不死の感情・改   作:いのかしら

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信ずる理由があるから信じているのではなくて、信じたいから信じているのだ

二葉亭四迷


第5章 ⑧ 蛙

「ヘッツァー撃破!」

 

プラウダの主力が待ち望んだ報告が耳に入った。

 

「やっとですか……」

 

「ノンナ副隊長、こちらも既に30輌近く損害が……」

 

「ですが残骸に身を一部隠しているせいか、損害が増える速度は落ちています。あとは主力が地道に沈めるのみです。IV号とポルシェティーガー、三式に攻撃を集中させなさい」

 

そう、実際2校の先頭同士の距離はもう1200メートルを切ろうとしている。しかも前方にいるのは、補欠やその他かき集めた者たちを含む余り上手くない者や、戦車道に所属していてもスパイの疑いがある者を集めた部隊、やられて当然だ。損害は損害だが、目的を達する支障となる程ではない。

大洗が前に気を取られて対応しているうちに、後続の精鋭部隊の射程にさえ入れば、大洗の戦車は鉄くずと化す。そして数輌の損害が出さえすれば、向こうの戦力はガタ落ちだ。

古今東西30倍をひっくり返して勝った戦いは指で数えるほどしかない。勝てる、今回は指に入らない。私を含め、プラウダ戦車道の幹部層はそう信じていた。

 

 

それが目の前の精鋭の車輌の砲塔が、いきなりいくつも宙を舞うのを目にしたときの驚きは、想像を絶するものだった。何発もの砲弾による揺れで思わずバランスを崩す。

その原因を察するのは非常に容易だった。

 

アハトアハト

 

一撃でプラウダ戦車を穿つ威力、それと発砲音、どちらもこの仮説を証明するに足るものだった。そして向きと数からして、大洗の部隊ではない。

 

「副隊長!右です!右の尾根から撃たれています!」

 

「何だ!」

 

右の物見窓から双眼鏡で眺めた先にあったのは、こちらから台形に見える戦車の群れ、それと茶色。

 

「くっ……」

 

予想は無慈悲にも当たっていた、思わず拳を握り締める。奴らが、悪魔が、鬼畜生がやってきた。

 

「黒森峰……」

 

ドイツ戦車の殻を纏った奴ら群れだった。

 

「馬鹿な!黒森峰が……何故!」

 

理解が出来なかった。何故西住流を破門された西住みほと黒森峰が協力するのだ。黒森峰からすれば西住流の敵だからさっさと死んでもらうのが吉なはずだ。

仮に我々を倒すために同盟しようとしても、決勝の方が継続など戦力的に大洗よりかマシな味方が参戦するはずだ。わざわざ今、ここで、我々を倒さねばならない理屈はない。

だがまずは、同志カチューシャに、同志に確認を取らねば……

 

「無線を……無線をすぐに繋げなさい!」

 

 

カチューシャはその身に反して大きな決断を迫られた。尾根の様子を見るに、黒森峰は多くても20輌、大洗を倒せば試合には勝てるが、決勝で黒森峰と戦う為の戦力が削がれる。敵は既に我らの精鋭を射程に入れている。このまま大洗に勝利しても損害は計り知れない。

ならば今の数的優位をもって、戦力的に上である黒森峰を殲滅し、その後右の尾根から大洗側へ進撃し、両方潰すのが得策。大洗だけなら、精鋭が削られてもその時点での残存部隊でも勝てる。

被害は大きくなるが、黒森峰の重戦車部隊に横っ腹を見せ続けるよりは、大洗に見せた方がマシ。砲と車輌の質が違う。

そして精鋭を削られた上で主力の残る黒森峰と戦っても……勝てぬ。そしてそれは私には許されない。勝利を、悪魔たる黒森峰からの勝利を、学園は求めている。

 

カチューシャは手元の2本の旗を掴み、キューポラの外に飛び出す。車内の者からの呼び止めも気にしない。

 

「全車右旋回!尾根の敵を撃破せよ!」

 

旗は黒森峰の方を向いていた。勝ちにより近いのは、どう考えてもこちらである。

 

「突っ込め!ファシスト共を皆殺しにするのよ!狼共の血で尾根を真っ赤に染め上げてやりなさい!」

 

「ウラー!」

 

プラウダの車輌は次々に右に周り、黒森峰への砲撃を開始した。宿敵の壊滅を目指して。

 

 

 

黒森峰の試合はこのプラウダ対大洗戦が終わった後である。逸見エリカ率いる部隊はこの戦いで大洗を勝たせなければならなかった。

決勝に大洗を連れてこい、それが学園長からの指示だった。その意味は勿論理解している。しかし彼女がここに来た理由はそれだけではなかった。

 

「全車砲撃開始、左が精鋭よ!1号車から12号車までは左を、それ以外は右を潰しなさい!下手に車輌を見せるんじゃないわよ!」

 

「了解です!」

 

黒森峰の最強選抜部隊の88ミリが、一斉にプラウダ戦車隊を攻撃した。再び砲塔がいくつか空を舞う。

 

「馬鹿ね、あんたら舐めすぎなのよ、あいつを。仮にも1年で栄光の黒森峰女学園SS装甲部隊の副隊長を務めたのよ。あの女が簡単に勝負を捨てる訳ないじゃない。ま、それでウチを頼ろうとするところが甘いわよね。

でも条件は合った。動かない理はないわ。たとえあいつが学園の裏切り者だとしてもね!

腐った建物から来た劣等学校が調子に乗りやがって!お前らが隊長や黒森峰隊員にした仕打ちは10倍どころか兆倍にして返してやるからね!敵の砲撃に怯むな!イワン共に確実に1輌ずつ地獄を見せてやりなさい!」

 

 

 

「に、西住さん……敵車輌が……」

 

左側面から当面の味方が現れてからしばらく、敵車輌が一斉に横っ腹を見せ始めた。まさに、まさにプラウダはデスバレー行きのレールに跨ってくれたのだ。

 

「……敵部隊左へターンします!チャンスです!撃ち続けてください!」

 

叫ぶ。この奇跡が何分続くかわからない。今この隙を逃せばこの距離では勝ち目はない。エリカさんは来てくれた。熊本が私を求めているのだ。ここで負けるわけにはいかない。

こちら唯一のアハトアハトも、突撃砲も、日本の中戦車も、フランスのエースも、そして私の乗る歩兵の母も、皆ロシアの量産車をまともな反撃なく潰していた。

しかしそうしている間に、視界に収めていたIS2が砲塔から火を吹いた。

 

 

 

「撃て!撃ちながら進め!撃ち負けるなッ!」

 

同志カチューシャは正面へと旗をふりかざす。私からの通信なぞ気にも止めてないようだ。丘を登り尾根を目指しながらプラウダの戦車は砲撃を行う。

だが元から向こうが高台にいて、劣悪な照準器の上この凸凹地面。こちらの砲弾はなかなか向こうに到達しない。尾根の上で口角が上がるクソよりも下賤な女の様が、消そうとしても浮かび上がる。

 

そしてその現実(そうぞう)を示すかのように、プラウダの部隊は前進を阻まれ、徒らに被害を生んでいる。それも先程みたく補欠やかき集めではない。精鋭が含まれている。如何に同志カチューシャが歯をくいしばろうと、状況は変わらない。

 

私の乗るIS2も、いくら射撃の腕が良くとも残弾を考えると、そうバカスカ撃てる状態ではない。先頭にいた部隊は敵を減らせていない。後方にいた精鋭が敵に数発命中させているものの、撃破しているのはたった3輌だけだ。こちらはもう残り半分を切りつつある。通常の部隊なら壊滅状態だ。だが同志は進軍を止めようとはしない。

これが本来の目的ではないはず。しかし今の同志は聞かない。ならば行動で、それに必要なことを示し、勝ちに近づく。

 

「止まれ」

 

操縦手に声をかける。一度命令の整合性を確認しようとしている。

 

「はっ?しかし……」

 

「止まって正面の大洗を狙う」

 

「は、はぁ……」

 

言われた通り操縦手は車輌を止め、狙いを定め始める。距離は若干伸びて1500、狙える。

 

 

「あーんもう、命中しているのに中々止まらないっちゃ!」

 

3式の照準器を覗きながらぴよたんが愚痴る。

 

「ぴよたん変わるなり!私にも狙わせるっぞな!」

 

ももがーは2つ上の先輩に普通にタメ口である。しかしぴよたんもそれに反論する気配はない。75ミリ砲弾を装填し終わると紐を掴む。

 

「はいよ、お二人さん。次の弾ね」

 

手の空いたももがーの手にラムから砲弾

 

「助かるなり!」

 

「なに、こんぐらいいいってことよ。あれから特に通信はないから、遠慮なく撃っていこうや」

 

「そうっちゃ!早く次次っ!今度こそは撃破してやるゥ!」

 

その時、IS2がその飛び出た砲身から122ミリ徹甲弾を発射させた。ティーガーの正面装甲をぶち抜く弾である。正面から食らった3式は、まさしく砕けるという語が適当な様子で撃破された。砲塔は車体から分離され炎をあげていた。

 

 

 

第74回戦車道大会公式記録

 

大洗女子学園犠牲者

 

小鳥遊 一恵

 

プラウダ 砲撃死 死体損壊が激しく致命傷は不明 即死

 

桃川 郷子

 

プラウダ 砲撃死 死体損壊が激しく致命傷は不明 即死

 

西島 とうみ

 

プラウダ 砲撃死 死体損壊が激しく致命傷は不明 即死

 

 

 

「3式撃破確認!」

 

「200m移動後また撃つ。装填せよ」

 

「はっ!」

 

これで大洗はこちらの主力、最精鋭に捉えられ始めたと理解したはずだ。ヘッツァーは囮だろう。前衛との練度の差をあの西住みほが理解できぬはずはない。

そして彼女の正面ではプラウダという現在の敵と、黒森峰という将来の敵が戦力を削り合っている。このままガチンコで戦わせ続けるのが、彼女が優勝するための最善策。そしてそれは彼女らが参加した目的の達成に必要なこと。

ようは生き残れば良いのだ。それも戦力を残しつつ。

これらの情報を組み合わせれば、撤退を彼女は選ぶはず。そしてそれはこちらにとっても側面からの砲撃を避けられる。戦力を同志の命ずる黒森峰に集中させることができる。

同志の命令は変えられない。そして確かに同志の決定にも一理ある。

 

 

 

装填と移動の完了まで少々時間があったため、後ろの物見窓から双眼鏡で外を眺める。やはり損害は大きく、煙をあげるプラウダの戦車達が視界の多くを占めた。そこから運良く生き残った者たちが車輌から這い出し、戦線を離れる。

そこから先の彼女達の運命を、私は見てしまった。言葉を出すための声帯をその光景が固定した。

会場の後方に1台のトラックと3人の男が見えた。恐らく同志が話を付けて呼んだNKVDの奴らだろう。一番厚手のコートを着た1人は立ったまま動かず、1人はPM1910重機関銃の後ろで膝をつき、残り1人は銃身に雪を突っ込み続けている。

絶えず弾丸が発射され、逃げようとする者らを躊躇なく襲う。足、腿、背中、腹、胸、首、頭を撃ちぬき続け、地面に倒れた者はそのまま重機関銃の的と化す。地面は白から服の黒と隙間の紅に変わってゆく。

同志は敗者に、脱走者に、彼女にとっての叛逆者に、死を命じているのだ。

ただじっと人が止まっていくのを見続け、気がつくとキューポラから身を乗り出していた。

 

「副隊長!外は危険です!」

 

車内の者が止めるが気にもとめず、車輌から飛び降り、煙にむせながら水の混じった雪原を一直線に駆けていた。時々足元を取られるが、転ぶわけにはいかない。こうしている間にも、人材が、プラウダの未来が……

 

「同志カチューシャ!」

 

目標はT34/85だ。キューポラから身を乗り出し旗で指示を出し続ける彼女に向け駆け寄り、背後から車輌に登る。相互の砲弾が風を切る。

 

「おやめください。十字砲火の中突撃を強行しても無駄です!今すぐ停戦をッ!それか撤退をッ!」

 

旗を持つ人の両肩を掴む。しかし彼女の眼光は黒森峰を見据えている。

 

「うるさい!」

 

振り向きざまの拳をぶつけられる。背後に弾き飛ばされる。戦車の排気口からの熱とかすかな痛みを背中に感じつつ、ただ次の言葉を聞くしかなかった。

 

「突っ込みなさい!後退する者は地域の裏切り者よ。その場で射殺する!前進しなさい!戦車がやられたらモシンナガンを持って!それさえもない奴は、黒森峰の戦車に近づいて車長を殴り殺しなさい!」

 

左手の旗は正面に向けられていた。そうしている間にも1輌、また1輌とアハトアハトの餌食となるし、機銃の的も増えていく。その一言が私を本当に人にしてしまったのかもしれない。

人として、ではない部分もある。ここにある人は、ここでさえなければ黒森峰のクソを殺せる者たちなのだ。そしてそれに必要な団結をみだりに崩した存在ではない。それを……それを自分たちで……

 

トカレフTT-33、私のポケットに入っていたそれ。弾薬は僅かなれど、最悪の事態、そして接近戦での防衛に備えて持っていた、本来は使わない方がいい代物。だがやむを得ない。この結果私が死のうとも、黒森峰を倒す助けになれば。

それを、私は彼女の後頭部に当てた。接触させたのは、その銃口。

 

「なんの真似よ、ノンナ」

 

「お願いします、同志カチューシャ……どうか……どうか命令を……同志ジュコフスキーの仰ったことをお忘れですか!」

 

本来の目的。これまで幾十年に渡り溜まりに溜まった恨みの全てを清算するために、私はこれを取ろう。

 

「バカ者が、戦場でメソメソ泣いちゃって。ノンナ、お前も焼きが回ったわね」

 

自分でも気づかぬ間に大粒の涙が頰を伝う暇もなく零れ落ちていた。全く彼女のその通りである。今の私の顔にはブの字も存在しない。

顔は向けてこないが、いつもより低い声とその発言に鋭い視線の様なものを感じる。本気だ。信念とも言って良い。

 

「カチューシャの命令は絶対よ!撤回はないわ!最後の一人まで突っ込ませなさい!生徒なんていくらでも補充できるわ!最大の、最強の学園の特権よ!

ここから生きて戻るのはカチューシャとノンナの二人だけでいい。ただし、戻ったらカチューシャに銃口を向けたペナルティは受けてもらうわよ。

分かったら残りもさっさと突っ込ませなさい。黒森峰を少しでも傷つけてやるわ。いや、距離さえ詰めてしまえば、勝てる!」

 

返事はしない。無言の涙が頬を駆け抜ける。彼女は何もせずその場に直立する。

彼女は逃げも隠れもしない。その精神力はさすが皆の上に立つもの。されど、私は。

 

「とっととやりな」

 

 

指が、動いた。

先ほどまでの砲撃に比べ今回は接射だ。外しはしない。

軽い爆発音が、周りのもの全ての耳を突いた。薬莢がエンジン上部を跳ねまわり、止まる。眼前に広がったのは、前に倒れ顔から血の池に突っ込まれた彼女の後頭部と背中、だった。

ただそれを視界に収めるが、それさえ瞬く間に歪んでいく。車内の者は背後にいた人間が突然絶命したことに愕然となっている。

これは、我らがプラウダの為……プラウダが永遠に続く繁栄の道を進む為。

その死を確認すると、素早く振り返った。

 

「ジャッジ‼」

 

 

 

「試合終了!」

 

その合図がかけられたのはホイッスルの音と同時だった。

 

「プラウダ高校の試合放棄により終了します!よって準決勝第1試合、大洗女子学園の勝利です!」

 

審判の声がこの土地に一時の平和をもたらそうとする。丘の下では煙が山の様に立ち昇り、全て風で南へ流されている。

終わった、ようだ。

ついさっきまで逡巡を繰り返していた私の頭は、叫びながら抱きついてくる優花里さんに何も反応出来ないほどに急停止を喰らっていた。

 

「西住どのぉぉぉ!」

 

「……また、勝ったの?」

 

「嘘……あんなにいたのに……」

 

優花里さんを除く皆も同様。だが少しの間を置いて、このささやかな肉の丘を包み込む叫び声が広がっていた。僅かな損害はもはや頭には残っていないらしい。

プラウダに、勝った。これが今年の夏、そして去年の冬に聞けていれば……いや、これ以上はよそう。

 

 

 

「戦闘行為停止!」

 

「両校直ちに戦闘行為を停止してください!」

 

あちこちから笛の音と審判による声が響く。私のもつ力は、もう使い終わった。頭をだらんと反らせた彼女をキューポラがら引っ張り出して抱え、車輌の後部に立つ。視線の先は丘の上だ。

西住みほ。こうなってしまった今、同志ジュコフスキーの提案を実施する為に彼女は必須の存在となってしまった。

ふと、戦車の残骸を通り過ぎた丘の上と視線が合った気がしたが、丘の上から視線を外して車輌から飛び降りた。

私は、同志をこの手で殺した。それだけだ。

 

地元生まれの、といってもツガルがプラウダとなる前の時代のことではあるが、作家がこんな言葉を用いていたな。

 

『恥の多い生涯を送って来ました』

 

文学はロシアが至高、日本の言文一致などロシアの受け売り、だとは思っているが、これは強く印象に残っている。

別に私がその主みたく心が安定しない奴だ、というわけじゃない。むしろ彼女に、学園に捧げてきた思いは変わらないし、きっとこのまま変わらないだろう。いや、逆に『学園に心を捧げてきた私』というものを信じたいだけなのかもしれない。

実際、私の歴史は恥辱にまみれている。父を、母を、妹を、家族皆を殺した奴の娘に取り入って出世し、その過去を封じ込める為に、好きでもなんでもないNKVDの奴らに、下着を馬鹿にされながら何回も犯された。そしてまた、人生は最悪の恥とともにフィナーレを迎える。

 

「……結局、裏切り者の子は、裏切り者。同志カチューシャ、貴女は私を信頼しすぎました」

 

 

 

プラウダの主力の残りがいた所の一角から聞こえたのは、静寂を破る銃声だった。

 

「発砲はやめなさい!試合は終わりました!」

 

審判の一人が大声で注意する。近くのものは互いに見渡すが、返事はない。その音源たるモノに答えられるはずがない。自分の車輌の転輪に寄りかかるカチューシャとその足元でこめかみに引き金を引いたノンナしかいなかったのだから。

 

 

 

第74回戦車道大会公式記録

 

プラウダ高校犠牲者

 

エカチェリーナ ウラジーミロヴナ イワノワ

 

大洗 銃殺 脳後部から額にかけて貫通による脳死 即死 ノンナ ニコラエヴナ ノヴィコヴァの持つ銃により射殺

 

ノンナ ニコラエヴナ ノヴィコヴァ

 

大洗 銃殺 右側頭部から左側頭部にかけて貫通による脳死 即死 自殺と思われる

 

 

◯大洗女子学園高等学校vsXプラウダ高等学校

 

被害 大洗3輌 プラウダ153輌

 

(大洗側同盟 黒森峰4輌)

 

プラウダ高校の試合棄権

 

 

 

試合中一度治っていた雪は、今再びしんしんと舞い始めた。私たちの所に一台の車輌が向かってくる。それは前で止まり、黒森峰の生徒が降りてくる。懐かしい。私も良く知っている顔だ。

 

「失礼します。黒森峰女学園戦車道選抜部隊副隊長の直下と申します」

 

彼女、直下さんは頭を下げる。所属こそ違ったが、礼儀正しかったという記憶は間違ってなかったらしい。

 

「大洗女子学園戦車道隊長の河嶋だ」

 

「副隊長の西住です。お久しぶりです、直下さん」

 

それと共に大洗側の2人があいさつし、たまたま周りにいた者も会釈する。

 

「大洗の皆様、決勝進出おめでとうございます。逸見隊長から決勝はお互い全力を尽くしましょうとの伝言を預かっております」

 

雪がますますちらついてくる。次、ね……ま、礼儀正しさには礼儀で応じよう。

 

「ありがとうございます。黒森峰の皆さんの同盟あればこそです」

 

嘘ではない。いや、これが勝利の根幹であるのは事実。

 

「なお、プラウダの捕虜はこちらで引き取りますので、了解を得るように言われました」

 

「お断りします」

 

「は?」

 

はっきりと言ったその言葉に直下さんは思わず耳を疑ったらしい。だろうな。

 

「捕虜の権利を持っているのはあくまで勝利校である大洗です。申し訳ありませんが黒森峰には引き渡しません」

 

「……それは今回の400人近い捕虜数と捕虜の管理費用が全てそちら持ちであるというのを理解なさっている上で、ですか?」

 

「勿論です」

 

「……」

 

彼女の言うのは正しい。大量のプラウダ捕虜に食わせる飯と帰りの旅費を埋めるのに必要な金があるなら、とっとと押し付けて戦車補強した方がいい。そう考えるのも当然だろう。

だが私には出来ない。現実を知る者として、それは許さない。

直下さんはじっと見つめてくる。その意思は曲がらない、と分かったらしく、少し首を回し、視線を河嶋隊長に移そうとする。

 

「今大会に関する決定については西住に一任してある。西住がそう言うなら、引き渡しはしない」

 

「しかしですね……」

 

「二度は言わない」

 

「……分かりました。失礼します」

 

直下さんは仕方なさそうに頭を下げ、背を向けて車輌に乗って帰って行く。理解が早くて助かる。その場にいたあんこうチームのみんなと河嶋隊長の視線はその背中をじっと追っていた。やがてそれも雪原の奥の谷間に消えていった。

 

「西住殿、どうしたでありますか?捕虜を取っても、我々はどうしようもないでありますよ」

 

右脇から優花里さんが側に出てきた。

 

「黒森峰の第2試合はこれからなのにもう決勝の挨拶とはすごい自信だな。

しかしお前を信用して受け入れたはいいが、どうする気だ?向こうが求めるなら、今回の援軍の件を考えて、乗っても良かった気がするが。

信用するから、その理由だけは隠し事なく教えてくれないか?それが……生き残るのに必要かもしれん」

 

信用。確かに重要だ。止むに止まれぬ理由でまとまらざるを得ないチームが勝てるほど、黒森峰の団結は甘くない。

前に一度似たようなことを話したからか、果ては私がかつての私に戻りきってしまったからか、前みたいに倒れたりするようなことはなさそうだった。

それに私だけ腰掛けるのも、皆に雪の上で座布団もなく座らせるのも、どちらも気が引ける。

 

「皆さんすいません、ワガママ言って……まだ話してませんでしたね。私が黒森峰を去り、戦車道を辞めた、いえ、辞めようとした理由……」

 

「聞いたぞ?プラウダに虐待されたからじゃないのか?」

 

河嶋隊長の指摘に笑顔を見せようとした。しかし記憶が口角を上げるのを邪魔する。

 

「いえ……確かにそれは辛かったんですが、自分のせいじゃない辛さです。苦痛で泣いても、終わればまた明るい気持ちにもなれます」

 

周りは少し近くの者の顔をのぞいていた。前に話を聞いているだけに、これまた飲み込める話ではないのかもしれないが、事実だ。

 

「それよりも耐えがたい、日が昇るように何時までも思い起こされ続くもの」

 

華さんの顔に水滴が見える。雪が溶けたものでは無いようだ。きっと勘の良さを備え付けているのだろう。華道とはそういうものなのか?

 

「私が戦車道を辞めた本当の理由は……」

 

優花里さんが吐く息も白く染まる。周りから漂う霧の中から、私はまた嫌なことを引きずり出す。流石に本能が、足を震えさせ止めようとしてくる。五感も次第にあの場へ引き戻される。

が、話さない意味はない。戦いの意味の一部はここにあり、一番長く生きるのは私ではないのかもしれないのだから。

 

 

 

 

アインザッツグルッペン(特別行動部隊)

 

 

私は見てしまったんです

 

 

黒森峰が戦車道大会に君臨していた9年間敗退した相手校に対して行っていたことを

 

 

私が加害者だったということを

 

 

あの悲劇と匂いを知ってしまったんです

 

 




広報部より報告

プラウダ学園の動向

内容
同校からの連絡によると

「指導者の死をもって終焉としよう」

「準決勝の大損害」
において選択したとのことです



大洗校歌

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm33893159?viewing_source_detail=%7B%22nicorepo%22%3A%22reaction_id%3Dfce1ad48-f627-4eaa-b4c5-563bc8ab79f6%2C1537516382785-b7c7da49806a1e4d20cb209866b0046a492b74b2%22%7D
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