トルコのことわざ
学園艦を降りたあとは、ガラになくサングラスをかけてマフラーを顎まで巻いて、また家まわりの続きだ。
まずは大洗が地元の沙織さんの家。本当に港から少し離れた閑静な住宅街の中に、武部の表札がかかっていた。インターホンを鳴らすとご両親はおらず、休みゆえに妹さんが対応してくださった。
あげてもらったのちにソファーと薄茶色の木の低い机の置かれたリビングで話したことは基本的に先ほどと同じだ。強いて言えば彼女を運ぶことができなかったことくらい。あの岩の下ではどうしようもなかった。
それを語り終えた後、私は半ば追い出されるようにそこを後にした。
二週間以上が過ぎているが、やはり基本的に触れられたくない話なのか。それとも親がそれを聞いて問題があるのか。後者は普通にありそうである。いきなり発狂するとか。
指揮官として、いや友としてその親はサポートしたいが、親とは直接的な関係がない。沙織さんのような天下をも呑む包容力があったら……とも思ったが、そこが彼女の良さだったのだ。私には持てない。
続いて大洗総合病院に向かった。港から南下し、潮騒の湯の方に向かった途中にある。わざわざバスを使うまでもなく歩いて行った。大洗に暮らしていた麻子さんのお祖母様なら、きっとここに運び込まれていると踏んだのだ。しかし面会は叶わなかった。いや、面会しようがなかった。そのように対応してくださった看護師の方を通じて連絡された。
結局間に合うことはなかったが、だとしたら彼女の最期の言葉を罪滅ぼしに使うしかない。だが同時にそれをとても信用できないと否定しようとする心を、否定することもまた難しい。
大洗駅まで歩き続け、鹿島線で水戸まで出る。皆で水戸まで出かけよう、という時に使ったが、地元の近くでもあったなかなかにうるさい車輌であった。道中では高い場所から土を見せた田畑が広がっている。何もない。土だけのだ。
遠くでは街道沿いに店が並び、そこの前を小さく車が行き交っている。常澄、東水戸を過ぎる頃合いになれば、市街地、商業地区、そして特急の頭が鎮座する水戸駅のホームに滑り込む。
改札を出て左、ロータリーで町の外れまで行くバスを捕まえて、一軒家が畑に混じって見えてくる地域で一際目立つ建物を目指す。もうネットで調べれば結構あっさりとホームページを見つけることができ、こうしていとも容易く訪れることができるのだ。戦車道にどういう影響を与えていくのだろうか。
華道五十鈴流家元宅。私のかつての家を思い起こさせる大きなお屋敷であった。白塗りの壁に囲われ、門の前に立っても屋敷の中がさっぱりわからない。その上インターホンもない。どっからどうやって入ろうか。
屋敷近くを散策しつつ案を練っていると、建物の裏手がガラッと開いた。そこにいたのは一人の青年と人力車。
「あ」
見たことある顔だと思った時には、もう言葉が漏れていた。彼も裏手を完全に開けることなく、戸を途中で止めている。
「……に、西住さん?」
新三郎。華さんの家の使用人の方だ。一度大洗を案内してもらったことがある。
「こんにちは。お久しぶりです……」
実際はそんなに時間が経っていない、一月ほどだが、そう言いたくなった。
「どうも……こちらには……何用で?」
「華さんの件について、副隊長としてお話に伺いました」
「お嬢の……分かりました。これより用があり出掛けてまいりますので……」
彼は辺りを見渡すと、私が来たのと逆側の道を示した。
「こちらを少し進んだところに喫茶店がありますので、そちらでお待ちください……私が戻り次第奥様に伺い、宜しければお迎えに参ります」
「どのくらい掛かりますか?」
「1時間も掛かりません」
「では、そうします」
確かに歩いて5分くらいのところに、こぢんまりとした喫茶店があった。外装は木の板を水色に塗装しており、海側にある方がしっくりくる感じの店だった。
店の中は昔懐かしの洋風。私以外に客はいない。窓際の方が外から対応しやすいか、とも思ったが、カウンターの一席に腰かけた。
とはいえ時間を潰すのが主で、金だってこの先の行程を考慮すれば潤沢なわけじゃない。メニューを見るとやはりそこそこ値の張るものばかり。おまけに私はコーヒーが得意なわけじゃない。
「ん?」
だがそのメニューの中で少し珍しいものを見つけた。
「バターコーヒー?」
その声にカウンターのはずれでカップを磨いていた髭を生やした老年のマスターが、そのあご髭を揺らして反応した。あご髭だけじゃなく、顎そのものも長い。
「そちら、当店のおすすめですよ」
「へぇ」
適当に反応したが、ミルクコーヒーとは違う代物なのだろうか?
「苦味が抑えられるので、コーヒーが苦手な方にこそ味わって頂きたいですね」
なるほど、なら少し頼んでみるか。財布は……大丈夫かね。
「なら、それを一杯」
「はい」
マスターは棚から豆を取り出し、それを丸い銀の器に入れて挽き始めた。
店内を流れるのはクラシックミュージック。音楽には詳しくないので、誰が作ったものだかは知らない。これを雅だというのなら、きっとそうなのだろう。個人的に挟まれるコントラバスの低音が気に入った。
だがそれのおかげでコーヒーが入るまでのしばらくの時間、私は足をぶらつかせながら退屈しないで済んだ。
出てきたコーヒーは青磁のような柄が描かれたカップの中に入っており、勿論黒く、僅かに油の粒が浮かんでいる。油同士をくっつけられるほどではないが。その脇にはバラの形が表面に刻まれた角砂糖が二つ。
「コーヒー豆をバターで炒めてから挽いたものでしてね。冷めぬうちにどうぞ」
思ったより白くなかったが、香りは確かにコーヒーのものだ。苦味が薄いというのなら飲んでみるか。
カップの輪に指を引っ掛け、ちょっと口に入れる。確かにコーヒーと聞いて予想できるほどは苦くない。だが、それでも砂糖なしでやり過ごせるほどではなかった。
「ありゃ、お口に会いませんでしたかな?お嬢さん」
若干顔をしかめたのを見られたのか、マスターがそう声を掛けてくる。
「……すみません。コーヒー飲み慣れていないもので」
「ははは、構いませんよ。別にそんな人もいます」
結果私は受け皿にあったバラ柄の二つに世話になることとなった。これで幾分飲みやすいものになった。
カウンターの左側にも大きな窓が取り付けられている。そこの先にはこのマスターのものと思われる庭。どうやら家庭菜園をやっているらしい。
さらに一口含んでみる。口の中から香りがふわりと鼻に抜けていく。この香りは嫌いではない。苦味が香りとなったわけではない、まろやかさ。これが風流か。
さらに一口含み、カップの残りが3分の2に近づいてきている頃、私の前に皿が置かれた。水ならまだ話がわかるが、何も頼んでないのに皿が出てくるというのはなんとも不自然だ。
そしてその皿の上に小さなお菓子が4つ、それも私が好きなマカロン。思わず顔を見上げる。
「コーヒーが苦いなら、甘いものが合いますよ」
「は、はぁ……しかし……」
「お代はいりません。この店自体ただの気が向いた老人の道楽ですので」
「いえ……そんな……」
タダより高いものはない、という言葉もある。流石に突き返そうとする。
「貴女ほどの苦労人なら、こんなささやかな幸せがあってもよろしいでしょう?」
思わず突き返そうとしていた手が引っ込んだ。もしかしなくても、私が誰か知っている……なぜ、だ?
「おっと失礼。ですが本当にここから詐欺まがいのことをしたり、誰かを呼んだりする気はさらさらありませんから」
「はぁ……」
じゃあなんでこんなことを?なんの意味がある?
「あの……私のことをご存知なのですか?」
「ええ、西住みほさん、でお間違いないですね?」
「はい……」
何が目的だ?別に顔は昨今の取材の虫たちのせいでバレているだろうが、マフラーは取ったとはいえ今でもサングラスは外してない。
「ここにいらっしゃるのは地元の方か五十鈴流の方が殆どです。ほぼ全てと言ってもいいかもしれません」
考える間も無く、頭の上でマスターが語り出した。
「貴女は地元の人ではない。では五十鈴流関係者かというと、それもないでしょう。奥様はお嬢様の件で塞ぎ込んでおられます。ここしばらく誰もあげてもらってないようですしな」
「あれ……華さんは破門されたはずでは……」
破門した人間を思い寝込む。自分とは縁を切った人間のはずだろう。自分の親が自分が死んだらどうするか……想像してみたがどうも塞ぎ込んでいる姿はピンとこない。
「ははは、あの奥様が本気でお嬢様を破門なさるわけがないでしょう。娘を自分をも超える存在だ、と言って回るほどですよ?
それにお嬢様も華道は最早自身と一体だそうですから。ま、これはお客さんの受け売りにすぎませんが」
「はぁ……」
確かに一日一度花を生けずにはいられない人は、一体と言って過言ではないだろう。
「で、奥様がその状況ですから、五十鈴流の方も最近全くいらっしゃいません。どう言葉を掛けたら分からないんでしょうな。
では貴女は五十鈴流ではなく、五十鈴の家に用があることになる。そんな人物、この状態じゃそんなにいらっしゃいませんよ」
なるほど、分かったような分からないような……
「それに、お嬢様が始めたこともあり、私も戦車道に関する雑誌などに目を通してみましてな。そこで一度貴女の顔写真を見たことがあったもので」
やっぱりそこじゃないか。
「しかし……あのお嬢様が……今でも受け入れられませんな」
つい最近まで後継者筆頭だったのだろう。それであの奢らない性格だ。地元からの信望も厚かったに違いない。
「昔は時々ここにいらっしゃったものですな。華道の稽古が嫌だ嫌だと仰いながら。しかしいつも暫くするとやっぱりやるんだ、と仰って帰られるのです」
「そんなことが……」
「まだ小学校上がったくらいの頃でしたから、可愛らしいものでした」
マスターが何か物思いに耽っている間に、また一口。
「……学園艦に移られてからも、時折顔を見せてくださいました。前は……確かゴールデンウィークくらいでしたかな。そこで飲んで行かれたのも、同じくバターコーヒーでした」
これと同じものを華さんが……
一度口に寄せず、遠目から眺めた。
「これはかなり気に入ってくださいました。ですがその時戦車道を始めたことを伝えてしまったばっかりに……お嬢様は……
ですが……誰も恨みますまい。戦車道を硬式にした人間を除けば。戦車道をやること、それはお嬢様が自分でお決めになったことでしょうから」
そう、だな。そこに関して自身の意志があったのは間違いない、はずだ。そしてそれは自身が継ぐはずの華道に活かすためだった。
「ですからこれから奥様に面会なさるなら、躊躇う必要はありません。貴女の責任ではないのですから」
「責任は……ありますよ。華さんが亡くなった原因は……」
「しかし、元の要因はどう考えても……」
「何より私が生き残ってしまったのですから、何を言っても私が生きようとした言い逃れにしかなりません。私以外の皆さんの親は大事な娘を……喪ったのですから」
「……私が言っても、どうにもならないようですな」
「残念ながら、そのようです」
冷めてきつつあったコーヒーを今までより多めに飲む。やはり苦味は薄まっており、そして甘い。マカロンを一つ口に入れた後であったので、粘着部分も纏めて飲み込んだ。
まるで夢だ。存在し得ない幻想が、そのバターコーヒーには含まれていた。
やはり人にはどうこうできないことだ。きっとこのまま右胸に溜まり続けるのだ。
それから暫く、私はもうコーヒーもマカロンも食べ終わっていた。その頃に新三郎さんがこの店に姿を見せた。
「西住さん、奥様より許可が……」
「分かりました。では、お代はこちらに」
言葉に甘えるには厳しいほど私の心は猜疑心にあふれていた。コイン一枚置いて、私は海辺から花の群れに赴いた。マスターは何も言ってこなかった。
人力車を降り、重厚な門からしたら思ったより簡素な玄関から、板張りの長い廊下を通って案内されたのは、畳張りの20畳はあると思える奥の実に広い部屋だった。
「こちらです」
新三郎さんが襖を開いた先、そこに頰こそこけていたが、凛とした佇まいで背筋を伸ばして正座していた五十鈴百合、五十鈴流家元がいた。
床の間の掛け軸もその下の花瓶も、きっと古から伝わるものだろう。掛け軸に描かれた華は、これまた派手さはないがのびのびと広がり、力強さを感じる。
「失礼します。西住みほです」
「お入りなさい」
入り口近くで正座になり、手を使って距離を詰めていく。正直手が疲れ掛けた頃に座布団にたどり着き、そこに乗っかった。
「新三郎、下がりなさい」
「いえ……ここでお聞かせ願いたく思います」
「ここは女の問答の場です。下がりなさい」
いつのまにか奥に止まったままの新三郎さんとの論争が始まっていた。
「あの……私としては聞いていただいても問題ないのですが……というより、面識ある新三郎がいらっしゃる方が安心できるというか……」
そんなに一対一で話したくはない。せめて見張りがわりが欲しい。
「はぁ……お客様がそう仰るなら、新三郎はそこに控えなさい。それで西住さん、今日は……いかなる御用で?」
「お嬢様の件について……ご報告に参りました」
話した内容はほぼ変わらない。逆にあの市街戦での出来事には私では分からない部分が多いのだ。だが新三郎さんが後ろで控えながらも、正面の方に向かって話を続けた。
別に武勇伝を伝えたいわけじゃない。だが少しは仲間を誇りに思ってもよかろう。ヘリを撃墜した話なども盛り込んだ。そこで何か吹っ切れた顔をしていたことも伝えておいた。
だが結局彼女は許されることなかった。奥様も許すつもりはないらしい。
「自分の道を見つけてくるまでは……帰るのを許さない……つもりでしたから」
実にいい親だ。後継が死にかけているのに理由をつけて次女を放逐する奴とは、脳味噌の質が違う。
「こちらを……」
私の話がひと段落した頃、奥様は一つの三つ折りの紙を差し出した。
「失礼します」
そっと開いてみると、中身は白黒の文字が淡々と事実を述べていた。
これが死人の親にかける言葉か。前々から思ってはいたが、現物を目の前にしては手を震わさざるを得ない。
「こんな……こんなことをするのなら……戦車なんて……戦車なんてみんな鉄屑になってしまえばいいんだわ!」
慟哭なさりながら、畳の上に伏した。優花里さんに言ったら怒られそうだが、実際その通りだ。この世の中はこの戦車というものをどこかに置き去りにし忘れたらしい。
そのままさらに奥へと引かれ、私は新三郎さんの人力車で水戸へと戻った。
「……西住さん。一つお伺いしてもいいですか?」
別れ際、歩道橋の足元であった。まだ夜には早いが、昼は過ぎている。
「お嬢は……貴女のお役に立てましたか?」
「はい。華さんは間違いなく大洗の役に立ちました」
だが、それだけだ。だが……
「それは……よかったです」
こんな言葉でも慰めになるのなら。
飛行機のチケット片手に水戸駅からのバスで羽田空港に向かった。
チケットに書かれた行き先は長崎空港だ。幸い羽田出発の5時間以上前に水戸駅の南口ターミナルを出るバスを捕まえることができた。
バスに揺られること3時間弱、朝早かったこともあり、道中は結局寝ていた。
約2時間のフライトの中、眠気を飛ばした私は手紙の山を見直していた。私の所には学園に退学届けを送ってから何件も転学の案内が来ていたが、その殆どが戦車道をやっている所、もしくは新たに戦車道を始めようとしている所からだった。つまりそういうことを求めていたわけだ。
その中で一つ異彩を放っていたのが、サンダース大学付属のケイさんからの手紙だった。その手紙には戦車道の戦の字も書かれてなかった。ただ一緒に生活をエンジョイしないか、とだけ書かれていた。
学生生活をエンジョイ、それが何かはわからない。果たして私に戦車道以外何が出来るか、そこを迷ったこともあった。だが一つ言えたのは、やらされる戦車道はもうしたくなかった。
それから学園との話し合いの末、正式に転校することが決まった。というより、他よりマシな選択肢がここしかなかった。
ケイさんとの間に面識はない。今までの軟式大会で見かけたことはあるが、元々私自身人見知りな性格である。話しかけることはなかった。文面から陽気な感じが伺えて楽しみはあった。しかし同時に恐怖でもあった。何せ私は彼女の仲間を試合で殺すよう指揮した張本人である。恨まれない方がおかしい。
考えたり窓の外を眺めたりしていると、いつの間にかシートベルト着用サインが点灯した。
空港に到着し、大きめの青いキャリーバッグを受け取って外に出る。コンビニのある左側から中央にかけて、色々な名前の書かれた紙を持った人が並んでいる。しかし辺りを見わたしたが、私の名前は直ぐには見つからなかった。ローマ字、筆記体で書かれていたからまあ仕方ないだろう。日本語で書いてくれ。
やっと見つけたそのローマ字の紙に近づく。
「えっ……と、西住……みほです」
紙を持っていた金髪の女の人に話しかけるとその人は口元をニヤリを上げた。次の瞬間、名前の書かれたスケッチブックを投げ捨てたその女の人に、かなり強く抱きつかれていた。
「ウェルカム、みほ!よく来たわね!」
余りに急な出来事に思わず呆然とする。ハグをやめた女の人は肩を叩いて正気に戻してくれた。
「話は車の中でしましょう!さあ、こっちよ!私はケイ!よろしくね!」
この方が当の手紙の人だと理解し終える前に、腕を引っ張られ引きずられるように彼女についていかざるをえなかった。というかいつの間に呼び捨てされる関係になった!
広いロビーを抜け、建物の外へと連れ出される。しかし横断歩道を渡って目線の先にあったのはどっからどう見てもご立派な黒塗りの高級車である。
「えっと……これは?」
「我らの学園長がお待ちよ!」
あっさり告げられた事実に、思わず足がすくんだ。どうしてそんな偉い人がいるのか……やはり私の存在に何かしら目的を見出して使おうとしているのか?
「ハーイ、アイク。みほを連れて来たわ」
「おお、ありがとう。ケイ」
禿げた頭の光る初老の紳士がトランクを開けて待っていた。その物腰柔かな様子に思わず不安も薄らいだ。
「……こんにちは……」
「ようこそ、西住さん。私はサンダース大学学園長を務めております、愛善と申します」
「……どうも」
「早く車に乗りましょ!ハリアップ!」
ゴツゴツした大きな手との握手を済ませると、またも引きずられるように車に乗り込んだ。全くちょいとは落ち着きというものがないのか。
愛善氏も私のキャリーバッグを詰め込むと車に戻ってきて、運転手に行き先を指示した。車は駐車場を出て、海にかかる橋の方に向け出発した。
「西住さん」
「は、はい」
愛善氏が橋の上で書類片手に話を切り出した。
「それではこの前お電話でお話しした内容を確認します。我が校に4月から高2として途中入学し、同時にサンダース大学付属中学校の戦車道の顧問としてこちらがお雇いして、給料から学費を払って頂く、と。お間違いないでしょうか」
「はい」
はっきりと答えた。偽りは全くない。
「みほ、いいの?また戦車道やるなんて」
「ケイさん、いいんです。私がやるべきことは分かりましたから」
そう、あの悲劇を後世に伝えることが私に出来るせめてもの償いだ。それ決断する上で、私がアパートに残って出した結論だった。
「此方としてはそれは構わないのですが、無理はなさらないようお願いします。寮の部屋も確保してあるので、到着次第そちらに向かってください。荷物は明後日には届くはずです。
あと、4月までは学生ではないので、顧問専任としてお願いします」
「は、はい」
「まあ大丈夫よ。みんなフレンドリーだから直ぐに生活に慣れるわ」
少し固くなりつつあった肩を叩かれると、堅い話と緊張で固まった体からずっと力が抜けた。車は橋を渡り終わり大村の街を走っている。
そして橋を渡り切ろうとした時、私は話そうとしていたことを切り出した。
「……あと、この前は……ありがとうございました……」
私が今生きていることへの礼だ。その話を耳にした愛善氏よ顔が作り笑いに変わる。
「……ああ、あの事ですか。構いませんよ。あれで、悲劇は最後になりますから。必ず」
ケイさんも先程までのハイテンションが嘘みたいに沈んでいる。やはり触れぬ方が良かったか。だが……ここで生きる上で触れぬわけにもいくまい。
「そうだと……思いたいです。あと、本当に」
「それは言わなくていいわ」
ケイさんが遮る。
「……もう、終わったのよ。全て」
その様子から何かを抑えていることは直ぐに分かった。この人も、私も、同じなんだ。
「今後もよろしくお願いします」
ニ人に礼をした。橋を抜けて、街を抜け、車は長崎自動車道を北上し始めた。
期待はない。ただそこで生き抜こう。