食べなくちゃ。   作:百合の民。

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食べなくちゃ。

 わたしの生まれた場所は、すごくイキモノで混んでいて、あつかった。誰かの吐いた生暖かい息を吸い込んで、あついいきをはく。それを繰り返してるだけなのに、すごくお腹が空く。

 食べなくちゃ。

 食べなくちゃ。って、体がいう。その声はすごくうるさくて、無視するのは難しい。生きるために食べなくちゃいけないんだよ、とコルト隊長はいった。

 でも生きてると、お腹すく。だから、死にたい。

 わたしはアリのごはんが嫌いだったから、お腹がへってでてきたごはんを喜べない。

 

「日々の糧に、感謝するんだよ。仲間に感謝するんだよ」

 

 ペギーさまはわたしにごはんをくれるとき必ず言った。わたしは体も小さくて弱いし、にんげん以下の能力しかなくて、いつもごはんをわけてもらってた。ごはん。にんげんの肉。なんだかとっても嫌だった。手とか…指が五本、ちゃんとあるのはめずらしかったけど、指がある手とかがだんごのなかからゴロって出てきたとき、わたしは泣いてしまった。

 ヂートゥさまは「なきむしは殺しちゃおーぜ」とわたしを脅したし、師団長たちはみんなわたしを厄介者だと思ってた。それでもわたしが殺されなかったのはコアラのひとが、こっそりわたしのヘマをもみ消してくれたからだ。コアラのひとは、名前を教えてくれなかったしお礼をいったら銃で殴られた。

 だいたい、死んじゃいたいなと思う日ばっかりだった。

 そしたらある日突然、巣から出ていくように言われた。

 ペギーさまは死んじゃってって、コルト隊長はいなくて、コアラの人は殴るから、わたしは食べられないうちに逃げた。

 王が産まれた、とか。はんたーという人達がわたしの同属を皆殺しにしたとかそういうことをは全部てれびで知った。

 

 わたしは、あの後ずっと走った。おなかは減ってたけど、腐ってもきめらあんととして、気高く歩き続けることができた。驚きだが、わたしは一週間何も食べなくてもへいきだった。一ヶ月後、どうしようもない空腹に負けて、道でねこをころして食べた。

 悲しくて悲しくて、食べなくちゃって声に負けた自分が悔しくて、泣いていた。

 場所は、すごく寂れたはたごだった。(はたごという言葉は、あとから知った)

 私がないてるのをきいて、ぼんやりした人がそばによってきた。

 はじめてあうにくだんごじゃないにんげんだった。わたしは怖くて蹲った。わたしはきめらあんとだから、人を殺して食べてしまうかもしれない。わたしはねこをころすのすら辛かった。人なんて殺したら、もう死んでしまうと思った。

 

「へんなの〜〜」

 

 あかるくてふわふわした女の子の声だった。わたしは、顔を上げて驚いた。だいたい人は、私の顔を見て悲鳴を上げて逃げるのに。

 

「うわ〜ふふふ。変わってるね。おてて、みせて」

 

 わたしは、こわかった。私の手は鱗みたいで、鱗はすごく尖ってて、触ったらすぐにひふを傷つけてしまう。ましてやこんなクモの糸よりせんさいな女のコが触ったらどうなってしまうんだろう?

 わたしがのーというまえに、女の子はわたしの手を触って、愛おしそうになでた。わたしはすごくびっくりして、息を止めた。

 

 女の子は、ネオンと名乗った。とてもけだるそうな目をしていて、髪の毛は迷子みたいに頭の周りを漂っていて、フリルがたくさんの服は重いはずなのに、うもーみたいに風に揺れていた。

 

「うわー、この手、いくらで売ってくれる?」

「いくら?」

「そ。お金。どの地域のでもいいよ」

「お金?」

「お金知らないの?んん?変だぞ」

 

 ネオンは私の着ているボロを遠慮なくはいだ。わたしは真っ裸になってしまって、恥ずかしくなってむねをかくした。まわりの同族はみんな服なんて来てなかったけど、何故かずっと、恥ずかしいなと感じていた。

 

「ふうん?すごい!鱗だけじゃないのね?乳首が8つもある~」

 

 ネオンはわたしのちくびをいっこずつ摘んで引っ張った。変な感じになってきて、しっぽがぐるぐる渦を巻いて、立ってられないくらい恥ずかしくなって、わたしは泣いてしまった。

 

「あーごめん!違うよ?とっても素敵って意味で言ったんだよぅ。もー、泣き虫なのかな?」

 

 泣き止まないわたしをみてネオンは困ってた。でもボロをまた被せてはくれなかった。代わりに自分のきていたすごく肌触りのいいコートをかけてくれた。

 

「ね〜部屋でその体、よく見せてほしーな。ご飯とか、上げるから」

 

 ご飯。その言葉につられて、わたしはネオンについていく。閑散とした街の真ん中の唯一ちゃんとしてそうな屋敷で、げんかんを開けた途端きんぱつの人が怒ってネオンに駆け寄った。

 

「どこへ行ってらしたんですか?このあたりは例のキメラアントが流れ着いててもおかしくないのです。一人の外出は控えてくださいと…」

 

 そこまで言ってから、ネオンはひらめいたようなキラキラした顔をしてわたしをみた。

 

「キメラアント!私忘れてたよぅ!この子、絶対そう!」

 金髪さんはわたしのつま先から頭のてっぺんまでさっと睨み、ネオンのコートを没収してからもう一度わたしをみた。警戒してる。でも、ネオンは庇うようにわたしと金髪さんの前に立った。

「だーめ!これあたしのだもーん!あたしが拾ったんだもん!クラピカはだめ!」

「安全だよ!安全だもん。乳首つまんでも大丈夫だったもん。ね?」

「乳首だと?」

 金髪さんはちょっとだけひいた。そして渋々頷いた。

「では…いちおうどこか武器を隠してないかだけ確認させてください。お嬢様の安全のために。そうしたらもう文句は言いません」

「わかった。はーい」

 ネオンは私を差し出して、金髪さんはくさりで私をすみからすみまで、毛の隙間まで調べてからオーケーを出した。

 

 ネオンは私をベットで横にして、クラピカより念入りに私の体を見てため息を漏らした。

 

「最高の体をしてる。鱗の腕に、八つの乳首。性器の形も、すごく素敵だけど、なんかガワだけだね。面白ーい。レアレアのレアだよ、これ!」

 

 その言葉はわたしに向けてのものじゃなかったけど、わたしのからだがすてき、なんて今まで誰もいってくれなかったから嬉しかった。

 

「耳も、動物のだね。ほんとにキメラなんだ…あ、キメラアントだし、当たり前か」

 

 ネオンの体はちゃんと人間で、すべすべした肌に鱗も毛もなくて、余計な腕も生えてないし、顔だってなんだか見つめてたらどこかに落ちていきそうになるくらいだった。

 

「可愛い。それは可愛いっていうの。私かわいい?」

「かわ、いい」

「スイートポテトちゃん。あなたもかわいい。最高のコレクションだよ」

 ネオンはわたしをコレクションだと思ってたけど、わたしはそれでじゅうぶんだった。わたしはネオンが好き。わたしをきれいって言ってくれる、ネオンだけが好き。どこにでも連れてってくれて、夜になるとベッドでネオンが今日あったことをわたしを撫でながら話す。わたしはネオンのもちもちした足にくっついて、それをきいた。

 あの、むせ返る巣穴にいたときじゃかんがえられないような「幸せ」だった。

 

 ネオンと同じ時間に起きて、ネオンと同じものを食べて、ネオンと同じ場所にいき、ネオンと一緒に寝る。

 

その繰り返し。繰り返して繰り返して、わたしはもう、ネオンが大好きだった。ネオンなしじゃ生きていけないってくらい、ネオンが好き。

 行く。ネオンは全然、わたしをペットくらいにしか思ってないけど、すごく可愛がってくれるだけで幸せだった。

 

だいすき、ネオン

 

ネオンはわたしの体で遊ぶ。わたしもネオンの体で、たまに遊ぶ。寝っ転がって絡まり合って、いろんなところにキスするうちに、わたしはお腹が減ってくる。

 

 

食べなくちゃ

 

食べなくちゃ、と頭の何処かで声がした。

 

ネオン、大好き。そう思うとすぐに食べなくちゃって思う。

 

ネオンの唇がわたしの乳首をつまむとき、食べなくちゃって思う。

ネオンが私の頬の毛を撫でながら、自分が使えなくなってしまった能力について教えてくれるとき、食べなくちゃって思う。

ネオンが、お父さんのことを話しながら私を抱きしめてる時、食べなくちゃって思うようになった。

 

ネオン。大好き。ネオン。ネオン。

 

寂しがり屋のネオン。

ワガママで残酷で、わたしみたいなフリークスが大好きな変な子。

私の大好きなネオン。

 

食べたい。食べなくちゃって、思う。だからわたしは、死んでしまいたい。

 

 

 ネオンがとっても疲れてオークションから帰ってきた日、ネオンの腕に抱かれて、彼女の小ぶりの胸に舌を這わせているときにわたしは告白した。

 

「ねおん、すき」

 

すき。だいすき。あなたを、たべたい。

 

「私もだよ」

「ねおん、わたし、しにたい」

「なんでそんなに悲しいことを言うの?」

「あなたを、たべたいから」

 

ネオンの私の頭を撫でる手が止まった。

 

「キメラアントだから?」

「ちがうの。食べなくちゃって思うの。ネオンのことを思うと、食べなくちゃって、おもってしまうの」

 

ネオンは私から離れると、まっしろなすべすべの胸に、わたしのかみそりのような鱗の手をおいた。

ちょっと撫でればすぐ真っ赤な血が流れるのに。ネオンはわたしの手に自分の手を添えて、ゆっくり自分の乳房にあてがった。

乳房から血がさーっとながれて、わたしはひめいをあげた。

 

「て、あてを…」

「んーん。これくらい、へいきだよ。それよりほら…」

 

ネオンはわたしに乳房を揉ませた。そしてとめどなくあふれる血をもう片手ですくい、わたしの口のなかに塗った。

 

「ふふ…可愛いね。私、可愛いもの大好きよ」

「あ…あ…」

 

わたしのなかで、なにかがおさえられなくなっていく。

たべなくちゃ。たべたい。ネオンを食べたい。

 

「キミは私の体を全部知ってる、私だけのもの。ふふふ。なんだかいけないことをしてるきぶんだね」

 

ネオンを全部食べたい。わたしをきれいといってくれた唇を食べたい。もものようなおっぱいも、柔らかい太ももも、くぼんだおへそも、全部全部食べなくちゃって、思っちゃう。

 

「…立って見せて」

 

ネオンにとって、わたしはコレクションに過ぎない。

 

「ああ…血に欲情した顔もすっごく可愛いよ。ほんとに、いつ標本にするか迷っちゃうよ〜」

 

ネオンの血が、胸から下腹部へと流れ、経血のように股からしたたった。

 

「ねおん、だいすき」

「私も大好き」

 

ネオンの好きとわたしの好きは、絶対に違う。

そう思うと、すごく悲しくて、わたしはまだ泣いちゃった。

 

「まーたないてる。あはは。よく見せて」

 

ネオンの顔が近づいた。わたしはきめらあんとだから、多分この距離ならネオンを食べることができる。でもできなかった。ネオンの唇が離れて、味わいだけが先っぽに残った。

 

「そろそろ、寝よ。明日はヨーク・シンだよ」

「うん…」

 

 

食べなくちゃ。その声はやまない。ネオンを大好きでいる限り、わたしはずっと食べなくちゃってこえに我慢しなきゃいけないのかな。

 

ネオンが好き。ネオンを食べたい。だから、死にたい。

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