お燐「じゃ、じゃあ萃香さんとカズキ君って…」
『
『はーっ!?』
さと「つまりお母ちゃんさんって…」
萃香「私の叔母さん、親父の妹さん」
『
驚愕の事実に叫び続ける事しか出来ない2人。そんな彼女達に彼の娘は眉間に皺を寄せ、首を傾げながら
萃香「そんなに驚く?」
平然と返し、
さと「いやいやいやいや、そんなの一度も聞いた事
ありませんでしたし、意外過ぎて…」
お燐「勇儀さんと大鬼君は知っているのかニャ?」
萃香「そりゃまあ…」
カズ「わりと有名だよ」
甥っ子は頭の後ろで手を組むお馴染みの姿勢で「知らない方がおかしい」とでも言わんばかりの太々しい態度を取った。そして彼もそれに釣られる様に甥っ子と同じポーズを取ると、
親父「古明地さん達はここに移り住んでまだ数年、
知らない事も多いだろうから仕方ないさ。
ここ地底世界には不思議と秘密が多過ぎる」
そうぼやきながら思い起こす様に天井を見上げた。
萃香「そうそう、さとり達が知っている事なんて
氷山の一角程度の事だよ」
と話す彼の娘だが、彼女もまたいつの間にか自然と両手を後頭部へ。そんな彼女達を眺めながら新参者の2人は思った。「血筋は争えない」と。
さと「因みにその秘密って何ですか?」
何気ない質問。誰から見ても話の流れ的に自然、タイミングは申し分ない。そして彼女は誰にも覚られぬ様、言葉と共に能力を発動した。
親父「それは言えないな」
彼はそう答えたが内に秘めた答えは文字となり、彼女の第三の瞳によってしかりと映し出されていた。
知ってしまった彼女。驚きを隠す事が出来ず、思わず態度に出てしまう。目を大きく開いてしまったのだ。それを彼の娘は見逃していなかった。
萃香「つまり
お馴染みのポーズのまま冷たい視線で答え、「私は気付いているぞ」と合図を送った。
新参者ではあるが地底妖怪達の代表を担う地霊殿の主人。彼女は何れ知る事になる、知らねばならなくなる事を、この時早くも知ってしまった。封印された妖怪と幽霊、巨大な船の事を。そして、地底世界よりも更に深い闇に覆われた世界に通じる場所があるという事を。
親父「すまないな。でもここに住んでいたら、
いつかは気付くだろうさ」
さと「あ、はい…。申し訳ありません。野暮な事を
伺ってしまって…」
親父「いや、気にしなくていい。それより萃香に
こんな可愛いらしい2人のお嬢様の友達が
いるなんて驚いたよ」
微笑みながら発した分かりやすいベタベタな社交辞令。それは彼女達も理解し、
お燐「きゃっ♡そん
もったい
さと「ふふ、ありがとうございます。
お上手ですね」
社交辞令で返した。だが彼の一言はこの場にいない者への陰口とも捉えられた。
萃香「親父〜、それ勇儀に聞かれてたら怒られる
よ〜」
親父「だっははは、そうだな。星熊の娘もお嬢様
だったな。そう言えばアイツ最近じゃ
しっかりと保護者しているみたいだな。
小僧の名前なんて言ったけか?」
彼のこの質問に
『大鬼(ニャ)!』
我先にと声を張って答える3人の乙女。だがタイミングは同時。
親父「そうそう大鬼な。確か歳はカズキと同じ
くらいだろ?」
カズ「うん、まあ…。そんなもん」
親父「噂は聞いているぞ。せっかく歳が近いんだ
から…」
次の言葉は「仲良くしろよ」。誰もがそれを予想していた。
少年にとっては耳にタコができる程言われ続け、耳を塞ぎたくなる言葉。そこまで話した彼自身でさえも、もちろんそのつもりだった。だが一瞬考えた後、満面の笑みで
親父「やり合う時はとことんやり合え」
とんでもない事を言い放った。
これまで周囲の者から言われていた事とは真逆の教えに、少年は耳を疑った。それは彼の娘も同じく「何を言っているんだ?」と眉間に皺を寄せ、冷たい視線を向けられる始末。
だが彼の教えはまだ続きがある。
親父「それでその後、
彼は思い起こしていた。彼と親友との幼い頃の若かりし日の事を。
何が原因か、いつからか、どうしてそうなったのか、今となってはもう思い出せない。
消えゆく記憶の中、覚えているのは顔を突き合わせれば、殴り合いが始まっていたという事実と、いつの間にか恒例の様になっていたその後に交わす盃だけ。
そしていつしか殴り合いは消え、残ったのは酒とそれを交わす親友。
彼はその生き様に満足していた。「男はそんな生き物で構わない」とさえ思っていた。
親父「(喧嘩ばかりしていた自分がカズキに
『仲良くしろ』なんて、図々しいよな。
『どの口が言うか』ってな)」
彼が甥に初めて解いた教えは、
カズ「おっちゃん…」
しかりと少年の胸に届いた
カズ「オレまだ酒飲めないけど」
のかは分からない。だが少なくとも、
さと「そういう事じゃないと思うけど…」
お燐「アタイもちょっと理解が…」
萃香「その前に喧嘩するのを止めなよ」
3人の女性達には全く理解されていない様だ。
親父「やっぱダメか〜…、試合前に早くもおっさん
自信喪失…」
名言を迷言認定され、おっさん、項垂れて
そんな彼に見かね、話題を変えようと
萃香「ごめん、そんなつもり無かった。
ところでさ、何で親方様に勝負を持ちかけた
の?」
とうとう聞いてしまった。彼女にとって、この町に住む皆にとって、ここ最近の最大の謎。その答えに彼女は踏み込んだ。
親父「…」
だが彼は娘の質問に目を逸らし、口を閉ざしてしまった。
さと「!?」
と同時に覚り妖怪は目を見開いて両手で口を覆い、
さと「お燐、ちょっとこっちに来なさい!」
ペットの袖を引くと足早にその場から去っていった。
取り残された親子。ただ俯いて険しい表情を浮かべる彼に、娘は嫌な雰囲気を感じていた。
親父「あのな」
重い空気の中彼はゆっくりと語り出した。
親父「能力が弱くなってきているんだ」
萃香「え?」
親父「以前より遥かに大きくなれる時間が
短くなってる」
萃香「…」
親父「それに能力を使った後の反動に
体が悲鳴を上げる始末さ」
萃香「親父…、今の話、本当なの?」
彼女は父の言葉が理解出来なかった。いや、理解したくなかった。
萃香「そ、そうか私を驚かそうとウソを…」
しかし彼女を見つめる彼の瞳は真っ直ぐ。真剣そのものだった。
萃香「…なわけないよね。鬼だもんね…」
この世界の者達は皆能力を持つ。中には己の能力に気づけず、生涯を終える者もいるが、少なからず何らかの能力の種を持つ。そして一度花開いた能力は、生命力を糧として主と共に生涯を共にする。
彼が語った能力の弱体化。それはつまり枯れ行く花と同じ。
親父「だからよ、あいつ…星熊とは今のうちに
やり合いたくてさ。思いっきり戦えるのは、
これが最後になるだろうからさ」
込み上げるそれらは大粒の涙となって溢れ出した。
カズ「なに?おっちゃん死ぬの?」
The・KY。お馴染みのポーズを保ったまま、何食わぬ顔で言い放つ覚り妖怪の忘れ物。 遠目に様子を伺っていた彼女達も「やってしまった」と後悔していた。
親父「だっははは、勝手に殺すなよ。
能力が弱くなってきているだけで、そう直ぐ
には死なないさ。歳を取ったからだろ?
萃香も泣く程の事じゃないだろ?」
萃香「だって、親父が変なこと言うから…。
その気になっちゃって…」
カズ「流れ的にそういう雰囲気だったけど」
身内にも関わらず、死ぬ事の方を期待され
親父「おっさん、悲しい…」
また萎れる。そこへ
ボォーン…
間も無く試合開始を告げるドラの音が鳴り響き、
親父「もうそろそろか。最後にもう少しだけ
動いておくか」
彼はそう言いながら腰を上げ、首にかけていたタオルを放った。
萃香「親父、負けないでよ」
カズ「ガンバレー」
親父「おう」
両手を腰に置き、自信満々に身内の応援に答える彼。
萃香「あっ、忘れるところだった。
コレ必要でしょ?返して貰ってきたよ」
娘が彼に差し出したのは、親友に貸していた彼の、彼等の宝。
親父「おっと、いけないいけない。
おっさんも忘れるとこだった。
一応名目上はコイツ等の奪い合いだしな」
彼は娘から受け取ると、それを鑑定でもする様にじっくりと見つめ、
親父「正直どうでもいいんだけどな」
誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
萃香「それじゃあ私達はもう行くから。
カズ、行くよ」
カズ「はーい。じゃあね、おっちゃん」
再び一人になった彼。
久しぶりに会話した愛娘、初めて会った娘の友人、生意気になった甥。
彼女達の思いがけない訪問に張り詰めていた糸は緩み、心身ともに最高の仕上がりとなった。燃え盛る闘志はそのまま。だが表情には笑み。そしてその背には娘達の後押し。
親父「うおおおーーーっ!!」
雄叫びは全盛期。
次回【三年後:鬼の祭_拾肆】