不死の感情・改   作:いのかしら

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これ善は、その善なる限り、知らるるとともに愛を燃やし、かつその含む善の多きに従いて、愛また大いなるによる。

ダンテ 『神曲』


第4章 ③ 昔話

「対戦車戦だ」

 

「!た、対戦車戦ですか?」

 

カルパッチョは驚きを隠さない。だろうな。私が取る手段としては前例から外れている。

 

「戦力で相手が勝っているならその戦力をいかに少ない戦力で削ぐか、それが重要だ。そうなると成功すれば戦車1輌、失敗しても味方1人ですむこの策が妥当だ。ただでさえ敵のどの車輌の車体を抜けないカルロベローチェを6輌も出さなくてはいけないんだ。他に手はない。まともに戦っても負ける」

 

「でも……その策は危険が付き物です。みんながやってくれるか……この場において叛逆されるのは危険でしょうし……」

 

「私が皆に頭を下げる。そこまで士気も落ちてないようだしな。我々の目的は勝てばそれでいいが、それよりいかに西住みほを地獄におくるか、そこに主眼を置きたい」

 

「その為にみんな戦うでしょうか?直接的な恨みを持つ人間はいないでしょうし……」

 

「西住みほが天に召されれば大洗の命令系統は混乱する。そうさせるのが我々が生き残る唯一の手だ。そう説明する」

 

「なるほど……」

 

「それに必要なものは黒森峰に頼んだ。あと例のものは?」

 

「あれですか?あれなら今夜中にこっちに着くようですよ」

 

「予定より遅れたが、それさえあれば勝ち目はある。西住みほの乗るのはIV号だ。それさえ撃破できれば……」

 

外から金属がぶつかり合う音がする。

 

「姐さん、ぺパロニです」

 

「入れ」

 

「姐さん達、少しナポリタン残りあるんすけどいります?案外みんな食わなくて。特にアンチョビ姐さんとかカルパッチョだけっすよね」

 

2つの鍋が机の上に乗る。生憎これ以上食っては胃に来そうだ。ストレスかね。

 

「いや……いい」

 

「私も……」

 

2人が首を振るとペパロニは鍋をまた持って裏へと引いた。

 

「今日は早く休もう。明日全力を尽くせずに死ぬ訳にはいかない」

 

「分かりました」

 

「あ、そういえばさっき大洗からの使者が戦車置き場に来ていましたよ」

 

何最後に滅茶苦茶重要なことを言ってんだお前ぇ!真っ先に言うべきだろうが!

素早く席から立ち上がり、机に鞭を叩けつける。

 

「本当か!何故それをすぐ言わないんだ!すぐに呼んでこい!」

 

「すんません。了解っす」

 

ペパロニは鍋を置いたまま駆け出した。

「はぁ……」

 

「まぁ、ペパロニらしいじゃないですか」

 

「いやまぁ、そうなんだけどさ……事務連絡くらいはちゃんとして欲しいんだがなぁ……」

 

 

 すぐにそのテントにカエサルなる使者がやって来た。机の上には勝手にペパロニが用意したナポリタンが置かれている。お前もうそれ冷めつつあるじゃないか。

 

「失礼します。大洗女子学園の鈴木貴子と言います」

 

「たかちゃん!ようこそ!」

 

「ひなちゃん!」

 

「私はアンツィオ高校戦車道部の隊長の安斎だ。アンチョビのほうがいい」

 

「ではアンチョビさん、こちらが大洗からの手紙です」

 

物分かりがよくて助かる。そしてこちらもそうであることを願い、三つ折りにされた紙を受け取り、ゆっくりと開いた。

 

   拝啓 アンツィオ高校戦車道部

   大洗女子学園は貴校からの提案を感謝しますが、その内容は我が校には受け入れられないものでございます。

西住みほを貴校及び黒森峰女学院に殺させてまで、残りの者が生き残ることはいたしません。その生き残る可能性についても、貴校を信頼することはできません。

我々は目的の達成の為に不本意ながら砲火を交えるしか道はございません。

大洗女子学園戦車道隊長 河嶋桃

   敬具

 

紙の左右を握りつぶす。怒りのあまり言葉も出ない。その場にいた私を含む3人は、視線をその紙に向け動こうとしない。予想外だ。まだ返事をはぐらかすとか、さらなる交渉を要求する、なら話として分かる。だが何故そこまで西住みほを守ろうとするのか。自分の命を捨てることになるのに。

紙を完全に握りつぶし、無造作に投げ捨てた。命を捨てる愚か者たちに、情けはいらぬ。

 

「随分酷い感謝の言葉だな。ならばこちらも砲火を返すことにする!まずこの者を捕らえなさい!見せしめとする!」

 

「えっ?何?」

 

「お待ちください!」

 

激昂する私をカルパッチョが抑える。何故だ。敵となった以上、それを減らし、戦意を揺らがせるのは損ではないはず。

 

「止めるな、カルパッチョ!」

 

「落ち着いてください、ドゥーチェ!まだ試合は開始していないのでこの者は捕虜にはできません。下手なことをすると戦車道連盟規約違反となるかもしれません。そうなったらどうにも……ここは一旦我々の反応を伝えさせるのがよろしいかと」

 

「だったらこの者をみすみすかえせというのか⁉︎少なくともただで返せるほどお人好しじゃないぞ!」

 

「自分達が死んでまでも西住みほを守ろうとする者達です。脅しは通じません。西住みほのみを対象にするなら他を気にしない精神を見せるべきです」

 

なるほど、激昂して気でも違っていたのか。こういう時にいるカルパッチョは本当にありがたい。

 

「……そうか、解放しよう。だけどもこのことは伝えておきなさい!この判断は間違いなく後悔を生むと!」

 

「は、はいっ!」

 

カエサルなる女は少し腰が抜けかかっていた。まぁこれだけやれば十分か。……彼女、カルパッチョの知り合いか。最後の別れくらいはさせてやるか。

 

「カルパッチョ、送って行きなさい。怒ったらお腹空いた。これ頂くよ、ペパロニ」

 

「どうぞ!」

 

少し乱暴に机の上のパスタを手に取る。アンツィオにいる限り許される行為ではないが、この時くらいは許してもらおう。これから火起こしなぞ勘弁つかまつる。

 

「たかちゃん、行こう」

 

カルパッチョが使者の手を優しく握り、使者はその手を支えに立ち上がった。

 

「ありがとう」

 

「顔も見たくない!とっとと行きなさい!」

 

2度ほど右手を振るとフォークとナポリタンの皿を持って裏に下がった。怒りはここでは向こうに本気と見せる為に演じよう。しかしここで我々と戦うことを選ぶとは……向こうが棄権しているとはいえ、実質的に既にサンダースに勝っているんだ。まさかこれからプラウダに降伏する気じゃあるまいし、黒森峰なら尚更だ。

ということは……裏があるな。

 

 

 

「そうか、対戦車戦か……」

 

「故宮の得意技です」

 

河嶋さんも私もそれぞれ腕を組んでいる。

 

「いきなり爆弾を取りつけられてドカン、ということか。対策を取りようがないな」

 

「場所さえ分かれば怖くはありませんが、足下を車長が注意するくらいしか……黒森峰の時も故宮戦は被害がそれなりに出ましたし」

 

「取り敢えず明日全車長にそのことを伝えよう。対策はその後だ……西住」

 

「な、なんですか?」

 

いつも少し低めの鋭い声を出す河嶋さんだが、さらに低い声で話しかける。

 

「すまないが、少し昔話を聴いてくれるか?」

 

河嶋さんが身を前に軽く倒し、両肘と両膝をつけ、手を組む。

 

「ええ、私が相手でよろしければ」

 

「むしろお前じゃなきゃいけないな。私がお前の来る前、自衛隊の方から指揮を習ったことは聞いているな」

 

「ええ、会長さんから伺いました」

 

「なぜ私が、というのは知らないか」

 

「ええ。しかし戦車道が生徒会の主導で行われている以上、そこから隊長が輩出されるのは自然かと」

 

「まぁそれはそうなんだがな、私は志願して隊長になったんだ」

 

「志願して……」

 

隊長に志願……それは並大抵なことではないだろう。先程会長さんが簡単に引き下がったのはそのせいもあるやもしれん。

 

「私は高校からの編入生なんだ。中学はお前なら知っているだろう。タンジマート学園だ」

 

「タンジマートですか。硬式参加校のひとつですね」

 

「私は高校のある先輩と仲が良かったんだ。なんで知り合ったんだったかな。ああそうだ、寮で部屋が近かったんだった。確か中学に上がって一人暮らしになって、不安で不安で仕方なかった頃、助けてくださったんだったかな。

アイス食べに行ったり、買い物に行ったりな。戦車道は結局やらなかったが、その人の前では素の自分が出せた……懐かしいな、本当に」

 

河嶋さんが目元を拭う。いつもの先輩気質の姿は見る影もない。本当に大切な方だったことが見て取れる。

 

「で、その方は……」

 

「死んだよ。3年前のプラウダ戦で」

 

「え⁉」

 

「側面から砲弾を喰らい即死だったそうだ。車輌も炎上したらしく、帰ってきたのは右腕だけさ。顔もなければ、肘から上さえ焦げてしまっていた。だがな、その手の爪に大会前に着けた付け爪が付いていたんだ。

それだけなら良かったかもしれない。でもそれは私がプレゼントでお揃いであげたものだったんだ。葬儀に行った私の目に映ったそれはもう死ぬまで忘れる事ができない。私の未来を、その人が目の前で見せている気がした。その後の話が全く耳に入らないし、何が起こったか記憶が曖昧だ。

だが一つ確かなのは、その日の夜私が駅で列車を捕まえて、有り金を叩いて遠くに逃げたことだ。先輩からそうするよう言われた気がした。串本の学園都市から出来るだけ遠く、遠く。それしか考えられなかった。

それから親の理解を得て大洗の試験に合格して、私は戦車道と縁を切った、はずだった」

 

河嶋さんは頭を抱える。

 

「……河嶋先輩……」

 

「翌年、翌々年の大会で、戦車道に携わっていた私の同級生は殆ど死んだ。戦車道に参加してなかった奴でも、中には勇敢にも青師団のやつに義勇兵の名目で行って死んだ奴もいる。私は逃げて良かったと自分を納得させようとした。そしてそれを忘れようと高1から生徒会活動に全力で参加した」

 

「……だったら戦車道の導入に賛成したのは、」

 

「それは軟式だと仰ったのと、角谷会長を信じたからだ。あの人は素晴らしい方だ。人を纏める天才だ。それと私はここに来て変わったんだ。自信を持てるようになったんだ。そうしてくれた学校に恩を返すのは当然じゃないか!会長と柚ちゃんがいたから、ここまでトラウマに縛られる事なくこれたんだ!」

 

河嶋さんの興奮の余り、机が反動で浮くほど強く叩かれる。何も言葉を返せずにいた。

 

「……すまない。この話をしたのはお前が初めてだったものだから。お前なら理解してくれると思ってな。実はお前をうちに呼ぶよう進言したのは私なんだ。無理にでも加えよう、というとこまで含めてな。だから恨むなら私を恨むといい。

今回の降伏に反対したのも、学校の廃校阻止もできないのに自分の判断で来てもらって、自分の判断で自分の代わりに死ぬ、という完全に自分の所為で亡くなった人の死体を見たくなかったんだ……ははっ、こんな時に自分の事を考えているなんて隊長失格だな、全く」

 

背もたれに寄りかかり、河嶋さんは自嘲する。彼女が失格なら、私は何か。無期限謹慎あたりか。

 

「いいえ、私はここに呼んでくださったおかげで、真の仲間を見つけたんです。こちらが感謝したいくらいです。ありがとうございます」

 

「それなら一つ言っておこう。先んじて死んで喜ぶ奴はここにはいない、とな。明日試合だ。早く休まないとな。すまないが作戦は頼んだ」

 

申し訳なさそうに立ち上がった河嶋さんがテントから出るのを目で追うと、地図の数カ所に印をつけ、宿舎に戻った。宿舎に着いた後も地図と格闘した。殺すにはもったいない、優しさと強さを兼ね備えた人を倒すための策をたてるため。

申し訳なさはある。だがそれよりも生きねば。




広報部からの報告

内容
アンツィオ学園の動向

同校からの連絡によると
「よろしい、ならば『死合』をしようか。裏切り者に死を!」

「大洗、勧告を拒絶」
において選択をしたとのことです
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