不死の感情・改   作:いのかしら

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女とは生産力であり、継承の種だ。だからこそこちらの女を餌にしても女を釣り出すのだ。そして断て。それが命だ。

黒森峰女学園の内部文書


第6章 ⑥ 人道への罪

「そのまま進んで、次の角を左折してください」

 

エンジン音を立てながら市街地を進む。街中には既に事情は伝えてあるようで、街中には人は見当たらない。既に避難済みのようだ。ありがたい。

御船川の森崎橋は破壊したし、レオポンさんの存在もありこれで時間は稼げた。SS歩兵師団学生大隊とかが来なければ……まぁ流石に本格的な投入は避けてくるだろうな。学園の対面的に考えて、ウチ相手に使ってくるとは思えん。

 

だが時間だけだ。それ以外は変わらない。

結局数的劣勢は揺らがないし、火力不足も変わらない。おまけにその過程で最大火力、最大装甲を持つ車輌を失ったのだ。皆も不安に思うはずだろう。それに今すぐにそれを解消することもできない。

私には奇跡を願いつつ、その奇跡を活かす最善の手を打ち続けるしかない。ある一つのことを犠牲にして。

 

「200メートル先右側が黒森峰の物資倉庫です。警備が2名しかいません。沙織さん、威嚇して追い払ってください」

 

戦車の上で道案内しながら向かわせたのは、黒森峰の各地に設置された物資倉庫の一つである。かといって戦車の砲弾とかが置いてあるわけではない。目的は別のものだ。

 

「お願い!逃げて!」

 

沙織さんの僅かな願いとともに車内に薬莢が吐かれる。警備の2名は抵抗もなくその場から走り去った。恐らく防衛隊だろう。士気も低いし。

 

「麻子さん止まらないで!シャッターごと突き破ってください!」

 

「了解」

 

麻子さんの操縦は全く狂うことなくそのままシャッターを押し潰し、IV号は倉庫の中に突っ込んだ。車内が大きく揺れる。だがそんな揺れでも、先ほどよりはマシだ。枠に掴まっていれば耐えられる。そのまま前方の空間を確認した上で前に進ませる。

その穴に続いてIII突、B1bisと他車輌が入ってきたことを確認し、咽頭マイクに指を再び当てた。

 

「あんこう、カバさんの人は一回集まってください」

 

キューポラから出て地面に飛び降りる。何事かと倉庫の中を見渡しながらぞろぞろと中から出てきたあんこうチームとカバさんチームの前で、倉庫の少し奥の方にあった一つの縦長のケースを開いた。こんなものを用意してあるとは、流石は軍事バカ学園。自分たちがそうしているから、そうされた時の対策もしてやがるのだ。

中には互い違いにあるものが入れられている。薄茶色のラグビーボールみたいな形の頭に同じ色の棒が組み合わさった代物、パンツァーファウストだ。

 

「使い方を説明します」

 

その一つを手に取る。砲弾に比べればマシだが、鉄パイプが付いてるだけあってそこそこ重量がある。

 

「パンツァーファウストか」

 

「エルヴィンさんなら使い方ご存知じゃありませんか?」

 

「いや、流石に本物を見るのは初めてだ」

 

以前の私の部屋にはコイツのレプリカが置いてあったな。確か親からの貰い物だった気がする。

 

「じゃ、一応使い方を。基本的にこれは先の丸い部分を敵戦車に向けて放ち、これを撃破します。その為にはここの安全装置を外し、その先にあるこの穴を、弾の頂点とともに照準を合わせます。

撃つ時の姿勢は大きく二つ。脇に抱えるか、肩に載せるか、です。何れにせよ発射時に後方に爆風が出るため、後ろに敵以外の人がいないことを確認してください。また胸元で狙いを定めるのもやめてください。死にます。そしたらここのレバーを押して発射します。

これは使い捨てです。一応弾を付け替えることは可能なのですが、今回はそのような余裕はないと思います。

使い終わったら棒は放棄して、自身の車輌に戻ってくるなり、今回みたいに倉庫を襲ってもう一本手に入れるなりしてください。きっとここはすぐに代わりの兵が駐屯するでしょうから。まぁそれを倒すのもアリ、ですが」

 

「こんなのに戦車を倒せる威力があるの?」

 

「なにを仰いますか!これは独ソ末期戦におけるソ連戦車の一番の天敵でありますぞ!」

 

沙織さんの訝しげな目に対し、優花里さんが必死に声を張る。

 

「誤射でとはいえヤークトティーガーを撃破したこともある、という話も聞いたことあるな。少なくともポルシェティーガーが抜けてしまった以上、重装甲の駆逐戦車とかを撃破できるのはこれくらいしかあるまい」

「へぇ……」

 

たしかに戦車より遥かに小さいこんなものが戦車を仕留められることに違和感を覚えるのも仕方ない。自分たちが戦車に乗って戦ってきた意味も薄れるだろう。が、現にこれより小さいであろうものにウサギさんチームは殺られているわけだ。

 

「運用に関してですが、射程が短いため基本は隠れながら接近し、撃った後は当たろうと外れようと即座に離脱してください。

説明は以上です。カモさんチームは砲が2つあるのでそのままで。あんこうとカバさんは操縦手と砲手だけ残って、他の人はこれで戦います」

 

「でもそうするとウチの車輌、車長とリーダー両方失うぜよ。流石にそれはまずいんじゃないぜよ?」

 

おりょうさんが腕を組みながら言う。確かに一理ある。どちらかならともかく、どちらもは流石に統率的にまずい。

 

「あっ……」

 

「取り敢えず砲手の左衛門佐は外さないとすると……」

 

「私がやろうか?操縦」

 

エルヴィンが声をかける。この人操縦出来たっけ?

 

「おりょうほどではないが、1度冷泉さんに聞いたことがある」

 

「でも、それだけで動かせるものでは……特にIII突は砲身の自由が利きにくいですし」

 

「隠れればいいぜよ。余り動かなければ弊害にはならんぜよ。それに隠れるのはIII突の得意技ぜよ」

 

「じゃあIII突に残るのは私と左衛門佐、行くのはカエサルとおりょうでいいか?」

 

「御意」

 

「了解ぜよ」

 

「バベーネ

(了解)」

 

そうして担当が決まった。天才肌の麻子さんの指導というのもあり不安ではあるが、彼女たちが納得しているならそれでいい気もする。決まった後そこから少し離れた所にある箱に目をつけた。中身を見ると、予想通りの代物である。

 

「みぽりん、何やっているの?」

 

「10、11、12。よし、人数分はある」

 

「何がですか?」

 

「痛み止め」

 

皆の頭にクエスチョンマークが浮かんだところで、一人一つずつ小さな縦長の箱を配っていった。

 

「これが痛み止めなのか?西住」

 

皆が中を見ると注射が入っている。

 

「注射?」

 

「はい、これは……モルヒネです」

 

「モルヒネ‼︎」

 

「麻薬じゃないですか‼︎どうしてこんなものを‼︎」

 

思わず沙織さんが投げ捨てようとしたのを、割れる前にキャッチすることができた。

 

「とと……えっと、これは……安楽死用です。これからの作戦は危険で、かつ負傷する可能性があります。自分が大怪我をして死を悟るまで追い詰められた時は、それを打って痛みを和らげてください」

 

隣の人と目を合わせるも、無言。分かってはいるが、分かりたくはないだろう。

 

「……結構効くらしいですよ。でもその代わり、使うのは本当に死を悟った時だけにしてください!一人でも多く帰って来ましょう。それが、勝利への道です」

 

言葉の最後が弱々しくなってしまうな。

 

「分かりました……」

 

「私たちの戦場はここです。皆さんも各地に散って、迎え撃つ準備をしてください。敵を発見次第、私が信号弾を放ちます。あ、因みにここから欲しい武器があったら持っていってください」

 

「はい」

 

皆詳しそうな優花里さんやエルヴィンの話も聞きつつ、適当に自動小銃や爆弾などを見繕っていく。仮に死にたくなくとも、武器が多いなら越したことはないことは理解しているのだろう。それか本能か。

私はパンツァーファウストと追加で自動小銃のみにしておく。身軽な方が動きやすく逃げやすいし、手榴弾とかは一時的には有用でも、次が得られなかったら意味がない。持ちすぎたら動き辛いしな。それに私には狙撃の腕はない。

 

 

そして暫くしてここからかなりの人と車輌が散っていった。そしてこの時より私は殆どの責任を投げ捨てた。このチームの人の命を出来るだけ守るという。

車輌から離れた人をコントロールすることは難しい。何より私もその一人だ。勝つために。そうお題目を立てて、私はまた逃げているのかもしれない。そしてその結果、皆この敵の本拠地で命を燃やし切るのだろうか。

そうはありたくない。可能性は増やしたい。だからこそ、やるだけやらせてみよう。

 

「華さん、麻子さん。ちょっと残って頂けますか?」

 

 

 

黒森峰学園都市郊外 ブレスラウ地区

目下には黒森峰学園都市の主要部が一面に広がっている。周りに視界の邪魔になる物は無い。ここなら敵が攻撃を仕掛けてきても、すぐに分かるし対応できる。

そしてこっちから攻撃を仕掛けなければ敵はこっちに来るしかない。エンジンを切っても問題ない。むしろ掛けていて燃料切れにでもなったら洒落にもならない。だが暫くは来ないだろう。それが分かっている者たちによる穏やかな空気が高台に漂う。

 

「飲む?」

 

あるパンターに乗る者が同乗者にペットボトルを渡す。この者たちは初参戦だ。

 

「ありがと、このまま戦わず判定勝ちなら良いのにね」

 

受け取ろうとした時、ティーガー2の上で双眼鏡を構えていた私がこちらを向いたことに気づいたようだ。

 

「あ……すみません、隊長代行」

 

試合前に言われたことを思い出したらしい。確かに大洗を全滅させろ、と言ったのは私だ。仮にこれまでの大会の最中だったなら、こんな発言など許されなかったに違いない。すぐに隊長の拳が彼女たちのほおを襲ったであろう。

しかし私は違う。口元を緩ませ、その者を安心させようとする。

 

「いや、お前の言う通り、これは硬式戦、会場の外に出ている奴らが反則負けで誰も死なずに優勝できるなら、それが一番いい」

 

それが黒森峰や西住流の方針に反していることなど分かりきっている。そうでもなければ決勝に大洗は来ていないだろう。

 

「なんなら自衛隊が片付けてくれれば楽だったんだけどね」

 

しかし『非常時に最上の策を取れる人間』、それが出来る人間を真っ先に殺し、人の命を部品にする硬式戦車道を快く思えなかった。その者という損害は二度と取り戻せないというのに。きっといつか、この戦いもなくなるといいのだが、私がそれを差配できるような立場になるには、まずここで勝つしかない。

 

「ただ、こちらから入っていかないとしても、奴らがどこに潜むのかは知っておく必要があるわ。そこでルフトバッフェの出番よ。奴らに対空兵器は無いから、空から全ての動きは筒抜けよ。流石に攻撃はさせないけどね。下手な恩は与えないに限るわ」

 

「ルフトバッフェと言えば、朝出撃がありましたけど、何なんですかね?」

 

「サンダースか何かが来てスクランブルかしら?全く最近そういうの増えたわね。どーせ攻撃する気なんてないのに。

まあ今回のために一機だけ貸してくれたんだから、今は試合に集中するわよ」

 

「は、はい」

 

左側前方から2つのローターが回る機体が飛んでくる。先ほどまでは偵察などをこなしていた黒森峰のフォッケ、アハゲリスFa223だ。とりあえず今後の動きさえ読めれば、あの3輌などどうにでもできる。

しかしそれは構えていた双眼鏡の向こうでいきなり砕け散った。驚きで双眼鏡を目から外した後、丘の上を悲しく爆発音の波が過ぎる。

 

「え……何?事故?」

 

「ま、まさか……せ、戦車砲で……飛行機を撃った?」

 

直下さんも小梅も、この様子には驚きを隠さない。戦車砲なんかで撃墜するのを見るのは初めてだ。そもそも戦車は上を撃つのにあまり向いていない。

 

「ど、どうやって……」

 

「……ま、まだ優勢は変わらないわ。こちらに来るまで砲をあちらに向けさせたまま待機していなさい」

 

「……は、はい」

 

兎に角これでもうフォッケ、アハゲリスはない。敵情は探りにくくなった。

まずいな。先ほどのしんがりを含め、段々と向こうの、いやあいつの雰囲気が呑まれている。栄光ある黒森峰の者の士気はそう簡単に落ちないとは思うが、どうにかならないものか。

 

 

 

黒森峰学園都市中心部 ライヒ病院

 

「砲声……?」

 

白衣の看護婦が東向きの窓のカーテンをめくる。空には依然として雲が張っている。

 

「そういえば今日は郊外で戦車道の試合がやってましたね」

 

と分かれば良くあることである。別に気にすることではない。

カーテンを元に戻すと、反応が返ってこないのが分かりきってる話しかける。だがこうして話している言葉も患者の耳からは入っていく。そうした刺激がこの人の脳を再び活性化させるかもしれないのだ。

そして詳しいことはわからないが、それが学園に必要なこと、らしい。

 

「確かケーブルテレビで中継もやってますよ。西住さんのお仲間も戦ってるんですよね。一緒に応援しましょう」

 

まず電動ベッドを動かし患者の上半身を起こす。ワゴンに手をかけながら机の上のリモコンを手に取ると、電源を入れ、慣れた操作でチャンネルを黒森峰ケーブルテレビに合わせる。患者が元気な時にやっていたことを、ここではしょっちゅう流しているから。

 

 

『戦車道をこよなく愛する皆さんこんにちは。ヨーゼフ加ヶ丘です。黒森峰中央放送より、黒森峰演習場にて行われている全国高校戦車道大会の様子をお伝えいたします。

試合は膠着状態に入っていますねぇ。黒森峰戦車道選抜部隊は市街地を見下ろす見晴らしの良い丘に停止したままです。選手たちは落ち着いた様子を見せています。大洗は苦しいですね。これでは側面も背後も取れません。南山さん、どう思われますか』

 

『そうですねぇ。両サイドも的確に塞いでますね。このままいくかもしれません』

 

 

だがここでの解説はいつも学園に有利な情報だけを伝えてきている。永らくここに身を置くうちに、そこに関しては割り切れるようになっていた。

だが彼女らが今の私たちの生活を守っている。それもまた周知の出来事だった。

 

 

ただ光を得た時に画面に映っていたのは、キューポラから身を乗り出すエリカと彼女の乗るティーガーII、そして一面に広がる木のない平原。緩やかに動き始めた脳が、画面のわずかな情報から状況を把握しようとし始める。

そしてかすかに残るかつての記憶、それを交えて導いたのはある戦場。それもかなり危ういもの。そしてその内装として必要なものが、奪われていること。

 

「……だ」

 

閉じていた口が粘着力を取り払い、自力で動き出す。

 

「ダメだ……エリカ……」

 

彼女がアップになった画面に手が伸びる。時間はかなり経っているらしい。手を伸ばしていくのも一苦労だ。

 

「離れるんだ……そこを……」

 

だがそれでも、漏れ出る言葉を止めようとは思えない。

 

「誰か……エリカに伝えろ、アイツは……アイツはまだ、硬式戦の経験が……」

 

鴻門の会の樊噲の如く目頭、目尻が引き裂かれんばかりに見開いた目は画面に狙いを定める。筋力が大幅に減退した腹筋、背筋を酷使し更に、更に前に手を伸ばす。

 

「先生!西住さんが!」

 

看護婦はワゴンにストッパーを掛けるのも忘れて扉を叩き開けて一目散に部屋を飛び出す。だが、それよりも重大な問題がある。

 

「……アイツは……アイツはまだ……硬式戦を、黒森峰を分かってないんだ……」

 

 

 

当面準備の進行に滞りはない。黒森峰の目は華さんが神業とも思える狙撃で潰したし、黒森峰が山から降りてくるようにも見えない。いやさ、やれるならと思ったけどさ、本当に空に飛んでるヘリを放物線を描く砲弾で撃ち落とすとか、マジでやれるとか誰も思わんでしょ。けしかけた私がいうのもなんだけど。

狙撃を成功させた時、華さんの心の中では何か踏ん切りがついたような顔をしていたが、その心で破門も乗り越えていくのだろうか。

 

それを戦車の上で見届けたのち、私は優花里さんと沙織さんと共に、ある建物の一室を蹴り開けて潜んでいる。やはり集団的に避難が行われているらしい。無断立ち入りのお詫びは生き残ったらするかもしれないな。生き残ったら。

ここの下には御船からブレスラウ地区を経由してフリードリヒ地区へと続く主要道が通っており、その直線の先を眺めれば黒森峰の主力が山の上に収まっているのが確認できる。

 

「西住殿」

 

優花里さんがその建物の一室で話しかけてきた。

 

「はい」

 

窓の外を向いていたが、声を聞いて後ろを見る。2人はそれぞれパンツァーファウストを握り、顔には汗が浮かべる。気温は9度、遠軽より気温はかなり上とはいえ、息も白く変わる。その汗が塩気のある汗か、冷や汗か、脂汗か、そんなのは分からない。

 

「本当にまだ、我々に勝ち目はあるのでしょうか?」

 

「そ、そうだよ。まだ強い車輌が沢山いるんでしょう?ティーガーとか」

 

優花里さんの癖っ毛の内向きロールの度合いや沙織さんの髪の外向き度合いがいつもより高い気がする。

後ろに向けていた視線を、外の道とガラス窓が幾つも並ぶ向かいの建物に戻す。その窓もいくつかは水泡がまとわり付き、中は見えない。

勝ち目?そんなことは分からない。私にできるのは勝つために最善を尽くすだけ。

 

「分かりません。ただ、黒森峰はルール違反を犯しました。ルールを破った者は負けなければいけないと思います」

 

「ルール違反?え、黒森峰が?」

 

「黒森峰が何かやったでありますか?どちらかと言うと会場外に出たウチや、準決勝のプラウダの方が」

 

「いえ……この大会のルールじゃなくて……戦車道のルールですらなく……」

 

外に現在は変化はない。それでも警戒を怠らない。敵は黒森峰、そしてここは敵地ど真ん中である。

 

「人道に対する罪、人類へのルール違反を黒森峰は犯して来たんです」

 

その警戒を区切り、目線を優花里さんの方に向ける。口は少々緩ませようとしたが、それができたかは知らない。二人は言葉を飲み込めていないらしい。まぁそうだろう。この目で現実を知るのはこの中では私だけだ。

黒森峰の歩んだ道は、敵としたものの未来を潰して潰して潰し続けることだった。その結果、自分たちの未来が潰れそうになるとも知らず。国の前に学園だった愚かな者たちの、崩壊の足音、それが来ていると信じた。

 

「一つだけ確実なことがあります。黒森峰が再び戦車道に君臨することを、誰も望んでいないということです」

 

黒森峰は既にサンダース、プラウダという二強を敵に回している。私としてはそこにつけ込む機会を狙うしかない。その奇跡が再び私に微笑まんことを。

 




与党日本民主党は55年体制における保守合同ののち、連立の如何はあれども、ほぼ一貫して政権与党の座を占めていた。1985年以降、学園艦の原子力エンジンの老朽化により、内需拡大の名の下進められた学園艦移設計画によって誕生した地上の学園都市は、その以前と変わらず日本民主党の大きな支持母体であった。(但し日本教職員連盟などの内部組織はその限りではない)。何より地方では都市そのものが一つの選挙区であることもあったため、日本民主党としては繋ぎ止めておきたい母体だった。実際に政府は学園都市の自治に表立って介入するのを避け続けた。
かのプラウダでさえ積極的にではなかったが、その関与があるのは青森県の選出議員のほぼ全てが日本民主党の公認候補である点からも明らかだろう。
政府は学園都市の自治を保証する代わりに、学園都市は政権を支持する。この相互利益のある関係は2009年まで安定していた。
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