東方迷子伝   作:GA王

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三年後:鬼の祭_拾弐

  『うおおおおおーっ!』

 

湧き上がる大声援。時間はいっぱい。

 

??「見合って、見合ってー…」

 

父さん…、萃香の親父さん…。

 

??「はっけよーい…」

 

心置きなく全力の限りをぶつけておくれよ。

 

??「のこった!」

 

 

--試合前--

 

 

◆ ◇ ◇

 

 

??「ヘカーティア様、四季様、こちらへどうぞ」

 

丁寧な姿勢で物凄く偉い客人達を案内するこの町の長。

 

ヘカ「へぇー、いいねここ。観やすーい。

   四季ちゃんもおいでよ」

 

彼女がいるその場所は彼女の為に設置されたVIP席。他の観客席と比べて高い位置に存在し、見下ろしながら試合を観戦出来る。誰もが(うらや)む席だ。

 

映姫「いえ、私はここで結構です。

   お気遣いありがとうございます」

 

だが折角の女神からの誘いを断る閻魔。今彼女がいる位置からでも試合は観戦しやすく、土俵を正面にして視界を遮る物は何も無い。ただそこはこの町を統治する者達と同じ席。彼女のような地位の者であれば、そこは不釣り合い。

 

ヘカ「そう言わないでさぁ。もう一人分作って

   もらったんだし、一緒に見ようよ」

映姫「で、ですが…」

 

尚も困ったような表情で(かたく)なに断り続ける閻魔に、女神は違和感を覚えたが、直ぐにその理由に気が付いた。

 

ヘカ「はは〜ん、もしかして四季ちゃん………。

   高い所苦手?」

??「あちゃー、四季様バレちゃいましたね」

 

女神に上司の弱点を見抜かれるも、嬉しそうに笑う死神。そんな彼女に上司は「何が可笑しい」と視線を送ると、彼女は咄嗟に視線を天井へと移し、口笛を吹き始めた。

 

小町「~♪」

ヘカ「大丈夫だよ、そんなに高くないから。

   おいでよ」

 

ここまで女神様に言われてしまっては、閻魔様とはいえもう逃げられない。彼女は意を決して…とその前に。

 

映姫「手を…」

ヘカ「ん?なに?」

映姫「手を握っていて下さいますか?」

 

怯える子犬の様に目を潤ませて尋ねる彼女に、地獄の女神は

 

 

キュン♡

 

 

とした。

 

ヘカ「いいよいいよ〜、ずっと握っていてあげる。

   なんなら抱きついて来てもいいよ。

   寧ろそっちがいいかなぁ〜」

映姫「絶対絶対ですよ!?」

 

女神はtake outを考えていた。

 

 

◇ ◆ ◇

 

 

 熱気。全身から立ち上る湯気は闘志と同意。汗を掻いて息も荒々しいが、これはベストコンディションの証。彼は来たるその時に向け、体を温めていた。そして最後に瞳を閉じ、親友が言っていた言葉を思い返す。

 

??「伊吹…。あいつ…」

??「じぃじーっ!」

 

そこに愛すべき孫(仮)の声が。目を開けると孫(仮)と共に娘とその友人達が集まって来ていた。皆彼と一緒に食事を楽しんだ者達であり、自然とその時の事が思い起こされる。

 

親方「応援しに来てくれたのか。ありがとうな。

   一緒に飯を食ったあの日から今日まで、

   あっという間だったな。

   祭当番に手伝い、ご苦労だった」

ヤマ「私達がした事なんて些細(ささい)な事ですよ」

パル「そうですよ、お義父様」

勇儀「おい、何ドサクサに紛れて放ってんだ?」

鬼助「親方様からのありがたいお言葉!

   オイラは猛烈に感動しました!」

大鬼「じぃじ、まだお祭り終わりじゃないよ」

親方「がっははは!」

 

彼は笑った。それは上っ面の物ではなく、心の底から。

 彼は今日という日を迎える為、日々鍛錬に励んだ。それは日を追う毎に激しさを増し、表情も硬く険しいものになっていた。それがつい先程までの事。

 

勇儀「やっと笑ったか」

大鬼「じぃじずっと怖い顔してんだもん」

親方「すまんすまん。気が張っていたんだな。

   お前さん達のお陰で緊張が解れたわい」

ヤマ「親方様は笑っている時の方が素敵ですよ」

鬼助「親方様!よっ、男前!半端ないです!」

親方「おっ?そうか?いやいや照れるなぁ」

 

蜘蛛姫と鬼助のヨイショに頭を掻きながら、本気で照れる彼。そこに「今ならいける!」と目を輝かす者が

 

パル「私もそう思います。お義父様!」

 

調子に乗った。

 

勇儀「パルスィ、それ以上言ったら…。

   分かってるだろうな?」

 

拳をバキバキと鳴らし、つけあがる者を見下ろすように睨みつける『無能の四天王』。彼女の目は………、本気だった。

 

親方「がっははは!お前さん達は本当に面白い!」

鬼助「ヤバイありがとうございます!」

 

勢いよく深々と頭を下げる鬼助に、流石の彼も違和感を覚え、

 

親方「鬼助どうしちまったんだ?ちと暑苦しくない

   か?それにありゃなんだ?」

 

娘の弟分の腰から伸びる物を指差し、実の娘にこっそりと尋ねた。懸念していた事を聞かれ、冷や汗を流しながら焦り出す娘。

 怪我を負った彼女の弟分は、少年が持って来た薬のお陰で瞬く間に回復した。とは言え、折れた肋骨が薬でそう簡単に治るとは、その場にいた誰もがにわかに信じ難いと思っていた。

 更に服用した彼の様子が奇妙で、回復をアピールするために突然バック転を始めたり、会話に「ヤバイ」「猛烈」「半端ない」の言葉が現れ出したのだ。そして終いには「もっと熱くなれよ!」と、冷めた視線を向ける周りの者達まで巻き込み始める始末。言わば極度の興奮状態「最高にハイってやつ」だった。

 だが放っておけば今度は彼が騒ぎを起こしかねない。そこでとった苦肉の策。その名も『犬の散歩だよーん』。彼は今、蜘蛛姫に自慢の糸に繋がれている。

 

勇儀「ちょっとね…、ある物を飲ませたら元気が

   出すぎちゃってさ…。あれは念の為だよ。

   念の為」

 

「ウソは言っていない」と心の中で何度も呟く勇儀。

 

親方「ん〜?まあそういう事なら、

   深くは聞かねぇけど…」

 

娘の説明に納得し切れず、首を傾げる彼だったが、彼女の発する視線に「これ以上聞くのは野暮」と判断し、その話題はもう終わらせて次の話題へと移した。

 

親方「勇儀ちゃん。公平な審判を頼むよ」

勇儀「ああ、もちろんそのつもりさ。

   萃香とも約束してある」

親方「そうか」

 

彼は一言そう呟くと、真剣な表情で語り出した。

 

 

◇ ◇ ◆

 

 

??「親父…、今の話、本当なの?」

 

彼の愛娘は悲しみに満ちた表情をした。

 

??「そ、そうか私を驚かそうとウソを…」

 

笑いながら話す娘を、彼は懐かしむ様にただ静かに見つめていた。

 彼が娘と話すのは実に久しぶりの事だった。久しぶりとは言え人間の時間にすれば、それはとても気の遠くなるような時間。時々彼の下へ帰って来る事もあったが、「ただいま」「おう」と2人が面と向かって、声を発するのはコレだけ。

 そんな2人の久しぶりの会話は、以外にも彼から切り出していた。

 

 

--更に少し前--

 

 

 彼は適度の汗を流しながら腕組みをし、目を閉じて意識を集中させていた。彼もまた親方様同様来たるその時に向け、それは仕上げの段階。そこに、

 

??「いまいい?」

 

久しぶりに聞いた声。だが決して忘れもしないその声に、彼は反応した。

 閉じていた瞳を開ければ、遠い記憶の頃と然程変わらぬ愛娘がそこにいた。

 

親父「おう」

 

ここまでの言葉のキャッチボールはいつもの事。だがその先は、もう今となっては彼女達のワールドレコードに値する。故に2人は互いに暫く沈黙した。

 

親父「なあ萃香、元気していたか?」

 

記録はこの時塗り替えられた。

 

萃香「う、うん…」

親父「ちゃんと飯食ってるか?」

萃香「うん…」

 

新記録は続く。しかしそれは会話と呼ぶには程遠く、2択の質疑応答。それでも2人を包んでいた冷たく、固い雰囲気は徐々に溶け始め、

 

親父「男はできたか?」

 

彼はこの機に冒険に出た。

 

萃香「うん……………………………………、は?」

 

娘、流れでYESと答えるも、質問事項を脳内でリピートさせ目を点にした。

 

親父「へぇー、そうなのか。お前にもついに…」

 

顎を撫でながら、世にも珍しい物を見る目で納得する彼。実の娘にも関わらず、酷い仕打ちである。

 

萃香「ちょちょちょちょっとタンマ!え?なに?

   急に何を聞いて来てるの!?男っ!?

   そんなの…」

親父「なんだ?やっぱりいないのか?まだ色恋沙汰

   が無いとは…。父として安心していいのか、

   悲しんでいいのか…」

 

更には娘の否定的な反応にガックリと肩を落とし、本人に向かって愚痴まで零す始末。これまでこの手の話をしていなかっただけに、反動が大きかったようだ。

 

萃香「う、うるさいなぁ!そんなの私にだって…」

 

怒りを露わにしたかと思えば視線を外し、熱っぽい顔でゴニョゴニョと呟く娘の様子に、彼は気が付いた。

 

親父「そうか…。好きなヤツはいるんだな」

 

そっと置かれた爆弾はカウントを待つ事無く

 

 

ボンッ!

 

 

爆発し、娘の頭を噴火させた。

 

萃香「はわわわわわ」

 

最上級にテンパリ出す娘。彼女の脳内は正に火山の内側の様にグツグツと煮えたぎり、その熱は流れ出すマグマの様に赤く、情熱的な色となって彼女の顔を染め上げた。

 

親父「お母さんはその事知っているのか?

   どんなヤツなんだ?鬼なんだろ?

   知っているヤツかな?」

 

これでもかと浴びせられる質問の連打に、彼女は生まれて初めて最大級の悩みを抱えていた。なぜなら彼女の種族は鬼。鬼なのである。つまり、ウソがつけないのだ。冷静な彼女であれば、話をはぐらかす事でこの場を逃げられただろう。

 しかし彼女の頭の中は、好意を抱くその者の事でいっぱいだった。

 

萃香「お母さんは…」

 

その結果、正直に答え出していた。

 

  『ちょっと待ったー!』

 

だがそこに「それ以上いけない」と割り込んで来る者達が。

 

??「言わせませんよ!」

??「親公認にしよう(ニャ)んてずるいニャ!」

萃香「そそそそんなつもりは無いよ」

??「『紹介するまで待ってて』ってあなたが

   言うから、あそこの岩陰でずっと待って

   いたんですよ!?」

??「それ(ニャ)のに抜け駆けずるいニャ!」

 

血相を変えて娘に駆け寄って来た者達に一瞬思考が停止する彼。その原因の大半は突然現れた事によるものだが、その中の一人の姿には彼も見覚えがあり、娘と関わりがあるという事実が意外だった。

 

親父「あんた…、地霊殿の主人さんだろ?確か…」

さと「あ、失礼しました。申し遅れました。

   地霊殿の主人で古明地さとりと申します。

   それで彼女は私の家族の…」

お燐「火焔猫燐ですニャ」

 

丁寧に自己紹介とお辞儀をする旧地獄の新参者達。そしてその後方からゆっくりと遅れてやって来たのは、

 

カズ「まいどでぇーす」

 

無愛想極まりない肉屋の息子。

 

親父「なんでぇ、カズキも来たのか。

   お母ちゃんと一緒じゃないのか?」

カズ「母ちゃん今出店やってる。でもおっちゃんの

   試合は見に来るよ。母ちゃんが、

   『負けたら承知しないよ』だってさ」

親父「だっははは、こいつは手厳しい。

   相手が誰か分かって言ってるのかよ」

カズ「『でも悔いのないように』だってさ」

親父「はっ、アイツ…。また余計な事を…」

 

親しげに話す彼と少年。それはまるで古くからの知り合いであるかの様に。そんな彼らの事情を知らぬ者が堪らず尋ねた。

 

さと「あのー…、カズキ君とはどういった…。

   お知り合いなのですか?」

親父「知り合いって言うか」

 

彼女の質問に彼はそこで言葉を区切り、表情を変える事無くさも当たり前の様に

 

親父「甥っ子だ」

 

と答え、彼女達の思考を停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  『えーっ!?』




次回【三年後:鬼の祭_拾参】
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