不死の感情・改   作:いのかしら

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「日本も列強各国が導入したことを受けて、陸軍省主導のもと帝国女子戦車道連盟および帝国戦車道教導団が設立される。特に後者は当時優秀な車輌であった89式中戦車や94式軽装甲車を利用し、1936年ベルリンにて行われた戦車道世界大会決勝にて開催国ドイツを破って優勝を飾るなど、戦前戦車道の隆盛を支えた。この時の両チームの試合後の握手は当時では貴重であったカラーフィルムにて記録されていることからも、その注目ぶりが読み取れる。
しかし翌年には日中戦争が勃発。その長期化が明らかになる中、その翌年の国家総動員法により戦車道は事実上停止に追い込まれた」

山鹿涼『日本の学園都市』より


第2章 ④ 箱根を越えて

あの聖グロリアーナ女学院に善戦した、そのことに喜ぶ者は多数いた。しかし一部の者はうかない顔をしていた。

気楽に考えられるならそれはそれで素晴らしいが、生憎私もその一部に含まれている。

私はこの学園の目標を知っている。それを達成する為に必要な実力は、手を抜いたグロリアーナには十分勝てる程度でなくてはならない。だが実際には負けた。

無論これからも練習を積む。だがそれは他もそうだ。ウチだけが格段に向上するわけじゃない。

 

「はぁ……」

 

昼休み、車庫で整備されて鎮座するIV号に手をつきため息をついた。軟式は航空戦が無いため、戦車しかない我々でも目標を達成する可能性は硬式よりかは高い。

しかし私は西住流を破門された者。黒森峰と戦うとなれば、軟式とはいえ私を全力で叩きに来るだろう。それで皆に、そしてこの学園に影響が出たら……私はどうしたら良い?

思索に耽っていたせいか、私はらしくないことに背後からの足音に気がつかなかった。

これが下手な奴なら首を切られていたかもしれないというのに。

 

「みーぽりん!」

 

「わっ!沙織さん、どうしたの?」

 

いきなり両肩を掴まれ、素早く振り返り聞き返す。

 

「昼休みになって教室にも食堂にもいないからここかな、と。華も来てるし、せっかくだからここでご飯食べない?」

 

私も後で食堂で食べる為弁当を持ってきていた。そこで沙織さんの提案を快く受け入れることにした。全員IV号の上に登る。

 

「みぽりん、どうしたのこんなところでため息なんかついて」

 

話をするにしてもこの話はしても良いのだろうか。飯と共にするには少し重い話な気もするが。いや、ここは友である彼女らを信頼するべきだろう。

 

「いや、途中から入った私がみんなの上に立てるのかなっ、て」

 

「でもあの状況からチャーチルとの一騎打ちまで持っていくことが出来たのは誰でもなくみほさんのお力ですわ。負けはしましたけど、あの試合が出来たことに後悔はありません」

 

そう言い華さんはサンドイッチにかぶりつく。なおそれは合計パン1斤はある。でかい。

私の力と言われたが、そうでもない。少なくとも華さんがあの時正面からマチルダIIを隙間から撃破し、そして麻子さんに路地を的確に進める操縦技術を持ち、優花里さんが一定の装填速度を維持し、沙織さんが他車輌と素早く通信してくれなければ、一騎討ちなどには持ち込めなかった。

だから私がここについて未だよく知らない立場であるにもかかわらず、私のみが徒らに持ち上げられるのは喜ばしくないのだ。しかしそれを如何に伝えるか。場合によっては自慢に対する謙遜とも捉えられかねないのだ。既にそうかもしれないが。

するとそこに弁当を持った優花里さんが来た。優花里さんは戦車を見る為1人でもちょくちょく来ているそうだ。

 

「皆さん、いらしていたんですか。何のお話をされていたんですか?」

 

IV号の上に加わり、弁当を開く。

 

「いやー、みぽりんが自信なさそうだから優花りんもなんか言ってあげて」

 

「いや、自信無いっていうかなんていうか……」

 

自信ない、という言葉もあながち間違いじゃないだろう。何より私がかつてのこと故にその立場を受ける自信が無いのだから。

 

「西住殿が頼られているから皆が副隊長に押したんですよ。自分を否定しなくていいんですよ!私は西住殿を素晴らしい指揮官にして無二の仲間であると確信しているであります!」

 

自分を否定しない、それは私が過去にやったことをみんな知らないから言っているんだ。もし私の過去の罪を彼女らが知ってしまったら……それでも彼女は私を友のまま信じてくれるだろうか。

この不安は、伝えられない。如何なる言葉を尽くしても私の伝えたい内容を満たすことは出来ない。

 

「どうしたんだ」

 

いきなり開いたキューポラから麻子さんが顔を出した。つーかどっから出て来てんだい。

「あー、麻子また授業サボったでしょー」

 

「自主的に休養をとっただけだ。」

 

何時もながらひでぇ言い草だ。そんなこと口にはしないけどね。

 

「もう、おばぁに言いつけるよ!」

 

麻子さんの顔が引きつり、目線をそらす。

「……それは困る」

 

「5限からは真面目に出なさいよ」

 

顔色が明らかに変わった。後で麻子さんのお祖母さんのアドレスを沙織さん経由で入手しようか。

 

「……分かった。ところで何の話だ?」

 

 

「みぽりんが副隊長なったけど、自信無いって」

 

「そんなことか」

 

「えっ?」

 

麻子さんのあまりに素っ気ない返事に皆驚く。私もだ。

そんなこと、なのか?

 

「人の上に立つのに必要なのは支える人だけだ。副隊長だからって気負うことはない。困ったことがあったら私達に頼ればいいじゃないか」

 

麻子さんが戦車から身を出して、車体を通じて降りてきた。

 

「でも……私ここに来たばかりですよ?練習内容の指示ならともかく、実際にチームの纏め役である副隊長になるなんて……」

 

「来たばっかなんて関係ないよ!みぽりんの指示なら信頼して試合に臨める、と思ったからみんなが推したんでしょ?」

 

「そうですよみほさん。私達は仲間です。あんこう踊りの恥ずかしさを分かち合ったんですから」

 

「大丈夫だよみぽりん。私たちにできることなら協力するから!そうでしょ?」

 

「勿論であります!私は何があっても西住殿についていくであります。手伝えることがあればお任せください!」

 

「……ありがとう」

 

仲間だ。本当の仲間だ。有能無能関係でも利得関係でもなく、信頼と友情からなるものだ。

彼女たちは頼っていい。難しいことは関係ない。ただこの仲間と一緒にいたい。出来るだけ長く。

 

 

 

逃げた先のものは私を否定するものじゃなかった。

この仲間となら自分の道を見つけられる。

 

 

 

その後いろいろなことがあった。

次の寄港日、私の誕生日に合わせてみんなで大洗の街のアウトレットで買い物した。たまたま会った華さんの家の使用人の新三郎さんの人力車で大洗の町を走った際は、これは試合で工事中の場所に行ってしまった私に地理を覚えてもらおうと沙織さんが提案したのだが、海岸に松並木を目指してたなびく風が心地よく感じられた。

 

あと華さんの実家についての話を少し新三郎さんから聞いたりもした。これはなかなか面倒そうだ。

流派からの破門というものは中々ひっくり返されるものではないことは私が一番良く知っている。そうしなければ破門自体が罰としての意味を失うからだ。

何があれば再び五十鈴流に戻れるのか、それは分からないだろうが、何らかの形で結果を出すしか無いのだろう。彼女らにとっては戦車道は乙女の道なのだ。

私は西住流とか二度とごめんだけどね。

 

アウトレットなり、めんたいパークなり、港周辺での昼飯なり、磯前神社なども巡った。途中の店で少々買い食いをしたが、その中で焼きそばパンにアンチョビが入っていると思われるパンを買った。美味いかどうかはわからないが、焼きそばに塩だから少なくとも合わないことはないだろう、と予想していた。

しかし実はそのパンに乗っている丸いパンがアンパンだった時は流石に閉口した。美味かったけど。

その後大洗の街を縦断して潮騒の湯に移動し、塩っぽい温泉を享受した。

露天風呂から若干外が見えづらかったのは残念だが、気持ちよかったのでよし。

 

練習に関しても集中力が増して、自主練する車輌も増えた。失敗が人の動機になる、参考になる出来事だ。

例えば走行間射撃、停止射撃問わず砲撃の命中精度が全チーム上昇した。停止なら全車輌平均して命中率3/4だ。黒森峰のエース層には劣るが、下位層や補欠となら張り合える。

それ以外にも隊列維持、走行技術、どれも同じ車輌に乗った強豪を相手とするには不足なし。あとは敵車輌の方が優秀でも戦える力を養うのみ。

このままチームの技術力が他校と平行なグラフを描くことを恐れていたが、そうとも言い切れない状況は喜ばしい。

 

質問してくる人も増えた。その分優花里さんを中心としたあんこうチームのメンバーに頼らざるを得ない環境が続いた。

彼女らの無償の手助けには大変助けられたし、それへの感謝も何度も口にしたりして伝えようとしたが、麻子さん以外は友人だから、ただそれだけ述べて正面から受け止められたことはなかった。

そう、本来はこうであるべきだ。私だけが異様に拘っているだけなのだ。

麻子さんはこの拘りに付き合ってくれた。手を取ってありがとう、というと、どういたしましての言葉とともにそれを握り返してくれる。

きっと直ぐに沙織さんの口から出た親族が祖母であることと関係があるのかもしれないが、私にそれを深追いする趣味はない。

 

大洗は戦える、少なくとも強豪相手にガチンコで接戦には持ち込める。そう確信を持っていた。

 

 

11月30日、ヘッツァーに改造された38tを含む9輌の戦車とともに、戦車を載せた連絡船は熱海港に到着。明日の全国軟式戦車道大会開会式の行なわれる自衛隊東富士演習場へ向かった。

温泉街の外れを抜けて十国峠を越え、岩戸山と城山の間をすり抜けると、観光地芦ノ湖が姿をあらわす。船が浮かび青く澄んだ湖の対岸では、ロープウェイが観光客を乗せて盛んに行き来していた。

 

「ねぇみぽりん。大会が終わったらここ来れるのかな?」

 

「確かに箱根の湿性花園は私も一度お邪魔したいです」

 

「道中の御殿場アウトレットでも良いかも〜!」

 

これから曲がりなりにも試合だというのに、彼女らの視線は次の楽しみに向いている。

それもそうか。次の試合会場まで移動しなくてはならないから、ここに残れる期間はそう長くないことはあとで話そう。

そして私も今、試合後を楽しみにしている。戦った者同士による躊躇いのない会話を、私は既に待ち焦がれてしまっていた。

 

「西住ちゃん。気分はどうよ?」

 

「あ、会長さん。正直、自分の中の興奮が抑えられているか心配です」

 

「出来てないね。笑顔だもん」

 

「そう言う会長さんだって干し芋食べるペース早くありません?」

 

「いやー、今日は一段と美味しい感じがしてね。向こうに着くまでに500g一袋食べちゃいそうだよ」

 

「食べ過ぎですって」

 

「本当に食べ過ぎてたら私こんなに小さくないって」

 

確かにそうなのかもしれない。寧ろそればっか食べてたからこの体格なんじゃないか?いや、この方筋力あるからそれはないか。

チーム全体の士気も高い。この高揚がプラスに使えるかは、私次第。

そしてその覚悟は皆の顔に支えられ、私の心の中に既に築かれていた。




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