東方迷子伝   作:GA王

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三年後:鬼の祭_拾漆

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 見合う2人の戦士。彼等の希望により変えられたルールは、相撲と呼ぶには程遠く、(おこ)がましいもの。金的と噛み付きを除き、全ての打撃・投げ・絞め技を認め、最後まで土俵に存在していた者が勝者となるシンプルなもの。

 そう、それはただの決闘。土俵の上でのみ許されたガチンコ試合である。

 鳴り止まぬ声援は腰を落として見合う戦士達の気迫に活力を与え、火花を散らさせた。

 

??「見合って、見合ってー…」

 

土俵外の主審からの掛け声に両者が片手を土俵に付き、前傾姿勢で身構える。

 それと同時に全身から発する凄味は100%前方へと向けられた。

 

勇儀「はっけよーい…」

 

観客が固唾を飲んで見守る中、主審の合図と共に、握り締めたもう片方の手をゆっくり下ろしていき…

 

勇儀「のこった!」

 

タイミングは同時。地に拳を付けた瞬間両者は互いにぶつかり合う

 

  『っ!?』

 

かと思われた。

 己の力と体重、全ベクトルを前方へと向け、ぶちかましを仕掛けに来る親友を彼はその身に回転を加えながら、横から流れる様に(かわ)して背後へと回ったのだ。

 それは彼が闘いを決意した時から何度も脳内でシミュレーションを繰り返し、親友のイメージ像を相手に反復練習を行って来た事。そしてその先も…。

 彼は作戦通りに動き出した。自身の倍近くはある親友の背後から(まわ)しを(つか)み、

 

親父「だああああっ!!」

 

気合がこもった声を放つと、体に変化を起こさせた。親友よりも頼りなく見えていた腕が、足が、そして背中が徐々にその面積を増やしていき、やがてその大きさは………親友を超えていた。

 

 

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 一方、チャンピオン。開始と同時に目の前から姿を消した親友に度肝を抜かれていた。そして間髪入れず襲って来た背後の違和感。「廻しを取られた」と気付いた頃にはもう手遅れ。踏ん張ろうにも徐々に両足が上へと引き上げられ、力が込められない。しっかりと土俵を踏んでいた彼の両足は、(かかと)()がされ、土踏まずを剥がされ、指の付け根を剥がされ、ついに指先までもが土俵から剥がされてしまった。

 

 

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 「やっぱり」試合を見守りながら私はそう思った。

 親友から親父さんの能力を聞いた時、真っ先にこの光景が思い浮かんだ。巨大化の能力を駆使して父さんの動きを封じた後、土俵に付かせるか場外へ。私が思いついたくらいだから、父さんも当然それには気付いていただろう。

 けど後ろに回ってコレを仕掛けるなんて、予想の遥か上をいっている。しかもこれだと父さんの反撃を受け辛くなる。

 今のルールだと場外へ出す事だけが決まり手。もしそうでなかったら、この時点で父さんは絶体絶命。このまま前にでも倒れられでもしたら防ぎようがない。でもこの状況。これでも充分過ぎる程の危機。親友の親父さんの大きさはもう………父さんの倍は優に超えている。

 

 

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親方「ぐぬぬぬ…」

 

背後に手を回し、必死の思いで廻しに掛かる手を引き剥がそうとするチャンピオン。背後で見えぬが、触れている場所は恐らく親友の前腕。だがその大きさは、既に彼の掌では持て余すサイズまでに達していた。更に、しっかりと掴まれている上、この状態では力自慢の彼でも歯が立たない。

 

親父「あっけねぇな」

 

そこへ頭上から聞こえて来た声。それは悲しみを含んだため息と共に(つぶや)かれてた。

 

親父「このまま場外に運べば終わりだ。

   場外じゃないと勝ちにならない…か。

   この場で直ぐに終わりにならないだけ

   皆に感謝かな?」

 

勝ちを確信した親友の声。それは「もっと楽しみたかった」とも聞こえる寂し気なものだった。

 

親方「あ゛〜っ?」

 

その言葉に彼は背後を(にら)みつけた後、

 

親方「そうだな、新しいルールを認めてくれた皆に

   感謝だな」

 

と呟き、

 

親方「があああっ!」

 

一気に闘魂注入。己の力全てを解放した。

 幹の様に太い自慢の上腕は瞬く間に大木の様に膨れ上がり、握力を司る前腕は通う血管を浮き上がらせ、ゴツゴツとした漢らしい拳は、指一本一本の筋肉が膨張した事によりその密度を上げ、完成したその兵器は高々と天へと振り上げられた。

 

 

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 放たれた一撃は肉を抉る様に深く突き刺さり、その鈍い音は会場に響き渡った。

 それと同時に襲って来る強烈な痺れと痛み。いくら巨大化したとしても痛覚は同じ。脳へ伝わって来る危険を知らせる信号を遮断する事は出来ない。

 

親父「ぐぁあああっ」

 

彼は堪らず悲鳴を上げた。力を失いダラリと落ちる右手。彼は不覚にも片手を離してしまった。

 

 

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 九死に一生。今彼を掴んでいるのは一点のみ。千載一遇のこのチャンスを彼は見逃さなかった。体制を崩しながらも体を右へ(ひね)った後、腰から反時計回りの回転を加え、水平に弧を描いた拳は見事友人へと命中した。

 

親父「うぉふっ」

 

嗚咽(おえつ)にも似た(うめ)き声を上げ、膝から崩れる友人。彼が放った拳は友人の腹部にその跡を残していた。

 

 

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親父「(()()()拳にも関わらず、恐ろしい破壊力。

   しかも足が地から離れている状態でだ。

   もし踏み込んでアレを放たれていたら…)」

 

腹部をズキズキと襲う痛みの中、彼は瞬時にその思いを巡らせた。そして「それだけは何としても避けねばならない」とも。が、その間にも親友は更なる追撃の姿勢を取っていた。

 その事に彼が気付いた時、全身から一気に血の気が引いた。彼が大勢を崩した事により、親友の足が再び地に付いていたのだ。

 一番危惧していた光景が今、彼の瞳に映し出されていた。

 

 

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 拳を握りしめ、苦しい表情で土俵を見つめる彼女。

 

??「まずい…」

 

父親の絶体絶命のピンチ。大きな声を出して応援したいが、自分の立場上それは許されない。私情を挟む事無く、目の前で繰り広げられる決闘を公平な目で見守らなければならない。

 地に足を付けた父親の対戦相手は右の拳に力を込め、全速力の投球フォーム。大きく振りかぶり、その一球を背後に向かって………投げた。

 

親方「うおっ!?」

 

が、振り上げた足が地に着く前に大胆にバランスを崩し、滑って転ぶ様にして宙を舞った。

 

萃香「しっ!」

 

その光景に彼女は拳を強く握り締め、小さくガッツポーズ。心の中では万歳三唱。ここぞという場面でのおっちょこちょい。

 

萃香「(さすが親方様)」

 

(ささや)く彼女の心の声。

 観客達も彼女同様「運悪く足を滑らせた」と見ていた。だが実はそうではなかった。

 これは彼女の父親の策。親方の廻しを掴んだもう片方の手、その左手にタイミングを合わせて体重を掛けたのだ。策とは言え、事前に考えていた物ではない。あのピンチの中瞬時に思い付き、そのタイミングに合わせたのだ。(ひらめ)きが遅ければ、もしくはタイミングが合わなければ、彼は力自慢の全力のストレートを(もろ)に受けて今頃は…。

 

 

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 格闘技で実力者同士が対戦する際、「目が離せない」や「瞬きも許されない」などと比喩される。今の少年はまさにそれだった。

 生まれて初めて目にする喧嘩ではない漢の決闘に、視線は釘付けになり、開いた口は塞がらずにいた。そして繰り広げられる早い攻防に、時折呼吸をする事すらも忘れていた。見ているだけだと言うのに額から汗を流し、息が切れ切れになる程集中している中、ようやく発した言葉が

 

大鬼「何やってんだか…」

 

である。

 

ヤマ「あっちゃー…」

パル「お義父様、大丈夫かな?」

お空「痛そー…」

お燐「いい音したニャ」

鬼助「ヒーッ!想像しただけで痛いッ!

   お前らには絶対分からないだろっ!?」

キス「フッフッフ…。ゴッツンコ」

 

 

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ゴッチーンッ!!

 

 

一瞬鳴り物の音かと錯覚した。

 強烈な一撃をお見舞いしようとした父さんが足を滑らせ、頭から落下。そしてその先にあったのが親友の親父さんの後頭部。そこから先は言わずもがな。

 ただ先に着いたのが頭ではない。私達一族の急所、角だ。それもお互いに。握られただけでも頭に響くと言うのに、全体重が掛かってのコレは…。

 観客席へチラリと視線を移せば、頭を押さえて悶絶する一族達。「いや、お前さん達はダメージないだろ?」と思ってはいけない。想像しただけで………ゾッとする。

 

勇儀「2人とも大丈夫か?」

 

声にならない声を上げて悶絶する父さんと親父さん。(たま)らず声を掛けてみるが、返事がない。ただの………いや、一応生きてる。

 

萃香「勇儀〜、仕切り直し!」

 

親友からのナイスアドバイス。いや、この場合誰でもそう思うか…。

 判断が少し遅くなったが、

 

勇儀「一旦仕切り直す!(しばら)く待ってくれ!」

 

会場全域に響く大声で休戦を宣言した。

 でも試合が始まっているというのに、これって『仕切り直し』って言うのか?『やり直し』が正解じゃないか?

 と思う中、会場中から「ドッ」と(こぼ)れる大きなため息音。(わず)かな時間とは言え、2人の闘いは凄かった。それも息つく暇もない程に。始まって1分もしていない中で行われた攻防戦、2人とも最初から全力。能力も使って来ていた。

 ただ気になるのが親友の親父さんだ。

 新ルール。アレが認められていなければ、彼の勝ちだった。それに最初の動き、アレは事前に予定していたものだ。しかも相当練習を積んでいたはず…。それなのに何故親父さんはわざわざあのルールを…。

 

親方「いたたた…」

親父「くぅ〜っ…」

 

2人が頭を押さえながら立ち上がった。先程まで父さんの倍以上あった親父さんは、もうすっかり元の大きさに戻っている。能力無しでは背丈はちょうど逆転といったところだろうか。

 

勇儀「2人共大丈夫か?」

 

再び確認。さっきは無反応だったが、今回は2人共無言ではあるが、掌をこちらに向けて「大丈夫だ、問題ない」と合図を送ってくれた。それなら…。

 

勇儀「両者元の位置へ!」

 

両腕を左右に広げ、2人に最初の位置に戻る様に指示。その声に両者は頭を左右に振りながら、土俵に描かれた白線へと歩き出した。

 

勇儀「ん?」

 

2人が去った場所に転がる一欠片の異物。それは小石程度の大きさ。試合前に(ほうき)で土俵を掃除して小石も無い状態にしておいたはず。

 

勇儀「まったく…。まだ残っているじゃないか」

 

小姑の様にぼやきながら、「試合には影響ないだろう」と放置する事にした。この時既にメッセージが送られていたとは知らずに。

 

 

 

 

 




これまで自信が無くて避けてきた戦闘シーン。
でもこの話を書くのに避けては通れないシーン。
初めて挑戦してみて、痛感しました。

「もの凄い難しい」

と…。
今その先も書いていますが、正直不安しか無いです…。
この回と次回。特に次回はガッツリ戦闘シーンです。
Good or Badだけでもいいです。
読んで下さっている皆様、
素直なご感想をお聞きかせください。



次回【三年後:鬼の祭_拾捌】
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