食べなくちゃ。   作:百合の民。

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私、すごく不幸。

私、すっごく不幸。

私がそう言うとだいたいの人が顔をしかめるんだよね。でもほんとに不幸だよ。

特に最近は、どん底。

 

私はヨークシンのオークションで天使の自動手記を失った。

その能力は要するにただの占いで、ただの占いのくせにパパの交渉カードの切り札だった。

私がどうしても占うことが出来なくなってから、パパはおかしくなっちゃった。

 

「ネオン様、東ゴルドーのそばへ行くのは危険です。キメラアントという危険な生き物が…」

 

このガミガミうるさいのはクラピカ。私の警護主任なんだけど、最近はパパも彼を頼りにしているせいで態度がでかいの。

クラピカの言うことはほとんど100パー正しいんだけど、正しいからってはいはいそーですかってなれるほど、私は素直じゃない。

 

「でも、ほしいー絶対絶対ほしい!多肢症の、クモみたいな骨!絶対絶対私が持っておくべきだよ!」

 

まだ一応私が雇い主なので、クラピカは最終的に私の言うことを聞いてくれる。でも、いつまでそうかな。

他の護衛はもう私の言葉なんかよりクラピカの命令を聞く。

占いができなくなっただけで、私の価値がなくなっちやったみたい。

なくなったのは自由に使えるお金もそう。

なんか、このまま死んじゃうのかなあって思う。

私のサイコーの人体標本たち。大好きなコレクションたち。この子達に囲まれてると、そのバクゼンとしたキョーフは薄れてく。

 

「へんなの〜!」

 

一番キョーフを忘れさせてくれるのは、寂れたクモみたいな骨を祀る村の旅籠で出会ったキメラアントだ。

 

人間の形をしてるくせに、形だけしか人間じゃなかった。

顔はとってもつぶらで可愛いけど、けむくじゃらで、毛の奥底にいくつも目があった。

乳首は八つもあるし、性器はただ穴が空いているだけ。

片手は顔と同じく毛むくじゃらで、もう片方はカミソリみたいな鱗で覆われていた。すらっと伸びた足は猫みたいな関節がある。

 

一番すごいのは、四対の乳首のあいだにあるおっきな亀裂だった。

 

それを見て、私はもう喉から手が出るほどこの子が欲しくなった。

真っ赤な剥き出しの肉の裂け目。そしてその奥にはおぞましい牙があるわ。きっとそう。この子はまだその口を使ったことが無いんだと思う。

 

かわいいかわいい、生きてるコレクション。

私は基本的に、というか今までずっと死体しか愛でてこなかった。生きててもべつに、困るし。

でもこの子はあんまり喋らないからちょっとくらい生きててもいいかなって思った。

それで、いろいろ飽きちゃったら今度は自分で標本にするの。二回楽しめる。

 

10歳くらいの子どもにしか見えないキメラアント。

この子は今まで、人を食べたのかな?食べてても食べてなくてもどっちでもいいけど、クラピカから聞くキメラアントとは全然違うような気がする。

なんにもしらない、ただの子どもにしか見えない。でもクラピカは口を酸っぱくしいう。

「それは凶暴な生き物です」

どこがよ!って私は心の中でビビリのクラピカを笑う。こんなに弱っちい泣き虫をかわいいって思うのはわかるけど、怖がったりしない。

 

私はキメラアントとか、よくわからない遠い世界のことよりも、クラピカが怖い。

 

 

「ねおん、すき」

 

頭をなででるとき、キメラアントはふと漏らした。私は彼女をもっと抱きしめて、力強く抱きしめて返事した。

キメラアントも、好きとかあるんだ。なんかへんなの。ほんとにこの子は変。

 

 

「私もだよ」

「ねおん、わたし、しにたい」

 

私はすっごく驚いた。死にたい、なんて人間の口からもあんたり聞いたことない。

それに私の言葉にそんな悲しい返事をされるのなんて初めてで、戸惑う。

 

「なんでそんなに悲しいことを言うの?」

「あなたを、たべたいから」

 

私はその時初めて、彼女の腹に大きく入った亀裂を意識する。真っ赤な裂け目。薄くなってる皮膚から見える、真っ赤な血。触るとどくどくと脈打つ唇みたいなあついそれ。

 

食べなくちゃ、って。思う。

 

キメラアントだもんね。こんなに人間の形に近いのにやっぱりキメラアントなんだ。

 

その告白を聞いて、私は彼女のお腹にあるおっきな口に食べられる自分を想像する。

体躯に見合わないおっきなおっきな真っ赤な口。

裂けたら、ダラダラぬめぬめした唾液が光ってる。

そして艶めかしい舌が奥で扇動している。

そしてナイフより太くて鋭い犬歯が私の体を噛み砕く。

私の骨も肉もまぜこぜにした真っ赤な塊が、この子の体の中にすっぽりおさまる。

 

多分そうなったらこの子は泣く。泣いたあときっと死ぬ。死んでくれると思う。

この子には私しかいないから。

 

なんかそう考えると、この子に食べられちゃうのも悪くないかなー。だって、多分パパは私が死んでも泣いてくれないし。

そう思って、泣いてるこの子を上から下までみた。

 

私に見られて、泣いて、お腹の口をひくひくさせてる。

 

へんなの。

ほんとにほんとにへんなの。

 

「ねおん、だいすき」

「私も大好き」

 

それを聞いたキメラアントはまた涙を流した。私の胸から流れる血を口の周りにたくさんつけながら。

 

このこの好きと私の好きは、絶対に違う。

 

そう思うと、なんか楽しくなってきて、うれしくなってきて、私はまた笑う。

 

「まーたないてる。あはは。よく見せて」

 

キメラアントの、人じゃない涙は瓶詰めにして眺めたいくらいキラキラと輝いて見えた。

顔の口にキスをしたあと、私はいつか、この子に食べられちゃうんだろうなって確信した。

 

そうなったらいいな、と思う自分がいた。

 

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