猫娘の記憶ではこの13名。残りは2個になる筈だった。
お燐「やっぱりおかしいニャ!」
さと「どうしたの?」
お燐「あ、さとり様。玉こんにゃくが一個
ヘカ「最初から一個足りないんじゃないの?」
映姫「それか誰かが2個食べたのではないですか?
勇儀「気にする事じゃないだろ?
それよりこの一個誰が食べるんだ?
他にコレ食べてないヤツいないかー?」
長身の四天王の呼びかけに、黙って首を振る一同。しかしその中にただ一人だけ、首も振らず無反応な者がいた。そして猫娘だけはその者の事を冷ややかな視線でじっと見つめていた。
お燐「お空、食べ
なかなか名乗り出ない彼女に痺れを切らし、とうとうその者の名を呼んだ。
お燐「ちょうどお空の食べ残しが残ったニャ」
さと「そういえば食べてなかったわね」
??「お空ちゃんが買ったのに?」
??「責任逃れ…、妬ましい…」
??「フッフッフッ…。やってくれる」
??「お空まだ食べてなかったんだ〜」
鬼助「自分で買ったなら余計にだな」
萃香「私だって協力したんだからね」
勇儀「それじゃあ食べないといかんな」
??「一番食べなきゃダメな人が食べてないって
どうなのさ?」
??「女神様も協力したよ。お忘れなく」
??「あたいは気にしてないから別にいいけど…」
映姫「ここにいる者達は皆食べているのです。
最後の一個はあなた自身が片付けて下さい。
責任転嫁は感心しません」
事の元凶に集まる、残った玉こんにゃくの様に冷めきった視線。しかし、残念ながら彼女は空気を読む事を知らない。
お空「うにゅ?でもうつほはそれいらないよ」
『食えっ!』
--元凶実食中--
映姫「それでは、私達は棟梁達の下へ向かいます。
近況報告もあるでしょうし。小町、お願い
しますよ」
小町「はーい、四季様」
「もうここには用はないだろう」と町の主導者達が集まる場へと向かおうとする閻魔達。
ヘカ「じゃあ私は…」
そのタイミングに合わせ、自分の部下の店へと戻ろうとする地獄の女神だったが、
勇儀「あ、それならヘカーティア様も一緒に連れて
行ってくれ!」
「そうはさせない」とそれを阻止しようとする者が現れた。そう、変Tは彼女達にとってお尋ね者同然。ようやく見つけてこの機を逃すかと慌てて頼んだ彼女だったが、
映姫「
頼んだ相手に眉をピクピクと動かしながらその部分を指摘され、
勇儀「…下さい」
映姫「私は言葉と礼儀がなっていない者は好きでは
ありません。はっきり言って嫌いです!
先程からあなた色々と失礼ですよ!」
挙げ句の果てには、きっぱりと彼女への好意を黒と答えられた。
勇儀「いやははは…」
映姫「笑って誤魔化したって…。まあいいです。
ここは百歩譲ってあなたの依頼に答えましょ
う。ヘカーティア様も一緒にお連れします」
勇儀「ありがとうございます。助かります」
ヘカ「四季ちゃ〜ん。私できるならそこには戻りた
くないんだけどなぁ〜…」
映姫「と、申されておりますが?」
わがままな女神の意見に「どうするつもりだ?」と視線を送る閻魔。勇儀としては戻って欲しいところだが彼女は女神。強く言える筈もなく「どうしたものか」と頭を抱えていると、
カズ「もう充分でしょ?それにもう暫くしたら、
最後のイベントの時間だし」
意外な者からの助け舟。しかしその表情と口調はぶっきらぼうで愛想すら無い。
映姫「ちょっとあなた!子供とは言え、礼儀を
なさい!このお方は女神様なのですよ!?
無礼千万です!」
故に、当然叱られる。だが、
ヘカ「はぁー…、しょうがない。
お子様に言われちゃったら敵いません」
彼女は両手を上げ降参のポーズを取った。
カズ「と、申されておりますが?」
自分を注意した者に向かって「してやったり」と、ドヤドヤする悪戯少年。更に周囲からはクスクスと笑い声が湧き上がり、閻魔の顔を赤く染め上げた。
映姫「〜〜〜っ!よくも私に恥を…。
初めてです!宣戦布告と判断します!
あなた名前は!?」
少年を指差して怒りを
??「ぉ-ぃ…」
遠くから声が。他の者達には聞こえていないかったが、この少年の耳には確かにそれは届いていた。
カズ「ぁ…、大鬼だ」
映姫「そう…、大鬼。覚えましたからね!
『えっ?』
映姫「いつか覚悟なさいよ、小町!」
小町「あ、はい。じゃあヘカーティア様もあたいに
掴まって下さい」
ヘカ「えーっと…。後で誤解解いておくね」
大変な勘違いをしてしまった閻魔に焦り出す一同。そんな彼女達に、女神は苦笑いで頬を掻きながら「任せて」と合図を送った。
鬼助「小町ちゃん、約束守れそうに無くてごめん」
小町「いいや、あたいは充分楽しめたよ。
良い物も見せて貰えたし」
鬼助「小町ちゃん…」
小町「もしまた会う事ができたら、
その時にもう一度誘っておくれよ」
眩しい顔で微笑む彼女は、本物の女神よりも女神そのものだった。彼にようやく訪れた出会いは
鬼助「ああ、約束するよ」
小さな花を咲かせ始めていた。
旧地獄へとやって来た客人達は、それぞれの思いと言葉を残し、あっと言う間に彼等の視界から姿を消した。そして地元の者達だけがその場に残り、そこに役目を終えた少年が帰って来た。
大鬼「キスケ、薬持って来た!」
だが、
大鬼「ん?みんなどうしたの?」
周囲の者達の少年に向けられた視線は哀れみに満ちていた。
ヤマ「どうしよう…」
パル「タイミングがもう妬ましい…」
キス「フッフッフッ…。ドンマイ」
鬼助「えらいことになっちまったな…」
萃香「あれはウソにカウントされるの?」
勇儀「いやー…、それはないと思うぞ。多分…」
お空「えっと、あっちが大鬼君だったから…。
お薬取りに行ったのがカズキ君?
でもさっきは…、あれれ〜?」
さと「お空、後で話すから今は黙ってて」
お燐「だニャ」
大鬼「んー?」
様子のおかしい一同に首を傾け、頭上に大きな「?」マークを浮かべる少年。
カズ「大鬼、先に謝っておく。わりぃ」
そこに追い打ちをかける様に、喧嘩相手からの突然の謝罪。少年の頭は更に混乱した。
大鬼「え?何で?」
勇儀「何でもないよ。きっとヘカーティア様が
どうにかしてくれるさ」
大鬼「は?」
勇儀「それより、鬼助の為に薬を取りに行ってくれ
てありがとな。偉いぞ」
大鬼「あ、うん…」
勇儀「随分と遅かったけど、どうかしたのか?」
大鬼「えっと…、そ、そそそれは…」
保護者からの質問に目を右へ左へと泳がせ始め、視線を合わせようとしない少年。その様子から一同はもう覚った。
カズ「どっかの店に寄ってたんだろ?」
と。
大鬼「めんご」
--ちょうどその頃--
??「〜♪」
笑顔で町中をフラフラと自由気ままに歩く少女が、ある店を目指していた。
??「さっきのアレ美味しかったな〜♪
また買いに行こ〜っと♪
お姉ちゃん達喜ぶかな〜♪」
地霊殿組の呪縛はまだ続く。
次回【三年後:鬼の祭_拾弐】