◇ ◆ ◇
勇儀「そんなのダメに決まってるだろ!」
親方「えー…、この流れでそりゃねぇだろ?」
酷く残念そうな表情を浮かべる父さん。
父さんから聞かされた話には心を打たれた。それは認める。萃香の親父さんの事は残念に思うし、出来る事なら2人には後悔する事なく戦って欲しい。けど、だからと言って父さんのワガママを聞くわけにはいかない。
親方「なぁ、頼むよ」
手を顔の前で合わせ、懸命に頼んで来る。その内「一生のお願い」とか言い出しそうだ。例えそうだとしても、
勇儀「ダメなものはダメ!場外無し、殴る、蹴る、
噛み付き、金的有りでどちらかが気絶するか
降参を認めるまでやり合うなんて、それは
ただの喧嘩だろ!そ・れ・に!そんな事を
したら観客まで巻き込むし、何より土俵の
意味が無いだろ!」
親方「そりゃ、そうだけど…」
言葉が尻すぼみになり、表情も
ヤマ「親方様、流石にそれはちょっと無理があるか
と…」
パル「突然のルール変更…。妬ましい…」
ヤマメとパルスィの援護射撃。これはありがたい。私1人では平行線のままだっただろう。だが2人の味方ができた。今父さんは1人。これで諦めてくれるだろう。
父さんの熱い心意気は理解している。できる事なら叶えてあげたい。でも、誰がどう考えてもその意見は
鬼助「親方様の心意気マジ分かります!熱いです!
ハンパないです!固い友情で結ばれた男同士
の最後の決戦、オイラ猛烈に感動です!さす
が親方!そこにシビれる!あこがれるゥ!」
いやがった…。
親方「それみろ!鬼助は分かってくれているぞ!」
勇儀「あ゛ーっ!話がややこしくなる!ヤマメ!
鬼助の口を
ヤマ「ガッテン承知の助ッ!」
私の指示に間髪入れず弟分の口に巻きつく糸の束。反応が早かったところから察するに、ヤマメもプッツンときて準備していたのだろう。
鬼助「ん゛ーっ!ん゛ーっ!!」
勇儀「パルスィ、ついでに妬み成分吸い取れ」
パル「何で妬むの?」
勇儀「なんかあるだろ?騒がしくて妬ましいとか、
面倒くさくて妬ましいとか」
パル「あのさ………。見境無さ過ぎでしょ!人を妬
みの掃除機みたいに言わないでくれる!?」
勇儀「上手いこと言うな。よっ、座布団一枚」
パル「その考えが妬ましい…」
いかん、矛先がこっちに向いた。
勇儀「私じゃなくてあっちを妬め!」
パル「もう…、じゃあ暑苦しくて妬ましいっていう
事で…」
ため息を吐きながら零す愚痴に「何が違うんだ?」「やっぱり何でもいけるんじゃないのか?」と疑ってしまうが………考えるだけ無駄だ。
親方「なんでぇ、せっかく味方ができたのに…」
勇儀「アレは味方にカウントしません!それと
ルールの変更はなし!これは譲らない!
それで正々堂々、同じ土俵で勝負しな!」
親方「相撲だけにか?」
イラッ!
勇儀「アッレェー?オッカシイナー。ソラミミ
カナァー?」
親方「いでででっ!悪かった悪かった、頭割れる!
勇儀ちゃん、ワシまだ試合前!」
パル「勇儀のグリグリ…。洒落にならない…」ゾクッ
大鬼「うっわ…。痛そう…」
ヤマ「大鬼君もパルスィも気をつけなよー…」
つまらない事を
勇儀「負けんなよ」
ドサクサに
ボォーン…
そして時を告げる音。
親方「そろそろ…か」
父さんはそう呟くと、頭から私の手を優しく添える様に下ろし、
ヤマ「親方様頑張ってください!」
パル「おとう…親方様、御武運を…」
鬼助「ん゛ん゛ん゛ーっ!!」
大鬼「カッコイイところ見せてね」
親方「まかせろっ!」
「心配無用」とでも言う様に、力こぶを作った自慢の腕を見せつけて笑顔で答えてくれた。
勇儀「じゃあ、お前さん達行くぞ」
大切な家族達からの声援を受け、彼の仕上がりもまた100%…いや、120%のものとなった。
??「うおおおーーーっ!!」
そこへ闘志みなぎる者の雄叫びが。
いつからか始まり、気付かぬ間に消えてしまった親友との因縁。その戦歴は最早遠い過去の事。全てを無かった事にし、今日この場で決着を付けるべく、今日この場で輝かしい自分達の時代の終わりを告げるべく、彼はあの頃と同じ様に吠える。
親方「うおおおーーーっ!!」
--小僧移動中--
勇儀「じゃあ私はここで」
父さんと別れ、大鬼を妖怪の2人に託す。私と萃香にはまだ役目が残っているから、一緒に観戦する事は出来ない。
ヤマ「うん、分かった。キスメとお空ちゃんが席を
取ってくれているから、みんなで観てるよ」
パル「大鬼はまかせろっ!」
先程の父さんと同じポーズで答える妬み姫。どうやらそれが気に入ったらしい。そこに
??「うおおおーーーっ!!」
反対側から聞こえて来た男の決意。それには威圧感はなく、己を奮い立たせるものだ。
??「うおおおーーーっ!!」
そして連鎖反応の様に近くから聞こえて来た男の意志。こちらは威圧感に溢れ、闘争心
大鬼「すごい迫力」
ヤマ「親方様もやる気満々だね」
パル「御義父様…」ボソッ
試合開始まではあと
勇儀「大鬼、ちゃんとヤマメ達の言う事聞けよ?」
大鬼「分かってるよそれくらい。子供扱いしないで
よ」
パル「まだまだ子供のクセに…。妬ましい」
あんな事を言って
鬼助「ん゛ーっ!」
妬み成分を吸ってもらったが、まだまだ元気な弟分。
勇儀「あとそれも頼むな」
ヤマ「えっと…、観覧席ってペット持ち込み平気?」
そこへ弟分から伸びる紐を見せて苦笑いを浮かべる蜘蛛姫。そうきたか。
勇儀「それ言い出したらお燐とお空ダメだろ?」
パル「2人は
問題ない」
勇儀「リードを
なんならもう少し削ってもいいぞ」
パル「玉こんにゃくが地味に効いてお腹いっぱい。
消費しないと」
勇儀「どうすればいい?」
パル「勇儀に壁ドンしてもらったり、
勇儀に顎クイしてもらったり、
勇儀に額にチューしてもらったり…」
勇儀「うわぁ甘酸っぱーい。憧れるー、分かるー。
って分かるか!」
パル「せめて壁ドンだけでも…」
勇儀「よし、なら
地底の壁は直ぐそこだ」
そう答えながら腕を回して軽く準備運動を始める。こっちは何時でもいける。
パル「勇儀…、アレ凄い痛かったんだからね。
暫く動けなかったんだからね!」
ヤマ「パルスィから聞いた聞いた。投げ飛ばしたら
壁に届いちゃったんでしょ?」
パル「ただ届いただけじゃない。埋まった」
勇儀「悪かったって…」
ヤマ「でもみんなで食事した時は届かなかったんで
しょ?力抑えたの?」
確かにあの時私は3回ヤツを投げ飛ばした。特に最初の一回の後、ヤツは元気に戻って来ていた。という事はあの時は壁には…。
でもこれだけは断言出来る。
勇儀「コイツを投げる時は手加減なんてしない!」
私は胸を張ってヤマメの質問に「No!」と答えた。
パル「妬ましい…」
ヤマ「じゃあ何でその時だけ?」
勇儀「調子良かったんだろ?投げ飛ばす前に…」
そういえばその時、大鬼にパワーチャージをお願いしていた。それでその後元気が出て…。いや、力がみなぎる様なそんな感覚だった。
そこまで考えがまとまった時、ある疑惑が脳裏を横切り、慌てる様に大鬼へ視線を向けていた。
大鬼「ん?なに?」
まだ少し幼い無邪気な表情で私の視線に答える人間の小僧。
まさか…ね。私の仮説は自分自信でも信じ難い物。でもそう考えるのが自然なのかもしれない。それがコイツの能力であると。
パル「思い出したぁー!大鬼、勇儀のホッペに
チューしてたぁーっ!」
突然私の『秘密のパワーチャージ』を大声で叫び出す橋姫。
勇儀「パパパパパッルゥスゥィーッ!」
大鬼「パルパル言うなよ!」
ヤマ「えーっ!?いがーい。大鬼君と勇儀
可愛いーっ!」
パル「
大量の妖気を吹き出し、
パル「パルパルパルパルパルパルパルパル…」
ブツブツと唱えながら戦闘モードへと入る嫉妬姫。事態は滅茶苦茶。「この場を静めるにはやはりアレか」と覚悟を決めて歩を進めた。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!
そこへ鳴り始めた太鼓の音。これはもう間もなくで選手入場の時間…。
勇儀「ヤッバ!急がないと、後宜しくな!」
ヤマ「ちょっと勇儀!どうすんのよこれ…」
鬼助「ん゛ーっ!」
パル「パルパルパルパルパル」
大鬼「ヤマメー…、もう行こ…」
次回【三年後:鬼の祭_拾伍】