東方迷子伝   作:GA王

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三年後:鬼の祭_拾伍

◆    ◇    ◇

 

 

??「ふぅ〜〜〜…」

 

ガタガタと震えて隣の者にしがみ付く少女。見晴らし最高の有難い席ではあるが、彼女にしてみれば迷惑極まりない物。これから最後の大イベントが開催されるというのにも関わらず、目を強く瞑り、観戦なんて余裕は一切無い。自分の事で精一杯なのだ。

 

??「四季ちゃん大丈夫だよ。私がついてるから」

 

そして腕に抱きついて離れようとしない彼女の頭を「よしよし」と撫でて(なだ)める変なTシャツヤロー。「流石は女神様」と思える対応ではあるが、

 

ヘカ「(もう四季ちゃん可愛い過ぎ!こんなに小さ

    くなっちゃって。『ぎゅー』ってして、

    『わしゃわしゃ』ってして、『はむはむ』

    ってしたい!)」

 

その腹の内は邪心で満ち(あふ)れていた。怯える彼女が強くしがみ付けばしがみ付く程、本心が陰からヒョッコリと顔を出し、その度に女神は(うず)くその体を必死の思いで(こら)えていた。だが限界も近い様で、先程から彼女の頭を撫でる手がワキワキと動き出してもいる。

 

??「四季様、大丈夫でしょうか?」

 

その様子を下から見守るこの町の長と

 

??「た、多分…。ヘカーティア様もいますし」

 

死神。下からとは言うものの、彼女達と女神達とはそれ程高さは変わらない。ちょうど彼女達の頭の位置が女神達の席、その程度の高さだ。会話も楽に出来る。

 

棟梁「あの、四季様。もし宜しければ…」

 

「別の席を用意しましょうか?」と町の長は「怯える彼女の味方になってあげよう」とそう尋ねようとした。だが、この状況を楽しんでいる女神から「余計な事をするな」と発せられた視線に

 

棟梁「何か飲み物をお持ちしましょうか?」

 

さらりと笑顔で閻魔を裏切った。

 

小町「四季様…。ごめんなさい…」

 

ついに彼女の部下までも変Tの味方になり、彼女の味方になる者は…そして、誰もいなくなった。とそこに、

 

??「Master!」

 

店の品を両脇に抱えたカラフルな地獄の妖精が登場。

 

ヘカ「ピース!お店はもう終わり?」

ピー「Yeah! This Events で Festival も Finale

   ね。My Shopはもう Close ね」

小町「随分と派手な服装だね。妖精かい?」

棟梁「ヘカーティア様、こちらの方は?」

ヘカ「私の部下。妖精のクラウンピースだよ」

ピー「Nice to meet you. I'm Clownpiece ね」

 

屈託のない笑顔でこの町の長と閻魔の部下に挨拶を交わす地獄の妖精。祭りの時期は毎回旧地獄へ訪れ、遊びに来ていた彼女。面白そうだと始めた彼女の屋台は、今回が初の出店。売り上げはそこそこに、「珍しい物が出た」と町の者の間で密かに噂になっていた。

 

棟梁「もしかしてあなたが今回初出店の?」

ピー「Yeah! Sumo 観戦に Popcorn はいかが?

   Butter、Sugar、Honey、Curry。

   どれも Yummy Yummy ね」

 

またしても地底の者達に馴染みの無い言葉で語り出す地獄の妖精。故に当然…。

 

棟梁「A honey please」

ピー「Oh!Wonderful!」

ヘカ「棟梁さんすご〜い。どこで覚えたの?」

棟梁「ちょっと外の世界の事に興味を持ちまして、

   少しだけですが覚えました」

 

意外や意外。地獄の妖精の言葉に顔色一つ変えずに、同様の言葉で返事をする町の長。そしてその経緯を聞かされた女神は直ぐに察した。

 

ヘカ「それって大鬼君が…」

映姫「大鬼!?」

 

会話の途中にも関わらず、横からその固有名詞に間髪入れずに反応した閻魔。高所恐怖症は何処へやら。その内にグツグツと煮えたぎる思いに、

 

映姫「あの砂利…。無礼千万!絶対地獄!

   不倶戴天(ふぐたいてん)怨気満腹(えんきまんぷく)!絶対に許せない!」

ヘカ「いたたたた…。四季ちゃん痛いって。

   それに熱い!焼けちゃう」

 

丁寧な言葉は全速力で逃亡し、子供を砂利扱い。その上、心の支えになっていた女神の腕を「これでもか!」と言う程までに強く握り、メラメラと炎のオーラを(まと)っていた。

 尋常ではない彼女の変貌ぶりに、事情を知らぬ者は目を皿にして後退り。だが彼女はそれを放っておく事は出来なかった。なぜなら…。

 

棟梁「家の者が何かご無礼を?」

ヘカ「えっと、その事なんだけど…。四季ちゃん、

   実はね…」

映姫「あなたのところの子供だったのですか!?

   よりにもよって!?何なんですかあの目上の

   者に対する口の聞き方、態度!

   どれも最低最悪ですよ!」

ヘカ「ちょっと落ち着いて…」

棟梁「申し訳ありません!私共の教育が行き届いて

   ないばかりに…」

ヘカ「いや…、そうじゃなくてね…」

映姫「この私に恥を()かせたのですよ!

   こんなの前代未聞です!」

ヘカ「おーい、話を聞いてー…」

棟梁「大変失礼致しました!私から言って聞かせま

   す。今後この様な事にならぬ様、教育方針を

   見直します。どうか今回は穏便に…」

ヘカ「もう…、違うって言ってるのにぃ…」

 

女神の声はヒートしている2人の耳に届く事は無かった。彼女達の話も終わってしまい、今から「それは違う」と説明をしようにも、閻魔の発する張り詰めた雰囲気に飲まれて言い出せない。彼女はとうとう痛恨の誤解を解く事が出来ず、

 

ヘカ「(大鬼君、めんご…)」

 

諦める事にした。

 

 

ボォーン…

 

 

そこへ時を知らせる合図が会場全域に響き渡った。その音共に(ざわ)めき始める観客達。そして続々と集まって来る町の代表達。

 

??「カッカッカ、そろそろ始まるのー。

   棟梁、ワシの席は何処かね?」

 

杖をついてヨロヨロとやって来た最年長者。医者でもあるそんな彼でも種族は鬼。

 

棟梁「お好きな席へどうぞ」

医者「血が騒ぐのー。この日が来るのをずっと首を

   長くして待っていたのじゃ。どれ、最前列を

   頂くとするかの」

 

戦い事は大好物の様だ。

 

棟梁「ええ、どうぞ。そう言えば古明地さんを

   見掛けておりませんか?」

医者「さっきカズキと萃香と一緒におったぞ。

   伊吹の方に行っておるんじゃろ。その内に

   来るじゃろうて」

 

地霊殿の主人もこの町を統治する者達の一人。お偉いさん達が集まるこの席で一緒に観戦する事になっていた。そして彼女には…。

 

ヘカ「棟梁さん、地霊殿の主人さんならさっき会っ

   たよ。口調は丁寧だし、物腰柔らかで性格的

   にも能力的にも問題ないんじゃない?

   合格だと思うよ。ね?四季ちゃん?」

映姫「私はあまり会話をしておりませんので

   なんとも…」

ヘカ「あっれー?答えがあやふやだなぁ〜。

   白なの?黒なの?」

映姫「白です!あの方は問題無いと思います」

医者「カッカッカ、お2人のお墨付きともなれば、

   これはもう決まりじゃな」

棟梁「やはり私の目に狂いはありませんでしたね」

 

そう語る町の長には重圧から解放された様な笑みが零れた。

 

??「うおおおーーーっ!!」

 

そこに響き渡る覚悟を決めた者の雄叫びは、地底世界の第一幕の終わりを告げ、

 

??「うおおおーーーっ!!」

 

それに答える様に上がる力強い雄叫びは、地底世界の第二幕の始まりを告げている様。

 遠い遥か昔、この国が今の様な呼ばれ方をされるよりもずっと前から、彼等鬼達は存在していた。その伝説は様々あるものの、文明が発達した今も尚、文献や絵本等で多くの人々に語り継がれている。

 長きに渡る鬼の歴史の中、持ち前の力と能力から国内各地に出没しては忌み嫌われ、時には(した)われ、そして時には大暴れをする2人の若者がいた。数ある人間の間で語られる鬼の伝説はその多くが彼等2人による物であると同時に、彼等はその時代に生きる者達の代表的な鬼となっていた。

 彼等がまだ地上で人間と共に生き、活躍していた頃、この国はこう呼ばれていた。

 『大和』と。

 

 

◇    ◇    ◇

 

 

 徐々に熱を帯びる観客席。

 

 

ボォーン…

 

 

そこへ時を知らせるドラの音。そしてその後に木霊(こだま)する2人の男の雄叫び。それらは観客達を更に湧き上がらせ、会場は今や熱気で(あふ)れていた。

 皆が試合展開に胸を踊らせ、勝利を収める者を予想し、隣の者と熱く議論を交わす中、

「我関せず」と己の世界に没頭する者が…。

 

??「ほふほふ」

??「…」

??「うにゅ〜♡ほいひ〜♡」

??「…」

 

好物のゆで卵を幸せいっぱいに頬張る地獄鴉である。そして、

 

お空「ありがとう。えっと…」

??「キスメ」

 

どんよりと浮かない表情を浮かべる桶姫。

 

お空「そうそうキスメーちゃん。これ何処にあった

   の?」

キス「フッフッフッ…。会場を出た直ぐそこ。

   そしてお空よ…」

お空「うにゅ?何で私の名前知ってるの?」

キス「フッフッフッ…」

 

不気味な笑い。だがこれは彼女のいつもの事。ところが平常運転という訳ではなかった。笑いながら愛車の端を強く握りしめてフルフルと小刻みに揺れている。

 そしてそれはついに、決壊した。

 

キス「これでこの会話7回目!しかも一字一句

   異なる事無く!いい加減覚えて!

   違う話をさせて!」

 

そう彼女は今、閉鎖されたエンドレスな空間から抜け出せずにいるのだ。

 

お空「めんごめんご。でもあと一個食べさせてね。

   ほふほふ、うにゅ〜♡ほいひ〜♡」

キス「…」

お空「ありがとう。えっと…」

キス「キスメ!!」

 

8回目へ突入。桶姫が「課題はまだ終わってない」と叫ぼうとした時、

 

??「キスメー!どこー?」

 

救いの手が差し伸べられた。桶姫は待望のその声に即座に反応し、上空へと浮き上がり声の主を見つけると、

 

キス「ヤマメー!こっちこっち!」

 

大きく手を振りながら存在をアピールした。

 一方、桶姫を見つけた蜘蛛姫。反対側からやって来た猫娘と合流していた。そして一緒にいた少年に黒猫を持たせて小脇に抱えると、天井へ向けて手から糸を出し、スルスルッと上がっていった。そして反動を付けると、ターザンの様に桶姫目掛けて移動した。

 

ヤマ「よっと、お待たせ。席取りありがとう」

キス「フッフッフッ…。待ち焦がれたぞ…」

ヤマ「あとの2人連れて来るね」

キス「フッフッフッ…。よろしく」

 

ようやく抜け出せた無限ループに平常運転へと切り替わった桶姫。その笑みは絶好調である。

 

お空「お燐お帰りー」

お燐「お空、ちゃんと大人しくしてたかニャ?」

 

黒猫の姿からお姉さんへと姿を変えた猫娘。共にいた桶姫に迷惑を掛けていないか心配していたが、早くも彼女が大事そうに抱えている()()に気付いた。と同時に違和感。と言うよりも疑惑。なぜなら彼女は…。

 

お燐「お空それどうしたニャ?お金は?」

 

そう、お金を持っていない。その忘れっぽい性格故、彼女には主人から金銭的な物を持たせてもらえないのだ。

 

お空「うにゅ?買ってもらったんだよ。えっと…」

キス「キ・ス・メ!!」

お空「ちゃんに」

お燐「キスメさんありがとうございますニャ!

   お金払いますニャ!お空ダメじゃ(ニャ)い!

   さとり様からもお金の貸し借りはダメだって

   言われてるニャ!」

お空「だってぇー…」

キス「フッフッフッ…。よいよい。でも

   卵代、

   手間賃、

   精神的苦痛、

   ループ回数7.5回。

   コレは高く付くぞ…」

お燐「えーっ!お空!(ニャに)があったのか

   ちゃんと説明するニャ!」

 

桶姫の請求に慌て出す猫娘に

 

キス「フッフッフッ…。冗談。卵代だけで良い」

 

口ではそう言う桶姫だったが、心では親指と人差し指で円を描き「誠意を見せろ」と黒い物を抱えていた。

 

 

 

 




次回【三年後:鬼の祭_拾陸】

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